そもそもなぜ牛レバーは生で食べてはいけないのか
今回の質問はTikTokのリスナー、秋野さんから届いたものです。「レバーは何で生で食べたらダメなんですか?本当に生で食べたらダメですか?」というシンプルな問いです。
川上さんも生レバー好きを公言しつつ、まず結論からこう整理します。現在の日本では、牛レバーを生で安全に食べられる方法は確立されていないので、生食用として販売・提供することは禁止されているんです。
日本では2012年7月から、牛レバーを生食用として販売・提供することが禁止されています。きっかけには食中毒の重大なニュースがありました。
最大の理由の一つが、O157などの腸管出血性大腸菌です。この菌は場合によっては重い食中毒を起こします。
昔生レバーが普通に食べられてた世代の皆さんは、あれが食べられなくなるのは本当にがっかりですよね。
僕も昔、頭買いした牛のレバーを食べさせてもらったあのレバーは忘れられません。ニンニクをめちゃめちゃ入れて、ごま油と一緒に食べたやつ。よだれが止まらない。
表面を洗えばいい、新鮮なら大丈夫、は本当か
「表面を綺麗に洗えばいいのでは?」と思いますよね。でもレバーの場合、そこが難しいんです。
厚生労働省によると、牛レバーの内部からもO157などの腸管出血性大腸菌が検出されたことが報告されています。ここが、普通にイメージする「肉の汚染」と違うところです。
表面だけの問題なら、殺菌したり削ったりする方法も考えられます。でも内部に存在する可能性があるので、表面だけ炙った新鮮なレバーです、というだけでは安全性を保証できないというわけです。
「今日屠畜したばかりだから」「新鮮だから」という理由も、食品衛生上は別問題だと川上さんは話します。厚生労働省も「新鮮かどうかは関係ありません」と注意喚起しています。
見た目が綺麗で、匂いも普通で、ものすごく新鮮。それでもO157などが存在する可能性はあります。健康そうな牛から取れた、イコール生で安全、ではないということですね。
加熱の目安と、牛以外のレバーの注意点
では加熱すればどうなのか。厚生労働省は牛レバーについて、中心部まで十分に加熱するよう求めています。
注意したいのは「牛がダメなら他の動物なら」という考え方です。豚肉や豚レバーなどの内臓も、日本では2015年6月から生食用としての販売・提供が禁止されています。
豚の場合はE型肝炎ウイルス、サルモネラ、カンピロバクターなどのリスクがあります。鶏なども生の肉や内臓には食中毒のリスクがあるので、「別の動物なら大丈夫」とは考えない方がいいということですね。
牛から取り出さないレバー? 細胞農業という発想
ここから話は未来へ。もし牛から取り出したレバーではなく、細胞からレバーのような食品を作れるようになったらどうなるのか。そこで出てくるのが細胞農業です。
農林水産省も、細胞農業を「本来動植物から得られる産物を細胞培養などによって生産する技術」として整理しています。牛を一頭育てて屠畜する従来の経路とは違う食品生産が考えられるわけです。
ただし川上さんは言い方に注意が必要だと強調します。2026年8月現在、日本で牛の培養レバーが普通に販売されているわけではありません。「もうすぐ牛のレバ刺しが培養肉で食べられる」と断言することはできない、というわけです。
一方で、海外はかなり興味深いところまで来ています。ニホンウズラ由来の培養細胞を使ったフォアグラ風食品などが開発され、オーストラリアやシンガポールなどで承認・提供されています。さらに2026年にはシンガポールで培養アヒル製品の新たな承認事例も出ています。
ただしこれらは、動物の肝臓を丸ごと完全再現したものとは限りません。細胞を培養し、他の食品素材と組み合わせて、フォアグラやパテのような味・食感を作るものもある、という点は区別しておきたいところです。
培養レバーなら生で食べても安全?
では培養レバーなら生で食べても安全なのか。ここが今日いちばん誤解してほしくないところだと川上さんは念を押します。現時点では「安全です」とは言い切れません。
確かに理論上は、屠畜・解体という工程を通さないので、従来の食肉とは違う衛生管理ができる可能性があります。でも「培養したから無菌」「培養肉だから生食できる」とは限りません。
培養するときにも、細菌や真菌、ウイルス、培養工程の汚染、培地由来の物質、細胞そのものの性質など、別の安全性評価が必要になります。
日本でも厚生労働省が、細胞の由来・種類、培養工程、培養物、加工・調理工程それぞれについて食品衛生上の検討を進めています。動物から取っていないから生でOK、と単純にはならず、その食品について安全性が確認され、どんな状態で食べられるかが評価される必要があるということですね。
牧場の役割はなくなる? それとも増える?
ここからは事実ではなく仮説として、と前置きしつつ、川上さんは細胞農業の未来を語ります。「細胞農業が発達したら畜産が無くなる」という話がSNSやニュースで話題になりますが、そんな単純な未来にはならないのでは、と考えています。
むしろ、一頭の牛から生み出せる価値の種類が増える可能性があると言います。これまで牛は牛乳・お肉・牛革・堆肥などで価値を生み出してきましたが、そこに優れた細胞や遺伝資源、食品開発のための細胞株といった新しい価値が加わるかもしれない、というわけです。
将来、川上牧場のある牛から採取した細胞を起点に、この牛由来の培養食品みたいなものが作られる可能性があるかもしれません。
そう考えると、酪農家が牛乳を生産する人というだけでなく、動物の遺伝資源や細胞資源を管理する仕事になっていく可能性もある。これは考えてみる価値があると話します。
さらに面白いのは、レバーを完全に再現する必要すらないかもしれない、という視点です。鉄分やビタミン、食感や風味を全部そのまま再現するのではなく、美味しい部分は残して臭みは弱く、栄養を調整して食感を変える、といった食品設計も未来では考えられます。
質問への答えと、これからの食への期待
最後に、秋野さんの質問への答えが整理されます。現在の日本では牛レバーを生食用として販売・提供することは禁止されている。理由の一つは、O157などがレバーの内部からも検出される可能性があり、安全な生食方法が確立されていないからです。
新鮮だから、表面を洗ったから大丈夫ではなく、中心までしっかり加熱する。これが現在の答えです。一方で未来を見れば、細胞培養でレバーのような食品を作る技術は、研究だけの世界から一部商業化の段階へ進み始めています。ただし培養食品イコール無菌・生食可能ではなく、新しい食品としての安全性を科学的に確認する必要があります。
配信では馬刺しについてのコメントも紹介されました。川上さんは「まだその規制になっていないのでは」「馬刺しで食中毒のニュースが出れば規制されるかも」と、お肉の専門家ではないと断りつつ酪農家の角度で答えています。
今、生レバーを食べてお腹を壊して食中毒になって入院、最悪の場合もあるかもしれません。もうちょっと待ってみたら、もっと美味しいものが出てくるかもしれませんよ。
まとめ
素朴な疑問から出発して、食品衛生の理由と食の未来までをつなげた回でした。生レバー禁止の背景を正しく知りつつ、細胞農業という新しい可能性にワクワクさせてくれる内容です。
- 日本では2012年7月から牛レバーの生食用販売・提供が禁止。O157などが内部からも検出される可能性が理由の一つ
- 新鮮さや表面の洗浄では安全は保証できず、中心までの十分な加熱が現在の答え
- 豚レバーも2015年6月から生食禁止。「牛がダメなら他の動物」という考え方はしない方がよい
- 細胞農業(培養食品)は海外で一部商業化が進むが、無菌・生食可能とは限らず、別途の安全性評価が必要
- 細胞農業の発達で牧場の役割は消えるのではなく、遺伝資源・細胞資源を管理する場として価値が増える可能性もある
