YouTubeから届いた乳房炎の質問
この回では、リスナーからの質問に答えるお便りコーナーが中心です。今回はYouTubeのコミュニティに、初めてのコメントが届きました。
質問者はYouTubeネーム「石つぶてさん」。乳房炎について、次のような疑問を投げかけています。
乳房炎になるのはいつの搾乳の結果でなるのでしょうか。牛の状態、環境、搾乳手順によるものなどあると思いますが、ヘルパーさんが来たら乳房炎になるとかよく耳にします。次の搾乳ですぐ乳房炎になるのでしょうか。それともしばらく時を経てからなるのでしょうか。ヘルパーさんが原因というのは当てつけなのでしょうか。
川上さん自身も、川上牧場に婿入りする前は酪農ヘルパーとして働いていた経験があります。
酪農ヘルパーが来たら乳房炎になるって、ほんとよく言われましたね。この牛がいつもなっちゃうんだよって言われて、すいません、はいはいって言ってたことを思い出します。
乳房炎はいつ起きるのか
結論から言うと、乳房炎はその場ですぐ起きるわけではない、と川上さんは整理します。ただし搾乳がきっかけになっているとも話します。
乳房炎は突然できる病気ではありません。乳房の中に菌が侵入し、それが増殖し、その菌を抑えるための炎症として発症します。
つまり、感染から発症までには時間差があります。今日の搾乳で菌が入り、明日から数日後に症状が出るというイメージです。
菌の侵入
搾乳などのタイミングで乳房内に菌が入る
菌の増殖
入り込んだ菌が乳房の中で増える
炎症・発症
増えた菌を抑えるために炎症が起き、数日後に症状として現れる
搾乳との関係と菌が入りやすいタイミング
では搾乳は関係ないのかというと、むしろ大いに関係があると川上さんは言います。乳房炎のほとんどは、搾乳のときに菌が侵入して起こると言われています。
リスクになる要素として、前搾りや清拭の不足が挙げられます。清拭とは、乳房をきれいに拭くことです。
さらに、ライナー(ミルカー)の汚れ、装着タイミングのずれ、過搾乳、搾乳後のディッピング不足なども原因になります。
搾乳は乳頭が開く時間です。つまり菌が入りやすいタイミングでもあります。
ヘルパーが原因なのか、再現性の崩れという視点
「ヘルパーが来ると乳房炎が増える」というのは、現場でよく聞く話です。これについて川上さんは、人そのものが原因ではないと結論づけます。
ただし、作業のずれは影響します。例えば、いつもの牧場主や家族の搾り方との違い、消毒や拭き方の意識の差などです。
牛の扱い方も関わります。知らない人が来るだけで牛はアドレナリンが出て興奮し、それがオキシトシンを抑えてしまうため、搾り残りが起きやすくなります。
乳頭の向きや形にくせがある牛では、普段はホースの向きや角度を変えて搾っています。ヘルパーにはその微妙な調整が分からないこともあります。
こうした小さなずれが、菌が入る要因や搾り残りにつながっていきます。
次の搾乳で発症する?本当の原因は複合的
次の搾乳ですぐ発症することもありますが、多くは時間差があります。そのため現場では、いつ感染したかを特定するのが難しいのです。
この特定しにくさが、「ヘルパーが来たからだ」という言い訳や問題につながっていくと川上さんは指摘します。
結局のところ、乳房炎は複合的な要因で起きます。牛の状態、環境、搾乳の手技、ストレス、免疫、それらが重なって発症します。
大事なのは搾乳手技の言語化と環境管理
川上牧場では、体細胞が高くなりやすい牛や病気になりやすい牛には乳房炎のワクチンを打っており、抗生剤で治療することはほぼないといいます。
品種改良で体細胞が低く免疫機能が高い牛を揃えてきたこともあり、最近は乳房炎で悩むことはほとんどないと話します。
一方で、酪農ヘルパーを経験した立場から川上さんが伝えたいのは、酪農家自身が自分のやり方を言語化できているか、という点です。
普段は適当に搾っているのにヘルパーのときだけ厳しくやれと言い、その通りにやったら乳房炎が増えた、というのは伝達不足だと指摘します。
経営主が望む搾り方と従業員の搾り方が違う、というずれも同じことだといいます。
自分が主観的に思うんではなくて、客観的にどう思うのかを整理して、紙に書いたり、図にしたり、そういうことをするべきではないかなと思います。
搾乳手技を他の人に伝える方法については、川上牧場のメンバーシップで提供する「ファームエコー」というAIサービスで一緒に作っていくこともできると案内されました。
まとめ
乳房炎は感染から発症までに時間差があり、いま出ている症状は過去の搾乳の結果です。搾乳は最大のリスクポイントですが、ヘルパーそのものが原因ではなく、搾り方の再現性が崩れることが影響します。本質は、手技の言語化と環境管理にあると川上さんは話します。
- 乳房炎は菌の侵入から数日後に発症し、いまの症状は過去の搾乳の結果である
- 搾乳は乳頭が開き菌が入りやすいタイミングで、最大のチャンスであり最大のリスクでもある
- 前搾りや清拭の不足、ライナーの汚れ、過搾乳、ディッピング不足などがリスクになる
- ヘルパーが原因ではなく、いつもと違う手順や牛の興奮による「再現性の崩れ」が影響する
- 自分の搾乳手技を客観的に整理し言語化することが、乳房炎を防ぐ本質につながる
