リスナーの質問「牛群検定って何?」
今回のお便りは、TikTokネームのヒデさんから届いた「牛群検定について説明してください」という質問です。
川上さんは、牛群検定を活用し、そのデータをAIで分析・解析して経営に生かしていることが川上牧場の強みだと話します。
一方で、酪農業界では牛群検定の加入率がどんどん減ってきているといいます。
もう半分も今切ってるとこが多いんじゃないかな。北海道とか、お隣の鳥取県とか、まだまだ加入率高いですけども、都府県は本当にこの牛群検定やられてない方が多くなってきてるんで。
川上さんは島根県の牛群検定の会長役や、全国の協議会の役員も務めており、牛群検定を推し進めていきたい立場だと話しています。
牛群検定は「成績表・健康診断表・経営簿」
牛群検定と聞くと難しいイメージがあるかもしれません。ですが、川上さんは簡単に言うと牛一頭一頭のものだと説明します。
これ簡単に言うと、牛一頭一頭の成績表、通信簿みたいなものでもあり、健康診断表でもあり、牧場の経営簿でもあります。
具体的には、牛がどれだけ牛乳を出しているか、その乳脂肪やタンパク質はどうか、体細胞は高くないか、繁殖はうまくいっているか、分娩から何日目かといった情報を定期的に数字で見ていく仕組みです。
どれだけ牛乳を出しているか
牛乳の成分バランス
乳房炎などの炎症リスク
種付けやお産の状況
乳量ランキングではないという大事な点
ここで川上さんが強調するのは、牛群検定は乳量ランキングではないという点です。
乳量が一番高いからすごい牛だっていうわけではなく、たくさん牛乳を出している牛が必ずいい牛だとは限らないんですよね。
たとえば乳量は多いのに体細胞が高い牛は、乳房炎のリスクがあり、牛が体を無理しているシグナルかもしれません。
乳量は出ているのに乳脂肪が低い牛は、胃の調子や飼料設計、夏場の暑熱ストレスなどが関係している可能性がわかります。
タンパク質が低ければエネルギー不足や餌のバランスの悪さが考えられ、長期化すれば繁殖への影響も見えてくるといいます。
牛乳は牛の血液からできているため、牛乳を調べることは簡単な血液検査のようなものだと川上さんは説明します。
数字と現場の目を合わせる経営判断
牛は「胃がしんどい」「乳房炎かもしれない」とは言いません。でも、その不調は数字に出ると川上さんは話します。
乳量が落ちる、乳脂肪が変わる、タンパク質が下がる、体細胞が上がる、尿素窒素(MUN)が高い・低いといった小さな変化を見つけるのが牛群検定です。
この数字は、どの牛を残すか、どの牛に種付けするか、治療が必要か、餌を見直すべきか、廃用にするかといった経営判断に直結します。
ただし川上さんは、数字だけでなく現場の目も大事だと言います。
牛の歩き方や毛艶、餌を食べているか、目つき、寝方などは、毎日見ている酪農家しかわからない部分です。そこに数字が加わると判断の精度が上がります。
体細胞数が上がっていれば早めに注意できる
分娩日数や暑さを考えれば自然な範囲かもしれない
一頭か群全体か、数字の流れを読む
牛群検定で大事なのは、一回の数字だけで決めつけないことだと川上さんは話します。
前回はどうだったか、同じ分娩日数の牛と比べてどうか、牧場全体の傾向としてどうかという「数字の流れ」が大切です。
出てきた問題が一頭の問題なのか、群全体の問題なのかを見分けることも重要だといいます。
たとえば群全体で乳脂肪が落ちていれば、餌の繊維不足や暑さのストレス、食い込みの低下、飲水、餌のカビや発酵の状態などが疑われます。
同じ数字でも読み方が全然違う。だからこそ牛群検定はただの紙ではないと川上さんは言います。
会社の経営分析にも似ている
川上さんは、牛群検定を会社の経営分析表に近いものだとも例えます。
売り上げがすごい会社でも、利益が残っているか、利益率や在庫、離職率、顧客満足度はどうかを見ないと健全かどうかは判断できません。
酪農も同じで、乳量だけでなく乳成分、健康、淘汰率、繁殖、餌、牛の年齢構成などがすべてつながっているといいます。
数字だけ見て判断してるんかって思われるかもしれないですけど、むしろ逆で、今の現状をもっと良くするために、数字を使って自分の経験や勘と合わせることで、もっともっと良くなると思います。
ゲノム時代に見直される検定データ
最近は牛群検定をやらず、牛のDNAを調べるゲノム牛の遺伝子情報を解析し、能力や特徴を予測して品種改良に役立てる技術です。実際に搾ってみる前に予測できる点が特徴です。で遺伝改良を進める酪農家も増えているといいます。
ただ、実際に搾ってみないとわからない部分があり、ゲノム成績だけで品種改良をするのは信頼度が低いと川上さんは指摘します。
海外の方を見ていただいたらわかるんですけど、やっぱり検定成績でしっかり成績を残す牛が、利益を残す牛として残ってきてますんでね。ここら辺が1周回っちゃっているんですよね。
技術の進化と、昔ながらの現場から取るデータの両方が大事だと見直されてきていると話します。
検定員がいない組合や自家検定しかできない地域もあり、AT検定などの新しい方法も出てきています。川上さんは、地域で加入率を増やしたい人からの相談やオファーも受け付けていると呼びかけました。
なお、6月1日には川上牧場のKindle本第2弾「酪農未経験者のために 遺伝改良と飼料設計編」が発売され、こうした内容も書かれているとのことです。
まとめ
牛群検定は乳量の多さを競うものではなく、牛が言葉にできない不調を数字で映し出す健康診断表であり、牧場の現在地を示す地図のような仕組みです。川上さんは、数字と現場の目を合わせることで、牛に無理をさせない酪農ができると話しています。
- 牛群検定は牛一頭ごとの成績表・健康診断表・経営簿を兼ねている。
- 乳量が多い牛が必ずしも良い牛とは限らず、体細胞や乳成分にシグナルが出る。
- 一回の数字より「流れ」を読み、一頭か群全体かを見分けることが大切。
- 数字は経験や勘を否定するものではなく、現場の目と合わせて精度を上げる道具。
- ゲノム時代でも検定成績が「利益を残す牛」を見極める土台として見直されている。
