福岡市が決めた方針と、その背景
今回取り上げたのは、日本農業新聞の12月17日の記事「福岡市 給食の牛乳、毎日の提供をやめる方針」です。
川上さんはまず、賛成か反対かではなく、なぜこういう判断が出てきたのか、現場では何が起きているのかを冷静に見ていきたいと話します。
事実関係を整理すると、福岡市は2026年度から、これまで毎日提供してきた給食の牛乳を、月に1〜2回、お茶などの別の飲料に置き換える方針を決めました。
背景にあるのは、給食費無償化による財源の制約、給食の質が落ちるのではという保護者の声、そして献立全体として魅力ある給食を作りたいという行政側の狙いです。
一方で、福岡市の学校給食牛乳の約4割、1日に5万2300本を提供している乳業者は、検討について説明がなかったとコメントしています。
牛乳は「栄養」だけでなく「契約」で成り立っている
川上さんが強調するのは、給食牛乳が単なる飲み物ではなく、供給契約で成り立っているという点です。
牛乳はカルシウム、良質なタンパク質、脂溶性のビタミンを、調理せず均質な品質で毎日提供できる食材です。
管理栄養士の立場から見ると、牛乳なしで同じ栄養設計を組むのは、実はかなり難易度が高いと言います。
もちろん、牛乳が絶対でなければいけないわけではありません。ただし、代替するのなら代替するための設計コストが発生する。ここがあまりにも語られていないポイントです。
さらに一般には見えにくいのが、学校給食向けの牛乳は価格が比較的安定していて、年間契約で数量が読め、地域の酪農乳業の下支えになっているという特徴です。
だからこそ、給食牛乳が1〜2日止まるだけでも、乳業者にとっては大きな損失になります。
なぜ「1日止まる」だけで損失になるのか
その理由は、牛乳が「今日余ったから来月売ろう」ができない商品だからです。
余れば脱脂粉乳やバターなどの加工に回り、在庫が積み上がり、価格が下がり、最終的には酪農家の乳価に跳ね返ってきます。この流れは、これまで何度も繰り返されてきたと川上さんは言います。
牛乳が余る
保存がきかず来月に回せない
加工に回る
脱脂粉乳やバターなどへ
在庫が積み上がる
売り先が追いつかない
価格が下がる
最終的に酪農家の乳価に跳ね返る
川上さん自身も、20日から生産を少し抑える努力をというお達しがファックスで届いたことに触れ、この日は牛を2頭廃用する予定だと話しています。
牛乳が余って廃棄になれば、それ以上の損害が業界に出るという考えからで、聞いている酪農家にも、できる範囲で生産を落とす努力を呼びかけました。
問われているのは「誰が決めて、誰に説明されるか」
今回のニュースで一番大事なのは、牛乳を減らすこと自体が善か悪かではない、という点だと川上さんは言います。
酪農家も乳業者も管理栄養士も保護者も子供も、本来は同じテーブルで考えるべき話だ、というのが川上さんの立場です。
結論として、牛乳は毎日でなくてもいい。でも減らすなら全体設計が必要。そう考えていいのではないかとまとめます。
牛乳をやめる、減らす、置き換える。それ自体は選択肢です。ただし、選択には必ず責任と説明が伴います。それがないまま進むと、一番影響を受けるのは声を上げにくい現場です。
コストと、子供たちの栄養という現場感覚
川上さんは、他の地域でも牛乳をお茶や乳飲料に変えてみたものの、結局元に戻した例があると紹介します。給食費を抑えるはずが、逆にコストが上がってしまった部分があるからです。
こんなにコスパいい食材ないですからね。
そのうえで一番意識してほしいのは、子供たちの栄養だと語ります。今は家庭の格差が広がり、学校給食でしかしっかりご飯を食べられない子供も増えていると言います。
夏休みや冬休みなど長期休暇のあいだに体重が落ちて痩せてしまう子、1日に一食も食べられない家庭もある。学校給食が生命線になっているケースがあるという指摘です。
大人が冷静に選ぶために
川上さんは、牛乳を飲まなかった子供たちが将来どうなるのかは、後になって大変なことになりうると懸念します。行政のトップや保護者団体の一声だけで進むのではなく、冷静に考えてほしいと訴えます。
もしこういう議論が家庭で出た場合は、一回冷静になってくださいよって、ちょっとデータを出してくださいっていうのをしっかりお話しして、それで皆さんが選択して選んでいただければいい。
各地域で給食制度は違い、財政が厳しい自治体の事情もわかると川上さんは言います。無償化で予算が固定されれば、どう給食を提供するか頭を悩ませるのも理解できる、と。
それでも、子供たちの未来を考えて大人が選択してあげたらいいのではないか、というのが川上さんの願いです。
リスナーからは「牛乳が出ない日がある給食やば」というコメントも。川上さんは、朝の読書の時間やお昼休憩に牛乳を提供するといった緩和措置をとる地域もあるようだと紹介しつつ、「やばい」という感覚には同意すると応じていました。
まとめ
福岡市の給食牛乳をめぐる方針を、川上さんは善悪ではなく「構造の問題」として読み解きました。牛乳は栄養だけでなく契約や地域の酪農を支える存在であり、減らすなら全体設計と説明が欠かせない、というのが軸です。
- 福岡市は2026年度から給食牛乳を月1〜2回、お茶などに置き換える方針を決めた
- 牛乳は保存がきかず、給食が止まると加工に回って乳価に跳ね返る構造がある
- 論点は「減らすこと自体」ではなく、誰が決めて誰に説明し、どこに影響が出るか
- 家庭の格差が広がるなか、学校給食が子供の栄養の防波堤になっている面がある
- 財政の事情も踏まえつつ、大人が冷静にデータを見て選ぶことが求められる
