和牛農家は大きく2種類に分かれる
この日の研修生さんからのリクエストは「お肉の牛さん」について。乳牛は朝晩の搾乳が欠かせませんが、肉牛は搾る必要がありません。じゃあ、いったいどんな仕事をしているのか、というのが疑問のスタートでした。
川上さんによると、和牛農家は大まかに2種類に分かれるそうです。
子牛を産ませて、8ヶ月で家畜市場に子牛を出荷させて、それで売り上げを立てるのが繁殖和牛農家です。
その繁殖和牛農家から8ヶ月の牛を買ってきて、そこからお肉に仕上げていくのが肥育農家さんです。
肥育というのは「肥える(太る)のに育てる」の意味。大きな牧場では、子牛を産ませるところからお肉にして販売するまでを自分のところで全部やる「一貫肥育」の農家さんもいるそうです。
繁殖和牛農家
母牛に子牛を産ませ、8ヶ月で家畜市場に出荷する
家畜市場
子牛を売買する
肥育農家
8ヶ月の子牛を買い、お肉に仕上げる
乳牛と和牛、母牛の「お乳」の違い
繁殖和牛農家は母牛をたくさん飼い、赤ちゃんを妊娠・出産させます。この点は酪農に近いですが、搾乳はありません。
ここで研修生さんが素朴な疑問を投げかけます。ホルスタインも和牛も、母牛のお乳の出方はどう違うのでしょうか。
出産したら、お母さんと子牛が一緒の独房に入って、大体3ヶ月ぐらいまで一緒にします。そもそも出てくる量が1日5リットルぐらいしか出ないんです。お乳で品種改良されているわけではないので。
つまり和牛の母牛は、子牛を育てるぶんのお乳しか出ません。研修生さんが「じゃあホルスタインももともとは3ヶ月くらいしか出ないの?」と確認すると、川上さんは「それはそう」と答えます。
和牛の母牛は3ヶ月ほどで子牛を離乳させ、その後はまた妊娠に専念。これを何度も繰り返して子牛を産み続けるのが繁殖和牛のサイクルです。
お乳は1日5リットルほど。子牛を3ヶ月育てたら離乳させ、また妊娠へ
品種改良と飼養管理で、1年中お乳を搾れるようにしている
肥育の3段階と、サシの入れ方
肥育農家は、いろんな牧場から集まった8ヶ月の子牛を買ってきます。まずは2ヶ月ほどかけて、牛の胃袋を自分の牧場の餌に慣らしていくそうです。
そこからの肥育は、前期・中期・後期の3段階に分かれます。
研修生さんが「サシの入り方って最初から決まってるわけじゃないの?」と聞くと、川上さんは遺伝も大きいけれど環境要因も大きいと説明します。
だから、赤身肉が売りの牧場なら前期に力を入れ、後期はサシが入りにくい飼い方に。きれいなサシを入れたいなら中期後期でじっくり仕上げる、というふうに牧場ごとの独自の飼い方があるんですね。
何ヶ月でお肉になる?和牛と交雑牛
気になる「どのくらいでお肉になるのか」という疑問。川上さんによると、一般的には2歳、27〜28ヶ月ぐらいだそう。ただしブランド牛だと48ヶ月や60ヶ月まで飼うところもあるそうです。
黒毛和牛とホルスタインをかけ合わせた交雑牛は、ホルスタインが大きいぶん体の成長も早く、24ヶ月ほどで出す牧場もあります。
味は和牛の方がうまいものの、和牛の品種改良が進んだ影響で、交雑牛もサシがよく入るようになってきているそうです。そのため肥育期間が短くなる傾向があると話されています。
何千頭も飼う大きな肥育牧場では、前期・中期といった群れごとに餌を分けて与えるのが主な作業。牛を動かしたり、ワクチンを打ったり治療したりといった群れの管理が中心になります。
なぜ肉牛ではなく乳牛だったのか
ここで研修生さんが「なんで黒毛(肉牛)にいかなかったんですか?」と川上さんに質問します。
川上さんいわく、肥育は「不健康に飼っていく」飼い方。太らせるのが目的です。一方でホルスタインは、自分の体を削るアスリートみたいな飼い方が面白かったと話します。
毎日の乳搾りや品種改良、共進会の面白さもあったよう。和牛と乳牛の両方をやった経験から、和牛は毎日が変わらなかったのが面白くなかったのかも、と振り返ります。
お肉の美味しさと値段はどう決まる?
研修生さんが「牛肉の美味しさの決まり方を知らない」と切り出し、餌の質や量が美味しさにつながるのか尋ねます。
川上さんによると、餌によってお肉のうまみが変わるとも言われますが、枝肉として値段がつくときの基準は別。重量がどれだけ取れるか、サシがどれだけきれいに入るか、そしてロースの部位が大きいかが価値を決めます。
さらに面白いのが、ロースが急に大きくなる月齢が牛ごとに決まっているという話。その時期をどう飼うかがポイントになります。
餌についても意外な事実が。研修生さんは「草の質」を気にしていましたが、肥育ではあまり草をあげないそうです。
草をあげるより穀物を食べた方が太れるじゃないですか。もう肉、肉、肉ってやってて、でもそれだと病気になっちゃうから、バランスよくちょっとサラダを入れる。その限界ギリギリのところを、牛を見ながら攻めていくんです。
どんな子牛を買ってくるかという「目利き」も重要。自分の牧場に合った、飼いやすい牛を8ヶ月の段階で見極めるスキルが求められます。
20キロで生まれた子と30キロで生まれた子なら、20キロの子が追い越すことはないと言われているそう。だからこそ、生まれたときの大きさや血統が大事になるんですね。
ブランド牛の名前は「一番長く飼った場所」で決まる
話は「どこのお肉が美味しいか」へ。川上さんが挙げたのは岐阜(飛騨牛)と佐賀牛でした。
佐賀牛を食った時に、和牛ってこんなに味が違うんだって思ったんですよ。
各都道府県ごとに品種改良の傾向が違い、旨味を狙う県もあれば、脂の溶け具合を売りにする県もあるそう。岐阜は赤身の美味しさを追求していて、お肉がうまいと感じたと話します。
そして研修生さんが驚いたのが、ブランド牛の名前の決まり方でした。
つまり、海外から買ってきた子牛でも、日本で長く飼えば国産牛として売られます。これは食品表示法で定められたルールで、これをうまく使ってブランド化しているところもあるそうです。
島根の富士益牛を例に、富士益で生まれ育てているとは限らず、他から買ってきた牛も個体識別番号で管理されている、という話も出ました。
最後は「おいしいお肉を教えてね」と、リスナーへの呼びかけで締めくくられました。ふるさと納税で買うのもおすすめ、とのことです。
まとめ
乳牛から肉牛の世界まで、研修生さんの素朴な疑問に川上さんが答えた今回。同じ牛でも育て方や目的がまるで違うことが、具体的な数字とともに見えてくる回でした。
- 和牛農家は、子牛を産ませる「繁殖」と、お肉に仕上げる「肥育」に大きく分かれる
- 和牛の母牛のお乳は1日5リットルほど。乳牛は品種改良と管理で1年中搾れるようにしている
- 肥育は前期・中期・後期の3段階で、赤身重視かサシ重視かで飼い方が変わる
- ブランド牛の名前は、一番長く飼われた場所の名前がつく(食品表示法のルール)
- 生まれたときの体重や血統が、その後の育ちを大きく左右する
