リスナーからの重たい質問と、コロナ禍という背景
今日のお便りコーナーには、YouTubeネーム「なべるみさん」から少し重たい質問が届きました。
ホルスタインのオスは大きく成長するので肉牛になるらしいですね。しかしジャージー牛のオスは肉牛には小さすぎるので、すぐに殺処分されると聞きました。本当ならば信じられません。
川上さんは、コロナ禍のニュースがきっかけかもしれないと話します。飲食店の営業停止で牛乳やお肉の需要が落ち込み、子牛の値段が上がらない状況があったからです。
ただし、そこには誤解もあるといいます。感情論ではなく、現場で何が起きているのかを事実ベースで整理していきます。
乳牛でもオスは必ず生まれる、という前提
まず前提として、酪農は牛乳を生産する仕事なので、基本的にはメス牛が必要です。
でも普通に種付けをすれば、生まれてくる子牛の半分はメス、半分はオスになります。つまり酪農をしている限り、オスの子牛が生まれるのは避けられない現実なんですね。
その上で、ホルスタインの雄とジャージーの雄では、その後の行方が変わってきます。
ホルスタインの雄とジャージーの雄、それぞれの行方
ホルスタインは大型品種で、海外では乳肉兼用種お乳を搾ることも、お肉にすることも両方できる品種のこと。ホルスタインは乳用のイメージが強いですが、海外では肉としての価値も評価されています。とされています。雄は去勢して肥育され、乳用種の肥育牛として出荷されていきます。
大型で成長が早いため、一定の枝肉重量皮や内臓などを取り除いた、お肉として流通する状態の重さのこと。重いほど市場での価値が高くなりやすいです。になり、国産牛肉として流通します。スーパーに並ぶ国産牛の一部は、こうした乳用種の肥育牛なんですね。
一方、ジャージーは小型品種です。体が小さく枝肉重量も軽い傾向があるため、大型種ほど肥育効率が良くなく、市場価格が低くなりやすいという経済的な課題があります。
大型で成長が早い。去勢・肥育され、乳用種肥育牛として国産牛肉に流通する
小型で枝肉重量が軽い。肥育効率が良くなく、市場価格が低くなりやすい経済的課題がある
「すぐ処分される」は本当なのか
では、核心の「すぐ処分される」は本当なのか。川上さんは冷静に整理します。
現在の日本では、健康な子牛が生まれてすぐ大量に殺処分される、という制度は存在していません。
家畜の処分は家畜伝染病予防法家畜の伝染病の発生や広がりを防ぐための法律。家畜の扱いや処分について厳しく規制しています。などで厳しく規制されていて、動物愛護管理法の対象でもあります。
ただし現実として、採算が合わない、流通価値が低いケースはあります。海外では過去に乳用オスの問題が議論になった事例もありました。
改良と工夫で価値を高める取り組み
この問題は世界的に認識されていて、価値を高めるための取り組みが進んでいます。
ジャージーの雄も、地域や経営方針によっては肥育されていきます。「小さいから終わり」ではないんですね。
経済動物としての牛と、酪農家の愛情
ここで川上さんは、率直に語ります。畜産は命を食べる産業で、どうしても経済性が絡んでくる、と。
だからこそ、価値を高める改良や需要を作る努力、無駄を減らす繁殖管理が進んできたといいます。
私は80頭ほぼ一人で管理していますが、一頭一頭にコストも労力も感情もかけています。
生まれた命を無意味にすることは、経営的にも感情的にもありません。
川上さんは、牛は経済動物として生まれ、生産されているといいます。人間にどれだけ経済性を与えられたか、素晴らしい牛だと価値を感じてお金を出してもらえるか。そこが経済動物の大事なところだと話します。
川上牧場自身の経験と、消費者ができること
実は川上さん自身も、以前はジャージーやブラウンスイスなど多様な品種を飼っていました。酪農教育ファームとして、子どもや地域の人に違う品種の牛を見てもらう楽しさもあったといいます。
でもコロナ禍で餌代が上がり、牛乳が売れなくなったとき、その余裕が全くなくなってしまいました。今はジャージーもブラウンスイスも飼っていません。
まだ飼っていきたいけど、本当に経営が厳しくなるから出さないといけない、そう判断したんです。本当に悲しくなりますから。
その背景には、牛乳の価値が需要と供給のバランスだけで決まってしまう仕組みがあると川上さんは指摘します。搾った牛乳が余れば値段が下がり、酪農家の生産だけで市場価格が動いてしまう。ここが問題だといいます。
そこで川上さんが挙げるのが、消費者が各牧場を直接応援できる形です。「ジャージーを高い価値で買ってあげたい」「雄が生まれても支援したい」という人とつながっていく。それを実現しているのが川上牧場のメンバーシップだと話します。
欲しい人がいっぱいいれば高く売れます。欲しい人がいなければ安くなってしまう。それが酪農の仕組みなんですね。
まとめ
ホルスタインの雄は多くが肥育され、ジャージーの雄には経済的な課題があるものの、即処分になっているわけではありません。これは善悪では割り切れない構造の問題で、まずは知ろうとすることが第一歩だと川上さんは語ります。
- 乳牛でもオスは必ず生まれ、酪農をしている限り避けられない
- ホルスタインの雄は肥育され国産牛肉に、ジャージーの雄は小型ゆえに経済的課題がある
- 日本では健康な子牛をすぐ大量処分する制度はなく、法律で厳しく規制されている
- 性判別精液やF1生産、ブランド化など価値を高める取り組みが世界的に進んでいる
- 需要と供給で牛乳の価値が決まる仕組みが課題で、消費者が牧場を直接応援する形も生まれている
