今日の牧場と、届いた1つのコメント
配信は2月9日の月曜日。前日は一日中雪が降り、この日の最高気温は7度。道路にはまだ雪が積もっているものの、昼間には一気に解けそうな天気からスタートしました。
この日の予定は、もみ殻の受け取り、種付けを1頭、そしてお昼からはスキマバイトのタイミー働きたい人と働き手が欲しい店舗・事業者をマッチングするスキマバイトのアプリ。1回単位で短時間の仕事を探せる。の担当者との打ち合わせ。週の初めからバタバタの1日です。
そんな中、一昨日に分娩した牛の様子を分娩監視カメラで撮り、InstagramとTikTokのストーリーズに上げたところ、1件のコメントが届きました。
子牛と親牛をつなぎっぱなしにしているのが、アニマルウェルフェア的にはどうなんですか、というコメントがあったので、ここら辺をちょっと丁寧にお答えできたらいいなと思っています。
この日は、その質問に答えていく回になりました。
届いたコメントと、繋いでいる理由
コメントの内容は内容だけに、川上さんは匿名の扱いにして、メッセージ部分だけを読み上げます。鍵アカウントからのメッセージでした。
初めまして。生まれてすぐに繋がれていますが、アニマルウェルフェアについてはどうお考えですか?
この問いに対して、川上さんはまず「とても大切で真っ当な疑問」と受け止めます。関心を持って見てくれていること自体が嬉しい、という姿勢からのスタートです。
そのうえで、大前提としてこう伝えます。
つなぐイコールかわいそう、自由にさせないイコールウェルフェアが低いとは、必ずしも言い切れません。
川上牧場で分娩直後に親牛に子牛を舐めさせるのには、いくつかの目的があります。まず、子牛の初乳の吸収率を上げること。次に、母牛の子宮の回復や収縮を促すこと。そして、子牛の自立呼吸を安定させることです。
これらができると、その後に子牛がしっかり初乳を飲む確率が上がるといいます。
川上さんは、これは管理を楽にするためではなく、母牛と子牛の両方のリスクを下げるための短時間の介入だと説明します。
「自由イコール安全」とは限らない現実
コメントには「母牛も子牛も自由に動けるようにしてあげてほしい」という返信も届いていました。川上さんは、その気持ちもよくわかると受け止めます。
ただ、現場では自由に動けることが必ずしも良い結果につながらない場面があるといいます。
自由に動けることが、必ずしもウェルフェアが高いとは限らない。これが現場に立っていると見えてくる現実です。
日本のアニマルウェルフェアという考え方
もう1つ大事な点として、川上さんは日本のアニマルウェルフェア基準について触れます。日本の酪農は、日本で定められた産業動物のアニマルウェルフェア基準を前提に運営されているといいます。
その基準は、科学的根拠、安全性、人と動物の双方のリスク管理、そして日本の酪農の背景を配慮したもの。川上さんはこれらを総合的に考えたうえで判断していると話します。
アニマルウェルフェアは見た目の優しさだけで評価するものではなく、結果として苦痛や事故が少ないかが、とても重要だと考えています。
川上牧場では、親牛が子牛を育てる場合もあれば、状況に応じて人が介入する場合もあります。どちらか一方が正解という考えは持っていない、というのが川上さんの立場です。
最後に川上さんは、アニマルウェルフェアには正解が1つあるわけではないと締めくくります。だからこそ、疑問を持つこと、対話をすること、現場を知ろうとすること自体が大切だと考えているそうです。
もし機会があれば、ぜひ分娩の現場や牛たちの様子を実際に見て、感じてもらえたら嬉しいです。
ショート動画の一瞬と、つなぎ牛舎の背景
川上さんは、ショート動画やリール動画で見えるのは一瞬の行動にすぎないと指摘します。前後が切り取られているため、流れがわからず説明不足になる面もある。だからこそ、一部分だけで判断せず、冷静に見てほしいと呼びかけます。
川上牧場は、親牛がずっと繋がれたまま、その場で立ったり座ったりして餌を食べ生活する「つなぎ牛舎」です。世界的なアニマルウェルフェアの認識では、牛を拘束することはあまり良くないとされています。
ただ、そこには背景があります。島根県出雲市という土地の制約、60年ほど続く酪農の歴史、そして牛が歩き回れるような広い土地の条件が揃っていないこと。これらを総合的に考えたうえで、この飼育スタイルを続けているといいます。
消費者の応援がアニマルウェルフェアを進める
川上さんは、アニマルウェルフェアの認証制度がヨーロッパの乳製品を有利に輸出するために作られた背景もあると話し、そのルールをそのまま日本に押し付けて日本の農産物を劣っていると見なすような圧力もある、と語ります。
そのうえで、酪農家自身もアニマルウェルフェアをより良くする努力を続けなければならないと考えていると付け加えます。
海外では、アニマルウェルフェアの商品と普通の商品が並んで売られ、大事にしたい消費者がそれを選べる形になっているといいます。一方、日本ではまだこれができておらず、それがスピードの差につながっていると川上さんは見ています。
簡単に言うと、お金を払っていただいたら、アニマルウェルフェアの商品がどんどん出てくる、というところになります。
酪農家だけが頑張って高付加価値の商品を作っても、「高いから買わない」と言われてしまえば前に進まない。だからまず、意識の高い人が商品を買って支援し続けてほしい、というのが川上さんの呼びかけです。
書籍やイベントのお知らせ
最後に、川上牧場初のKindle本「酪農未経験者のために」が発売中であることが紹介されました。アニマルウェルフェアについても少し触れられているそうです。
また、3月6日に開催される「酪農DXサミット in 岡山」の案内も。AIをテーマにしたセミナーで、参加枠は残りわずか。一方でスポンサー枠は企業だけでなく一般の人でも申し込めるとのことです。
まとめ
SNSに届いた「生まれてすぐ繋ぐのはどう?」という素朴な疑問に、川上さんが現場のリスクと日本のアニマルウェルフェアの考え方から丁寧に答える回でした。「その瞬間に何が一番リスクが低いか」を毎回考えるという姿勢が、話の芯になっています。
- 分娩直後に親牛へ舐めさせるのは、初乳の吸収率向上や母牛の回復など、母子両方のリスクを下げる短時間の介入
- 自由に動けることが必ずしもウェルフェアが高いとは限らず、踏みつけや事故のリスクもある
- アニマルウェルフェアに唯一の正解はなく、疑問を持ち、対話し、現場を知ろうとすること自体が大切
- 消費者が高付加価値の商品を選び支援することが、アニマルウェルフェアを前に進める力になる
