お酢にハマったきっかけと、餃子とお酢の出会い
番組パーソナリティの小野寺力さんは、餃子のタレがお酢をベースに作られていることを指摘しつつ、お酢自体に注目する機会は少ないのではと問いかけます。
ゲストの岩間明子さんは、日本全国のお酢を研究し、蔵を回りながら学び、2025年5月29日に初の書籍『お酢推すレシピ』を出版した人物です。
岩間さんは、自分がお酢好きだと気づいたのはだいぶ大人になってからだと振り返ります。子どもの頃から酢飯や締めた魚、酸っぱいものが好きだったといいます。
印象的だったのが、町中華の卓上に置かれたお酢のエピソードです。岩間さんはラーメンのためのお酢だと思っていましたが、研究生時代に先生から餃子のためのお酢だと教わったと話します。
あそこのラーメン屋さんにお酢がありましたって言ったら、あそこ餃子あるもんねって言われて。餃子のためのお酢なんだっていうのを大人になって知って。
小野寺さんは、お酢をかけると酸っぱくなると思われがちだが、実は旨味が増したり、油っぽいものが食べやすくなると語ります。岩間さんもこれに強く同意します。
正解のない調味料、お酢の使い方
岩間さんの料理では、お酢はデフォルトで欠かせない存在です。ただし酸っぱくするためではなく、味のベースを作る隠し味として使うといいます。
味のベースをお酢で作り、素材を引き上げた状態で塩や醤油、味噌などを加えると、酸味は遠くに感じる程度で、お酢料理という印象にはなりにくいと説明します。
岩間さんは、お酢は他の調味料との相性が非常に良いと語ります。ソースやケチャップ、マヨネーズ、焼肉のタレにも防腐効果を兼ねてお酢が入っているといいます。
入ってるんだったら入れちゃえばいいじゃんみたいなことが私の中には。そうするとケチャップやマヨネーズの味がより軽やかになったり、大人っぽい味になったりする。
ここで岩間さんは、お酢という調味料の本質的な特徴に触れます。味噌や醤油は塩分があるため最適解があるが、お酢には塩分がないため正解がないというのです。
お酢は無限大 ― 種類と作り方の多様性
小野寺さんが酢の種類の数を尋ねると、岩間さんは日本では無限大にあると言ってもいいと答えます。
JAS規格で認定されているお酢は米酢や黒酢、穀物酢、酒粕の酢など5、6種類ほどで、果実酢はリンゴ酢とブドウ酢しかないといいます。ブドウ酢はワインビネガーのことです。
一方で、規格から外れた挑戦的なお酢も次々と生まれています。青森や石垣島のもの、北海道のハスカップ、梨、柿など、地域の特産物を使ったお酢が各地の蔵元で作られているそうです。
岩間さんによれば、日本ではお酒の種類よりもお酢の種類の方が多いといいます。その背景には酒税法の存在があります。
お酢屋さんって日本酒の免許がないところが多くて、お酒ができた途端にお酢を投入するんですよ。だから飲めなくしちゃう。
さらに岩間さんは、最終形であるお酢がお酒より安いという現状を、悲しいことにと語ります。調味料として扱われるためだといいます。
ブドウを使ったさっぱり系のお酢。
ワインビネガーに煮詰めたブドウ果汁を加え熟成させたもの。糖分が高くこってりしている。
使い分けの前に ― 酸味は教育で覚える味
種類が多いお酢を使い分けるべきか尋ねられ、岩間さんはまずお酢に慣れてほしいと答えます。酸味は教育して覚えていく味だからです。
味には甘味、塩味、旨味、苦味、酸味の5つがありますが、生まれつき備わっているのは甘味、塩味、旨味の3つだといいます。
苦味と酸味は後から学んでいく味で、食事を作る人に教えてもらわないと覚えられないと岩間さんは説明します。苦味は毒、酸味は腐敗の味に近いためだといいます。
そのため、お酢が嫌いな家庭で育つと酸っぱいものを美味しくないと感じやすいといいます。まずは家にあるお酢を使い倒し、酸っぱいと感じたら別のお酢を探すのが良いとアドバイスします。
小野寺さんは千鳥酢の米酢が好きだと話します。岩間さんによれば、千鳥酢は米酢と酒粕の酢がブレンドされており、酒粕の酢が旨味を支えているため料理人に使いやすいのだといいます。
壺で作る伝統製法と、酢酸菌という生き物
話題は黒酢の作り方に移ります。鹿児島の霧島には壺を地面に埋めて作る独特の製法があり、タンクで短時間に作るものとは味が全く違うと岩間さんは語ります。
健康効果の面では、鹿児島の壺で作られた酢の方がお酢のパワーが強いといいます。ただし酸味の元である酢酸自体は、機械作りでも伝統製法でも全てのお酢に入っているとのことです。
続いてお酢の要となる酢酸菌の話になります。酢酸菌はアルコールを好み、空気に触れていないと生きられない菌で、液体の表面に浮かべて発酵させます。
混ぜると酢酸菌ちゃん死んじゃうので、浮かべないといけないんです。弱い子なんです。アルコールが大好きなので、表面にしかいないといけないんですね。
伝統製法では30日から3か月ほどかけて発酵させます。アルコールは軽いため表面に上がり、お酢になると重くなって自然に対流する仕組みだと岩間さんは説明します。
アルコールが表面に
軽いアルコールが液体の上に上がってくる。
酢酸菌が発酵
表面に浮かんだ酢酸菌がアルコールを酢酸に変える。
自然に対流
酢になると重くなり沈み、新しいアルコールが上がってくる。
酢酸菌は醸造協会で販売されておらず、譲り受けるしかないといいます。作り続けないと菌が死んでしまうため、お酢を作らなくなれば廃業を意味するのだそうです。
空気中にも酢酸菌はいますが、お酢屋には膜状になった酢酸菌が大量にいます。その膜の一部を網で取り、新しいアルコールに浮かべることで菌を移植すると説明されます。
餃子はお酢のポテンシャルを測る最強の食材
岩間さんは、餃子のポテンシャルはすごすぎると語ります。しかも水餃子ではなく、焼き目のある焼き餃子であることが重要だといいます。
焼き目も調味料ですからね、あれは。
岩間さんはお酢の試食試飲を毎回餃子で行うといいます。餃子には炭水化物、野菜、豚肉が揃っており、この餃子に合えば大体の料理にいけると判断できるからです。
果物感の強いお酢だと甘く感じて合わないこともありますが、それも学びだといいます。餃子に合えば、煮込みや焼き物、タレとして幅広く使えると感じるそうです。
小野寺さんは、餃子の皮の厚さやベースの味付けの濃さに合わせてお酢を選べば、自分好みの餃子に調整できると語ります。
さっぱりした米酢は油の濃い餃子と、野菜が多いさっぱりした餃子には濃いめの黒酢やバルサミコ酢が合うといった、餃子とお酢のペアリングの楽しみ方を提案します。
さらに1口目と2口目でお酢を変える、ゆかりや豆板醤、柚子胡椒などのスパイスを加えるなど、楽しみ方は無限に広がると2人は語り合います。
小野寺さんはイエローマスタードも酢がベースだと指摘し、餃子との相性を紹介します。岩間さんは酒粕から作る赤酢で餃子を食べると旨味がすごいとおすすめします。
餃子屋の隣でお酢を売りたい ― 2つの多様性の掛け合わせ
岩間さんは、餃子屋さんの隣でお酢を売るのが夢だと語ります。餃子はどこにでもあり、みんなでワイワイ楽しめる国民食だからです。
お酢のフェスがあったら隣で餃子を焼いてほしいみたいな。どうやって食べるんですかって言ったら、餃子買って帰ればいいじゃないですかって言える。
小野寺さんは、餃子もお酢も同じ餃子や酢だと思われがちだが、作る人によって味が違うという点で2人の考えは共通していると語ります。
岩間さんは、ラーメン屋がクラフト醤油で個性を出すように、餃子屋にも推しのお酢の蔵ができたら面白いと期待を寄せます。
小野寺さんは、焼き餃子協会が数か月に一度開く美味しい餃子勉強会にお酢を持ち込み、岩間さんにお酢の魅力を話してもらう構想を提案しました。
お酢の入手先として、下北沢の発酵デパートメントや地方のアンテナショップが紹介されます。岩間さんは、まずは小さな瓶で試せる形が広がってほしいと話します。
まとめ
餃子のタレの脇役に見えるお酢は、種類も作り方も驚くほど多様で、餃子との組み合わせ次第で楽しみ方が無限に広がる奥深い調味料でした。岩間さんの偏愛と、餃子の多様性を追う小野寺さんの視点が響き合う対談となりました。
- お酢は酸っぱくするためではなく、味のベースを作る隠し味として使うと料理が引き立つ。
- 日本のお酢は無限大に近い種類があり、お酒より種類が多く、作り方も蔵ごとに異なる。
- 酸味は生まれつきではなく、教育で覚える味。まずは家のお酢を使い倒すことから。
- 餃子は炭水化物・野菜・豚肉が揃うため、お酢の相性を測る最良の食材になる。
- 餃子の味付けやスパイスに合わせてお酢を選べば、ペアリングの楽しみが無限に広がる。
