牛観察の一番大事なポイント
この回は、以前いた研修生からの「牛の体の構造や性格、習慣について語ってみると面白いかも」という声がきっかけで始まっています。川上さんがまず挙げるのは、酪農でもっとも重要な観察点です。それは「牛が餌を食べているかどうか」を見きわめることです。
その判断材料として登場するのが、日ごろ研修で使っているボディコンディションスコア牛の体脂肪の蓄積具合を数値化する評価法。痩せすぎ・太りすぎを客観的に判断するために酪農で広く使われる。と、今回のテーマであるルーメンフィルスコア牛の第一胃(ルーメン)の膨らみ具合を5段階で評価し、直近の採食量を推定する指標。です。
一番重要なのは牛が餌を食べてるかどうかっていうのが一番大事じゃん。
ルーメンフィルスコアとは何か
ルーメンフィルスコアは、牛の第一胃の膨らみを「悪い」から「良い」まで1〜5段階で評価する方法です。川上さんによれば、およそ12時間以内の採食量を評価できるとされています。牛の左側のお腹にルーメンがあると考え、いわゆる「腱部(けんぶ)」──人間でいうとご飯を食べたあとにお腹が膨れるあたり──を見て判断します。
川上さんはルーメンの中を「200リットルの大きなふわふわの風船」に例えます。乾草がガジガジ食べられて入ってくると、はじめはふわふわと浮いています。時間が経つと下の方に落ち着き、その頃にはルーメン微生物が草の消化を始めています。慣れた人は握り拳でお腹をグッと押し、その反発の感触で食べているかどうかを確かめるといいます。
食べる量が減っていくと胃袋そのものが小さくしぼみ、押したときに拳が体の中へ入り込むような感触になります。逆に十分食べていれば、ガス(空気)を含んだ張りのある反動が返ってきます。
草を食べる
乾草が細かくなってルーメンへ。ふわふわと浮いた状態。
時間が経つ
草が下の方に落ち着き、微生物が消化を始める。
押して確認
握り拳でグッと押し、張り(反動感)で採食量を判断する。
また、食べている量に対して糞尿がちゃんと出ているかをチェックするのも、食べているかどうかを確認する方法のひとつだと川上さんは付け加えます。餌やりを一人で担当する場面では、こうした「入り」と「出」の観察がとくに役立ちます。
リンゴ型と洋ナシ型で見るお腹の形
ルーメンフィルスコアは、飼料設計のなかで粗飼料(乾草などの草類)の比率が多いほど大きくなります。同じ1キロを食べていても、配合飼料より乾草の方がかさが大きいためです。そのため、粗飼料ばかり食べる乾乳牛配信中「韓牛牛」と聞こえる部分。出産に備えて搾乳を休ませている、いわゆる乾乳期の牛を指すと考えられる。はスコアが5に近い状態でないと、少しおかしいと判断できる、という見方も紹介されました。
お腹の形を前から見る判断法もあります。「リンゴ型」と「洋ナシ型」です。牛を頭からまっすぐ見て、ルーメンのある上の腱部までしっかり張っていればリンゴ型。上が小さく下が大きい洋ナシ型は、あまりよろしくないとされます。理想はリンゴ型です。
上(腱部)が小さく下が大きい。採食が不十分なサインとされる。
上までしっかり張った形。理想的とされ、よく食べている状態。
ただし川上さんは「これもケースバイケースで一概には言えない」と慎重です。肥育牛の後半などは太っていて全部がリンゴ型に見えてしまうこともあり、見分けられるようになるのは日々の観察あってこそだといいます。
毛艶・目・こめかみでわかる健康状態
スコアを取らなくても、一瞬でわかりやすいのが「毛艶」です。栄養状態が悪い牛は毛の生え替わりが悪く、ボサボサしてしまいます。とくに冬毛から夏毛へ生え替わる時期は差がよく出ます。逆に良い状態の牛は、高級絨毯のようにツヤっとした毛並みになるといいます。
次に「目」です。脱水状態になると目が落ち込み、ドロンとして活力がなくなります。元気な牛、とくに発情中の牛は目がギンと輝いていて、観察するとその違いがよくわかると川上さんは語ります。
さらにマニアックな観察点が「こめかみ」です。牛は1日の3分の1から4分の1ほど反芻一度飲み込んだ餌を口に戻して噛み直すこと。牛など反芻動物が繊維を消化するための行動で、健康のバロメーターになる。をしています。顎を動かすとき、目の上の後ろのコブのあたりの筋肉が一緒に動きますが、反芻が減るとこの筋肉が使われず落ち込んできます。乳熱分娩前後の牛が血中カルシウム不足(低カル)で起こす代謝病。起立できなくなるなど重い症状が出ることがある。や低カルシウム血症になると、この凹みが極端に出るそうです。
栄養状態が悪いと毛の生え替わりが悪くボサボサに。良ければツヤっとする。
脱水すると目が落ち込みドロンとする。元気な牛は目が輝いている。
反芻が減ると筋肉が使われず落ち込む。乳熱・低カルで極端に凹む。
反芻の回数を数えてみる
反芻の回数も観察の目安になります。川上さんによると、普通に数えると1回の反芻でおよそ60回ほど噛むそうです。粗飼料が多めになると回数が増え、70回噛む牛もいます。
一方、TMRTotal Mixed Ration の略。粗飼料と濃厚飼料などをあらかじめ混ぜ合わせて与える給餌方式。で高泌乳の牛になると、餌がルーメンに残る時間(通過スピード)が速くなります。すると反芻の回数が減り、唾液が出にくくなってルーメンアシドーシス濃厚飼料の摂りすぎなどでルーメン内が酸性に傾く病態。唾液による中和が不足すると起こりやすくなる。という病気につながらないか、といった心配が見えてくるといいます。
目安としては、だいたい50〜60回反芻していればまずは良いと川上さんは話します。ぼんやり寝ている牛を眺めるのが大好きだという川上さんは、素人にも反芻の回数を数えてみるのは面白いと勧めています。
水を飲んでいるかの観察も欠かせない
採食だけでなく、水を飲めているかの観察も重要です。牛が水を飲むタイミングは主に、パーラー(搾乳の場所)から出たときと餌を食べた後です。ここで飲んでいない牛を見つけたら、何かしらの理由があると考えます。
川上さんが挙げる理由は、強い牛にやられて飲めない、水が汚れていて飲めない、などさまざまです。水がなければルーメンがまったく働いてくれないため、水回りの観察はとても大事だと強調しています。
スコアという「同じものさし」を農場に
川上さんは、SNSに流れる牛の写真を見ただけで健康状態がわかってしまうこともあると語ります。華やかな写真でも「ちゃんと餌をやれよ」と思ってしまう、子牛の毛がボサボサで調子が悪そうだとすぐ気づいてしまう、というのは、日々観察を続けているからこその感覚です。
ただ、この感覚は人によって差が出ます。毎日牛と向き合う人と、週休2日でサラリーマン的に働く人とでは、アンテナの張り方が違います。「調子が悪い」と伝えても、相手にはわからないこともある。そこで役立つのが、ルーメンフィルスコアとボディコンディションスコアという数値化された「同じものさし」です。
みんなそれが同じものさしで測られて、みんなそれで見るができるので。
感覚がバラつきやすい農場では、スコアで食べているかどうかを測る習慣をつくれば、みんなが同じ基準で牛を観察できるようになります。健康な牛は代謝がよく、自分で発汗や脂を出して毛艶がツヤツヤになり、汚れ(「鎧」と呼ぶ)もつきにくくなります。栄養状態が整っている農場は、牛が綺麗になって状態を表してくれる、と川上さんはまとめています。
まとめ
今回の配信は、酪農未経験者でも「牛が餌を食べているか」を見きわめられるよう、外から観察できるポイントを一通り紹介する内容でした。ルーメンフィルスコアやボディコンディションスコアという数値化された指標に加え、毛艶・目・こめかみ・反芻回数・水飲みといった日常的なサインまで、幅広く語られました。
川上さんが繰り返し強調したのは「一にも二にも観察」。スコアという共通のものさしを持ちつつ、毎日牛を見続けることが、健康管理の基本だと伝わってきます。
- 酪農で一番大事な観察点は「牛が餌を食べているかどうか」。
- ルーメンフィルスコアは第一胃の膨らみを1〜5段階で評価し、約12時間以内の採食量を推定できる。左のお腹の腱部を見て判断し、握り拳で押した張りでも確かめられる。
- お腹の形は、上まで張ったリンゴ型が理想。上が小さい洋ナシ型は要注意(ただしケースバイケース)。
- 毛艶・目の輝き・こめかみの凹みも、栄養状態や病気を見抜く手がかりになる。
- 反芻は1回およそ50〜60回が目安。回数が減ると唾液不足でルーメンアシドーシスの恐れも。
- 水を飲めているかの観察も重要。水がなければルーメンは働かない。
- スコアという「同じものさし」を農場に導入すれば、経験差があってもみんなで同じ基準で観察できる。
