リスナーから届いた「適正価格」への問い
今回の配信では、配信アプリ「ポポポ」のリスナー、リンさんから寄せられた質問に答えていきます。
酪農は収入の八割から九割が経費だと聞きますが、牛乳の買取価格はいくらだったら適正だと思いますか(いくらだったら嬉しいですか)?
かなり踏み込んだ質問です。川上さんは「答えにくい話ですけど、今日は理想と現実の両方をお話しします」と切り出します。
前提として、お米では農水省が適正価格を試算して出すことになり、牛乳についても十月以降に適正価格が示される見込みだと話されています。
ただし、こうした試算は令和五年や令和六年など数年前の数字をもとにしていることが多いといいます。物価高や中東問題、ロシア・ウクライナの問題など、直近の状況が反映されにくい点に川上さんは課題を感じています。
川上牧場の引き取り価格は1リットル約140円
川上さんはまず、現在の引き取り価格を自身の牧場の例として示します。乳価は地域ごとに異なるため、あくまで一例という前提です。
川上牧場の牛乳の引き取り価格は、大体百四十円前後です。一リットルで百四十円ぐらいですね。これ税込みです。
ところが、この十年でコストは大きく変わったといいます。
燃料代、餌代、資材費、設備費と、あらゆるコストが上がっています。一方で牛乳の引き取り価格はそこまで上がっていない、と川上さんは指摘します。
これが酪農家がどんどん辞めている原因であり、採算が合わなくなっているといいます。
消費者からは「牛乳が高くなった」と見えますが、上がっているのは製造コストや流通コストの分だと説明されます。
物価高に合わせて製造コストとか流通コストは乗せているので、牛乳の値段は上がってるんですけど、酪農家の手取りは変わっていないという形になっています。
川上さんが考える適正価格は「180〜200円」
本題である適正価格について、川上さんは具体的なラインを挙げます。
酪農を継続でき、なおかつ消費者も安定して牛乳を買える形になるには、酪農家が維持できるラインが必要だといいます。
今からせめて二十円、四十円ぐらいは上がらないと難しいのかなと思います。百八十円から二百円ぐらい、これぐらい上げると経営が安定して、なおかつ設備更新ができて、次世代が酪農を続けられる。
この水準なら「循環が生まれる」と川上さんは表現します。設備を更新し、次の世代へつなげていける価格だという考えです。
ただし、これはあくまで令和八年の現状に合わせた数字だと断ったうえで、川上さんは本音も明かします。
今までずっと本当にずっと抑えられてきて、それを酪農家の努力や酪農家の負担で経営をしてきたところがあります。なので感覚的には倍は欲しいなと思ったりしますね。本当に、これは本音ですね。
なぜ乳価は上げられないのか、構造の問題
「継続できるなら、もっと乳価を上げればいいのでは」という疑問に対して、川上さんは構造的な問題があると説明します。
日本は餌を輸入に頼り、エネルギーやガソリン、電気も海外から入れています。原料は高いのに売り値は普通、という状態だといいます。
日本の酪農の構造として、原料は高いのに売り値は普通という形になっております。つまりどこかで圧縮されています。そのしわ寄せが酪農と乳業に来ているという結果になります。
利益が出にくいと投資ができず、人が減っていきます。酪農家の財布の紐が固くなると、そのしわ寄せは周辺にも及ぶといいます。
酪農機器メーカーや設備メーカー、人工授精士、牛乳の流通に関わる人、獣医など、酪農に付随する産業にも影響が広がっているのが現状だと語られます。
原料は高く売り値は普通
利益が出にくくなる
投資ができない
設備更新や牛への投資が滞る
人が減っていく
酪農家の廃業が進む
周辺産業へのしわ寄せ
機器メーカー・授精士・獣医などにも影響
消費者と酪農家のあいだにある「ずれ」
川上さんは、消費者と酪農家のあいだに認識のずれがあると指摘します。
消費者は「牛乳を安く、なおかつ美味しく」と望みます。一方、酪農家は「価格を上げてほしい」「牛や設備に投資したい」と考えています。
消費者からは「牛乳は高くなった」と言われ、現場からは「まだ乳価が足りない」と感じられる。このずれの理由は、途中のコストにあると説明されます。
加工や物流、販売、全部このコストが上がっています。なので単純に農家に、上がった値段の乳価が届いてない。
牛乳の値上げがニュースになっても、酪農家にはこれまでの負担があり、その分が届いていないというのが本音だと語られます。
そのうえで、川上さんが一番伝えたいことを示します。
今の140円は正直ギリギリで、200円に近づかないと産業を維持するのは厳しいといいます。とはいえ、牛乳が売れなければ搾ることもできないため、一気に上げるのも難しいと川上さんは話します。
必要なのは、こうして話して消費者に理解してもらうこと。そして給与が物価上昇分以上に上がれば、牛乳の価格も相対的に安く感じられるはずだ、と構造の問題として整理します。
牛乳と豆乳、そして「未来への投資」
川上さんは、業界内では手取り乳価から頭数や平均給料をもとに売上や収益が推測できてしまうため、本来は話しにくい内容だったと明かします。
一般の方に、こんな配信に乗せて私の給料なんぼですよみたいなこと、あんまり言いたくないじゃないですか。そういう感じで一生懸命答えたので。
それでも、高い安いの不毛な議論で終わらせず、基準となる数字を出すことは大事だと考えているといいます。十月以降に農水省が示す適正価格の動きも、今後リスナーに共有していく予定です。
リスナーからは「適正価格が三百円だと牛乳を買うのをためらいそう」「ジュースの方が安く感じる」といった率直なコメントも届きました。
これに対し川上さんは、清涼飲料水と比べればジュースが安く感じるものの、栄養補助食品と並べると牛乳はコスパが良いと話します。
かつて牛乳は滋養強壮の薬の代わりに飲まれていたこともあり、栄養がたっぷり含まれた食品だといいます。日常に溶け込みすぎて、ジュースと同じ飲み物のように感じられている面があるとの見方です。
また、豆乳の購入率が高まっている点については、その会社のマーケティングが上手だと率直に評価しつつ、酪農業界への危機感もにじませます。
本当に酪農業界聞いてくださいよこれ。どんどん売り場取られてるよ。気をつけて本当に。
川上さんは、牛乳と豆乳は「コーラと牛乳ぐらい別のジャンル」だとし、その違いを伝える売り方にも課題があると話します。
最後に、値段の高い牛乳も未来への投資だと思って飲み続けてほしいと呼びかけます。
まとめ
今回は「牛乳の適正価格はいくらか」という問いに、川上牧場の川上さんが自身の引き取り価格を明かしながら答えました。適正価格は安さではなく、酪農を続けられるかどうかという持続可能性の問題だと語られています。
- 川上牧場の牛乳の引き取り価格は1リットル約140円(税込・地域により異なる)で、正直ギリギリのライン。
- この十年で燃料・餌・資材・設備のコストが大きく上がった一方、酪農家の手取りはほとんど変わっていない。
- 川上さんが考える適正価格は180〜200円。経営が安定し、設備更新と世代交代ができる水準。本音は倍ほしいという。
- 原料は高いのに売り値は普通という構造のしわ寄せが、酪農と乳業、そして周辺産業に及んでいる。
- 適正価格は「安さ」ではなく「続けられるかどうか」。値段の高い牛乳も未来への投資として飲み続けてほしいと呼びかけている。
