リスナーからの質問「牛の視力はどのくらい?」
基本的なことですが、牛さんの視力はどのくらいまで見えますか?あと、色覚、色の分別はつきますか?つまらない質問ですみません。
今回の質問は、YouTubeに届いたナベルミさんからのもの。牛の目がどう見えているのか、という素朴な疑問です。
川上さんは「こういう質問、よくあるんですよね」と話します。牛は草食動物なので、人間とは目のつき方から違うのだそう。
牛さんは草食動物なので、人間は前に目がついてるんですけど、牛さんは横についているので、とても視野が広いんですよね。
この牛ならではの視覚の個性を生かして飼うことが、とても重要なんだそうです。
牛の視力と視野「細部は苦手、でも動きに敏感」
まず視力について。牛の視力は人間より弱いとされています。ただ、正確な数値で「人間の視力の何点」と断定するのは難しいそうです。
研究では、人間より解像度が低く、細かい文字や輪郭は見にくいことが確認されています。でも、見えていないわけではありません。
重要なのは、牛が動きにはとても敏感だという点。捕食される側の動物なので、遠くの細部よりも「動いたかどうか」に強く反応します。
だから現場では、急な動きで牛が驚くことがあるんですね。
一方、視野についてははっきりわかっています。牛の視野はおよそ300度前後。後ろの方まで見えているんです。
これは両目が横についていることによる、捕食を回避するための進化的な特徴です。捕食回避天敵から身を守るための性質。草食動物は広い視野で周囲を警戒し、いち早く危険を察知できるように進化してきたとされます。
ただし、真正面のごく狭い範囲や、真後ろの一点には死角があります。だから真正面から急に触ると驚くことがあるそうです。
色の見え方「牛は赤があまり見えていない」
色の見え方にも研究があります。牛は2色型色覚を持っていて、主に青と黄色を中心に識別しています。人間は3色型です。
つまり、赤と緑の区別は人間ほどはできないということ。ここから、あの有名な話にもつながります。
闘牛で赤い布に興奮するのは、色ではなく、ひらひらとした動きなんです。これは科学的にも支持されています。
「赤い服で作業してたら危ないんじゃないですか?」とよく聞かれるそうですが、牛は赤をあまり識別できないので、そこは心配いらないんですね。
明暗と影に敏感「水たまりや影で立ち止まる理由」
牛は明暗の差、つまり明るい暗いや、床の模様、影の境目にとても敏感です。
研究でも、牛が床の模様や影を「段差」や「穴」と誤認する可能性が示されています。
現場では、水たまりや黒い排水溝、急な光の変化で立ち止まることがあるそうです。
これはわがままではなく、視覚特性なんです。
夜の目についても特徴があります。牛の目にはタペタムという基盤があって、光を反射して暗いところでの視認性を高めています。タペタム多くの草食動物や夜行性動物の目にある反射層。光を反射して暗所での見え方を助けます。夜に鹿やタヌキの目が光って見えるのはこのためです。
だから夜にライトを当てると目が光ります。川上さんは「田舎で鹿やタヌキの目がパーッと光るのと一緒ですね」と例えています。
ただし、暗い場所から急に明るい場所へ移動すると、目が慣れるまで時間がかかります。これは牛に限らず多くの動物で見られる現象です。
見え方を理解することがアニマルウェルフェアの第一歩
川上さんは、こうした牛の見え方を意識した現場での配慮を挙げています。急に動かない、影を減らす、床の模様を整える、正面から急に触らない、といったことです。
牛を理解するということは、牛の見え方を理解すること。アニマルウェルフェアは感情論ではなく、生理学の理解から始まります。
たとえば乳搾りのとき。牛が前で餌を食べていたり他の方を見ていたりするときに、いきなり乳房に触ると、びっくりして蹴ったり驚いたりします。
搾乳はリラックスしていないとお乳が出ないので、先に体に触れて「触るよ」と声をかけてあげるのが大事なんだそうです。
テンプル・グランディンさんに学ぶ、牛の視覚と現場の工夫
牛の色覚や視覚の話でよく紹介するのが、テンプル・グランディンさんという有名な方だと川上さんは言います。テンプル・グランディン動物学者で、家畜が不安を感じにくい食肉処理施設の設計で知られる人物。書籍も多数出版されています。
海外の食肉処理施設で、牛が不快や恐怖を感じないように構造を変えて効率化した方です。「動物の感覚を持っている」と言われる方なのだとか。
話で聞くと、そんなことあるわけねえだろって思ったりするかもしれないけど、本当にあるんです、これ。
ある食肉処理施設で、牛がなかなか前に進まないことがありました。原因を探したグランディンさんが見つけたのは、ヒラヒラと舞うカーテンだったそうです。
そのカーテンが揺れるだけで、牛が怖がっていたんですね。牛の視覚は揺れるものに怯えやすく、金属の金切り音のような音にも敏感になります。
また、照明が暗くて影になっている場所だと、牛は一度立ち止まってしまいます。そういう要素をなくすだけでも、牛はスムーズに動くようになるそうです。
こうした研究から、今では牛舎専用の影ができにくいライトも開発されています。
さらに、夜に煌々とライトがついていると牛が眠れなくなり、生産性が落ちてしまうそうです。人間がブルーライトで眠れなくなるのと似ていますね。
そこで赤いライトをつけると、牛は「牛舎が暗くなった」と認識して休むことができる。こうして生産性を高める研究もあるんです。
まとめ
今回は、牛の視力や色覚についてのリスナーの質問から、牛ならではの見え方と、それを理解することの大切さが語られました。牛を知ることは、牛の見え方を知ることから始まるんですね。
- 牛の視力は人間より低く細部は見えにくいが、動きにはとても敏感
- 視野は約300度と広く、色覚は2色型で青と黄色系が中心。赤はあまり識別できない
- 影や明暗差に敏感で、立ち止まるのはわがままではなく視覚特性
- 搾乳前に声をかけて触れるなど、見え方を意識した配慮が現場では大切
- テンプル・グランディンさんの事例のように、視覚の理解がアニマルウェルフェアと生産性の両立につながる
