不正は「縁がない」と思う会社ほど危ない
第53回のテーマは、人やお金にまつわる組織の不正です。宇尾野さんは、自分の会社には縁がないと思っている会社ほど、かえって危ないのではないかと切り出します。
池原さんも、多くのリスナーが経営者や人事、リーダーである以上、これまで不正がまったくゼロだった組織は少ないのではないかと投げかけます。
ちっちゃい不正から本当に大きな事件になることまで、世の中ニュースで今溢れている中で、じゃあどう見抜く、どう防ぐっていうのは結構あんまりない(扱われない)テーマですかね。
宇尾野さんによれば、「不正を何とかしてほしい」という入り口で相談が来ることは実は少ないといいます。むしろ、不正が起きない組織の構造やルールメイクを一緒に考える形で関わることが多いそうです。
私個人の考え方としては、個人の資質っていうよりも、やっぱり組織の構造で生まれるんだろうなというふうには思ってる。
ここに、この回の中心となる視点が置かれます。不正は個人の資質より、組織の構造から生まれるという前提で、話は具体例へと進んでいきます。
架空発注・粉飾・経歴詐称、実際にある不正の例
池原さんが、お話しできる範囲で身近にあった事例を尋ねます。宇尾野さんはまず、お金にまつわる不正の例を挙げます。
実際に発注してない会社に発注した的な架空の仕入れとか請求みたいなところもあったりとか、そこまで在庫ないのに在庫がたくさんあるように見せたりとか、みたいな粉飾決算的なもの。
池原さんも、周りの起業家や投資家からお金まわりの不正の話を聞くことがあるといいます。そのうえで、多くの不正には共通点があると指摘します。
最初は多分小さい不正から、ちょっと100円、200円から1000円、1万円になり、1万円がすでに大きくなりっていう、小さいところから始まって、それを放置するときっと大きくなる。
人事まわりの不正としては、経歴の詐称がよくあると宇尾野さんは話します。最近では、面接で話した内容がすべて嘘だったというケースがニュースになったといいます。
さらに宇尾野さんは、履歴書に書かれた本人とは別の人物が面接に来て選考が進んでいた「なりすまし」の話も紹介します。想像を超える不正が、実際にちょこちょこ起きているようです。
身なり・発言の圧・説明の曖昧さ、予兆の見つけ方
不正を見抜くポイントについて、宇尾野さんは、いろいろな予兆があると話します。お金まわりでわかりやすいのは、経理担当者の身なりが急に良くなるといった変化です。
お金周りの話でいくと、その経理の人が急にちょっと身なりが良くなったとか、わかりやすく持ってるものが変わった。
一方で、宇尾野さんは、目に見える変化がなくても現れる予兆もあると続けます。これまで強く言ってこなかった人の発言の圧が強くなる、プライベートの説明が曖昧になる、といった変化です。
こうした予兆に、周りの管理職やメンバーが気づけるかが大切だと宇尾野さんは言います。ただ、明確にならないと内部通報などのアラートは上がってきにくいとも指摘します。
池原さんは、予兆に気づいても「最近発言がきついんじゃない?」とは踏み込みにくく、そこから不正を疑う次のステップは大きいのではないかと問いかけます。
いきなり何か調査が始まるとか、第三者委員会が開かれるってことは、当然ながら情報が不十分なのでできない。
そのうえで宇尾野さんは、予兆をきっかけにするしないにかかわらず、担当者の業務を定期的に監査・棚卸ししていく仕組みが持てるとよいと話します。
属人化とまとまった休暇、不正が起きにくい業務設計
予兆の有無とは別に、宇尾野さんは、業務が属人化して一人で仕事を完結できる構図そのものが不正を招くと指摘します。
業務が常態化したり属人化したりとか、一人でその全ての仕事を完結するような構図ですと、当然ながら不正はもう勝手に起きる状態にもなる。
対策として宇尾野さんが挙げるのは、定期的な役割分担です。最初に触った人が最後まで担当するのではなく、業務プロセスの途中でチェックや担当のスイッチを入れる方法です。生産性は多少下がっても、不正によるダメージのリスクは減るといいます。
池原さんは、外資系企業がまとまった休みを必ず取らせる設計を例に挙げます。その間に別の人が仕事を代わることで、属人化を防ぎ、不正や情報漏洩をチェックする機能も兼ねていると聞いたことがあるそうです。
宇尾野さんは、接客や販売の現場を例に、接客からお金の発生まで一人で見てしまうケースを挙げます。そこにAIや共通アカウントを入れ、誰か一人が仕組みとしてプロセスに介在できるように設計することが大切な防止策だと話します。
「これが不正だと思っていない」という初動の落とし穴
池原さんは、小さいところから気が大きくなり大胆になっていくのは個人の資質なのか、組織や風土の問題なのかと問いかけます。
宇尾野さんは、研究でも示されているとして、不正をしている人は初動の段階で、その行為自体を不正だと認識していないケースがあると話します。
その不正自体が「あ、これって不正だったんですね」とか、「そういうことだったんだ」っていうことを後から知るっていうのは、ある種の認知バイアス。
だからこそ会社は、何が不正にあたるのかを明確に認定し、研修などで教える必要があると宇尾野さんは言います。何が不正かが示されないと、誤った認知のまま行為が肥大化し、割れ窓理論と掛け合わさっていくという指摘です。
不正の多くは役員・管理職から。倫理観は上からインストールされる
池原さんは、ニュースになる大きな不正には風土の問題もあるのではないかと切り込みます。悪いと思っても言えない、特に上から要求された不正にノーと言えない風土があると指摘します。
この会計の不正みたいなところで切り取っても、ほとんどが役員とか管理職の方がやってるっていう、これはもう調査結果が出てる。
本来は内部統制をリードすべき役員や管理職が不正の発端になっている、という指摘です。宇尾野さんは、そうした業務フローを持っていること自体も一因だと補足します。
そのうえで宇尾野さんは、いざ不正が起きたり小さな予兆が現れたときに、組織としてどう毅然と対応するかを定めた「不正対応マニュアル」の必要性にも触れます。
発覚したときの初動。隠すか、オープンにするか
池原さんが、不正が発覚したときの初動をどう動けばよいかを尋ねます。宇尾野さんは、組織として隠そうとするかオープンにしようとするかで、その後の分岐が大きく変わると答えます。
宇尾野さんによれば、大きな組織ぐるみの不正の多くは、初動でわかっていても隠していたケースだといいます。それが氷山の一角で、別のものが現れて初めて出さざるを得なくなり、事が大きくなっていくという流れです。
何か起きた時には必ずそこに早めにオープンにする透明性を持つもありますし、毅然と対応するもそうですし、それを厳粛に対応するプロセスに乗せるっていうことは非常に大事。
初動でわかっていても隠し、氷山の一角が露呈して事が大きくなる
早めに透明性を持ち、毅然と厳粛なプロセスに乗せて対応する
池原さんは、起きた不正を正すことと、不正が起きないようにすること、この2軸で動く必要があると整理します。つまびらかにしていくプロセスでは、隠さない姿勢と、きちんと償う姿勢が欠かせないと話します。
通報者は称賛して守る。倫理観は役員陣から
宇尾野さんは、内部通報の仕組みの重要性に触れます。通報する側には「言っていいのか」「裏切り者と言われないか」というためらいが生じやすいと指摘します。
だからこそ、通報者は組織の危ういところを見つけてくれた人として称賛し、その人の安全を守ることが大切だと宇尾野さんは言います。独立した窓口を作ることもそのひとつです。
さらに宇尾野さんは、通報を受け取ったリーダーがどう対処するかを従業員は見ていると話します。有事のCXOのリーダーシップの倫理性は、組織全体の不正への倫理観と有意に相関していると研究でも示されているそうです。
しっかりとした誠実さと倫理観が役員陣にないと、それは組織にもインストールしないですよね。
宇尾野さんは、外部から支援するときの実感として、リーダーの姿勢に差があると話します。「ちゃんとやろう」というリーダーもいれば、不正を自分たちには関係ない、面倒だと捉える人もいて、有事の準備や反応の仕方に大きな違いが出るといいます。
起きてからでは遅い。まず不正対策に向き合う
池原さんは、初動を掴んだら早めに予防・対処しないと、後から大きくなり組織の存在を揺るがしかねないと締めくくります。メンバーを信頼しつつ、確認のプロセスは怠らないことが大切だと話します。
このプロセス設計、めんどくさいとか、うちには関係ないっていう風にもし思ってらっしゃる方がいらしても、ここはちょっと一回向き合ってもらって。
宇尾野さんは、自分たちの業務でどんな不正が起きそうかを「たられば」で考える時間を持つことを勧めます。不正予兆チェックリストや対応プロトコルは優先順位が上がりにくいものの、起きてからだと遅いため、事前に作っておくとよいと話します。
最後に2人は、このテーマは守秘義務がないと話せない内容が多く、企業や投資家とのクローズドな勉強会でこそ実践的になり得ると振り返り、この回を締めくくります。
まとめ
この回は、組織の不正を個人の資質だけでなく組織の構造の問題として捉え、予兆の見抜き方から初動対応までを整理する内容でした。属人化を避ける業務設計、隠さずオープンにする姿勢、通報者を守る仕組み、そして役員陣の倫理観が、不正を防ぐ土台になると語られています。
- 不正は個人の資質より、業務の属人化など組織の構造から生まれやすい
- 身なり・発言の圧・説明の曖昧さなどの予兆に気づき、定期的な業務の棚卸しで備える
- 不正をする人は初動でそれを不正と認識していないため、何が不正かを明確に教える必要がある
- 発覚時は隠さずオープンにし、毅然と厳粛なプロセスで対応する。通報者は称賛して守る
- 役員陣に倫理観がないと組織にもインストールされない。起きてからでは遅いので事前に対策を用意する



