ベトナムからのお便りと「勉強会のテーマ設定」の悩み
今回は、リスナーから届いたお便りをテーマに話が進みます。紹介されたのは、ハノイゆるキャリアさんという、ベトナムから番組を聴いているリスナーからのお便りです。
この方は、ベトナムで活躍する日本人の女性経営者やマネージャー層に向けて、数ヶ月に一回、勉強会や懇親会を積極的に開催するようになったといいます。
そのうえでの悩みが、毎回の勉強会のテーマ設定です。これまでは「来期の目標をどうするか」といったテーマで話してきたものの、毎回どんなテーマにすればよいか迷っている、というものでした。
この方はですね、お名前の通り、なんとベトナムから聞いてくださっていると。
(おいしい組織が)海を越えて聞かれてるということですね。
宇尾野さんは、この相談は社外の勉強会だけの話ではないと指摘します。会社の中で勉強会を開いたり、人事が学んでほしいことを研修として設計したりする場面とも、形として似ているというわけです。
そのチーム内とか組織内、コミュニティ内の学びみたいなところが、今日テーマ設定できると良いのかなと思ってます。
場を成り立たせる3つの要素。ドメイン・関係構築・実践
宇尾野さんは、共通テーマを持って集まる場を設計するときに大事にしている思想を挙げます。まず1つ目は、参加者が同じ関心や同じ領域を共有できるように、テーマの範囲を設定することです。この範囲を宇尾野さんは「ドメイン」と呼んでいます。
2つ目は、参加者どうしが相互作用する関係性をつくることです。初対面でお互いの理解がない状態だと、どんなに面白いテーマを用意しても会話が一方通行になってしまう、と話します。
3つ目が「実践」です。教科書を読めばわかるような内容ではなく、その場だからこそ聞ける実践知を出せるかが重要だといいます。
共通のドメインがあって、関係構築がされる時間、機会があって、それに対する実践がちゃんと伴っている。これらがちゃんと集まると、実践型コミュニティみたいな方に徐々に進化していく。
ドメインの設定
参加者が共有する同じ関心・領域を置く
関係構築
相互作用できる関係性をつくる時間をつくる
実践
その場・その人だからこそ出せる実践知を共有する
「この場だからこそ」を生む、実践知の共有
3つ目の「実践」について、池原さんが具体的に尋ねます。学んだことをその場で試す時間を設計する、という意味かという問いに、宇尾野さんはそれも一つだと答えます。宿題として持ち寄ってもらう形や、その場で試してみる形が、内容によってはあるといいます。
そのうえで宇尾野さんが最も大事だと強調したのは、その場ならではの実践の共有です。今回の相談であれば、海外で働く経営者だからこそ悩んだこと、やってみて出た結果を共有してもらうことが鍵になると話します。
この場だからこそやっぱ聞けたとか感じれたっていうことがプラスになるんで、結構そこを意識してやっていただくと、だいぶその場の質感とか、皆さんの入り方みたいなところは変わってくる。
池原さんは、人との交流そのものが参加者にとっても主催者にとっても大切だと補足します。会社以外で出会い、今も仲良くしている大事な友人は、何らかの勉強会で出会っているケースが多いと振り返ります。
勉強会が会社になった。事業人の原点
宇尾野さんは、話の流れで自身の会社「事業人」が、もともと勉強会から生まれたことを思い出します。当時は「人事と事業をどちらもやっている人の勉強会」だったといいます。
両方のキャリアを持つ人が集まり、それぞれの会社での悩みや取り組みを順番に共有していました。最初は8人ほどいたものの、朝8時からというストイックな運営を重ねるうちに人が減っていったと話します。
結果的に人が減ってって、最後残った5人で会社作ったっていう感じなんですよね。
池原さんは、この経緯を実践コミュニティが会社になった新しい発展形だと受け止めます。そのうえで、自分が主催する側になることの価値を語ります。
池原さんが昔から大事にしているのは「ハブになる」という考え方です。誰かがやっている場に飛び込むのも大切だが、自分で主催すると情報が自分に集まり、その後の人間関係も豊かになるといいます。
「テーマ設定に悩むこと」自体をテーマにする
相談の中心だったテーマ設定の悩みについて、宇尾野さんはユニークな提案をします。テーマ設定に悩んでいること自体を、勉強会のトピックとして扱ってみてもいいのではないか、というものです。
宇尾野さんは、会社の目標設定に悩むことも、コミュニティのテーマに悩むことも、質的には同じだと捉えています。悩みを場に出すことで、今悩んでいることを話したい人や、興味関心を発信したい人が主体的に動き出す可能性があると話します。
この辺りはなんかもうそのままストレートに(テーマ設定の悩みを)場に出してもらうっていうのも一つかもしれないですね。
池原さんは、みんなが何らかの形で自分ごとにできるテーマがよいと言いつつ、逆にエッジを効かせる方向もあると加えます。朝7時からのようなディープで絞った形も、濃さが出てよいかもしれないと話します。
AI時代だからこそ、閉じた場に価値が出る
宇尾野さんは、AIの時代だからこそコミュニティの価値が高まると感じていると語ります。インターネットでどこでも発信でき、切り抜きや攻撃の対象にもなりうる今、情報を閉じる習性が社会的に強まっていくと見ています。
AIに聞けば答えは返ってくるものの、読み込ませたくない情報も含めて、人は情報を閉じる方向に向かう。そのなかで、開かれた世界と閉じた世界という対比が生まれると宇尾野さんは整理します。
この場だからこそ聞けるとか、この人とのこの関係だから教えてくれるみたいな、この閉じた世界の中での得られる新鮮な情報とか考え方とか学びっていうのは非常に価値がより出てくる。
池原さんは、人がなぜ集まりたがるのかを考えたとき、自分の知恵だけでは進化しないからだと話します。場に集うことで生まれる「集団知」を、人は本能的に求めているのではないかというわけです。
オンラインで誰でも発信でき、AIに聞けば答えが返る。一方で切り抜きや攻撃の対象にもなりうる
その場・その関係だからこそ聞ける新鮮な情報や学びが得られる
自由に話せる場をつくる「オフレコ」というルール
話題は、集まった人の会話が弾まないときのサポートに移ります。宇尾野さんがまず大事にしているのは、特に少人数の場での守秘義務やオフレコのルールです。
この場で話したことは外では話さない、と制約すると、かえってみんなが話しやすくなると宇尾野さんは言います。話す負荷が下がることが理由です。
この場だからこそ聞けるよとか、この場で話すことは他言禁止ねみたいな。そうするとみんな結構自分の話す負荷が下がるんで。
池原さんも、自由に話すにはルールが必要だという点に同感だと応じます。研修の最初に守秘義務を伝えたり、スマホを見ないなど集中するルールを課したりすることがあるといいます。
池原さんは、別の学者の言葉として印象的な表現を紹介します。かっこいいことを言わなくていい、ありのままをこの場で出そう、という考え方です。
池原さんは、ルールがあるからこそ参加者が初めて自由に振る舞えると整理します。場のルールを全員で合意することが重要だと話しています。
ファシリテーターを置くことで場は変わる
宇尾野さんがもう一つ挙げるのは、場のファシリテーターを明確に置くことです。次に誰へ話を振るか、どんな流れをつくるか、時間の余裕はどれくらいかを意識しながら、場が深まる問いを渡せる役割だといいます。
この役割を置くかどうかで場の状態はガラッと変わる、と宇尾野さんは話します。なんとなく誰かが進行し、気になったことを聞くだけの形では、場が散漫になってしまうためです。
宇尾野さんは、うまくいかなかった勉強会の例も挙げます。ネタを持ち込んだ人とファシリテーターが同一で、一番詳しいその人ばかりが発言し、他の人が喋れなくなるパターンです。
その持ち込んだ人とファシリテーターが全部一緒になって、一番詳しいんで、その人がいろいろ発言して、みんな誰も喋れないみたいな。
主催者はみんなに学んで持ち帰ってほしいと思うほど、逆に参加者の思考が深まらないことがある。だからこそ役割分担を意識したいと宇尾野さんは話します。
消化不良の勉強会に共通するパターンと「設計」の大切さ
池原さんは、自身が参加して消化不良だった勉強会にはパターンがあると振り返ります。前半に偉い人の話を聞くのはよいが、後半に何の指示もなく「感想を隣と喋りましょう」となると、自己紹介で終わってしまうといいます。
話に入れなかったり、ずっと喋る人がいて意見を言えなかったりして終わると、「本を読んだ方が早かった」と感じてしまうこともあると池原さんは正直に語ります。
宇尾野さんは、事前の設計がしっかりしていれば、当日に人が来なかったりネタが足りなくなったりしても持ちこたえられると補足します。後半を対話や悩み出しの時間にすると決めておけば、ネタが尽きてもその場で悩みを出してもらえるからです。
そうした設計があると、場としての満足感が高く、つながりや関係構築も進んでいくと宇尾野さんは話します。
人が来ない恐怖と、プロダクトアウトの落とし穴
池原さんは、主催者側の一番の恐怖として「人が来ないこと」を挙げます。よいテーマだと思って出しても、いざとなると人が集まらないのが幹事にとって最もつらいと語ります。
これめっちゃいいテーマ!ってなっても、いざ出してみると人が来なかったっていうのが多分一番の恐怖だと思うんですけど。
宇尾野さんは、こうした空回りを何度も経験したといいます。特に、発信する人の思いが強すぎて主催者になっている場合に起きやすいと分析します。
主催者と発信者が別の場合は、事前にアンケートを取り、周りが本当にそれを求めているのかを確かめる流れが必要だと宇尾野さんは話します。それを怠ると、発信したいことだけが流される「プロダクトアウト」になってしまうためです。
宇尾野さんは、みんなが今悩んでいることを拾えているかが鍵だといいます。例として、AIの使い方のセミナーに人が集まるのは、使わなければいけないのにやり方がわからず取り残される気持ちをうまく拾えているからだと説明します。
盛り上がってそう。見せ方とムーブメントのつくり方
見せ方の重要性も話題になります。宇尾野さんは、事業人とは別に日本HRBP協会の運営もしており、毎月大小のイベントを連発していると紹介します。
その裏側にはイベントのオーガナイザーがいて、ムーブメントをつくるのが上手な人だといいます。その人が言っていたのは、この場は盛り上がっていそうだと印象づけることが一番大事、という考え方です。
もうとにかくこの場は盛り上がってそうっていうのをみんなに印象づけることが一番大事だっていう。
そのため、タイトルにこだわりすぎるよりも、とにかくたくさんやることが大事だといいます。自分たちで主催できないなら名前を貸したり、登壇者を共有して他のイベントに出たりして、露出を増やす方法もあると話します。
池原さんはこれを「時の人感」と表現します。宇尾野さんは、実際に時の人になるつもりはないと笑いつつ、そういう見せ方をしようという話があったと明かします。
小さく多く開く。おいしい組織のテーマを勉強会に
宇尾野さんは、いきなり全員に刺さるものを連発し続けるのではなく、幹事を別の人に任せて小さな勉強会をたくさん開く方法も大事かもしれないと提案します。
池原さんは、小さくいろんなテーマで数多く試すことで、「あそこに行くといつも何かある」「つながれる」という場を見せられると整理します。
池原さんは、相談の元だったテーマ設定の悩みに立ち返り、この番組「おいしい組織」のテーマそのものを勉強会のネタに使う方法も提案します。毎回のテーマは、経営者や人事、働く人が悩みや関心を持つ内容で設定されているためです。
私たちのネタを使った経営者の勉強会とかもぜひやっていただくといいですよね。
宇尾野さんも賛同し、盛り上がっていけば番組主催で一緒に勉強会をやってもいいと話します。個人的な夢として、番組名にちなんで最終的には料理教室のような場をやってみたいとも語りました。
みんなで作って、その場でみんなでお互いで試食し合って、で、コメントし合うみたいな。
まとめ
勉強会のテーマ設定の悩みを起点に、集団知が生まれる場のつくり方が語られた回でした。テーマ選びだけでなく、共有する領域・参加者の関係・その場ならではの実践、そしてルールとファシリテーション、設計の全体が場の満足度を左右します。
- 場を成り立たせるのは、共通のドメイン・相互作用する関係構築・その場ならではの実践の3要素
- 自分で主催するとハブになり、情報と人間関係が集まる。事業人も勉強会から生まれた会社
- AI時代だからこそ、その場・その関係でしか得られない閉じた学びや集団知に価値が出る
- オフレコや集中などのルールを全員で合意すると、参加者が安心して本音を話せる
- 交流・時間・つながりの設計と、ファシリテーターの配置が、消化不良を防ぐ鍵になる




