番組リニューアルの背景と「キャリア」の捉え方
この番組はもともと「自己理解を深める心理学ラジオ」というタイトルで、聴き手が自己理解を深めるための手段として心理学の学びを発信してきました。約1年続けるなかで、金岡さんは国家資格キャリアコンサルタントの勉強に取り組み、キャリア相談に来る人の悩みの大部分が「自己理解不足」に起因していることを知ったといいます。
実際のキャリア支援でも、自己理解がうまく言語化・整理できずに方向性に迷う人が多いという実感がありました。そこで、自己理解を深めることを「手段」に置き換え、聴き手が自分らしいキャリアを描くことを「目的」に据えて、番組名と方向性を変更したとのことです。
ここでいう「キャリア」は、仕事=ワークキャリアだけを指すものではありません。人生全体を捉えるライフキャリアも含めた、広い意味で使われています。金岡さんは、キャリアの語源が馬車の車輪の跡、つまり「轍(わだち)」であることに触れ、仕事の轍だけでなく人生の轍も概念として扱っていきたいと述べています。
私自身も自己理解の考え方に出会って、キャリアが大きく開けていった、そんな実感があります。
WILL・CAN・MUSTはどこから来たのか
WILL・CAN・MUSTは、3つの円が上・右下・左下に重なり合う図として表現されることが多く、企業に勤める人なら人材育成の考え方として一度は目にしたことがあるかもしれません。この概念を日本中に広めた立役者は、リクルート日本の大手人材・情報サービス企業。就職・転職や人材育成の分野に大きな影響を持つ。だと言われています。
リクルートは1990年代後半から2000年代にかけて、この概念を「WILL・CAN・MUSTシート」という目標管理ツールとして企業へ導入していきました。終身雇用の時代において、社員のWILL(ありたい状態・価値観)とCAN(自然とできる行動・強み)を、いかにMUST(組織としての義務)の達成に結びつけるかという、組織論的な発想から広がった背景があります。
個人の行動の源泉になる価値観や内発的動機。「なぜやるのか」にあたり、キャリアの目的になりうる部分。
実際に何ができるのか、どんな行動が得意なのか。WILLが主観的なのに対し、客観的な視点が問われる。
MUSTは組織内部の義務。現代ではNEED(社会や組織からの需要)へと言葉を柔らげて使われることが増えている。
なぜMUSTがNEEDへ移りつつあるのか
MUSTには「組織内部の義務」というニュアンスが強くあります。しかしこれが強すぎると、外発的、つまり組織から指示命令されたものと捉えられやすくなります。金岡さんは、WILL・CANに比べてMUSTが強くなりすぎると内発的動機が徐々に低下してしまう懸念があると指摘し、これを「アンダーマイニング効果」と呼ぶと紹介しています。
そのため現代では、MUSTという言葉を、社会や組織からの需要という意味でNEEDへと柔らかく言い換えて使うことが増えているといいます。背景には、特定の組織に居続けることが当たり前ではなくなった時代の変化があります。金岡さんによれば、日本では延べ人数で見ると多くの人が転職を検討・経験しているとのことです。
組織内部の「義務」というニュアンス。強すぎると外発的に感じられ、やる気の低下を招きやすい。
社会や組織からの「需要」。個人と組織の対等な関係を意識した、柔らかい言葉づかい。
組織側も、組織優位の論調から個人と組織の対等な関係へと目線を移していく必要があります。一方で金岡さんは、大企業に属しながらパラレルワークも行う立場から、組織を回すためにどんなCANが使えるのかという発想も重要だと語ります。組織で働くうえではMUSTを意識することが非常に大事であり、MUSTとNEEDのどちらの言葉をどう使うかを、組織側が意味を持って考える必要があると述べています。
WILLとMUSTの重なりが働き方を左右する
WILLは、ありたい状態や価値観であり、この番組では個人の行動の源泉になる価値観・内発的動機として定義されています。「なぜやるのか」にあたる部分で、キャリアにおいては目的になりうるものです。3つの円の図でWILLが一番上にあるのは、個人を主体に考えたとき、目的を達成するためにCANやMUST/NEEDを組み合わせていくという構造を表しています。
ここで金岡さんが強調するのが、WILLには「個人のWILL」だけでなく「組織のWILL」もあるという視点です。組織のWILLがあり、それに紐づいて組織のMUSTが決まっています。そのため、個人のWILLと組織のWILLが重なり合うと、自分のWILLに対するMUSTが組織のMUSTと連動し、両者が重なりやすくなるといいます。
CANは主観ではなく客観で見つける
CANは「自然とできる行動」であり、強みとも言われます。WILLが主観的な要素だったのに対し、CANはかなり客観的な考え方になります。実際に何ができるのか、どんな行動が得意なのかが問われるからです。金岡さんは、自分で得意だと思っていても、客観的にできていなければCAN=強みとは言えないと指摘します。
この客観性を担保する点が、CANを見つけるうえで最も難しいところです。代表的な理論として、性格を5因子で捉える「ビッグファイブ」や、才能診断ツールの「ストレングスファインダー」を使って探すケースもあります。
自分にとっては当たり前にできてしまうことでも、はたから見ると人よりできている、あるいは多くの人には自然とできないことが、隠れたCANであることも少なくありません。だからこそ金岡さんは、自己理解コーチやキャリアコンサルタントといった対人支援者との「壁打ち対話」を通じて、客観的にCANを見てもらい、言語化してもらうことが大切だと語っています。
まとめ
今回は番組リニューアルの背景とともに、1月のテーマであるWILL・CAN・MUST/NEEDの基本が紹介されました。WILLはありたい状態や価値観という主観的な目的、CANは客観性が問われる強み、MUST/NEEDは組織の義務や社会からの需要という位置づけです。
特に、個人のWILLと組織のWILLがどこで重なるかを確かめること、そしてCANは自分では気づきにくいからこそ他者との対話で言語化することが、自分らしいキャリアを描くうえでの鍵になります。まずは自分の4つの要素を問い直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
- 番組は自己理解を「目的」から「手段」に置き換え、自分らしいキャリアを描くことを目的にリニューアルされた
- WILL・CAN・MUSTはリクルートが目標管理ツールとして広め、終身雇用時代の組織論から発展した
- MUSTが強すぎると内発的動機が下がる(アンダーマイニング効果)ため、現代ではNEEDへと柔らかく言い換えられている
- WILLは主観的な価値観・目的で、個人のWILLと組織のWILLの重なりが働き方を左右する
- CANは客観性が問われる強みで、自分では気づきにくいため対人支援者との壁打ち対話が有効
