リスナーからの質問「豚さんも鶏さんも放牧するの?」
今回のお便りは、SPOONのリスナー「ゆがけ」さんから届いた質問です。
この間、山道を走ってたら牛さんが放牧されてたんですけど、乳牛さんや豚さん、鶏さんも放牧するんですか?教えて川上
ありがとうございます。あの、僕にもさんつけて欲しかったです。
軽い掛け合いをはさみつつ、川上さんは「牛も豚も鶏も、放牧という飼い方は昔からある技術」だと前置きします。
鶏とか豚とか、牛、それも乳牛も肉牛も、これもやっぱ放牧で飼うっていう飼い方は、昔からあるね、技術ですんで
ただし「放牧=自由で幸せ」という一言では片づかない、というのがこの回の入り口です。
乳牛の放牧は草だけでは足りない
まず乳牛です。牛は草食動物なので、草のある放牧地があれば自分でエネルギーを取れます。
でも、今のホルスタインは1日30リットルから40リットルもミルクを出す高泌乳牛。その分だけ栄養要求量が高く、草だけではまかないきれないんです。
さらに日本は高温多湿で、草の育ち方も季節でばらつきが大きいんですよね。そのため放牧に配合飼料を足したり、舎飼いで快適な環境を整えたりする牧場が多いそうです。
放牧イコールいいというイメージではなく、その牛に合った環境がいいというのが本当の答えなんです
豚は放牧に向いているのに日本では難しい理由
次は豚です。実は豚はもともと森の動物で、土を掘る・寝床を作る・泥浴びをするといった行動を強く持っています。
放牧するとその自然な行動を発揮できるのでストレスが少なく、肉質の締まりや旨みが増すことも多いそうです。
ただ、日本では現実的なハードルが高いのだといいます。感染症対策、特に豚熱やアフリカ豚熱への備えが欠かせません。
加えて、地面のぬかるみや糞尿による環境汚染、臭いや鳴き声をめぐる地域住民との距離といった問題も出てきます。
ヨーロッパでは放牧豚がブランド化されていますが、日本で同じようにやるには、土地や衛生、防疫体制をまるごと設計し直す必要があるとのこと。近ごろはAIやIoTで柵を見張る技術も整いつつあり、そこに可能性を感じているようです。
鶏は「平飼い」から広がる半放牧
続いて鶏です。鶏の場合は放牧というより「平飼い」「放し飼い」という言葉のほうがなじみがあるかもしれません。
ケージ飼いは効率が高い一方で、羽を広げたり砂浴びをしたりできません。そこで最近はアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から、平飼い卵が注目されています。
鶏は牛や豚より体が軽く、柵の中でも比較的管理しやすいので、放牧養鶏や移動鶏舎を取り入れる農家も増えているそうです。
ただし課題もあります。放牧地の雑草や虫を食べると卵の味の個性が強くなり、好みが分かれること。カラスやキツネなど天敵への対策が必要なこと。そして、いま北海道でも大量に発生している鳥インフルエンザのリスクが高まることです。
こうした事情から、完全な放牧は難しくても、自然な行動を守りつつ安全も確保する「半放牧」という形が広がっているといいます。
| 動物 | 放牧の向き | 日本での主な課題 |
|---|---|---|
| 乳牛 | 草だけでは栄養不足 | 高泌乳で補助飼料が必要 |
| 豚 | 本来は向いている | 豚熱などの防疫・環境汚染 |
| 鶏 | 比較的しやすい | 鳥インフルと天敵対策 |
放牧の本質は「自然に戻す」ではなく「動物に戻す」
動物ごとの事情を並べたうえで、川上さんは放牧の目的をこう言い切ります。
自由に歩かせること自体がゴールではなく、その動物が本来の行動をとれる環境を用意してあげることが大事だ、という考え方です。
舎飼いの牛でも、風通しや照明、牛のベッドの柔らかさまで管理してストレスを減らしています。放牧でも舎飼いでも、安心して休めて食べられる環境こそが幸せだ、というわけですね。
科学的にも、放牧するとストレスホルモンのコルチゾールが下がる、牛乳にオメガ3脂肪酸やベータカロテンが多く含まれやすい、といった傾向があるそうです。
一方で放牧地の草は季節で栄養が変わるため、乳成分が安定しにくいという弱点も。舎飼いは飼料をコントロールできるので品質が安定しやすいんです。
草に左右されるが味の個性が出やすい
飼料を管理でき成分が安定しやすい
どちらがいい悪いではなく、目的によって選ぶということです
放牧は大変。だからこそ見かけたら飲んでほしい
最後は川上さん自身の実感です。若い酪農家のあいだでは「放牧がしたい」という声が増えているそうですが、実際にやるのはかなり大変だといいます。
僕が牛飼いしてて、放牧という選択肢はマジで大変だなって思ってます
自然や牛の行動を理解し、天気や草の伸び、雨量、感染症までを読みながら管理する。何年も放牧を続けている人はそれだけすごい、と敬意を口にします。
だからこそ、放牧牛乳を見かけたらぜひ飲んでみてほしい、というのがこの回の着地点です。
そのうえで、日本のケージ飼いやつなぎ飼いも、狭い国土で人口を支える生産量を確保するために発展してきた「文化」だと川上さんは話します。動物福祉とどう両立させるか、AIやIoTで解決できる部分もあるはず、と展望を語りました。
消費者の皆さんに放牧イコールいい、舎飼いは悪いではなく、どうやって育っているかを一緒に考えて見てもらえると嬉しいです
まとめ
乳牛・豚・鶏、それぞれに放牧の向き不向きと日本ならではの難しさがあります。大事なのは「放牧か舎飼いか」で優劣をつけることではなく、その動物が本来の行動をとれる環境を目指すこと。育て方に目を向けて牛乳や卵を選んでみると、いつもの一杯がちょっと違って見えるかもしれませんね。
- 乳牛は高泌乳のため、草だけでなく補助飼料が必要になる
- 豚は本来放牧向きだが、日本では豚熱などの防疫が大きな壁になる
- 鶏は管理しやすい一方、鳥インフルや天敵対策から「半放牧」が広がっている
- 放牧の本質は「自然に戻す」ではなく「その動物本来の行動がとれる環境をつくる」こと
- 放牧牛乳を見かけたら、その大変さも思い浮かべつつ味わってみてほしい
