「文化中毒」とは何か──最高の文化が盲信に変わる瞬間
今回のテーマは「文化中毒との向き合い方」です。前回の組織文化の話を受けて、その文化が行き過ぎたときに何が起きるのかを扱います。
宇尾野さんは文化中毒を、文化を盲目的に信じすぎたり、組織に過剰適応してしまう状態だと説明します。
もうこの文化最高みたいな状態から、いろんなことに盲目的に信じすぎてしまったりとか、ある種その組織に過剰に適応してしまって、新しいチャンスに気づけなかったり。
さらに、その文化に当てはまらない人への排他性が強くなっていくことも、中毒の特徴だといいます。
文化中毒っていうのも、なかなかこう強烈な四文字でございますが、それがこう行き過ぎて中毒になるみたいなニュアンスですか。
池原さんは前回の話を踏まえ、組織風土にフィットする人材を大事にすることの裏返しとして、そこにはまらないものをすべて拒絶してしまう状態だと整理します。
宇尾野さんは、これが過剰な管理や官僚的な動きにつながり、長い目で見ると生産性が落ちていく、場合によっては不正が起きる状態を指すと補足します。
同質性の落とし穴──「みんなAならA」の組織が見落とすもの
池原さんは、組織の多様性をテーマにした講演でよく出てくる「グループシンク」という概念を紹介します。
同質性が高い組織はスピードが速く見えても、見落としが発生しやすいという研究データがあると池原さんは話します。
みんな似たような属性で、似たような価値観で、Aって言ったらAみたいな集団は、スピードは速いように見えても、見落としが発生する。
文化の醸成はプラスに働く面もある一方で、行き過ぎると見落としや、経営者の指示に従うだけで新しいものが生まれない状態につながると指摘されます。
宇尾野さんは、自分たちが今中毒状態なのか、その先にどんなリスクがあるのかを何らかの方法で確認しないと、その状態が続いてしまうと話します。
盲信か定着か──社員が文化を「語れるか」で見分ける
経営者は、社員がミッションやバリューに共感していると、うまくいったと思いがちです。ここでどう気づくかが問われます。
宇尾野さんが挙げる見分け方は、社員に「この組織文化は何のためにあるのか」を聞いてみることです。
自分たちがこのビジネスを成功させるとか、この状況をより良くするためにこの文化を活用してるんだっていう、意味や背景を語れるかっていうところは非常にポイント。
池原さんは、これをカルチャーが目的になっているのか、目標達成のための手段として解釈できているのかの違いだと言い換えます。
ただし、目的的に文化を活用してきた立場からすると、それを客観的に確認するのは少し野暮でもあると宇尾野さんは付け加えます。
今更とか思っちゃいますよね。
そこで宇尾野さんは、批判的に見なくても、半年や1年に一度「この組織文化って何だっけ」と棚卸しする場を作ることが大事なプロセスだと話します。
心理的安全性がなければ測れない──確認するサイクルの作り方
池原さんは、文化中毒を確かめたり和らげたりするためのもう一つのキーワードとして、心理的安全性を挙げます。
経営者にこのカルチャー何のためにあるって言った時に、それすら経営者に忖度して話すと、結局それって測りようがないですよね。
宇尾野さんは、経営者自身にちゃんと確認がされるプロセスやサイクルをどう作るかがポイントだと応じます。
具体策として、全社員で確認する場を年に一度設けるほか、投資家や新卒への会社説明の場で発言し、質問を受ける機会を定期的に置くことが挙げられます。
池原さんは、文化をアップデートし空気を入れ替えるために、儀式やイベント、聞く会をあえて設計したほうがよいかもしれないと提案します。
リクルートの「伝説」──文化を運ぶナラティブの力
宇尾野さんは、文化の浸透や定着では、儀式やシンボルとともに、非公式な場で社員が会社をどう語っているかを大事にしていると話します。
どういう噂話とか、普段の非公式な場で会社のことを皆さんがどう語ってるかっていうのをすごく大事にしてるので、飲み会の時に聞いてみたらどうですか。
例として、宇尾野さんは過去に在籍したリクルートを「伝説だらけ」だと振り返ります。
江副さんに一度も会ったことないんですけど、多分江副さんのエピソード5、6個ぐらい語れるんです。
新卒採用のために頭取とのアポをキャンセルしたといった真偽不明の逸話が、先輩から脈々と語られる。宇尾野さんはこれがリクルートの「採用が一番大事」という文化を運んできたと説明します。
池原さんは、「新卒採用は大事」と伝えるより、江副さんの行動を物語として語るほうが染みていくと応じます。
宇尾野さんは、語り継がれるナラティブは20秒から30秒で語れる長さであることが多く、転送しやすさが非常に大事だと指摘します。
バランスが崩れると事業が立て直せない──常時のメンテナンス
宇尾野さんは、文化がしっかりした会社と、それが過剰適応した文化中毒とは紐付きやすいと話します。中毒にならず、いい形で浸透させるバランス感覚が経営者に求められます。
バランスが良くないと、不正や市場悪化といった外圧のとき、文化が起点で事業を立て直せない状況になると指摘されます。
バランスが良くない時に、外圧、不正が起きましたとか、マーケットが苦しい状況になった時に、文化が起点で事業を立て直せないみたいなシチュエーションになってくる。
池原さんは、経営が苦しく提携統合しようとしても、上層部の派閥争いで流れてしまうニュースを例に挙げます。
宇尾野さんは、文化が自社でどういう位置づけで語り継がれるものかを常日頃言語化する必要があり、これ自体が会社の大事な経営資源だと話します。
凡人の経営者はどう文化を作るか──キーマンを巻き込む情報設計
池原さんは、江副さんのようなカリスマではない「凡人」が経営者になったとき、どうカルチャーを作ればいいのか迷うと問いかけます。
一般人が経営者になったとき、うまくカルチャーを作って振る舞うために何をすればいいのか。
池原 真佐子 さんからの質問
宇尾野さんは、文化づくりは結局「情報の設計」であり、会社の中でどんな情報が流通しているかをコントロールする一つの変数だと答えます。情報をうまく流せるキーマンを巻き込み、実現したい文化の要素を一緒に言語化しながら作るのがよいといいます。
宇尾野さんが例えとして挙げるのは、給湯室で井戸端会議に加わり、社内の多くの人を知っている人物です。
この人には正しい会社の情報をお伝えしないと、曲がって情報が伝わっちゃうんで、この人とうまく組織文化を作るプロジェクトを組む。
池原さんは、一人で奮闘せず、コミュニケーションを意図的に設計することが大事だと受けます。内部の右腕だけでなく、外部のプロフェッショナルと二人三脚で進める選択肢にも触れます。
キーマンを特定
給湯室の井戸端会議のように情報が集まる社内のキーパーソンを見つける
正しい情報を渡す
その人に正確な会社の情報を伝え、情報が曲がって広がるのを防ぐ
一緒に言語化
実現したい文化の要素を共有し、どう伝わり流れるかを相談しながら作る
リモートで揺れるコミュニケーション──「マルハラ」と多様性
池原さんは自社の例として、リモートワークが多く、当初コミュニケーション設計をケアしていなかったことで、意図しない形で情報が伝わった経験を挙げます。
対策として、業務のやり取りをすべて表で行い、ナレッジが表に出てくる仕組みを意識したと話します。
テキスト表現の得手不得手や絵文字の使い方に加え、池原さんは「マルハラ」という言葉を紹介します。
若い人とかはまるで終わると、なんか冷たくされてるって感じる。
良かれと思ったコミュニケーションがそう伝わらないギャップ、つまり多様性がキーワードだと池原さんは指摘します。
宇尾野さんは、整えるべき部分と自由度のある部分をいい塩梅で設計できることが、テキストコミュニケーションが上手な会社の条件だと話します。
第三者が入るワークショップ──代表の警戒が変わるまで
宇尾野さんは、その日の朝のクライアント会議を例に挙げます。30人規模からさらに増やそうというタイミングで、社長のメッセージは強い一方、他のメンバーが何を考えているか分かりにくい状態でした。
そこで全員参加のワークショップを設計し、自己開示やこれからやりたいことを、正解を求めず全部場に出そうとしたといいます。
その中で、こうしたい、こういうのは嫌だったといったコミュニケーションの希望が出てきて、文化の浸透の仕方を調整することになりました。
最初、代表はワークショップに警戒していたものの、実施後には評価が変わったと宇尾野さんは振り返ります。
一旦もう騙されたと思ってやりましょうって言ったら、やってよかったっていう形になる。
池原さんは、これはまさに第三者が入らないとできないワークショップだと応じます。
宇尾野さんは、リーダーが抵抗感のあるものを「まずやってみましょう」と背中を押すのが、自分たちのような外圧の役割だと話します。
緊急になる前に手を入れる──経営資源としての組織文化
池原さんは、コミュニケーションのギャップを埋める設計がカルチャー浸透につながり、中毒にならないために定期的な儀式で状況を把握するチューニングが肝だとまとめます。
宇尾野さんは、今どういう状態かを経営者が認知することに加え、経営者以外がアンテナとなって把握し、変えましょうというフィードバックが生まれる仕組みが、組織を変える入り口だと話します。
池原さんは、組織文化を「緊急ではないが重要な事項」に挙げておくことが重要だと指摘します。
宇尾野さんは、海外の長期の機関投資家が会社のカルチャーや習慣ばかりを2時間ほど聞いてきた事例を紹介します。
その投資家の背景には、組織文化が経営の成績において最も影響が高い変数だという考えがあり、文化がビジネスと紐付いて作られているかを問い続けていたといいます。
女性活躍は組織風土の代理指標──文化と業績のつながり
池原さんは、海外投資家の約6割が意思決定層のジェンダーバランスを見るという話を紹介します。ただし女性の登用と業績の相関は科学的に明確とは言えないと補足します。
その上で、女性活躍は組織風土の代理指標だとよく言われると池原さんは説明します。
新卒に3割女性がいたら、大体部長にも3割いるとか、女性以外の人も若いからダメとか、新卒じゃないからダメじゃなくて、普通に能力を認められていく組織風土。
宇尾野さんは、組織文化と業績は完全な因果関係ばかりではないものの、いろんな変数を蓄積していけば文化ができ、業績が伸びるものが整うと応じます。
池原さんは「成功の循環モデル」に触れ、関係の質、思考の質、行動の質が高まることで業績につながる流れが、組織カルチャーと連動していると話します。
関係の質
風通しのよい関係を高める
思考の質
関係の質が高まると思考の質が高まる
行動の質
思考の質が高まると行動の質が高まる
結果の質
行動の質が高まり業績につながる
宇尾野さんは、この成功の循環を作るのも、歪みが起きた循環を調整するのも組織文化だとして、向き合う時間を作ってほしいと締めくくります。
まとめ
文化中毒は、最高の文化への盲信や過剰適応から生まれ、見落としや不正のリスクにつながります。盲信か定着かを社員が語れるかで見分け、緊急になる前に定期的に手を入れることが、経営資源としての組織文化を守る鍵だと語られました。
- 文化中毒は盲目的な信頼・過剰適応・排他性として現れ、長期的に生産性を下げる
- 盲信か定着かは「文化を手段として語れるか」で見分けられる
- 心理的安全性がなければ文化の状態は正しく測れない
- 文化はナラティブや儀式で運ばれ、キーマンを巻き込む情報設計で育つ
- 組織文化は経営資源であり、緊急になる前に重要度を上げて定期的に点検する



