TikTokの海外リスナーから届いた質問
今回のテーマは、TikTokに寄せられた1通の質問から始まります。海外で働いていると思われる「かみさと」さんからのお便りです。
新鮮なバルクミルクよりもスキムミルクを与える方が好きですか?理由は何ですか?
バルクミルクとは、搾ったままの生乳のこと。それを子牛に飲ませる牧場もあるのに、なぜ日本では粉ミルク(代用乳)が主流なのか、という問いです。
ちょうどこの日は、牛乳の出荷抑制(生産調整)が呼びかけられている時期。搾った牛乳を子牛のミルクに回すのも生産抑制につながるため、川上さんはこの質問とあわせて注意点も話していきます。
前提は「日本も海外も、いまは代用乳が主流」
まず川上さんが整理したのは、大きな前提です。質問では「日本=代用乳、海外=生乳」というイメージがあるようですが、実際はそうではないと話します。
現在、日本の酪農では子牛の哺乳の多くが代用乳(脱脂粉乳ベース)。そしてこれは日本だけでなく、海外でも代用乳が中心になっているそうです。
一方で、質問にあった「バルクミルク=生乳での哺乳」は、いまでは限られたケースだけ。昔ながらのやり方や小規模の牧場、特別な管理ができる環境などで使われているといいます。
なお質問の「スキムミルク」は、実際には脱脂粉乳ベースの代用乳を指していると理解して答えを進めていきます。
「好きだから」ではなく「合理的だから」
では、川上さんは代用乳が「好き」なのでしょうか。答えははっきりしています。
現在の日本の現場では、代用乳を使うことが合理的でリスクが低く、再現性が高い。だから意識せずとも代用乳を選んでいる状態、と言った方が正確だと話します。
なぜ生乳での哺乳が減ったのか。その理由も明確でした。
疾病のリスク
乳房炎の菌やサルモネラなどが子牛に感染するリスクを抑えられる
成分の変動
生乳は日々成分が変わり、哺乳量の設計が難しい
作業性
加温・保管・腐敗管理が大変で、人手不足とも相性が悪い
結果
代用乳の方が事故が起きにくく、手間もかかりにくい
つまり、代用乳は「事故が起こりにくく、手間がかかりにくい」。これが最大の理由なんですね。
日本と海外で違うのは「哺乳の考え方」
同じ代用乳を使っていても、日本と海外では考え方そのものが違うと川上さんは言います。
事故を起こさないことを重視。下痢や肺炎を防ぐ安定運用が中心
初期の増体を最大化したり、将来の哺乳量を見据えた高栄養・高哺乳量のプログラムがある
使っているのは同じ代用乳でも、濃度や量、目的が違う。ここが本質的な違いだと話します。
ただし、生乳での哺乳が完全に否定されているわけではありません。適切に殺菌し、成分を把握し、衛生管理ができる条件が揃えば、有効な場合もあるそうです。
とはいえ、これは管理レベルが高い牧場向けの選択肢。一般論としては代用乳の方が安全だ、というのが川上さんの見方です。
川上牧場の場合と、選び方を左右するもの
では川上牧場はどうしているのか。こちらも代用乳を使っています。
川上牧場では哺乳ロボットを導入していて、子牛の品種ごとに哺乳の日数やステージ、濃度を変えているそう。F1やホルスタイン、黒毛和牛といった品種に合わせて、ロボットにまかせているといいます。
品種によって目的も変わります。黒毛和牛や肉用牛なら、何ヶ月で出荷するか(2ヶ月・3ヶ月・8ヶ月など)によって、どう体重を乗せていくかの設計が変わってくるからです。
さらに川上さんは、日本ならではのコストの事情も挙げます。日本は乳価(牛乳の値段)が海外に比べて高く、搾った牛乳をそのまま飲ませるより代用乳の方が安いというケースが多いのだそう。
ただし逆に、代用乳の値段が上がりすぎて、出荷する牛乳の方が安くなる地域もあるとのこと。そうした場合は、殺菌機(パスチャライザー)を持つ牧場が、搾った牛乳を殺菌して飲ませることもあるそうです。
この質問が教えてくれること
最後に川上さんは、この質問の本質をこう振り返ります。
この質問の本質はどちらが好きかではなく、なぜその方法を選んでいるのか、何を優先しているのか、そこにあると思います。
哺乳は価値観、規模、人手、疾病状況、すべての影響を受ける工程です。
日本も海外も代用乳が主流で、生乳での哺乳は限定的な選択肢。違いは目的と設計思想であって、好き嫌いではなくリスク管理の話なんですね。
海外の視点が入ることで、日本の当たり前もより正確に見えてきますね。
川上さんは、TikTokの翻訳機能で海外の質問にも答えられることに触れながら、これからも国ごとの違いをコメントで教えてほしいと呼びかけていました。
まとめ
海外リスナーの「なぜ生乳じゃなくて粉ミルク?」という質問から、日本と海外に共通する代用乳の実情と、その裏にある考え方の違いが見えてきた回でした。答えは「好き嫌い」ではなく、リスクと設計思想の問題なんですね。
- 日本も海外も、いまは子牛の哺乳に代用乳(脱脂粉乳ベース)を使うのが主流
- 代用乳が選ばれるのは、疾病リスクが低く、成分が安定し、作業も再現しやすいから
- 日本は事故を防ぐ安定運用、海外は増体を狙う高栄養設計と、同じ代用乳でも目的が違う
- 生乳での哺乳も、衛生・殺菌・成分管理が高いレベルで揃えば有効な場合がある
- 品種・出荷月齢・乳価・地域のコストなど、哺乳の選び方は牧場ごとに大きく変わる
