質問は『百姓貴族』の「牛のいじめ」について
今日の質問はTikTokのさくらマンさんから。漫画『百姓貴族』で牛同士のいじめがあると言っていたけれど、本当ですか、という内容です。
川上牧場でも子どもが『百姓貴族』が好きで、荒川弘先生が酪農の漫画を描くということで単行本を買い続けているそうです。
親父さんのキャラがツボという声もあるそうですが、川上さんいわく「酪農家の親父さんってあんなんですよ」とのこと。
特に北海道の親父さん世代は、もう開拓民精神がものすごい引き継いでますんで、あんな感じですね。
漫画『百姓貴族』で牛同士のいじめがあると言っていましたが、本当ですか?
結論から言うとあります。人間の感覚でいういじめに近い現象は、牛の世界にもあります。ただし感情論ではなく、牛の行動学と現場の実態をベースに整理して考えるのが大事です。
「いじめ」の正体は序列と資源の確保
前提として、牛はとても社会的な動物です。犬や猫以上に、群れの中で生きることを前提に進化してきたそうです。
牛の群れにははっきりとした序列や力関係、立ち位置があります。これは野生の草食動物としてはごく自然な仕組みです。
人間のいじめは悪意や感情が絡みますが、牛の場合は少し違います。多くは、餌場で押しのける、寝床に入らせない、角や頭で軽く突く、特定の牛が近づくと追い払う、といった行動として現れます。
これらは自分の順位を守ったり、餌などの資源を確保するための本能的な行動です。つまり牛自身は「いじめてやろう」と思っているわけではないんですね。
社会的な動物
牛は群れで生きることを前提に進化している
序列がある
群れには力関係や立ち位置がはっきりある
本能的な行動
順位を守り、餌や寝床を確保しようとする
いじめに見える
押しのけ・追い払いなどが起きる
トラブルが起きやすいタイミング
現場の感覚として、牛同士のトラブルは特定の場面で起きやすいそうです。
たとえば牛群を入れ替えたとき、新しい牛を導入したとき、分娩後で体力が落ちているとき、餌場やスペースが足りない過密状態のときなどです。
特に新入りは群れの序列がまだ決まっていないため、他の牛から強く当たられることがよくあるとのこと。ここは漫画の描写もかなりリアルだそうです。
序列は悪じゃない。問題になるのはどんな時?
ここが重要なポイントです。序列そのものは悪ではありません。むしろ序列がはっきりすると群れは落ち着き、無駄な衝突は減るそうです。
問題になるのは、特定の牛が継続的に餌を食べられない、休めない、乳量が明らかに落ちる、外傷やストレス症状が出る、といったケースです。
だから酪農家の仕事は、牛の本能を消すことではないと川上さんは話します。
私たち酪農家がやっているのは、餌場の幅を十分に取る、寝床を多めに確保する、群れの編成を考えて移動させる、極端に弱い牛は一時的に分ける。つまり、牛が喧嘩しなくても済む環境を作ることです。
アニマルウェルフェアの考え方でも、序列があること自体は否定されていません。大事なのは慢性的な苦痛が放置されていないかという点です。
むしろ「仲良くさせなきゃダメ」と考えるほうが、逆にストレスを生むこともあるそうです。
川上牧場の「幼なじみペア」という工夫
川上牧場は牛が自由に歩き回る形ではなく、牛が繋がれた状態の「つなぎ牛舎」です。そのため喧嘩は少ないほうだそうです。
それでも強い牛と弱い牛を隣同士にすると、弱い牛がずっと餌を食べられなかったり横取りされたりするそうです。
そこで川上牧場では、子牛の頃から一緒に過ごしてきた「幼なじみ」のような牛を隣同士にしているそうです。
そのペアだけはずっと一緒にしているんで落ち着いているみたいな、そんな飼い方を気にしてたりしますね。
牛の序列を考えながら移動させ、牛舎管理に生かすと、生産性が逆に上がることもあるとのこと。酪農家の皆さんにも意識してほしいポイントとして紹介されていました。
まとめ
『百姓貴族』の牛のいじめっぽい描写は、じつはかなり現場に近いものでした。ただし牛は人間ほど感情的ではなく、本能と環境が作る行動で、適切な管理で悪化は防げる、というのがポイントです。漫画やSNSで見た話を「本当かな」と立ち止まって考えるのは、とても大事なことですね。
- 牛の「いじめ」に見える行動は実際にあり、その正体は序列と資源確保の本能
- 問題になるのは、特定の牛が継続的に弱い立場へ追い込まれるケース
- 序列そのものは悪ではなく、はっきりすると群れは落ち着く
- 酪農家の役割は本能を消すことではなく、喧嘩しなくて済む環境を設計すること
- 川上牧場はつなぎ牛舎で、幼なじみペアを隣同士にする工夫をしている
