研修生さんは「リスペクトされてる」のか
放送は、スタンドFMに届いたコメントから始まります。「川上さんの考え方にリスペクトできる貴重な研修生さんもいなくなってしまうのか、見捨てないであげてください」という内容でした。
川上さんによると、農業大学校などで学んできた学生は、マニュアル通りの1本の線路に乗っていることが多いそうです。そこに「そういう考え方もあるよね」と投げかけると、これまでやってきたことを見つめ直すきっかけになるのだといいます。
今まで僕がやってきたことは何だったんだろう、みたいなことを考えるから。何だろう、リスペクトでもないけど、なんかそういうふうに見られるっていう感じかな。
一方で研修生さんは「私はベースがないから」と話します。川上牧場が最初の現場だからこそ、外に出たら戸惑うこともあるかも、という軽い掛け合いも。
他のところに行ったらいじめられるよ。なんてことしてくれたんだ、川上さんに、って。
これまでの研修生さんたちは、酪農の道に進んだ人もいれば、川上牧場でのSNS運用の経験をもとに自分でSNSビジネスを立ち上げた人もいるそうです。それぞれが自分の道を進んでいると話されていました。
放牧酪農は「夢」だけど、そのまま始めなくていい
今回の本題は、新規就農を希望する方からのメッセージです。この方は「放牧酪農がやりたい」と書いていました。
川上さんは、放牧酪農への憧れはよくわかるとしつつも、現実はかなり大変だと話します。牛が伸び伸びしている様子を見ると魅力的に映りますが、生産性を上げるのは簡単ではないそうです。
そこで川上さんが提案するのは、いきなり放牧から始めない道です。
放牧酪農を最終目標にするときに、いきなり放牧酪農する必要なんて全くなくて。
最初は空いた牛舎を借りて1〜2頭くらいから始めて、徐々に増やして牛舎をパンパンにして、利益が上がったら自分のやりたい牧場を作っていく、みたいな形のほうがいいかな。
新規就農にはどんな形がある?第三者継承の仕組み
研修生さんは、新規就農にはゼロから牛を買って始める道以外にもあるのか、と質問します。たとえば高齢の酪農家から牛舎を譲ってもらうケースです。
高齢で牛舎を持ってる人がいて、そこに行って牛舎を譲ってもらう。それも新規就農になるんですか?
これは「第三者継承」という制度で、行政やJAが間に入り、売りたい人と買いたい人の価格をすり合わせて引き継ぐ形が多いそうです。
継承の形はさまざまです。売買のように一括で渡すケースもあれば、JAや町が一度牧場を買い取り、月額のリースで貸し出して、数年後には引き継ぐ人のものになる形もあると話されていました。
一回JAとか町が牧場を買い取って、月額いくらでリースで貸してあげて、10年後には全部あなたのものですよ、みたいな形にすることもある。
北海道では第三者継承がすでに一般的で、システム化されているそうです。同じ制度で就農した先輩がたくさんいるので、動き方を聞けるのも心強いポイントですね。
なぜ「都府県で放牧」は厳しいのか インサイダーとアウトサイダー
相談者は「アウトサイダー・インサイダー」という言葉をよく使っていたそうです。川上さんは、この構造こそが放牧酪農の難しさに関わると説明します。
農協や指定団体に出荷して全国に牛乳を流通させる仕組みが「インサイダー」です。輸入の牧草や配合飼料を使い、搾乳牛1頭あたり年間9000キロほど搾る前提で、経営が成り立つように設計されています。
一方、放牧酪農は乳量が少なく、配合飼料をあまり使わず自分の草でやっていくスタイル。これは全国の圧倒的多数とは違う、いわば異例のやり方だと川上さんは話します。
だからめっちゃ厳しい。「なんでうちのルールに乗ってくれないんだ」っていうのは、圧倒的多数の人たちと全然違うことをやってるから、仕方ないんだけど。
川上さんは、実際に会った例も紹介します。沖ノ島でジャージー牛数頭を飼い、牛乳は給食用に出し、あとはバターなどの加工品で島の中で完結させている夫婦の話です。
相談を受けたときは「難しいんじゃないですか」「学校給食は品質も生産量も安定させないといけないからハードルが高い」と伝えたそうです。それでも、その人は実際にやり遂げたのだといいます。
いや、やる人はすげえなと思ったね、あれはね。
新規就農は増えたほうがいい?川上さんの本音
相談は「新規就農が増え、農業で豊かになり、興味関心が増えるにはどうしたらいいか」「行政の支援は足りているか」にも及びます。
川上さんはまず、新規就農が増えるほうがいいと思うか、と問い返します。研修生さんは「増えないと減っていく一方では」と答えますが、川上さんの見方は少し違いました。
法人酪農なら生産量が足りなくなればすぐ増やせるので、頭数は維持されているそうです。しかも今は牛乳が余り、人口も減っている状況です。
ここでいう「減ってほしい」は、少人数で無理に支えている牧場が閉じることが、周りにとってはメリットになる場合がある、という意味です。人員がそこに割かれずに済むからですね。
一方で川上さんは、農家戸数が政治的な力に直結する点も指摘します。
お米と牛乳は生産量がほとんど変わらないのに、お米は手厚く支援されています。その差は、お米の農家戸数が10倍20倍あり、それだけ影響力があるからだと話されていました。
農家戸数が多く、投票などを通じた影響力が大きいため手厚く支援されやすい
生産量はお米とほぼ変わらないが、農家戸数が少なく影響力が小さい
就農に固執しなくていい 「起業」としての酪農
川上さんは、これから新規就農するのは相当きついと率直に話します。だからこそ、就農という形に固執しなくてもいいのでは、という提案が出てきます。
牛を飼いたいなら、大きい牧場で第一牧場・第二牧場の担当として働く道もあります。海外ではオーナー制で各牧場に牧場長を就かせ、生産性で競わせる仕組みもあるそうです。
フランチャイズみたいなイメージ。生産性が悪かったら交代、みたいな制度をやったりするから、そういうのでいいんじゃねえかなと思ったり。
行政の支援については、かなり厳しい見方を示します。人手が足りず制度も追いついていないうえ、若手の新規就農者を支援するメリットが誰にもないからだといいます。
担当する行政の職員が2〜3年で交代してしまうと、その期間内のメリットがない。だから積極的に助けてくれる人はいない、という構図として捉えたほうがいいと話されていました。
最後に研修生さんは、酪農もほぼ起業のようなものだと感じたようです。
まあでも起業ですよね、ほぼほぼ。やってみないとわかんないんじゃないですか。
川上さんも、スタートアップで成功した人が牧場を買って自社ブランドを作る道も今なら十分あると応じ、放送を締めくくりました。
まとめ
放牧酪農への憧れはよくわかるけれど、いきなり始めるのではなく、小さくスタートして利益を出してから理想へ近づく——川上さんの話には、酪農を「起業」として現実的に捉える視点がありました。新規就農にこだわらない選択肢も含めて、就農を考える人のヒントになる回でしたね。
- 放牧酪農はいきなり目指さず、小さく始めて利益を出してから理想に近づくのが現実的
- 新規就農には第三者継承やリース方式など、ゼロからではない引き継ぎの形がある
- 全国流通の「インサイダー」の仕組みの中で放牧をやるのは、多数派と違うため厳しい
- 農家戸数の少なさが支援の弱さにつながり、行政の後押しは期待しにくい
- 大きい牧場の牧場長やM&Aなど、就農に固執しない道も選択肢になる
