リスナーからの質問と結論
今回のテーマは、配信アプリ「ぽぽぽ」のリスナーから寄せられた鋭い質問です。A2ミルクは各地域で生産が増えつつありますが、その仕組みはまだ広く知られていません。
A1ミルク、A2ミルクとあると思いますが、牛乳パックには表示されていません。なぜでしょう?いらない情報でしょうか。A1とA2を混ぜたりしているのでしょうか?乳糖不耐症の人にもA2ミルクだと表示できるようにならないでしょうか?
川上さんはまず結論から示しました。日本の牛乳パックにA1やA2と書かれていないのは、法律で表示が義務付けられていないからです。そしてもう一つ、日本ではほとんどの牛乳メーカーがA1・A2だけで商品を区別して販売していないという理由もあります。
そもそもA1・A2とは何か
A1・A2は、牛乳の脂肪でも乳糖でもありません。実はベータカゼイン牛乳に含まれる主要なタンパク質の一種。カゼインは牛乳タンパク質の約8割を占めるとされる。という牛乳タンパク質の種類です。
牛乳のタンパク質には何種類かあり、そのなかのベータカゼインにA1型・A2型という遺伝的な違いがあります。これは牛自身が持っている遺伝子によって決まります。つまり後から検査しないとわからず、遺伝子検査をしている酪農場はまだ少ないのが現状です。
| 牛の遺伝子 | 含まれる型 |
|---|---|
| A2 / A2 | A2型だけ |
| A1 / A1 | A1型だけ |
| A1 / A2 | 両方を含む |
つまり牛乳を後から混ぜてA1・A2を作っているのではなく、牛の遺伝子で決まっているということです。
日本の牛乳でA1・A2が混ざる理由
日本で主流のホルスタイン白黒模様が特徴の乳用牛。日本の乳牛のほとんどを占め、多くの生乳を出す代表的な品種。には、A1遺伝子もA2遺伝子も両方存在しています。そのため、一般的な牛乳は牛群全体から搾乳する結果、A1型とA2型が自然に混ざるのです。
わざわざ混ぜているというより、多くの牛から搾乳した結果、自然に両方が含まれるということです。
さらに市販の牛乳は、いろいろな牧場のいろいろな牛乳を混ぜて作られています。牧場ごとにA1・A2の遺伝子を持つ牛・持たない牛が混在しているため、「どちらの型か」がわからなくなる。これが表示されない大きな理由の一つです。
A2ミルクは本当にお腹に優しいのか
ここが一番大事なポイントだと川上さんは言います。SNSやYouTubeでは「A2ミルクなら誰でもお腹を壊さない」「A1は体に悪い」といった極端な情報も見かけます。しかし現状はそれほど単純ではありません。
現在の研究では、一部の人でA2ミルクの方がお腹の不快感が少なかったという報告があります。一方で、十分な科学的根拠はまだ確立していないという評価もあります。
また、A2ミルクで乳糖不耐症が改善するということも、現時点では確立した結論ではありません。
乳糖不耐症との違い
ここで混同されやすいのが乳糖不耐症です。乳糖不耐症は、乳糖を分解する酵素ラクターゼ牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する消化酵素。これが少ないと乳糖をうまく消化できず、お腹の不調を起こしやすい。が少ないことで起こります。
一方、A1・A2はタンパク質の違いであって、乳糖ではありません。つまり、まったく別の話です。
乳糖を分解する酵素ラクターゼが少ないことで起こる。原因は「乳糖」。
ベータカゼインというタンパク質の型の違い。原因は「タンパク質」。
そのため、乳糖不耐症だから必ずA2ミルクなら飲める、とは言えません。逆にA2ミルクで症状が軽く感じた人がいたとしても、その理由はまだ研究が続いている段階です。
海外と日本のA2ミルク事情
ニュージーランドやオーストラリアではA2ミルクカンパニーA2型ベータカゼインだけを含む牛乳を専門に扱う企業。ニュージーランド・オーストラリアを拠点に、A2ミルクという分野を広めた。という企業が有名です。牛を遺伝子で検査し、A2A2の牛だけを集めた牛乳を「A2ミルク」として販売しています。アメリカやイギリスでも売られており、A2ミルク自体は珍しくなくなってきています。
では日本ではできるのか。もちろん販売されています。牛の遺伝子検査をすればA2A2の牛だけを選ぶことは可能で、実際に日本でも一部の牧場がA2ミルクを販売しています。
ただし全国規模で切り替えるには、牛の選抜・遺伝子検査・集乳の分別・工場の管理まで必要になり、かなりのコストがかかります。
これからの牛乳選びの視点
川上さんは、A1かA2かよりも、まず牛乳そのものを正しく理解することが大切だと語ります。牛乳にはカルシウム、タンパク質、ビタミンB群など様々な栄養があります。一方で、体質によって合う合わないもあります。
「A1は悪、A2は万能」という極端な話ではなく、少しずつ根拠を積み重ねていくのが科学だという姿勢です。そのうえで、この質問から見えてくる大きな流れを次のように整理しました。
放送の終盤では、遺伝子検査(ゲノム検査)が品種改良にも活かされている話題にも触れました。チーズや加工品向けに、歩留まりの良い牛だけを揃えた乳舎を建てた牧場がニュースになったといい、川上さんは「面白いことをするな」と感心していました。品種改良については、Kindle本第2弾『酪農未経験者のために 遺伝改良と飼料設計編』で詳しく解説されているとのことです。
まとめ
A1・A2はベータカゼインというタンパク質の違いで、牛の遺伝子で決まります。後から加工して作るものではありません。日本の一般的な牛乳は多くの牛から集乳するためA1とA2が混在しており、表示義務がないためパックには通常書かれていません。
A2ミルクがお腹に優しい可能性を示す研究はありますが、乳糖不耐症の改善や健康効果についてはまだ科学的な結論が出ていません。極端な情報に振り回されず、牛乳そのものを正しく知ることが大切だといえそうです。
- A1・A2はベータカゼインというタンパク質の型の違いで、脂肪や乳糖ではない
- 牛の遺伝子で決まり、後から混ぜて作るものではない
- 日本の牛乳は多くの牛から集乳するためA1とA2が自然に混ざる
- A1・A2は表示義務がないため、牛乳パックには通常書かれていない
- A2ミルクがお腹に優しい可能性を示す研究はあるが、健康効果の科学的結論はまだ出ていない
- 乳糖不耐症とA1・A2の違いは別物で、A2ミルクなら必ず飲めるとは言えない
