今日の質問と、九州の酪農家の現状
番組冒頭では、熊本地震の影響を受けた九州の酪農家について触れられました。
牛乳自体はある程度安定して出荷できているものの、夏の暑さのなかで発電機や換気扇を動かすための軽油が足りない状況だと話されています。
災害時は他の場所でも軽油の需要が高く、なかなか分けてもらえないため、換気扇が半分しか回っていない牧場もあるとニュースで見たそうです。
九州の皆さんがしっかり牛乳搾ってくださってますのでね、ぜひ皆さん今日も牛乳を飲んでお出かけしていただけたらと思います。
そのうえで、この日の質問コーナーへと入っていきます。
海外にはない日本で独自に進化したような飼育方法などはありますか?その逆もあれば知りたいです。
川上さんは「めちゃめちゃ面白い質問」とテンションを上げ、牛だけでなく鶏や豚も含めて調べてきたと話しました。
結論は「完全に独自な飼育方法はほとんどない」
まず川上さんは、結論から先に示します。
放牧する、穀物を与える、地域の副産物を使う、脂肪交雑を高める、乾燥や熟成をする。こうした要素自体は世界各国にあると説明されました。
ただし、品種や餌、肥育期間、格付け、料理、地域文化までが一つのシステムとして組み合わさると、非常に日本的、あるいは地域独自の畜産になると話されています。
つまり、技術一つが独特なのではなく、組み合わせ方が独特ということです。
黒毛和牛にみる「日本らしさ」
日本で最も分かりやすい例として、黒毛和牛が挙げられました。
黒毛和種はもともと中国地方を中心に農耕や運搬に使われてきた牛を基礎に改良され、いまは脂肪交雑、いわゆるサシを重視する肉用牛として発展してきたそうです。
川上さんは「稲わらを食べるから霜降りになる」という単純な話ではないと注意を促します。サシには遺伝能力、月齢、性別、エネルギー摂取量、健康状態など複数の要素が関わると説明されました。
そのうえで、日本の肥育では稲わらや米由来の餌を使いながら濃厚飼料を組み合わせ、長期間肥育する技術が発達してきたと話されています。
肥育中期のビタミンA摂取を管理して脂肪交雑を高める技術についても触れられました。ただし、これは注意が必要だと強調されます。
ビタミンAは少なければ少ないほど良いわけではなく、過度に不足すると増体低下や視覚障害、食欲低下などの健康被害につながる可能性があるそうです。
これは牛を不健康にして霜降りを作る技術ではなく、健康を損なわない範囲で栄養状態を細かく管理する、非常に狭い幅の技術として考えなければいけません。
川上さんは、日本の独自性は稲わらそのものより、水田農業と畜産がつながってきたことにあると話します。
お米を作り、稲わらが出て、それを牛が食べ、牛の糞尿を堆肥にして田んぼに戻す。こうした循環は日本の農村で長く行われてきたそうです。
また、日本の和牛生産では枝肉の格付けが特徴的だと説明されました。歩留まりや肉質、脂肪交雑、肉の色などが細かく評価され、最終的にどんな肉になったかを重視する仕組みだそうです。
一方、ヨーロッパの高級畜産では、どの地域で生まれ、どの品種で、何を食べ、どう育てたかという生産過程そのものを制度で守る例が多いと話されています。
最終的にどんな肉になったかという結果の品質を細かく評価する
土地や品種、育て方という生産工程の再現性を制度で強く守る
海外の事例と「餌だけでは決まらない」という共通点
続いて、海外独自の飼い方が紹介されていきます。
最初はスペインのイベリコ豚です。最高級とされるベジョータの生産では、コルク樫などが点在する広大な放牧地で豚を飼うそうです。
秋から冬にドングリが落ちるモンタネイラの時期に、豚は森を歩きながらドングリや草を食べます。ただしドングリを与えるだけではないと強調されました。
普通の豚にドングリを与えたら、同じハモンイベリコになるわけではありません。品種の遺伝的特性、成長期間、運動量、脂肪の蓄積能力、屠畜後の塩漬けと熟成。これらが必要です。
次にフランスのブレス鶏です。限られた地域で生産され、原産地呼称によって厳しく保護されている鶏だそうです。
日本の養鶏と大きく違うのは、単に放し飼いだから高級なのではなく、放牧期間と仕上げ期間を明確に分けている点だと話されています。前半は外を歩かせ、最後は運動量を調整して肉質を仕上げるそうです。
そのブレス鶏は、乳製品文化の強い地域でクリームやバターと合わせる料理へとつながっています。飼育方法が料理の完成形まで設計されているように見えると語られました。
フランスのプレサレ羊も紹介されました。モンサンミッシェル周辺で、潮の満ち引きによって海水の影響を受ける湿性湿原で放牧される羊です。
そこには塩分に耐える独特の植物が生えているそうです。ただし、羊肉が海の味になるとまで単純に言うのは慎重であるべきだと注意されました。
イタリアのキアニーナ牛は、黒毛和牛と対照的な存在として挙げられました。もともと農耕や運搬に使われてきた、大きく筋肉質な牛だそうです。
黒毛和牛が筋肉内に脂肪を入れる方向に進化したのに対し、キアニーナは大きな骨格と赤身の力強さを生かす方向だと説明されています。
肉の中に脂を入れる日本、赤身を焼いて外からオリーブオイルを合わせるイタリア。これは単なる好みではなく、牛の特性に合わせて料理が発達した結果だと考えられます。
| 家畜 | 土地・環境 | 結びつく食文化 |
|---|---|---|
| 黒毛和牛(日本) | 水田農業と稲わら | すき焼き・しゃぶしゃぶ |
| イベリコ豚(スペイン) | 森とドングリの放牧地 | 生ハム |
| ブレス鶏(フランス) | 放牧地と仕上げ区画 | クリーム煮など |
| プレサレ羊(フランス) | 海水の影響を受ける塩性湿地 | 地域の羊料理 |
| キアニーナ牛(イタリア) | 赤身の大型牛 | 厚切りステーキ |
日本の酪農の独自性と、海外から学べること
酪農家として、川上さんは乳牛の話にも戻ります。日本だけに存在し海外に全くない乳牛の飼い方は、断言できるものは多くないと話されました。
つなぎ飼いもフリーストールもTMRも自動搾乳も、多くは海外由来や海外発祥の技術だそうです。日本の酪農は海外から学び、日本の条件に合わせて改良してきたと語られています。
日本の独自の進化として語れるのは、狭い土地や高い湿度、暑い夏、輸入飼料への依存、水田からの副産物、家族経営といった条件に合わせて複数の技術を組み合わせている点だそうです。
稲WCSや飼料用米、稲わら、豆腐粕、醤油粕、酒粕、食品工場の副産物など、地域資源を乳牛の栄養に合わせて組み込む技術が例として挙げられました。
日本はゼロから全く新しい飼育方法を作るというより、海外の大規模技術を日本の小さな牛舎や家族経営に合わせて作り変えるのが得意なんだと思います。
海外の大型機械を小型で回したり、放牧地がない分だけ換気や飼料設計を細かく調整したり、人手が少ない分だけ一人で何役もこなせるよう設備を工夫したり。派手ではないが、海外の仕組みを土地や気候、経営規模に翻訳してきたこと自体が日本の畜産技術だと話されました。
逆に、日本が海外から学べることもあると語られます。その一つが、環境そのものを商品価値にすることです。
イベリコ豚なら森を守ることが、プレサレ羊なら湿地を守ることが、ブレス鶏なら地域の品種や放牧地を守ることが価値になる。お肉だけでなく、その土地を維持する仕組みまで含めて売っていると説明されました。
日本にも棚田や里山、水田、稲わら、地域の食品副産物、在来の農業文化があります。しかし、牛乳やお肉の価値と地域環境の物語を、まだ十分につなげられていない地域も多いと話されています。
最後に川上さんは、日本の交雑牛のブランド化を海外が学んで真似している例にも触れ、日本の独自の文化も世界に負けていないと締めくくりました。
まとめ
リスナーの質問をきっかけに、日本の黒毛和牛から海外のイベリコ豚やブレス鶏まで幅広く紹介された回でした。結論は「完全に独自な飼育方法はほとんどない」。それでも、土地と家畜と食文化のつながり方にこそ、それぞれの地域らしさが生まれると語られています。
- 完全に一国だけに存在する飼育技術はほとんどなく、独自性は「組み合わせ方」に宿る
- 黒毛和牛の独自性は稲わらそのものより、水田農業と畜産がつながった循環にある
- ビタミンA管理などは健康を損なわない範囲で栄養状態を細かく管理する狭い幅の技術
- イベリコ豚やブレス鶏など、海外事例は環境そのものを商品価値にしている点が学びどころ
- その土地の資源を家畜に活かし、最も美味しく食べる文化まで育てることが独自の畜産を生む
