リスナーからの「どんな世界を描いていますか?」という問い
今回の配信は、Spoonという配信アプリから匿名で届いた1通の質問から始まります。
川上さんは酪農の社会的地位を高めることに精力しているように見えますが、将来的にどんな世界を描いていますか?
この問いに、川上さんはまず「社会的地位を上げること自体を意識しているわけではない」と切り出します。
社会的地位を上げるっていうことを意識しているわけではないんですよね。
結果的に、これから酪農を目指す人が業界に入ってきやすいだろうなみたいなことを考えて行っているんです。
目指しているのは、消費者が飲みたいときにいつでも、過不足なく牛乳を飲める世の中。そのために努力している、という立ち位置です。
「地位を上げる」ではなく「持続する」を考える理由
なぜ社会的地位を上げること自体を目的にしないのか。川上さんは、地位というものの性質から説明します。
酪農業界の地位が上がったとしても、どっかのところは社会的地位が下がってしまうと思ってるんですよね。
時代が流れれば、上がったものはまた下がり、別のものが上がる。だからこそ、その競争から離れたところで考えたいと話します。
盛者必衰ですから、物事はね。もうちょっと持続的に、継続的に模索している最中です。
川上さんはこの話について「めっちゃ何言ってんだこいつって思われるかも」と何度も照れつつ、それでも「フォローを外さないで最後まで聞いてほしい」と語りかけます。
「余っている」と「足りない」が同時に起きる仕組み
ここから川上さんは、自身の考えをChatGPTにまとめてもらった文章を読み上げていきます。まず語られるのは、酪農でよく起きる「不思議なこと」です。
ある地域では牛乳が余っているとニュースが流れ、別の地域では足りないと言われる。どちらも本当のことだと言います。
問題は生産量そのものではなく、流れの仕組みにある、というのが川上さんの見立てです。
蛇口から出る水の量は決まっているのに、誰がどのコップを持っていないかが見えていない。
その結果、「もう入らない」と溢れている人と、「全然来ない」と乾いている人が同時に生まれてしまう。この水の流れをちょうどよく整えることを目指している、と話します。
AIとWeb3で「需要と供給」を合わせる
その仕組みを支える道具として登場するのが、AIとWeb3です。川上さんは「難しいSFの話ではない」と前置きします。
天気や気温、学校の給食の予定、週末のイベント、そして「牛乳を飲みたい」と登録してくれた人たちのデータ。それらをまとめて、今日は多めに、明日は少し控えめに、と需要と供給を合わせるのがAIの役割だと説明します。
一方のWeb3は、牛乳がどこに行ったのか、余った分がどこに寄付されたのかを、みんなで共有して透明に見えるようにする仕組みだと言います。
天気や給食、飲みたい人のデータから需要と供給を予測して整える
牛乳がどこへ行き、どこに寄付されたかを透明に記録して信頼をつくる
「買う」から「関わる」へ。参加型の酪農
川上さんが本当に作りたいのは、テクノロジーそのものではなく「関わり方の多様性」だと言います。
イラストが得意な人は牧場のアートを描き、音楽が好きな人は牛や自然の音からBGMを作る。プログラマーは仕組みを支えるコードを書き、時間がある人は餌やりや搾乳の体験に来る。
こうして自分の得意なことを酪農に掛け算してもらえば、お金を払うだけでなく、一緒に支える仲間になれる、というイメージです。
そして酪農では、天気や給食の休みでどうしても牛乳が余る日があります。これまでは加工に回すか、最悪は廃棄するしかない時もあったと言います。
川上さんはその余剰を「未来への贈り物」に変えたいと話します。
子ども食堂へ寄付
乳製品を必要とする子どもたちへ
食育の教材に
学校で牛乳の科学を教える教材として
奨学金に
酪農を目指す高校生の学びを支える
循環実験に
堆肥作りや再生エネルギーの実験へ
透明にすることは「監視」ではなく「信頼」
参加型の酪農を進めるうえで、川上さんが大事にしているのが「開くこと」です。
どんな餌を食べ、どんな環境で過ごし、堆肥はどう循環しているのか。それを誰でもアクセスできるダッシュボードで見られるようにしたいと言います。
ただし、見えるようにすること自体が目的ではなく、「一緒に考えるために開く」ことを大事にしている、と強調します。
目指すのは、誰もが「自分の酪農」を持てる世界。牛を飼うことではなく、自分の時間やスキルを酪農の一部に変えられる社会だと語ります。
海外のCSAをヒントに描く「ちょうどいい酪農」
ここから川上さんは、AIがまとめた文章を離れ、自分の言葉で構想の下敷きを説明します。参考にしているのが、海外にある地域支援型農業「CSA」という仕組みです。
CSAでは、都市部の中に農園を作り、そこに住む人たちが前払いのお金で運営を支えていきます。日本でも一部地域で少しずつ出てきているそうです。
これにAIとWeb3を掛け合わせると、欲しい人が「これだけ欲しい」と事前に伝えて代金を払い、そのお金で後から生産する形にできると言います。
そうすれば余剰も減り、足りないことも少なくなる。しかも遠くにいても川上牧場とつながって、それが可能になるイメージです。
牛乳が高くなったり、逆に余って二束三文になってしまったりしても、買い支える人たちの間でバランスを取り、欲しい人が余った人から受け取る。お金だけでなく、いろいろなものを対価に牛乳や乳製品がもらえる形にしたいと話します。
なぜ今、配信で酪農を伝え続けるのか
この構想を実現するうえで一番大事なのは、システムだけではないと川上さんは言います。
酪農業界のこととか、牛の生理とか、酪農に関する理解がないと、こういうことができないと思っているんです。
だからこそ、いま配信やnoteで酪農のことを理解してもらう活動を続けている。それがこの構想の延長線上にある、という位置づけです。
利益が出た分は支援者に還元するのではなく、未来の子どもたちや、これから酪農を担う夢を持つ人たちにつながる取り組みに使いたいと語ります。
メタグリ研究所やJBCNなど、いろいろなコミュニティや仲間との活動も、その「パズルのピース」のひとつだと言います。
川上さんは、個人でチーズを作るような6次産業化はハードルが高いとも指摘します。余ったり足りなかったりしたときに廃棄が出やすく、それを指定団体に頼るのは虫がいい話になってしまうからです。
そうならない仕組みを作ってから進めたい。ただ、それは「めちゃめちゃ長い道のり」になると率直に語ります。
いい牛乳だけでは続かない、という実感
最後に川上さんは、なぜここまで業界全体のことを考えるのかを打ち明けます。
牛乳ただ単に絞っておけばいいや、いい牛作っていい牛乳作ればって思われるでしょう。
けれど、どんなにいい牛乳を作っても、飲んでくれる人がいなければ努力は一瞬で無駄になる。それをコロナ禍で知ったと言います。
酪農業界がちゃんと持続的にしていかないと、本当に意味がなくなってしまうんです。
未来の担い手に「お前たちが勝手にやれ」という形で渡したくない。だから自分のできる範囲で頑張っている、という思いで今回の話は締めくくられます。
まとめ
リスナーの「どんな世界を描いていますか?」という問いに、川上さんが答えた回でした。目指すのは地位争いではなく、消費者が仲間として関わりながら、余りも不足も分かち合える「ちょうどいい酪農」。難しく聞こえる話も、根っこにあるのは「みんなで支え合える業界を未来に残したい」という素朴な願いでした。
- 目指すのは社会的地位を上げることではなく、持続的で分かち合える酪農のかたち。
- 牛乳の「余り」と「不足」は生産量ではなく流れの仕組みの問題だと捉えている。
- AIで需要と供給を整え、Web3で牛乳の行き先を透明に記録する構想を描く。
- お金を払うだけでなく、得意なスキルで関わる「参加型の酪農」を目指している。
- いい牛乳を作っても飲む人がいなければ続かない、という実感が活動の土台にある。
