「宇都宮といえば餃子」を生むバンドワゴン効果
多くの人が宇都宮餃子に対して「日本の餃子のチャンピオンなんだろう」という印象を持っています。宇都宮に行ったら餃子を食べておかなくちゃ、というほどの認知です。
その理由として小野寺さんが挙げるのが、総務省統計局の家計調査です。餃子の支出金額で宇都宮が長く日本一で、浜松と1位を争ってきました。
この争いはメディアが取り上げやすく、「今年の日本一は宇都宮でした」とテレビに出ると、宇都宮の餃子は日本一なんだと認知が広がります。
そうして宇都宮の餃子屋さんに行列ができ、それをまたテレビが取材する。「宇都宮餃子大人気です」という映像を見て、さらに食べに行く人が増えていきます。
このように、1位のものや行列ができているものを見て「きっと美味しいんだろう」と感じる現象を、バンドワゴン効果と呼びます。
宇都宮餃子で言えば、日本一という情報や友達の体験、テレビの映像から「美味しいのでは」と感じて足を運び、行列を見て「やっぱり人気なんだ」と実感しながら食べる、という流れになります。
そうやって食べていくと、宇都宮餃子の味が普段食べてる餃子の味とどんだけ違うのかってことは一旦置いておいて、美味しいものを食べたんだっていう印象になっていく。
さらに、東京や首都圏から新幹線一本で行けるアクセスの良さも、バンドワゴン効果が働きやすい理由だと小野寺さんは指摘します。
1位陥落でも効くアンダードッグ効果
近年は宮崎市が台頭し、家計調査の支出金額で宇都宮は3位になることも多くなっています。ただ、それはそれで地元の人たちに支持される原因になると小野寺さんは話します。
不利な状況にあるものを応援したくなる、いわゆる判官贔屓の心理を、アンダードッグ効果と呼びます。
宇都宮餃子会は家計調査をそれほど意識していないと話していますが、市民の心理としては浜松や宮崎に負けたくない、地元の餃子をもっと応援しようという気持ちになると考えられます。
2位や3位で悔しいからリベンジしようという気持ちで、地元の餃子屋さんに足が向く。バンドワゴン効果は観光客に、アンダードッグ効果は地元の人に効きます。
キラッセと「食べきれない」ツァイガルニク効果
宇都宮餃子が強い理由として小野寺さんが重視するのが、キラッセという施設の存在です。
宇都宮餃子と一言で言っても店ごとに味が違い、みんみんでも焼き、水、揚げがあります。多種多様なので、全部食べ比べたい気持ちになる人が多いはずです。
キラッセでは、宇都宮みんみん、麺麺、香蘭、龍門、さつきの5店の餃子が常に並び、30種類の日替わりや、1皿で5店舗の味を楽しめる盛り合わせも用意されています。
全部食べてみたくても、一度に全種類は注文できず、食べきれる量でもありません。そのため「また食べに行かなきゃ」となります。
あと少しで中断したもの、最後までやりきれなかったものほど記憶に残りやすい。この現象をツァイガルニク効果と呼びます。
一方の浜松餃子には、こうした施設がありません。石松餃子やムツギクなど人気店はありますが、どこか1店舗行けば満足しやすく、メニューもそれほど多くありません。
浜松は「食べたな、満足」となりやすい。対して宇都宮は「種類が多いのにこれしか食べられなかった」という記憶が残る。食べきれなかったもののほうが強く残ります。
翌日来ればまた違うものが食べられるんだけど、翌日も来られるかわからない。全種類はなかなか制覇できないっていう仕掛けになっていて、すごくいい仕掛けだなと思う。
五感で美味しさをブーストするクロスモーダル効果
キラッセでは餃子を食べられるだけでなく、餃子グッズやお土産も売られています。店では常に餃子が焼かれ、焼く音やごま油の香りがふわっと漂っています。
見た目でも耳でも鼻でも、五感で餃子の美味しさを感じてしまう仕掛けが施設の中に作られている、と小野寺さんは話します。
これを意図しているかどうかは別として、結果的に宇都宮餃子が美味しいという記憶を残し、食べきれなかったという思い入れまで残す仕掛けができています。
食べ比べたい
多店舗の餃子が一度に並ぶ
食べきれない
全種類は制覇できずツァイガルニク効果が働く
五感で味わう
焼く音や香りでクロスモーダル効果が働く
また来たくなる
記憶と思い入れが残りリピートにつながる
宇都宮にあって浜松や宮崎にない強みは、餃子を観光資源として完成させ、施設として提供している点だと小野寺さんはまとめます。短時間で満足させ、食べきれなさを残し、グッズを持ち帰らせる仕掛けです。
ブランドを作る宇都宮餃子会という組織
これらの仕掛けを作っているのが、地元の餃子屋さんたちの協同組合である宇都宮餃子会です。店は味を競い、PRは宇都宮餃子会に任せる形になっています。
宇都宮餃子会は宇都宮市やJRなどとコラボしながら、餃子の観光資源化とブランド化を進めています。事務局長の鈴木さんという方は元広告代理店で、その存在が宇都宮餃子を日本一だと思わせるブランドづくりの理由になっているのではないか、と小野寺さんは話します。
宇都宮には約300店舗があり、そのうち150店舗が宇都宮餃子会に参加しています。店が味を競い、宇都宮餃子会がPRし、多様な餃子が生まれてレベルが上がる。餃子が観光資源になり、観光客も地元の人もいっぱい食べる、という循環ができています。
家計調査は「美味しさ」のランキングではない
ここまであえて、家計調査で1位という話と美味しいという話をごちゃまぜに語ってきた、と小野寺さんは種明かしをします。そこには誤解があると言います。
家計調査は、世帯が何にいくら使っているかの統計です。いくら使ったか、何回買ったかのランキングであって、美味しさとは全く関係ありません。
それをあたかも美味しさのランキングのように錯覚してしまう。そこに心理効果があるのではないか、というのが今回の話の出発点だったと小野寺さんは説明します。
そのうえで、宇都宮餃子会は心理効果を悪用した誘導などは全くしていないと強調します。餃子をもっと知ってもらうために真剣に考えた施策が、結果として心理的に説明できるだけだといいます。
宇都宮餃子会は数年前から、家計調査の支出金額が日本一という点にはこだわりがないと話しています。日本一を使ってブランディングしているわけではなく、「多くの人が食べた、美味しかった」という別方向のブランディングをすでに進めているとのことです。
本当に堂々と王道を歩いているだけで、宇都宮餃子っていうブランドが大きくなっていく状況になっている。ビジネスマンの一人として、こういうブランドの作り方は尊敬しかない。
心理効果と景品表示法を知る意味
番組の締めとして、小野寺さんはバンドワゴン効果などの心理効果は簡単に強い効果があり、餃子に限らず多くの場面で使われていると話します。
だからこそ、景品表示法という法律があり、こうした心理効果を悪用させないルールが決まっています。根拠のないナンバーワンという表現は、景品表示法の違反になります。
消費者側も、こうした心理効果を知っていれば無駄に騙されず、自分の目で良いものを選べるようになると小野寺さんは話します。
売る方も買う方も、心理効果と景品表示法を知っておいて損はない。まずは消費者庁のホームページで景品表示法を読んでおくことを勧めています。
まとめ
宇都宮餃子が日本一と呼ばれる背景には、複数の心理効果とキラッセという施設、そして宇都宮餃子会という組織の王道のブランドづくりがありました。家計調査は美味しさのランキングではないという前提も、あわせて押さえておきたいポイントです。
- 家計調査の順位争いはバンドワゴン効果を生み、1位陥落時はアンダードッグ効果で地元の支持を集める
- キラッセの「食べきれなさ」がツァイガルニク効果を、焼く音や香りがクロスモーダル効果を働かせる
- 仕掛けを支えるのは宇都宮餃子会という協同組合で、店が味を競いPRを一元化する循環ができている
- 家計調査は支出額の統計であり、美味しさのランキングではない
- 心理効果と景品表示法を知ることで、売る側も買う側も賢く判断できる
