寄せられた質問と、意外と知られていない牛のこと
今回の質問は、YouTubeネームなべるみさんから届いたものです。「牛さんは人工授精して何日で妊娠しますか?お腹が大きくなるのがわかるのはどれくらいですか?」という内容でした。
川上さんは、家畜人工授精師と授精卵移植師の資格を持っていて、繁殖の話が一番好きだそうです。だからこの回はノリノリで解説してくれます。
まず前提として、意外と知られていないのが「オスでもメスでも牛乳が出るわけではない」ということ。牧場で飼っている牛はすべてメスなんです。
うちに飼っている牛は全部メスなんですよという話をすると、「ええ!?」ってなっちゃう。
人間と同じで、牛も赤ちゃんを産んでお母さんになって初めておっぱい、つまり牛乳が出ます。その牛乳を酪農家が搾って、みんなが飲んでいるというわけですね。
人工授精から妊娠成立までの流れ
まず結論から。牛は人工授精したその日から受精の可能性が始まりますが、「妊娠した」と言えるまでには少し時間がかかります。
牛の発情周期は約21日。この21日周期で排卵をします。排卵は発情の終わり頃に起こり、人工授精はこのタイミングに合わせて行います。
うまく精子と卵子が出会えれば、その日が授精日です。受精卵は数日かけて子宮へ移動し、およそ7日目頃に子宮へ到達します。そして14日から16日頃に着床の準備をします。
ここが最初の大きな山場です。もし妊娠が成立していなければ、約21日で次の発情が来ます。
つまり21日後に発情が来なければ妊娠の可能性が高い、というのが現場の最初の判断基準なんですね。
妊娠が確定できるのはいつ?
では、確定できるのはいつなのでしょうか。今は超音波診断装置を使って、およそ30日齢前後で確認することができます。
獣医さんに使ってもらうこともあれば、人工授精のスタッフや、装置を持っている川上さん自身が確認することもあるそうです。
ここで心拍が確認できれば妊娠確定です。ただ30日ぐらいだと心拍はわかりにくいので、子宮の中に赤ちゃんの空(くう)があるかを見るような段階になります。
お腹が大きくなるのは意外と遅い
次に、お腹が大きくなる時期の話です。これが意外と遅いんです。
牛の妊娠期間は約280日とされています。人より少し短いくらいの感じですね。
ですが、目に見えてお腹が大きくなるのは後半です。大体5ヶ月以降で少し変化が出始め、7ヶ月以降で誰が見てもわかるというイメージです。前半は外見ではほとんどわかりません。
なぜなら胎児は最初とても小さく、子宮はお腹の奥深くにあるからです。
現場では、直腸検査といって牛のお尻から直接、直腸壁越しに子宮を触って確認したり、超音波診断装置を使ったり、乳量の変化や発情の有無など、複数の状況で判断しています。
一番緊張するのは最初の30〜60日
お腹が大きくなる頃には、すでに妊娠はかなり安定期に入っています。むしろ酪農家が一番緊張するのは最初の30日から60日なんだそうです。
ここで流産することもあるからです。30日で確認して子牛がいても、60日で確認したらいなくなっている、ということもまあまあある話だと川上さんは言います。
約9ヶ月間、栄養や蹄、暑さによるストレス、その他の環境ストレスの管理を重ねて、ようやく一頭の子牛が生まれます。
夏場に頑張った牛が、涼しくなって一気に気が緩む10月頃には流産が増えたり、今の時期のように寒暖差が大きいときも牛はストレスを感じやすく、流産につながることがあるそうです。
検査薬や受精卵移植という技術も
今は人間の妊娠検査薬のように、牛の牛乳から妊娠しているかどうかを確認できるPAG検査というキットもあります。
検査薬を販売する会社に牛乳を送って調べてもらったり、大きな牧場では機械を導入してこれをメインにしているところもあるそうです。
さらに、7日目に受精卵が子宮へ降りてくる仕組みを活用したのが受精卵移植です。黒毛和牛の母牛から取った受精卵を凍結しておき、ホルスタインのお腹に戻します。
すると、ホルスタインが代理母となって黒毛和牛を出産できます。これを使えば黒毛和牛を増やすこともでき、川上牧場でもこの技術を使っているそうです。
もう繁殖の話したらもう止まりませんね。ちょっと申し訳ない、ちょっと長くなっちゃった。
まとめ
牛の妊娠は、人工授精したその日から始まり、約21日後の発情の有無、30日前後のエコー確認と段階を踏んで確定していきます。お腹が目に見えて大きくなるのは後半で、酪農家が一番気を張るのはむしろ最初の時期。命が時間をかけて育っていく過程がよく伝わる回でした。
- 牛の発情周期は約21日で、21日後に発情が来なければ妊娠の可能性が高い
- 超音波診断装置で30日前後、心拍が確認できれば妊娠確定
- お腹が大きくなるのは5ヶ月以降、誰が見てもわかるのは7ヶ月以降
- 一番流産のリスクがあるのは最初の30〜60日で、環境ストレスの管理が重要
- 牛乳から調べるPAG検査や、黒毛和牛を増やす受精卵移植といった技術も使われている
