リスナーからの質問「一般社会に合わせるためにしていることは?」
今回のお便りコーナーに寄せられたのは、YouTubeネームのセイさんからの質問でした。
生き物のお仕事をしている方々には尊敬しかありません。でも変わった人たちが多いです。
謎に強いというか、住む世界のベクトルが違います。一般世界に合わせるために行っていることはありますか?
川上さん自身も、もともとはサラリーマン家庭で育ち、農業高校や農業大学校を経て酪農業界に入ったといいます。
学生時代はさまざまなアルバイトで酪農家になるためのお金を稼いでいたため、一般社会と酪農業界とのズレや違和感はよくわかると話します。
そのうえで、このズレは必然であり、環境や文化、社会がそうさせている構造的なものだと切り出します。
なぜズレが生まれるのか。相手が「人ではない」ということ
川上さんはまず、結論として「確かにズレはあるが、ズレている=ダメではない」と話します。
確かにズレはあります。ですけども、ズレてるイコールダメということではありません。
ズレが生まれる大きな理由は、相手が人ではないからだといいます。
牛は餌の時間、乳搾りの時間、掃除の時間など、時間を守らなければなりません。さらに天気や気温の変化で体調が急に変わることもあります。
そして牛は二十四時間動いている生き物です。つまり酪農家は自然に合わせて生きているという側面があると説明します。
一方で一般社会は、時間、ルール、効率で回っています。ここが価値観のズレを生む原因ではないかと話します。
「変わっている」の正体は優先順位の違い
川上さんは、変わっていると言われる正体は「優先順位の違い」にあると指摘します。
たとえば、人との約束より牛の体調を優先する場面が生まれます。一般社会では変に見えるかもしれませんが、現場では当たり前だといいます。
なぜなら、生き物の命を預かっているからです。この前提を知ってほしいと話します。
一般社会に合わせるためにしていること
では、一般社会に合わせるために何をしているのか。川上さんの答えは「翻訳して伝えること」でした。
かつてはSNSもなく、酪農業界は「よくわからない世界」のままでした。今は配信やSNSがあるので、自分の当たり前を相手に伝わる言葉で話すことが大事だといいます。
たとえば「朝早い」という言葉も、一般の感覚では七時や八時かもしれません。しかし川上さんが起きるのは五時で、業界内では二時や三時のこともあります。
だからこそ、具体的にわかりやすく伝えることが大切だと話します。あわせて、業界内でよくある「約束の時間はちゃんと守る」といった調整も少しずつ進めればよいといいます。
一般社会への本音と、農家が置かれてきた構造
ここで川上さんは、一般社会に対して思う本音も率直に語ります。
一般社会も結構無理してるんじゃないかって思ったりしますよね。会社の何々があるから行かなきゃいけないとか。
連休の飛び石で二日休んで一日出勤するような働き方や、その度の満員電車や渋滞に「無駄では」と感じることもあると話します。
一方で農家は天気に左右されるため、雨なら休み、暑ければ気温が下がってから作業するなど、自然に合わせて自由に動ける部分もあるといいます。
そして川上さんは、このズレを歴史的な構造からも説明します。
戦前や百年ほど前は、人口の八割から九割が農家という圧倒的多数派でした。産業革命や戦争を経て、第一次産業中心から二次・三次産業へと構造が変わったといいます。
春は田植え、夏は防除や草刈り、秋は収穫、冬は加工という農家の生活リズムが、かつては世の中の当たり前でした。
その比率が減り、農家が少数派になった今、朝八時に出勤して八時間働く生活が一般的になった、ただそれだけの話だと川上さんは語ります。
世の中が変わってるんだけど、あなたの周りは変わってない。それで生きてこれた、それが当たり前だったっていうバックグラウンドがあるっていうのを知っていただくと。
どちらが正しいかではなく、違いを知ること
川上さんが一番伝えたかったのは、「ベクトルが違うは正解、でも拒否するのは違う」ということでした。
理解できないと突き放すのではなく、理解しようとすればつながることはできると話します。今回のセイさんのような質問が、その理解の入り口になるといいます。
業界の人にとっては当たり前すぎて、かえって相手に伝えにくいこともあります。だからこそ、質問がきっかけになると強調します。
最後に川上さんは、迷惑をかけている部分にも触れます。「会議に遅れたのは牛の分娩があったから」と言いがちだが、それでも周囲に迷惑をかけていることは事実だと話します。
生き物だからしょうがないよねって言いがちですけど、やっぱり迷惑をかけてるところはやっぱりありますんで。
そのうえで、分娩の監視カメラや、昼間に分娩がくるよう調整する技術も出てきていると紹介します。無理はよくないので、少しずつ現代の生活に合わせていけたらと締めくくりました。
まとめ
今回は「生き物の仕事をしている人は変わっている?」という質問に、川上さんが構造的な背景から答える回でした。ズレは確実にあるが、それは自然や生き物、社会の違いから生まれるもので、どちらが正しいという話ではないと語られました。
- ズレの理由は、相手が牛という生き物で、自然の時間に合わせて生きているから
- 「変わっている」の正体は、命を預かるがゆえに生き物を優先する優先順位の違い
- かつて多数派だった農家が少数派になった、社会の構造変化が背景にある
- SNSや配信で自分の当たり前を相手に伝わる言葉に翻訳することが、合わせる工夫になる
- どちらが正しいかではなく、違いを知ろうとすることでつながることができる
