リスナーからの質問と2つの解釈
今回のお便りは、TikTokネームのカーボーイさんから届いた質問です。
ホルスタインと和牛を繁殖させている牛をよく見ます。どのようなメリットがあるのですか?
川上さんは、この質問には2つの意味が考えられると話します。
1つ目は、ホルスタインのお母さん牛に黒毛和牛の種をつけて子牛を産ませるケースです。もう1つは、ホルスタインと黒毛和牛を同時に飼っている牧場のメリットを尋ねている可能性です。
どちらの意味かわからなかったため、両方の側面から答えていくことになりました。
なぜホルスタインに和牛の種をつけるのか
まず、皆さんが一番見かけるのが、ホルスタインの母牛に黒毛和牛の種をつけて子牛を産ませるケースだと言います。
酪農家は本来、お乳を搾るために牛を飼っています。牛は出産しないとお乳が出ないため、定期的に種付けをして、1年に1頭子牛が生まれるように管理しているそうです。
このとき、牧場を支える後継牛としてホルスタインのメスを産ませる種付けも一定数します。
ただし、すべての牛にホルスタインをつけると牛舎が溢れてしまうと川上さんは説明します。
そこで、自分のところで残したい牛にだけホルスタインのメスが生まれる種をつけ、その他には黒毛和牛の種を使うのです。
こうして生まれるのが、父が黒毛和牛、母がホルスタインの子牛です。この牛を一般的に交雑牛(F1)と呼びます。
交雑牛が選ばれる理由
では、なぜ和牛をつけるのか。川上さんは理由をシンプルに説明します。
理由はとてもシンプルで、子牛の販売価格が高くなる可能性があるからです。
ホルスタインの雄子牛も肉用として育てられますが、市場価値で価格が決まるため、需要や相場によって大きく変動します。
一方、交雑牛はホルスタインと黒毛和牛のいいところを取っていると言います。ホルスタインは体が大きく、黒毛和牛は肉質がよい。その両方を備えたハイブリッドな牛です。
黒毛和牛はサシが多く脂で食べにくいという声もある中、いいとこどりの交雑牛は需要が伸びていると話されています。
さらに円安の影響で海外から牛肉を買うのが高くなり、国内で確保した方が安いという状況もあるため、交雑牛の価格は上がってきているそうです。
交雑牛は一頭十数万円単位で売れることもあり、酪農家にとってはお乳を搾る収入に加えて、お肉になる元牛を育てて販売する収入も得られます。これにより経営の収入源が2本柱となり、安定につながると言います。
体が大きい。交雑牛の母牛として使われる
肉質がよい。交雑牛の父として種をつける
もう1つの意味「借り腹」とは
質問のもう1つの捉え方として、川上さんが挙げたのが「借り腹」です。少し専門的な話になると前置きしています。
例えば、非常に価値の高い和牛の母牛がいたとします。普通ならその母牛からは年に1頭しか子牛を産めません。
そこで、その母牛から受精卵を採卵し、その受精卵をホルスタインのお腹に戻すのです。これを受精卵移植と呼びます。
すると、ホルスタインのお腹から黒毛和牛を産ませることができます。いわば代理母出産のようなイメージです。
遺伝的には和牛ですが、お腹の中で育ててくれたのがホルスタインという、そういう形になります。
お腹を借りるので「借り腹」と呼びます。
借り腹のメリットは、優秀な和牛の遺伝子をたくさん残せることです。和牛の品種改良のスピードを速められ、高価値の牛を大量に生産できると言います。
一方で、採卵費用がかかり、受精卵も普通の種より高価になります。移植には特別な免許が必要でコストもかかります。
必ず妊娠するわけではなく、技術や飼養管理が大切になってくるそうです。
価値の高い和牛の母牛
受精卵を採卵する
受精卵移植
受精卵をホルスタインのお腹に戻す
ホルスタインが出産
遺伝的には和牛の子牛が生まれる
酪農家が支える食卓と経営の安定
川上さんは、2つの答えを改めて整理します。1つ目はホルスタインに和牛の種をつけて交雑牛を産む方法で、子牛販売収入を増やす目的で一般的に使われています。
2つ目は受精卵移植による借り腹で、和牛の改良や高品質な子牛を効率よく生産する技術です。
酪農家が黒毛和牛の元牛を大量生産することで、市場に美味しいお肉が出回るのだと言います。
普通に買ってもめっちゃ美味しいお肉が市場に出回るわけですね。これを作っているのが酪農家です。
スーパーの精肉売り場には、国産牛、交雑牛、黒毛和牛などさまざまな品種が並びます。その裏には酪農家が支える現場があると知ってほしいと語られています。
川上牧場でも交雑牛や受精卵移植は十数年以上前からやっており、子牛の価格が品種ごとに変動する中でも、比較的安定して経営が回っていると話します。
さらに、受精卵移植で人為的に双子を産ませたり、種付け後に受精卵を追加する「追い移植」で受胎率を上げたりする管理方法もあると紹介されました。
まとめ
ホルスタインに和牛をつける背景には、交雑牛による子牛販売収入と、借り腹による和牛の効率的な生産という2つの狙いがありました。こうした技術の選択肢が、酪農経営の安定と私たちの食卓を支えています。
- ホルスタインの母牛に黒毛和牛をつけた子牛を交雑牛(F1)と呼び、子牛販売価格が高くなる可能性がある
- 交雑牛はホルスタインの体格と黒毛和牛の肉質を併せ持ち、円安の影響もあって需要が伸びている
- 借り腹は受精卵移植でホルスタインに和牛を産ませる方法で、優秀な和牛の遺伝子を効率よく残せる
- 借り腹は採卵費用や免許が必要でコストがかかり、必ず妊娠するとは限らない
- 交雑牛や受精卵移植といった技術の選択肢が、酪農経営の安定と食卓の美味しいお肉を支えている
