答えにくい質問にどう向き合うか
今回の質問は、TikTokから届いた「牛乳1リットルあたりの原価を教えてください」というものでした。
実はこれ、酪農家にとってはかなり答えにくい質問なんだそうです。
じゃあちょっと皆さんの生活費から教えてもらっていいですか?コメント欄で給料と生活費を教えてもらっていいですか?
個人経営の酪農家の場合、牛の頭数と乳量がわかれば、そのまま牧場の売り上げが見えてしまうから。だから軽々には言えない、というわけですね。
そこで川上さんは、農水省や中央酪農会、Jミルクなどが出している統計をもとに、全国平均の数字を使って答えていくことにしました。
原価を知ったからといって牛乳を飲まないという選択肢はやめてほしいな。こんなに安くて、こんなに栄養があって、美味しいのに、飲む飲むってなってほしいですね。
そもそも「原価」ってどこまで入れるの?
まず川上さんが整理したのは、原価の定義です。「1リットルの原価」といっても、どこまで含めるかで数字は大きく変わります。
餌代、電気代、水道代、牛舎や機械の減価償却、獣医さんの診療費、人件費、保険、堆肥処理、運搬費……。数えていくと項目はたくさんあります。
そのうえで、農水省の生乳生産費調査を見ると、全国平均で1リットルあたり約100円から120円前後が生産コストとされているそうです。
ただしこれはあくまで平均。規模や飼料構成、地域の条件によって、80円台の牧場もあれば、150円を超える牧場もあります。
150円超えている牧場は多分潰れてるんじゃないかなと思いますけど。
原価の半分以上を占める「餌代」
原価の中でいちばん重いのが飼料費、つまり餌代です。全体の50%から60%を占めます。
この中には配合飼料や牧草、サイレージ、自分で作る自給飼料などが含まれます。飼料に関わる作業費まで含めるかは、牧場によって扱いが分かれるそうです。
さらにここ数年は、円安と国際穀物価格の高騰が直撃しています。輸入トウモロコシや大豆かすの値段が大きく上がりました。
2020年に比べると、飼料価格は1.5倍から2倍になっているとのこと。
1リットルを作るのにかかるお金
では、実際に牛乳を作るのにどれくらいかかるのか。川上さんが具体的な数字でイメージを示してくれました。
ホルスタイン1頭が1日に30リットルの牛乳を出すとします。そのために食べる餌は、水分を除いた乾物で20キロから25キロ前後。
餌代にすると1日あたり1,500円から2,000円ほど。単純に割ると、飼料費だけで1リットルあたり約60円から70円になります。
そこに電気代、水道代、人工授精、機械の維持費などを加えると、原価は100円から120円程度に落ち着く、という計算です。
餌代
1リットルあたり約60〜70円。原価の中心
その他
電気・水道・人工授精・機械の維持費など
合計
1リットルあたり約100〜120円
酪農家は儲かっているのか?
ここでよくある誤解に川上さんは触れます。「スーパーで200円や300円で売っているなら、原価100円だしボロ儲けでは?」というものです。
でも実際には、酪農家が受け取るのは生乳出荷価格、いわゆる乳価です。これが1リットルあたり大体100円から、高いところで130〜140円ほど。地域によって差があります。
スーパーに並ぶときの200円や300円という値段には、輸送、加工、小売のマージンが乗っています。だから店頭価格がそのまま農家の取り分になるわけではありません。
それでも酪農家は、毎日どうすれば原価を下げられるかを考えています。
自分で餌を作る自家飼料を増やす、機械を共同利用する、TMRセンターから餌を買う、省エネ型の搾乳システムや自動給餌機を導入する、といった工夫です。
川上牧場では、もやしかすや酒かすといった副産物飼料も再利用して餌代を下げているそうです。
ただ、光熱費や人件費は上がり続けていて、いまは「下げる」より「持ちこたえる」段階だと川上さんは話しています。
原価の話の先にある「共助」の未来
川上さんは、この質問をくれた人の本当の関心は「酪農ってどれくらい大変なの?」という気持ちかもしれない、と受け止めます。
この質問こそ、消費者と生産者が同じテーブルで未来を考える第一歩だと思います。
たとえば牛乳1本の価格に数円を上乗せして、その分を次世代の牧場教育や堆肥の地域還元に使う。そんな共助の仕組みができれば、今の構造も少し変えられるはず、というアイデアを示しました。
川上牧場自身も、コロナ前は餌をすべて購入して乳量を追う経営スタイルでした。
でも出雲市は港が遠く運送費が高くなりやすい地域。そこで、地域で手に入る餌を使ってコストを抑え、長続きする牛を作る飼い方へと切り替えたそうです。
統計で牛の餌の値段がうちは他より高いなと思われる方もいるかもしれないですけど、それはそのエリアでそういう飼養スタイルで飼われていた流れですんでね。
飼い方を変えるのは労力もリスクも大きい。それでも、その地域で酪農を続けていくためには変化していくしかない、と川上さんは語ります。
運ぶ人がいるから牛乳が飲める
配信中には「中抜きと揶揄されてしまう流通経路」というコメントも届きました。
これに川上さんは、運んでくれる人がいるからこそ牛乳が絞れる、と応じます。加工も小売も輸送も、全部を農家一人でやるのは無理だからです。
さらに2025年の運送問題にも触れ、そもそも牛乳を運ぶ人手が足りていない現状を指摘します。牛乳を運ぶのはとても大変な仕事なんですね。
牛乳の値段が高い高いって言われますけど、じゃあやってみてほしい。安いって言うならやってみてくださいよって思ってます、個人的にはね。
最後に川上さんは、飲むだけじゃない応援の仕方を少しずつ広げていけたら嬉しい、とまとめました。
まとめ
牛乳1リットルの原価はおよそ100〜120円で、その半分以上は餌代。でも酪農家が実際に受け取る乳価はそれとほぼ同じくらいで、店頭価格との差は輸送・加工・小売の費用です。数字の裏側には、餌代と格闘しながら牛と暮らす酪農家の毎日がありました。
- 牛乳1リットルの生産コストは全国平均でおよそ100〜120円、うち飼料費が50〜60%を占める
- 酪農家が受け取る乳価は1リットルあたり100〜140円ほどで、店頭価格の差は輸送・加工・小売のマージン
- 円安と穀物高で飼料価格は2020年比で1.5〜2倍になり、いまは原価を下げるより持ちこたえる段階
- 川上牧場は地域の餌を使ってコストを抑え、長続きする牛を作る飼い方へ転換した
- 飲むだけでなく、価格への少しの上乗せなど「共助」の形で酪農を応援する道が模索されている
