そもそもゲノムって何?牛の成績がわかる仕組み
今回のお勉強テーマは「ゲノム」。研修生さんの「そもそもゲノムとは」という質問から話が始まります。
まず川上さんが説明したのは、これまでの牛の成績の調べ方です。お父さん牛とお母さん牛を交配させ、生まれた娘牛が2歳で初めて出産し、その乳量や乳成分を調べて、ようやくお父さん牛の成績がわかる、という流れでした。
今まではお父さんとお母さんの牛を交配させて、その子供が生まれます。娘牛が2歳になって初めて出産をします。その2歳の娘牛がどんな乳量が出るのか、どんな乳成分なのかを調べて、その結果がお父さんの成績になります。
この方法だと、お父さん牛の成績が出るまで最短でも5〜6年かかっていました。ところが牛のゲノムがすべて解析されたことで、状況が変わったんです。
牛のゲノムが全部解析されたわけですよ。塩基配列が全部解析されて、どこの遺伝子が乳量に影響を及ぼすのかとか、乳脂肪が上がるかとか、体の大きさとか、そういうのが大体わかるようになってきた。
生まれたばかりの子牛の毛根や血液、耳標を打つときに取れる皮膚などを検査すれば、まだお乳を出していなくても、ある程度の成績がわかるようになったそうです。
うちの牛はもう全部わかっている
研修生さんが「ここで生まれてる子もみんなわかるんですか?」と驚くと、川上さんは川上牧場ではすべての牛を検査済みだと答えます。
ここで生まれてる子もみんなわかるんですか?
まだお乳出てないけど、優秀か優秀じゃないか、全部わかってます。
検査に使うのは、耳標を打つときに取る耳の細胞。それをアメリカに送って検査してもらっているそうです。研修生さんはその作業自体を見たことがなく、初めて知って驚いていました。
体が大きい牛ほど乳量が多い?という思い込み
話は牛の体格に移ります。研修生さんが気になっていたのは、飼育場にいる特別大きい牛のこと。これは他の牧場から安く導入した牛で、川上さん自身が選んで交配させた牛ではないそうです。
そこで研修生さんが「体がでかいと乳量も多いんですか?」と質問します。ところが答えは意外なものでした。
やっぱ体がでかいと乳量も多いですか?
いや、そんなことはないですね。餌余計に食うんで、維持費がかかるんで。
むしろ、ある程度コンパクトでも乳量がたくさん出る牛のほうが「生産性が高い」とされます。とくに牛のゲップによるメタンガスが話題になっている今、少ない餌で多くのお乳が出る小さめの牛が求められているそうです。
さらに、乳房や乳腺の大きさ、搾りやすさ、搾乳速度なども乳量とはあまり関係ないと川上さんは言います。見た目や搾りやすさのイメージと、実際の性能は別物なんですね。
5年が3ヶ月に。ゲノム解析の速さと信頼度
ゲノムで解析できるようになったことで、これまで5年かかっていた成績が、早ければ生後3ヶ月ほどでわかるようになりました。その成績を使ったお父さん牛の交配計画も立てられます。
ただし、ここには落とし穴もあります。実際に子供を産ませて調べたわけではないので、信頼度が低いんです。
実際に子供を産ませてその子供を調べてはないので、信用度が低いので、例えばすごい乳量出ると言われてたけど、実際子供を調べてみたらそんなに出なかったみたいなことも起こります。
差が出る理由は、育つ過程での餌や健康といった環境要因、そして統計上の「外れ値」だったケースなどさまざま。ただ、ゲノム検査を受ける牛の頭数が増えるほど信頼度は上がり、実際の成績との差は小さくなってきているそうです。
実際に子牛を産ませて調べるので信頼度は高いが、成績がわかるまで最短5〜6年かかる
生後3ヶ月ほどで成績の予測ができるが、実際に産ませていないぶん信頼度は低め。検査頭数が増えるほど精度が上がる
ゲノム編集が拓く牛づくりの可能性
ゲノムを使った品種改良は、牛だけでなくお米や野菜、果物にも広がっています。それを効率的に行う技術が「ゲノム編集」です。
海外ではすでに、牛のコロナに免疫を持つ牛や、白血病になりにくい牛が登場しているそうです。研修生さんが「牛の白血病ってあるんですか?」と驚くと、川上さんは深刻な問題だと説明します。
牛は白血病はめちゃめちゃ世の中では深刻になっているところがあります。血液感染が多いけど、白血病の牛から母子感染で赤ちゃんに移ったり、吸血昆虫が別の牛を刺して血液感染したりします。
病気にならなければ抗生物質を使わずに済み、乳房炎なども減らせます。薬を使いながら維持していた生産量がさらに伸び、これまで死んでいた牛が生きられるようにもなる。川上さんにとっては「夢のような技術」なんです。
なぜ日本では認可されないのか
一方で、日本ではゲノム編集された牛乳の販売はまだ認可されていません。研修生さんが理由を尋ねると、川上さんは「安全性がまだ担保されていない」からだと答えます。
ゲノム編集は技術としての歴史が浅く、安全性を証明するのが難しいのが実情です。しかも川上さんによれば、技術的には自然界で起きている品種改良と大きく変わらないといいます。
日の光浴びて皮膚に当たって黒くなるじゃないですか。ゲノム品種改良も同じような技術で、紫外線みたいなのを当てて突然変異を起こさせて品種改良を行うのもあります。日光当たるの危ないんですか?と言われたら、別に普通じゃない?という話です。
それでも「安全です」と言われて信用されるかどうかは別問題。今の世代ではなく、子や孫の世代に影響が出るかもしれない、という懸念も残ります。
食糧問題と、消費者の理解という壁
海外ではゲノム編集が徐々に当たり前になりつつあります。国や州によって規制の有無が違い、その背景には宗教的な倫理観や「生命は神のやること」という考え方もあると川上さんは説明します。
さらに難しいのが、表記の問題です。研修生さんは「ゲノム編集をしたと表記しないといけなくなりませんか?」と問いかけますが、これも簡単ではありません。
別に普通の自然界で起こっていることをやってるだけなのに表記する必要があるのかみたいな議論もあるんですよ。表記するから不安をあおるみたいなところもあるじゃないですか。
ここで研修生さんが投げかけたのが、私たちがこの問題をどう受け止めているか、という視点でした。
それは多分我々が現時点で食糧に困ってないから言えることだと思うんですよ。難民の人たちが本当にお腹を空かせて死にそうな状況であれば、ゲノム編集でも何でもいいからうまいものくれって話じゃないですか。
川上さんは、慎重に進めなければ、せっかく食糧問題を解決する一手になるかもしれない技術が、感情だけでなくなってしまう、と危機感を語ります。牛の餌の多くを海外に依存している現状、耕作放棄地の活用、食糧の防衛といった観点も交えて話は広がりました。
では、どうすればみんなに理解してもらえるのか。研修生さんの問いに、川上さんの答えはシンプルでした。
めっちゃうまくてめっちゃ安くて安全なやつが出てきたら食っちゃう。食糧不足みたいなニュースが出てきて、これを解決するやつが出てきましたとドーンって出したら、一気に普及する。
そうした「いざという時」に備えて、海外の輸入品に依存しているものを国内で作れるようにしておく。戦争などで船が止まれば輸入は一瞬で途絶えてしまう、という食糧防衛の観点も、今取り組む理由の一つだと締めくくりました。
まとめ
牛のゲノム解析は、5〜6年かかっていた成績の把握を生後3ヶ月ほどに短縮し、ゲノム編集は病気に強い牛づくりや環境負荷の低減まで見据えた「夢の技術」。一方で安全性や消費者の理解、表記や倫理といった壁もあり、酪農家と研修生がその両面をていねいに語り合った回でした。
- 牛のゲノム解析で、まだ乳を出していない子牛でも成績を予測できるようになった
- 体が大きい牛ほど乳量が多いわけではなく、コンパクトでよく出る牛が生産性は高い
- ゲノム編集は病気に強い牛や環境にやさしい牛づくりにつながる可能性がある
- 日本では安全性の担保や消費者の理解が課題で、まだ認可されていない
- 食糧問題や輸入依存への備えという、防衛の観点からも注目される技術
