今日の質問「牛は捨てるところがないのか?」
今日の質問は、配信アプリのポポポからポポポネーム甘辛さんが寄せてくれたものです。
牛さんが役目を終えてお肉になったりすると思いますが、その他にどのような商品になるのでしょうか?捨てるところがないのでしょうか?
川上さんによると、牛は捨てるところがないと言われることは多いものの、日本ではどれだけ廃棄されているかという情報がなかなか見つからないそうです。
そこで今回は、海外の情報も踏まえてまとめたものを読んでいくと話されています。日本とEUを比べると、見え方や分かりやすさが変わるからです。
牛1頭は全部が牛肉になるわけではない
まず川上さんは、牛1頭イコール全部牛肉ではない、という前提を整理します。
牛には骨や内臓があるため、100%がお肉になるわけではありません。
生きている牛の重さを「生体重」と呼びます。そこから解体して、皮や頭、足、血液、内臓などを除いたものが「枝肉」です。
さらに枝肉から骨や余分な脂肪を取り除くと、スーパーや飲食店で使われる「部分肉」になります。
生体重
生きている牛の重さ
枝肉
皮・頭・足・血液・内臓などを除いたもの
部分肉
骨や余分な脂肪を取り除いた、店頭で使われる部分
日本では枝肉からどれだけ部分肉が取れるかを、牛肉格付けの「歩留まり等級」ABCで評価しています。
つまり牛の世界では昔から、体重のうちどれくらいを肉として使えるかが重要な指標になっている、と川上さんは説明します。
肉にならない部分は「廃棄」ではない
では残りは全部ゴミなのか。ここが質問の核心ですが、川上さんは「これは違う」と話します。
枝肉にならなかったものの中には、皮や血液、脂肪、骨、内臓、角、蹄などがあります。
ヨーロッパでは、こうしたものを「アニマルバイプロダクト(動物副産物)」として明確に分類しています。
分かりやすい例が皮です。牛革はなめし加工を経て、靴やバッグ、ベルト、財布、家具などの原料になります。
EUの公式資料でも、皮を皮産業向けに保存処理する工程が副産物利用の一つとして扱われている、と川上さんは紹介します。
脂肪・骨・血液・内臓のゆくえ
脂肪や骨はどうなるのか。ここで登場するのが「レンダリング」という処理です。
EUの技術資料では、脂肪処理や骨処理、血液処理、バイオガス化、堆肥化、牛革の利用、ゼラチン製造などが、副産物の処理利用方法として整理されているそうです。
血液もただ捨てるものではありません。EUの資料には血液処理が明記され、条件を満たすものは別製品の原料として利用されます。
ただし川上さんは、牛から出た血液が全部利用されるわけではなく、衛生状態や用途、法規制で処理方法が変わると釘を刺します。
内臓には2種類あります。一つはハツやレバー、ミノ、センマイなど、焼肉屋さんで食べられるものです。
これらは枝肉に含まれていなくても食品として利用されており、枝肉にならない=廃棄ではない例だと話されています。
一方で、食用に適さないものや安全上使えないものは、別の処理へ回ります。
日本の廃棄割合は、なぜ数字が出せないのか
では、どのくらい捨てられているのか。川上さんはここをかなり調べたそうですが、数字の扱いには注意が必要だと言います。
日本全体で、牛1頭の生体重の何%が最終的に完全廃棄されているか、という全国統一の公的統計は、今回確認した範囲では見つけられなかったそうです。
理由は、肉にならない部分がそのまま廃棄物になるわけではないからです。皮は牛革に、食べられる内臓は食品に、脂肪や骨などはレンダリングへ回ります。
一方、海外を見ると規模が分かりやすくなります。EUでは、屠畜場だけでなく食品工場や乳業工場、農場で死亡した家畜なども含め、年間2000万トン以上の動物副産物が発生しています。
ただしこれは2000万トンのゴミという意味ではなく、欧州委員会自身が、これらには栄養価やエネルギー価値があり、資源として適切に利用すべきだとしています。
つまり副産物の発生量は廃棄量とほぼイコールではなく、食べない部分をどう安全に資源化するかという巨大な産業が存在している、と川上さんは指摘します。
本当に捨てられる部分と、BSE対策
では、本当に捨てられる部分は何か。ここで日本の具体例としてBSE対策が挙げられます。
日本では現在でも、異常プリオンタンパク質が蓄積する可能性のある特定部位を屠畜工程で除去し、焼却処分することが義務付けられています。
対象となるのは、扁桃や回腸の一部で、30ヶ月齢を超える牛では頭部の一部や脊髄、脊柱なども加わります。
これは使えるのに捨てているのではなく、食品安全上、利用ルートから確実に排除しなければならない部分だと説明されています。
さらに厚生労働省によると、屠畜されるすべての牛について、獣医師である屠畜検査員が食用に適するかを確認し、病変が見つかればその部分が廃棄される場合もあります。
「捨てるところがない」は正しいのか
ここまで調べた川上さんの結論は、「半分正しくて半分違う」というものです。
牛のほぼ全身に何らかの利用方法が考えられているという意味では、実態にかなり近いと言えます。
しかし、牛1頭が100%商品になるという意味では正しくありません。焼却しなければならない部分や、検査で廃棄される部分があるからです。
そして利用可能でも、実際に商品化されるかは地域や処理施設、需要、採算性で変わります。
そのため川上さんは、利用可能率と実際の資源化率、最終廃棄率は全部別の数字として考えた方がいいと話します。
何でも利用するのではなく、安全に使えるものは使い、使ってはいけないものは確実に処分する。BSE対策がその代表例
年間2000万トンを超える副産物を、リスクに応じて食品・牛革・ゼラチン・油脂・肥料・堆肥・バイオガスなど別ルートへ流す仕組みがある
川上さんは、他の産業へ回ると行政の縦割りで管轄が変わってしまうことも、日本で正確な情報が見つかりにくい一因かもしれないと話しています。
まとめ
牛はお肉以外に何になるのか、捨てるところはないのかという質問に、川上さんは日本とEUの資料をもとに答えました。皮は牛革に、食べられる内臓は食品に、脂肪や骨、血液などはレンダリングなどを経て資源になる一方、BSE対策で焼却が義務付けられた部分もあります。
- 牛1頭は全部が牛肉ではなく、生体重から枝肉、部分肉へと絞られていく。
- 肉にならない部分と廃棄される部分は別物で、皮・内臓・脂肪などには利用ルートがある。
- 日本では、牛1頭の平均何%が最終廃棄かを示す全国統一の公的統計は今回確認できなかった。
- BSE対策として、特定部位の除去・焼却が現在も義務付けられている。
- 「捨てるところがない」は半分正しく半分違い、利用可能率・資源化率・最終廃棄率は別の数字として考えるのが正確。
