TikTokに届いた「なぜ企業化しないの?」という疑問
今回の配信は、リスナーさんから届いた質問に答える回です。最近TikTokが伸びていて、1日に60人ほどフォローが増えることもあるそうで、そこに寄せられた質問が今回のテーマになりました。
なぜ日本の畜産はあまり企業化されてないんですか?
たしかに、豚の加工食品なら日本ハムのような大手企業を思い浮かべます。でも「現場で牛を飼っている大きな企業」と言われると、パッと出てこない人が多いですよね。
川上さんは、この疑問を他の国と比べたり、日本の歴史的背景を見たりすると分かりやすくなると話します。そこで自分で調べてきた内容をもとに、答えていきます。
1000年以上も肉食がタブーだった日本
話はぐっと昔にさかのぼります。日本では1000年以上ものあいだ、肉を食べることがタブーだった歴史があるんです。
飛鳥時代の天武天皇による肉食禁止令から江戸時代まで、牛は「働く仲間」であって、食べる存在ではありませんでした。
牛乳も例外ではなく、江戸時代には一部の武士や医者が薬として飲むくらいでした。
だから日本の畜産は、ヨーロッパのように「食を支える産業」として育つ時間があまりなかった、というわけです。
明治維新で始まった「副業としての畜産」
明治維新で肉食が解禁され、ようやく牛肉文化が広がっていきます。横浜の外国人居留地でオランダ人から酪農技術が伝わり、「牛乳屋さん」という職業も登場しました。
ただ、明治の日本にあったのは役牛中心の農業でした。牛をトラクターのように使って、田んぼや畑を起こしたり荷物を運んだりしていたんですね。
産業としての畜産はここからスタートします。でもアメリカやオランダは、この頃すでに長い畜産の歴史を持っていました。日本は近代化を急ぎながらも、根っこは「家族の副業としての畜産」から始まったんです。
家族経営のまま大きくなった戦後の酪農
戦後になると、学校給食で牛乳が提供され始め、需要が一気に拡大します。酪農は全国に広がりました。
でも、その中心はあくまで家族経営です。農地改革で小さな農地が分散し、企業が牧場を持つことは法律でほぼ不可能でした。
規模自体は大きくなっていて、一戸当たりの飼養頭数はかなり増えています。それでも、ほとんどが家族経営のまま。この「小さく始まり、大きくなったけど家族単位」という構造こそが、企業化を阻んでいる最大の理由だと川上さんは話します。
農地・土地・流通が生む「企業が入りにくい壁」
ここで制度面の話です。まず農地法という法律があり、日本では企業が自由に農地を買えません。借りるにも複雑な手続きが必要で、企業が参入しようとしても牧場を確保するだけで苦労します。
次に土地の狭さです。アメリカの農家が広い土地を持つのに対し、日本はたった数ヘクタール。放牧もできず、密集地では臭いや排水の問題も出てきます。
さらに、流通もJA中心で外部企業が入りにくい構造が長年続いてきました。地理的にも、法律的にも、流通的にも、企業が入る余地が少なかったんですね。
アメリカ・オーストラリア・オランダとの違い
では海外はどうなのか。川上さんは3つの国を挙げて比べています。
土地の狭さを理由に、大規模な企業化には進まなかった
土地が狭い分、技術と効率で克服し、世界にチーズを輸出
アメリカは広大な土地と自由な企業活動、安い餌、大量生産が強みです。1つの農場で数千頭規模の酪農も珍しくなく、「農業はビジネス」という思想があり、政府も輸出を後押ししています。
オーストラリアも土地が広く、放牧中心。数万ヘクタールの牧場を持つファミリー企業も多く、国全体が輸出のための畜産をしています。
オランダは少し日本に似ていて、土地が狭い分を技術と効率で勝負しています。自動搾乳ロボットやデータ管理を駆使し、チーズを世界に輸出しているんです。
品質を大事にする「家族経営のこだわり」
もう一つ忘れてはいけないのが、文化の違いです。日本の酪農家や和牛農家は、効率よりも品質を大事にします。
一頭一頭の健康や性格を見ながら育て、味や脂の乗りを極める。まさに職人の世界です。だから日本では、大量生産よりも「家族経営のこだわり生産」が評価されてきました。
これは、短期的な利益よりも信頼と品質を積み上げる文化があるから、と川上さんは言います。
ただ、時代も変わりつつあります。近年はICTやロボット搾乳機の導入が進み、法人経営のメガファームも少しずつ増えています。政府も畜産クラスター事業で大規模化を支援しています。
つまり企業化が「遅れている」のではなく、日本型の企業化に「進化している途中」なのかもしれない、という見方です。
既得権益じゃない、小さな農家を生かす文化
最後に、川上さん自身の思いも語られます。「JAが全部絞ってるんだろ」と既得権益のように言われることもあるそうですが、それは少し違う、と話します。
小さい農家がたくさんあって、その一つひとつを生かし、みんなで日本の生乳生産を支えるためにできた文化。他の国と違う、というだけで否定するのはちょっと違うんじゃないか、という考えです。
和牛の話も具体的です。黒毛和牛の精液が海外に渡り、ローマ字の「WAGYU」が世界各地で作られていますが、日本の和牛とは味が違うんだそうです。
牛が和牛だったら、日本と同じような和牛の味が出せるかというと、そういうことでもない。日本という風土と環境、そして飼い方があってこそ、今の日本の和牛が生まれる
川上さんは、企業化がいい面も、家族経営がいい面もあると言います。日本独自の「ガラパゴス」的な形は世界と比べても面白いから、このままでもいいんじゃないか、と。
一方で、大量生産や一極集中でバランスが崩れる部分もある。企業は皆さんの食を支えつつ、特色ある家族経営も残していく。そんな共存を願っている、と締めくくりました。
まとめ
日本の畜産が企業化しにくいのは、遅れているからではなく、1000年以上の歴史・制度・文化が積み重なった結果でした。小さく丁寧に育ててきた家族経営の形が、日本の牛乳や和牛の質を支えているんですね。
- 日本は長く肉食がタブーで、畜産は「家族の副業」から始まった歴史がある
- 農地法や土地の狭さ、JA中心の流通が、企業の参入を難しくしてきた
- 同じく土地が狭いオランダは、技術と効率で克服し輸出国になった
- 日本は効率より品質を重んじる「職人型」の家族経営が評価されてきた
- 近年はメガファームや技術活用も進み、日本型の企業化へ進化している途中
