リスナーの声と、言語化しづらい「組織文化」への入り口
第9回はリスナーからのお便り紹介から始まります。自分の所属組織が「おいしい組織」だとわかって嬉しいという声や、料理を作りながら聴いているという声が届いたと紹介されました。
私(池原)の話を聞いて、カレー作りを見よう見まねで奮闘している姿に励まされる、というお便りをいただいて、もうほんとその通りですというところで、とっても嬉しかったですね。
そのうえで、この回のテーマ「らしさが生きる組織文化のレシピ」に入っていきます。池原さんは、組織文化はわかっているようで言語化が難しいと切り出します。
組織文化って、なんかふわっとわかっているようで、何なんだっけって言語化するのめちゃむずくないですか?
宇尾野さんも、支援の現場で「組織文化を良くしたい」という相談を受けるとき、抽象的な話になりやすいと応じます。まず「それって何のことですか」というところから始まるのが、よくある場面だといいます。
一方で、転職やコミュニティの移動で「前の会社と違う」という空気の違いは、多くの人が肌で感じているとも話されました。フィットしているときは気づきにくく、違和感のある組織にいると強烈に感じる、というのがその特徴です。
「リーダーがいないとき」の習慣という定義
組織文化とは何か。宇尾野さんは、経営者やリーダー向けに話すときの定義を示します。それは、リーダーがいないときに、所属する人が自然に行動・発言する習慣だというものです。
その習慣が事業にプラスに働くなら促進し、マイナスに働いているなら調整する、という向き合い方になります。池原さんは、この定義のミソを「リーダーがいない時のメンバーの振る舞い」だと確認します。
宇尾野さんは、リーダーがいる場での振る舞いは、その人が取り巻く空気であって組織文化ではないと補足します。だからこそ、その人がいないときに自然と出る行動・発言が組織文化なのだと説明しました。
あえてその方がいない時に自然とされる行動、発言みたいなところが、(経営者に伝える時の)組織文化の定義というところですかね。
経営者やリーダーが何を大事にし、何をするとまずいのかは、不文律であっても伝わっていきます。それがより言語化されると、具体的な施策に落ちてくると宇尾野さんは話します。
組織文化を成り立たせる「3つの層」
池原さんは、組織文化を整理するうえでしっくりきた枠組みとして、組織心理学者エドガー・シャインの「3つの層」を紹介します。
一番上の表面的な層は、パッと見てわかるオフィスの空気感や従業員の服装、会話の頻度などです。池原さんは、収録場所であるChronicleのオフィスがアートでスタイリッシュな点を例に挙げました。
その一段下にあるのが、組織が掲げる公式なルールです。ビジョン、ミッション、バリューや「顧客第一」といった、オフィシャルに示された価値観がこの層にあたります。
そしてもっとも奥にあるのが、無意識に共有されている前提です。宇尾野さんが話した「リーダーがいないときにどう振る舞うか」は、この深層の層に位置づけられます。
宇尾野さんは、これらを総称して組織文化と呼ぶため、話し手が表層・中間・深層のどこを指しているかで言葉の取り扱いが変わると指摘します。範囲が広い言葉だからこそ、丁寧に扱う必要があるといいます。
探索期。創業者の熱に「乗っかれるか」
ここから、成長フェーズごとの組織文化の違いに話が移ります。池原さんは、3人のときと3000人のときでは文化が全然違うはずだと問いかけます。
最初の段階を宇尾野さんは「探索期」と呼びます。事業も文化も、創業者の情熱や、何かを探索しようという起点からできてくる段階です。だからこそ、その人と一緒に探索できるか、その熱に乗っかりきれるかが文化づくりのポイントになります。
池原さんは、初期段階では同質性の高さがむしろ必要かと尋ねます。宇尾野さんは、同質的な部分もある一方で、探索期は正解がないシチュエーションだと応じます。
リーダーの情熱で「ここは一定正解だろう」と置いたものを中心にしつつ、別の捉え方や考えを一緒に循環させて探索できるかが重要だといいます。そのうえで、最後は何かしらで決めて前に進むことが、この時期の意思決定として大切だと話されました。
(創業から)一桁ぐらいのメンバーの時は、創業者の情熱で全てバーっといくので、即断即決していこうよ、というカルチャーが共通項になっていきやすいのかなと。
一方で、最初から役割分担が強すぎると「ここは自分の責任ではない」となりがちで、まだ分担するレベルではないと宇尾野さんは指摘します。分担するのか、あえて越境を促すのかが、創業期の難しいところだと語られました。
拡張期。定着・再現と「フィードバック」
30人ほどになると、いわゆる「30人の壁」が語られます。池原さんは、これはカルチャーの転換期でもあるとみて、探索期の次のフェーズを尋ねます。
宇尾野さんは、この段階のキーワードを「定着」と「再現」だと話します。一定のモデルでいけるとわかったものを多くの人に届け、それがちゃんと届いているかを確認し、必要ならチューニングする段階です。
そのために重要になるのが、隣の部署と自分のチームが連動するためのフィードバックだといいます。新しいメンバーにも同じことを再現してもらうことが、組織文化の面で大切になるという整理です。
池原さんは、自社でもフィードバックを大事な行動規範に入れていると明かします。そのうえで、フィードバックの語源にある意味を紹介しました。
フィードバックって実は軍事用語で、ミサイルを撃った後に目的地からどれくらい逸れているかを伝えることなんですよ。だから人格批判ではなくて、いいですよ、ちょっとずれてるよと言ってあげないと、再現性を持ったプロダクトにはならないかなと。
宇尾野さんは、フィードバックという言葉の使われ方は多様だと応じます。だからこそ「この会社におけるフィードバックとは何か」を定義すること自体が、組織文化づくりにあたると受け止めました。
50〜100人。ルール設計と情報の統制
さらに拡大し、50人から100人あたりになると、組織文化は初期と大きく変わると池原さんは指摘します。
宇尾野さんは、この段階では役割分担が綺麗になされ、意思決定する人とそれを支える人という構図が生まれると話します。部署も増え、コミュニケーションが複雑になる局面です。
そのため、情報を丁寧に構造化し、何をすれば正しい情報のルートに乗れるのかを整えることが必要になります。ルールの設計や情報の統制がポイントになるタイミングだと語られました。
リモートで文化はつくれるか
話題は働き方に移ります。池原さんは、コロナ禍でフルリモートが増えた後、出勤に戻す会社も多いなかで、カルチャーづくりはフルリモートだと難しいのかと尋ねます。
宇尾野さんは、リモート・出社・ハイブリッドのいずれでも、日常をどれだけ同期できるかがポイントだと応じます。出社していれば他者の行動が情報として入りやすい一方、リモートでは意識して見せないと暗黙の了解が伝わりにくいと説明します。
リモートワークだと(自分の状態を)あえて表現したり、その場にどんな状態になっているかを見せないと、なかなか暗黙の了解では伝わらないので。
池原さんは、リモートのほうがより細やかな自己表現や他者理解の工夫が要るかもしれないと受けます。
一方で宇尾野さんは、出社なら何も残さなくてよいわけではないと補足します。出社だからこそできるコミュニケーションのあり方や、情報の残し方も考えるべきだといいます。
池原さんは、30人ほどまではフルリモートで、そこから人が増えてコミュニケーションがうまくいかなくなり、出社に戻すか悩む経営者は意外に多いのではないかと話します。宇尾野さん自身も、この2〜3か月で出社への切り替えをどう社員に説明するか、10回はくだらないほど会話していると明かしました。
変わりにくい文化を、早めに手を打つ
宇尾野さんは、組織文化は変えづらく、変わりにくいものだと話します。定着すれば変わらない一方、変えたいとなると時間がかかるのがその特徴です。
(組織文化は)変えようとなっても時間がかかるものですし、逆に言うと一回定着すれば変わらない。ただ変えたいとなると、またさらに変える時間もかかる。
だからこそ、この先どうなりたいかを見据えて、早めに今のうちから手を打って変えていくことがポイントだといいます。池原さんも、5年後・10年後の青写真を描きながら今をどう実装するかが大事だと受けました。
カルチャー崩壊はどこから始まるか
後半は「レシピの失敗談」に移ります。池原さんは、経営者同士で飲みに行くと「カルチャー崩壊」というパワーワードが溢れ出ると話します。みんな経験し悩んでいるのに、表には出てこない話題だといいます。
宇尾野さんは、崩壊の起点の一つに、経営の急ぎや焦りを挙げます。もっと大事なことを見すぎて盲目的になり、採用のミスや制度の運用不全、伝えるべきメッセージの伝え漏れにつながる、という流れです。
(経営が)急ぎとか焦りで、もっと大事なことを見すぎて盲目的になって、採用のミスにつながったり、伝えるべきメッセージが伝えきれてなかったり、というところから組織崩壊に至る。
兆候の掴み方について、宇尾野さんはサーベイや社員の声を挙げます。「思っている感じと違う」「以前言った意思決定がそうなっていない」といった本当の兆しから見に行くといいます。
採用ミスの兆候であれば、チームのコンディションや実績、上がってくる声を確認し、その対立が健全なものかを見ていきます。経営者は自身の認知の限界を超えた部門の実態を捉えづらいため、いろんなところから情報を引き出してアクセスすることが大事だと語られました。
池原さんは、崩壊の大きなポイントを2つに整理します。1つは急ぎすぎ・急成長で、事業の成長が先に走り、オンボーディングが追いつかないまま今を回す状態です。もう1つは経営者の認知の限界で、創業者と周りのスピード感のずれから生じるミスマッチだといいます。
急ぎ・焦り
急成長で人手が足りず、大事なことを見すぎて盲目的になる
個別のミス
採用のミス、制度の運用不全、メッセージの伝え漏れが起きる
組織崩壊
個々の事象が積み重なり、組織崩壊につながっていく
崩壊を防ぐ「巻き込み」と美味しいレシピ
崩壊を防ぐ入り口として、宇尾野さんは、感覚を完全に同期できる経営メンバーを採用したり、社員から抜擢して背中を託す動きを挙げます。そのうえで、言行一致が欠かせないといいます。
言ってることとやってることを合わせにいかないと、「聞いてた組織文化とちょっと違うんだけど」と社員が思い始めて、その人たちも羅針盤がなくなって迷っていく。
池原さんは、一人だけで頑張りすぎず、一緒に作っていくことが、うまくいく秘訣かもしれないと受けます。経営メンバーやリーダー、メンバーを巻き込みながら育てる姿勢です。
宇尾野さんも、ちょっとした違和感や「この形で本当にいいのか」を、経営者だけでなく周りも含めて会話できることが、組織崩壊を防ぐ最初の入り口だと話しました。
最後に成功のレシピが語られます。宇尾野さんは、バリューで行動基準を示し、それを採用の入り口の基準にし、評価にもつなげる、という言語化されたものが会社の運営ルールに紐付いていることを、最初にやるべきテーマの一つに挙げます。
大仰にビジョン、ミッション、バリューをバーンと掲げてそれっきりだと全然連動していない。評価にもつながるし、日々の指導にもつながるように落とし込んで、みんながどう行動すべきかを日々合わせてあげる。
さらに宇尾野さんは、貼り出して終わりにしがちな言語化された言葉に、なぜこれができたのか、推進すると何が生まれるのかという文脈を経営者が言葉や表現で加えることが、文化を強固にすると話します。
池原さんは、フェーズごとの大事なことや成功と失敗の話を通じて、自分のチームに照らしたときの矢印が見えた気がすると振り返ります。宇尾野さんも、目の前で起きている現象を大切に扱い、自分なりのいい組織をつくってほしいと締めくくりました。
まとめ
組織文化は「リーダーがいないときの習慣」であり、表層・中間・深層の3層で成り立ちます。探索期・拡張期・拡大期とフェーズごとに育て方が変わり、変わりにくいからこそ早めに手を打ち、仲間を巻き込みながら言行一致で作っていくことが、崩壊を防ぎ「らしさ」を生かす鍵になります。
- 組織文化は、リーダー不在時に人が自然に取る行動・発言の習慣として定義できる
- 文化は表層(空気感)・中間(掲げる価値観)・深層(無意識の前提)の3層で捉える
- 探索期は創業者の熱への同期、拡張期は定着・再現とフィードバック、拡大期はルール設計と情報統制が鍵
- 文化は変わりにくいため、先を見据えて早めに手を打つ
- 崩壊は急ぎ・焦りと認知の限界から始まる。仲間を巻き込み言行一致で防ぐ



