分娩介助はどう学ぶ?
今回のテーマは、前回に引き続き「牛のお産のときに手を入れて助ける分娩介助」をどう学ぶか、です。
研修生さんは、いずれ自分でもできるようにならないといけないと感じているようです。毎日分娩がある大きな牧場もあるので、なおさらですよね。
でもできるようにならんといけんくなってくるじゃないですか、どんどんね。
川上さんが初めて分娩介助をしたのは、就農してからではなく学生時代でした。家畜人工授精師の資格を持っていたので、牛の体に手を入れることにもともと抵抗がなかったそうです。
子牛の分娩があったらとりあえず手を入れて、子牛の体勢を確認しなさいというのが学校での教えだったので。
先生がいない土曜や日曜の当番でも分娩に立ち会う機会があり、その積み重ねが今につながっているといいます。
「宇宙」だった牛のお腹の中
研修生さんが「初めて手を突っ込んだときのことを覚えていますか」と聞くと、川上さんの答えは意外なものでした。
初めて手をつっこんだけど、覚えてないな。
生まれた瞬間の衝撃は今でも覚えているのに、手を入れた瞬間は記憶にないのだとか。怖さより興味のほうが勝っていたそうです。
僕どっちかっていうとめっちゃ楽しいって思ってた方だから、うわ、こんなことになってんだって。
牛の直腸の広さを、川上さんは「宇宙」と表現します。イメージしていたものとはまったく違ったようです。
初心者が分娩介助を覚える順番
では、未経験者はどうやって分娩介助を身につけるのか。川上さんはまず「座学が先」だと話します。
陣痛から破水、二次破水、そして子牛が出てくるまでの順序を頭に入れておかないと、今どんな状況なのか判断できないからです。
手を入れて足に触れたとき、それが1本か2本かなどをイエス・ノーでたどっていくフローチャートがあり、獣医さんや教科書がまとめてくれているそうです。インターネットやYouTubeでも見つかるとのこと。
もし全部ノーノーノーノーとかだった場合は、もう獣医さんに相談してくださいみたいな。
そうやって座学を叩き込んだうえで、あとは実践あるのみ。ある程度数をこなせば形になってくるといいます。
その順番通りにやって、数をこなせば、10頭ぐらいやれば形にはなるかなと思う。
研修生さんは、うんちをかき出す作業などにもあまり抵抗がないそうで、川上さんも「ぜひ入れてみて」と背中を押していました。
流産した牛のお腹に残る骨
話は、これから廃用にする予定の牛の具体的なケースへ移ります。その牛は流産し、お腹の中に子牛の骨が残ったままなのだそうです。
流産には初期流産や、お腹の中で子牛が死んでしまうパターンなどがあり、状況によっては外に出せないことがあるといいます。
出口は子宮じゃないですか。子宮がギュッて閉じてたら出そうにも出せない。もう帝王切開するしかない。
本来は子牛が死ぬと呼吸が止まり、妊娠を維持するホルモンの働きが変わって外に出る形になるそうです。ところが今回は子宮が広がらず、お腹の中で溶けて骨になるまで残ってしまったとのこと。
驚くのは、その状態でも親牛はいたって元気なこと。餌もしっかり食べています。
親牛に対してそれは影響はないんですか?
親牛でも元気、餌食べて。
ただし、お腹の中に骨が残っていると次の子を宿せません。出したとしても、子宮が回復しない限り種は付けられないのです。その回復を待つあいだにも乳量は落ちていくため、廃用が選択肢になります。
牛群のバランスをどう保つか
研修生さんは、生産性の低い牛を出しているぶん、育成中の牛が多いように感じていました。そこで話は、牛群のバランスの取り方へ進みます。
川上さんは、経産牛50頭という規模を前提に計算します。1年は約48週なので、1週間に1頭産めば、ほぼ全頭が年1回分娩する計算になり、生産性が安定するのだそうです。
1か月に1頭ホルスタインが生まれるなら、年間で12〜13頭ほど。その分、誰かを廃用にしていく必要が出てきます。
規模を拡大して牛舎いっぱいにするっていうあれはないので。1ヶ月に1頭廃用にする牛をそれぐらいのペースで考える。
川上牧場は自家育成をしているため、外から牛を買い足すことは基本的に少なめ。数か月すれば育った牛が上がってくるので、1頭出しても1頭上がってくる形でキープできるといいます。
ただし夏場は暑さで生産性が落ち、廃用が増えがち。逆に冬場は生産性が高くなるため廃用を出したくない、と季節で少しずつずれていくそうです。
流産しても出続けるお乳と、牛を見る目の育て方
流産した牛の乳量はどうなるのか。研修生さんの問いに、川上さんは「牛によります」と答えます。
だから牛ってすごい変な牛なんですよ。
出なくなる牛もいれば、そのまま出続ける牛もいる。流産後にホルモンが妊娠と同じような動きをすると、またお乳が張ってくることもあるそうです。妊娠していないのに子宮に空洞ができるなど、イレギュラーは本当にいろいろあるといいます。
外から見えないぶん、こうしたイレギュラーは想像しにくいもの。だからこそ川上さんは、お気に入りの牛を1頭決めて追いかけることをすすめます。
お気に入りの牛とかを作って、その子の一年間の泌乳ステージを追いかけるっていうのは最初はやった方がいいね。
研修生さんが選んだのは「チャコちゃん」。別の牧場から来た牛で、そのため名前が付いているそうです。
分娩から何日か、乳量や乳脂肪はどれくらいか、血統はどうか、どんな餌からどんな餌に変わったか。1頭を基準にできると、他の牛も同じように見られるようになると川上さんは話します。
最後は「近いうちに実際に手を入れてみよう」という話に。研修生さんの体験は、次回以降に持ち越しとなりました。
まとめ
今回は、酪農未経験の研修生さんと一緒に、分娩介助の学び方から流産・廃用・牛群のバランスまで、牧場の現場をたっぷり掘り下げました。座学と実践、そして1頭の牛をじっくり見る目が、酪農の土台になっていくんですね。
- 分娩介助は、まず分娩の順序とフローチャートを座学で頭に入れ、実践で数をこなして覚える
- 流産には外に出せないケースがあり、子宮が回復しないと次の種は付けられない
- 経産牛50頭なら1週間に1頭の分娩が理想で、生産性が安定する
- 自家育成なので1頭出しても1頭上がってきて、頭数をキープできる
- お気に入りの牛を1頭決めて1年間追いかけると、他の牛を見る目も育つ
