今日の質問は「牛にしつけはできる?」
今回はリスナーからのお便りに答える回。届いたのは、Stand.FMネームのブーさんからの質問です。
牛ってある程度しつけはできるのですか?例えば糞尿を牛舎のその辺じゃなくて端にさせるとか
牛舎に行ったことがある人ならわかるように、実際はそこら中にウンチがある状態。だからこそ「本当にしつけられるの?」という素朴な疑問が生まれます。
川上さんはこの質問に、牛の行動学、現場の実際、そして最新技術という3つの角度から答えていきます。
結論、完全なしつけは難しい
まず結論から。川上さんいわく、しつけはある程度コントロールできるけれど、完全なしつけは難しいそうです。
理由はシンプルで、牛は人間のように「場所を意識して」排泄する動物ではないから。
牛は基本的にタイミングで排泄する動物です。立ち上がった時、食べた後、歩いた時、こういう流れの中で自然に出ます。
つまり、ここでしようという意識はほぼありません。
犬や人間のように「トイレの場所を理解する」のとは、そもそも仕組みが違うんですね。
食べた後や立ち上がった時など、タイミングで自然に排泄する
「ここでする」と場所を意識して排泄する
環境で“誘導”する現場の工夫
では、しつけが難しいなら現場ではどうしているのでしょうか。ポイントは、環境で誘導するという考え方です。
たとえば牛がよく立つ場所を設計したり、通路で排泄させたり、休み場所を清潔に保ったり。すると結果的に、汚れにくい牛舎になります。
川上牧場はつなぎ牛舎牛を1頭ずつ定位置につないで飼う昔ながらの飼養スタイル。牛の頭とお尻の向きがそろうため、排泄する方向も一定になりやすい。なので、牛のお尻の向きが全部そろっています。そのため、ちょうどよい位置に溝を作れます。
さらに、その溝の上でウンチをさせるための道具もあります。商品名はカウトレーナーです。
牛さんがウンチやおしっこをする時、人間もそうですけど、いきむんですね。そのいきんだ時に背中が丸くなって、ちょっと高さができるわけです。
その高さができた時に、背中のカウトレーナーに軽い電気ショックがあって、ビリってなると牛さんが後ろに一歩下がるんです。そこにちょうど溝があるっていう。
ただ川上さんは、動物愛護の観点から電気ショックで行動を誘導するのはダメだという声もあり、今は使いにくくなっていると補足しています。
牛は「習慣」で生きる生き物
現場の工夫を支えているのが、牛の大きな特徴です。それは、習慣に順応するということ。
牛は習慣、環境、繰り返しには順応していきます。「この流れで動く」という学習はしっかりするんですね。
場所を教え込むのではなく、牛がもともと持っている習慣やタイミングをうまく利用する。それが飼いやすさにつながります。
排泄を誘導する最新技術
ここから話は最新技術へ。オランダの企業が面白いシステムを開発しています。
牛が特定の場所に来た時に、マッサージなどの刺激で排尿を促すというもの。いわば「カウトイレ」のような発想です。
牛が配合飼料を食べに来たタイミングで排尿を誘導することで、牛舎の汚れを減らすというものです。
乳房の少し上あたりに膀胱を刺激できるところがあり、そこをさすると尿が出るのを利用しているそう。餌を食べている間に排尿を促す仕組みです。
さらに新しいものでは、この機能が搾乳ロボット牛が自分のタイミングで入り、自動で搾乳する機械。人手をかけずに搾乳できる。に付いたタイプも登場。搾乳している間にウンチやおしっこを受け止めて、牛舎をきれいに保ちます。
何がすごいかというと、しつけるではなく、行動のタイミングを利用するという考え方で、この設備ができているということですね。
ほかにも、牛の首輪に振動機能をつけて、放牧場から出ないように知らせるシステムも登場しているとのこと。電気柵の代わりになる技術です。
これからの酪農が目指す方向
こうした技術に共通するのは、人が全部コントロールするのではないという発想です。
行動学や環境設計、テクノロジー、この三つを組み合わせて牛に無理させず管理する方向になっていきます。
牛が快適に過ごせることを大切にするアニマルウェルフェア家畜が心身ともに健康で、快適に過ごせる状態を目指す考え方。動物福祉とも訳される。の考え方が、酪農の現場にも広がっているんですね。
最後に川上さんは、しつけの最頂点として「牛の碁盤乗り」も紹介。牛が碁盤の上に乗る伝統芸能のような調教で、YouTubeでも見られるそうです。
賢いっちゃ賢い。でもバカっちゃバカですね。私はこんな牛が大好きですね、本当に。
まとめ
牛は「場所」ではなく「タイミング」で排泄する生き物。だから完全なしつけは難しいけれど、習慣を理解して環境や技術でうまく誘導することはできます。牛をどう理解するか、そこに酪農の面白さが詰まった回でした。
- 牛は場所ではなくタイミングで排泄するため、完全なしつけは難しい
- 牛は習慣・環境・繰り返しに順応するので、環境設計で汚れを減らせる
- つなぎ牛舎ではカウトレーナーなどで排泄位置を誘導してきた
- オランダ発の排尿誘導システムや搾乳ロボット連動型など、最新技術が登場している
- これからの酪農は行動学・環境設計・テクノロジーを組み合わせ、牛に無理をさせない方向へ
