無償化で牛乳が消える?給食費の3分の1問題
今回のテーマは、研修生さんのリクエストで「給食の牛乳」について。きっかけは、いま議論されている学校給食の無償化でした。
研修生さんが資料で気になったのは、給食費のなかで牛乳が大きな割合を占めているという点です。
川上さんによると、給食費のおよそ3分の1が牛乳分。無償化されると各自治体で予算が決まり、そのなかでやりくりしなければいけなくなると言います。
問題は、これから物価が上がっていくこと。野菜もお米も値上がりが見込まれるのに予算は決まっているため、給食を維持するには費用を削らざるを得なくなります。
そこで一番手っ取り早いのが、牛乳を乳飲料やお茶に切り替えること。すでにそうした自治体も出てきているそうです。
一番手っ取り早いのが牛乳を代えて、乳飲料とかお茶に変えてしまうと。それで給食は一応提供できますと。
さらに、牛乳は各地域に届けるための輸送も課題になります。島根県なら隠岐島のように、乳牛も工場もない離島まで運ぶ必要があるからです。
送料を誰が負担するのか。そこから「島の学校は保存が効く乳飲料にしよう」という議論まで出てきているといいます。
入札で決まる給食牛乳と、赤字で支える地元メーカー
島根県の学校給食では、島根県産の牛乳が使われています。ただし、その決め方は入札です。
「今年はこれくらいの価格で年間これくらい使います」という条件を示し、複数の乳業会社が価格を競って、一番安いところが選ばれる仕組みです。
ここで問題になるのが、大手メーカーのスケールメリット。人口が多くて儲けが出る地域だけを狙って入札してくる、という構図があります。
大手メーカーはスケールメリットがあるので、美味しいとこだけ取ってくるんですよ。松江市、出雲市、大田市とか人口が多いところをピンポイントで。
では、大手が来ない地域はどうなるのか。そこは、昔から地元でやっている中小の小さいブランドが、赤字を切りながら一生懸命支えている、という背景もあるそうです。
値上がりの負担は誰が?酪農家を守る仕組み
入札の価格変動は、酪農家の収入に直接ひびくのでしょうか。研修生さんが気になったのはこの点でした。
川上さんによると、島根県では学校給食に提供する牛乳の値段は据え置きにされています。牛乳の価格自体は今年の8月に上がったものの、その差分は組合や酪農団体が負担しているそうです。
学校給食に提供する牛乳は値段を据え置きにして、上がった差分は各組合とか酪農団体で負担しますよと。学校給食をなくすのはやめてほしいですっていう。
つまり「自分たちも痛みを伴うので負担するから続けてほしい」という姿勢です。
ただし研修生さんが指摘したように、組合が負担するということは、めぐりめぐって酪農家が負担することでもあります。そうした努力のうえで給食牛乳が続いている、というのが現状です。
アレルギーとの向き合い方と「なくせばいい」への疑問
話題は、いま強く言われるようになった牛乳アレルギーへ移ります。
研修生さんが教育実習で出会った子は、牛乳に触れてタッチするだけでも命に関わるほど深刻だったそうです。その子は個別に食事をとり、食べ終わると1年生全員が手を洗うという対応がされていました。
こぼしたら大惨事ですよね。
そこから「だったらなくしましょう」という発想が出てくる、と川上さん。実際、ウズラの卵は喉に詰まる危険から給食で提供されなくなり、そばやカニもアレルギーで姿を消したといいます。
ただ2人は、危ないものを全部なくしていけば、いずれ何も残らなくなるのではという疑問も口にしています。
いや、でもそういうもんじゃない?教育って。
日本人と牛乳の歴史、消化しにくい体質の理由
続いて、牛乳そのものの歴史へ。研修生さんは「牛乳は元々日本にあったものなのに、なぜアレルギーやお腹を壊す人が多いのか」と不思議がります。
学校給食が始まったのは戦後のこと。栄養不足の子どもたちのために、アメリカから買った脱脂粉乳を溶かして提供していたものが、やがて牛乳になっていったそうです。
体質の話では、欧米やインド系の人たちは牛乳を飲む文化が長く、お腹の中が消化しやすいように変化してきたと川上さんは説明します。
人間は牛乳を消化できないんですって、元々。長い文化の流れでお腹に消化できるようになったそうです。
アジア人はその文化がまだ短いため、他の人種より消化しにくい人が多いと言われているそうです。
犬や猫も同じで、牛乳を飲ませるイメージがあるものの、実は消化不良になってしまうとのこと。ペット用のミルクはヤギの乳を使ったり、脂肪球を消化しやすく加工したりしているそうです。
給食牛乳をなくすことの長期的なリスク
SNSでは「牛乳は人間が飲むものじゃないのに」「牛から奪って」といった声も多いと川上さんは言います。
それでも、戦後にタンパク質やカルシウム不足を補い、人口や健康を支えてきたのが牛乳でした。
いまは食事が娯楽にもなり「給食に牛乳はいらないのでは」という意見もあります。ですが川上さんは、1日1食を給食に頼る子がいる現実を挙げます。
1日1食しか食べれない子とか、貧困の差がすごい。給食が生命線になってる子もいるので。
だからこそ、目先の判断で給食牛乳をなくすと、20年30年のスパンで見たときに「やばいな」となるかもしれない、と川上さんは危惧します。
さらに、給食費は払ったほうがいいとも話します。少額でも払っていれば「言える権利」があるからです。
1000円でも2000円でも払ってると、言える権利があるじゃないですか。無償化だと言いにくい立場上言えないけど、お金払ってたら言える。
これを聞いた研修生さんは「株主みたいなもんですね」と納得。給食費について、これまであまり考えたことがなかったと振り返っていました。
地域差を生む栄養士と、酪農家への影響
給食のあり方には、地域差が大きく出てきているといいます。氷川の給食はとても美味しい、という話も出ました。
その背景の1つが、栄養士の存在です。メニューを決める栄養士には界隈があり、いわば「給食のドン」と呼べる人がいる地域もあるのだとか。
そのトップが有機農法や無農薬に強くこだわると、地域全体のメニューがそれ一色になり、品質が安定しなくなったり、給食費が上がったりすることもあると川上さんは指摘します。
一方で、子どもたちに食べてほしいからと、ほとんど利益なしで卸している良心的な会社もあるそうです。
最後に、もし牛乳の提供がなくなったら酪農家はどうなるのか。川上さんは「牛乳がだぶつく」と答えます。需要と供給のバランスが取りにくくなるのです。
いまも牛乳は余っており、廃棄にしないよう脱脂粉乳やバターに加工されています。ただ、加工が増えるほど農家の手取りは減っていくといいます。
乳価は上がってるんだけど、消費が減ってるので、今後は多分ちょっと厳しくなるんじゃないのって感じですね。
まとめ
学校給食の無償化という身近な話題から、入札の仕組み、牛乳の歴史、アレルギー、そして酪農家への影響まで話が広がった今回。何気なく飲んでいた給食の牛乳の裏側には、たくさんの人の努力と工夫があることが見えてきますね。
- 給食費のおよそ3分の1が牛乳分で、無償化は牛乳の切り替えにつながりかねない
- 給食牛乳は入札で決まり、大手が来ない地域は中小メーカーが赤字で支えている
- 島根では値上がり分を組合や酪農団体が負担し、給食牛乳を維持している
- アジア人は牛乳を飲む文化が短く、消化しにくい人が多いと言われている
- 給食牛乳をなくす判断は、長期的に見ると子どもの栄養や酪農に影響しかねない
