VTuberとVRのプロモーションは、なぜ当たったのか?
株式会社HIKKYは、VRやメタバース、XRの領域で8年前から事業を続けている会社です。後編の冒頭で、聞き手の坂本達夫さんは、まだ「メタバース」という言葉も定着していなかった時期に、どうやって始まったのかを舟越靖さんに尋ねます。
舟越さんによると、当時の会社はゲームの開発やプロモーションを手がけていました。セガのヒット作ことだマンのSNS運用を手伝うなかで、プロモーションのネタとして目をつけたのが、出始めのVTuberでした。
まだ(VTuberは)その個人の人がなんかやり始めたぐらいの時だったんですよ。
当時のX(旧Twitter)で大きくバズっていた個人のVTuberを起用し、VR界隈のムーブメントに乗ったプロモーションを企画したところ、これが大当たりしました。舟越さんは、それまでのゲームの宣伝がグラビアアイドルを起用するような手法に偏っていたと振り返ります。
そういうんじゃなくて、ちゃんとその、そういうのがゲームとか好きそうな人たちに響くようなやつやりましょうってやったら、それがめちゃくちゃ当たったわけなんですよ。
坂本さんは、当時はVRヘッドセットを一般の人がまだ持っていなかったのではと疑問をぶつけます。舟越さんの答えは、数万円で買える時代が来た直後で、一定のギーク層はすでに持っていた、というものでした。「VR元年」と言われてから、もう10年目になるといいます。
漫画家まで参加した「チームHIKKY」はどう会社になったのか?
VTuberとVRのプロモーションの土台には、舟越さんが前編で語ったクリエイター支援の活動がありました。集まってきたさまざまなクリエイターの間で、「VRすごいよね」という遊びが流行っていたといいます。
その遊びの仲間が、HIKKYの最初のメンバーです。当初は法人ではなく「ヒッキー」というチーム名で活動し、舟越さんはプロデューサーとして裏側に立っていました。
メンバーには、現在クオリティオフィサーを務める澤井美香さん、VR界隈のトップクリエイターである坪倉さん、現在バーチャルマーケットのオフィサーを務めるフィオさんらがいました。さらに、漫画『メイドインアビス ── つくしあきひとさんによる冒険ファンタジー漫画。深い縦穴「アビス」を舞台にした作品で、テレビアニメ化や劇場版でも人気を集めています』の作者・つくしあきひとさん本人も加わっていたそうです。
つくしさんが描き下ろした獣系のキャラクターをアバターにするなど、当時としては考えられない施策がバズりました。その後、同じようなプロモーションが一気に広がったといいます。
「これはちゃんと仕事になる」と確信して法人化する際、立場のあるクリエイターは一度離れることになり、チームを組み直しました。そのとき軸になったのが、フィオさんのビジョンでした。
そういうのをやりたいんだっていうのがそのフィオのビジョンだったんで、じゃあ分かった、ヒッキー(HIKKY)はそのビジョンを叶える会社になろうということでヒッキーを作った。
フィオさんのビジョンとは、バーチャル空間、つまりデジタル空間やゲーム空間の中に新しい市場をつくることです。これがバーチャルマーケットの出発点になりました。
バーチャルマーケットは「VR版コミケ」なのか
坂本さんは、SNSでよく流れてくるバーチャルマーケットについて、「VR空間上のコミケのようなフェスなのか」と尋ねます。舟越さんは、コミケと呼ぶと界隈に怒られると前置きしつつ、同人の即売会のようなジャンルではあると認めます。
謹んであのコミケとは違うんですがという一応言いつつ、まあやっぱその同人あの即売会みたいなものの、あのジャンルではあるということですね。
舟越さんの説明によると、バーチャルマーケットは「VR空間内で作った製品を、VR空間内で消費するために集まるユーザー」のための場です。当時はそうした場がそもそも存在せず、つくり手は作品を世界中の人に見てもらう機会がありませんでした。その場をつくろうというのが、バーチャルマーケットの起源だといいます。
VRはゲームではなく「もう一つの現実」
坂本さんは、フォートナイトでアバターやエモートを公式ストアから買う感覚はわかるが、一般の人が作ったアバターを買ってどこに遊びに行くのかがピンとこない、と率直に聞きます。
舟越さんはまず、ゲームは遊ぶために最適化され、システムが整っていると説明します。それに対してVRを被る目的は、ゲームをクリアすることではありません。
VRを被って何々をするっていうのはね、目的がゲームをやったり、そのゲームをクリアするためにやるわけじゃないんですよ。目的がそもそも違うんです。
VRでは仮想空間という「もう一つの現実」に入り、おじさんでも女の子の姿になれます。坂本さんが「バ美肉 ── 「バーチャル美少女受肉」の略。主に男性が美少女のアバターをまとってバーチャル空間で活動することを指すネットスラングですってやつですね」と応じると、舟越さんは、そこで別のコミュニケーションが生まれ、もう一つの人格が生まれるのだと話します。
舟越さんによると、別の自分になると「もっとかっこよく、可愛くなりたい」という欲求がもう一度湧いてきます。おじさんになるとユニクロで済ませがちな服装へのこだわりが、アバターでは復活するというわけです。
だからフルカスタムで決まりがないんですよ。だから決まりがないから、そのさっきみたいに整った環境じゃないという前提が、逆にむしろそこにしかない状況を生み出す。
遊ぶために最適化され、システムが整っている。目的はプレイやクリア
もう一つの現実に入り、別の自分としてコミュニケーションする。決まりがなくフルカスタム
舟越さんは、この2つが似て見えることこそが、のちのメタバースブームの混乱につながったと指摘します。
オタクを一括りにした失敗と、コロナ禍の70万人
舟越さんがメタバースブームの混乱を説明するために持ち出したのが、秋葉原の例です。『電車男』が流行ってオタクが一括りにされ、多くの企業が参入しましたが、全員撤退したといいます。
オタクは一個のものじゃない。その、まあ細分化されていろんなオタクがあるので、オタクとして一個取りにいくと絶対失敗する
一方、舟越さんは競合を気にせず、自分でビジネスモデルを考えて営業し、確立していきました。数万から数十万の人が企業のプロモーションを数時間かけて体験してくれる、まったく新しいプロモーション手法です。当時のVRにはマネタイズモデルがなく、これが唯一のモデルになったといいます。
そこにコロナ禍が訪れます。誰も何もできない状況で、バーチャル空間に70万人を集めるイベントを開く「謎の奴ら」として注目が集まり、問い合わせは1日2000件ほどに達しました。
それで実はうち、数千社のこう上場企業との取引が直接あるのは、実はその時の恩恵なんですよね。
坂本さんは「みんな外に出られないけど、ここに行けば何万人もいる」という状況だったと整理します。舟越さんは、手を打ち尽くして新しいことを求めていた企業に、成果の出る施策を高単価で回せたと振り返ります。
乱立した「箱バース」とメタバースブームのカオス
HIKKYへの注目が高まると、他の業者もこぞって参入しました。舟越さんによれば、わずか数ヶ月で同業者が300社ほど増えたといいます。
あの箱バースって呼ばれた。箱を作ればいけんだろって。
HIKKYの取り組みはメディアで表面だけが映されるため、それを丸ごと真似ると、誰も来ない空間ができあがります。それが「箱バース」と呼ばれ、ばかにされました。企業や自治体には違いがわからず、試してみて誰も来ないとなり、メタバース全体が疑われるようになったといいます。
混乱はさらに続きます。舟越さんが語ったメタバースブームの流れは、次のとおりです。
箱バースの乱立
HIKKYの表面を真似た、誰も来ない空間が増える
定義の拡散
配信サービスやゲームまで「メタバース」を名乗り始める
NFT・仮想通貨
NFTや仮想通貨も「俺らはメタバース」と言い出す
メタへの社名変更
Facebookが社名をMetaに変え、ダメ押しになる
このカオスに影を感じた舟越さんは、長く戦うための体力をつけようと資金調達に踏み切りました。当時もHIKKYは黒字で、投資家にはその黒字を含めて、成果の出る施策を大事にすれば成長し、派生も多いことを説明して理解者を集めたといいます。
VRに集まる人は、何をしに来ているのか?
坂本さんは、ゲームのような目的がないなら、VRに来ている人たちは端的に何をしに来ているのかと改めて尋ねます。
舟越さんがたとえに使ったのは、子どもの頃の「たまり場」です。大人になって子どもが生まれると、夜に呼び出されても「今日はいいや」となりますが、VRなら大人になっても行けるといいます。
例えば夜中にとかに今日寝れねえなとか、仕事ちょっとぶつきたいなって時にパッと被れば、いつも仲良くしてるやつらと会えるんですよ。その場で。
舟越さんは、おじさんにとってのいつものスナック、子どもにとってのたまり場のような感覚は一生続くと話します。VRでは、快適で面白い空間で「アバター買ったんだ」「今日どうだった?」と話せる場所がつくれるのだといいます。
坂本さんが「リアルの人間関係とは切り離されているのか」と聞くと、舟越さんは「前はそうだった」と答えます。初期は現実から完全に切り離され、転生したような関係が築かれていましたが、最近はビジネスで活用する人も増え、既存の知り合いが集まったり、VRで出会った人が現実で会ったりするのも普通になったそうです。
リアルとバーチャルの掛け合わせは「断言してもいい」
ここで舟越さんは、ビジネスのヒントを探しに来ているリスナーに向けて、自信を持っている見立てを語ります。それは、リアルとバーチャルを別々に使うのではなく、掛け合わせたコミュニケーションがこれから来るというものです。
まだピンとこないという坂本さんに、舟越さんはまずデバイスの進化から説明します。重くて大きいゴーグルという課題に対し、Meta Connect ── Meta社が毎年開催する開発者向けイベント。VRヘッドセットやスマートグラスなど、XR関連の新製品や技術が発表されますで発表された新しいグラスは100グラムほどだといいます。
手元のMeta Quest 2は400〜500グラムほどで、存在感のあるゴーグル型
Meta Connectで発表された新しいグラスは100グラムほどで、見た目は普通のメガネやサングラス
開封を任された舟越さんは、軽くて何も入っていないと思った箱こそが本体だったと驚きを語ります。ホログラムのような表示は歪みもぼやけもなく、アイトラッキングとハンドトラッキングで、腰元の手の小さな動きだけで操作できるといいます。
舟越さんが思い描くのは、離れた相手が目の前に現れ、昔の写真を引っ張り出し、AIでその場で3Dモデルを作って一緒につまんで話すようなやりとりです。日本円で20万円ほどですが、仕事では確実に使えるとし、舟越さんは「絶対BtoBでいく」と見ています。
AIメガネで手放せなくなる「目線とコンピューターの直結」
舟越さんは坂本さんに、AIメガネを使っているかと尋ねます。使っていないという坂本さんに、舟越さんは仕事で使い始めると手放せなくなると話します。
英語が得意ではない舟越さんにとって、翻訳や通訳が当たり前に使えることは大きな利点です。そのうえで舟越さんは、AIメガネの本質を次のように表現します。
自分の目線をコンピューターに直接つなぎ続けている感覚ですね。
スマホで調べものをすると、片手がふさがり、目線は画面に持っていかれます。目の前に人がいれば、それはコミュニケーションの機会損失です。AIメガネはカメラとAIが常に起動しているため、「ここ左ですよ」と道案内をしてくれるような、SFのAIアシスタントに近い環境がつくれるといいます。
舟越さんは、来年・再来年にはさらに上位の製品が控えていると聞いており、Googleが動き出したのも市場が温まってきたからだと見ています。そして、スマホと同じく普及にはキラーコンテンツが必要で、それは3Dコンテンツになると語ります。
3Dコンテンツを手がける事業者として、日本から10人ほどしか呼ばれなかったMeta Connectに舟越さんが招かれた理由もそこにあると考えています。坂本さんも、GAFA系の企業は新しいデバイスで最高のコンテンツを作ってくれる人を優遇すると応じます。
Vket Realに5万人が集まる理由
舟越さんが「断言」の裏付けとして挙げたのが、4年前から開いているリアルイベント「Vket Real」です。バーチャル空間で150万人が集まるイベントのユーザーに、「リアルでやるから来いよ」と呼びかけるものです。
坂本さんは「イベント名からどっちやねん」とツッコみますが、結果は初回から2日間で4万人。舟越さんによると、トップアイドルのコンサートと同じ規模で、IPも広告も持たずにこの人数を集めたといいます。
都心の会場ではビルに入りきらず、街全体にコラボカフェなどを用意しています。一方で、坂本さんが「バーチャルで話していた相手とリアルで会うのは恥ずかしくないのか」と聞くと、最初はむしろ叩かれたと舟越さんは明かします。
映画『レディ・プレイヤー1 ── スティーヴン・スピルバーグ監督の2018年の映画。仮想世界「オアシス」を舞台に、現実と仮想の関係を描いた作品です』の結末を例に、舟越さんは「リア充になれ」という話ではないと強調します。
バーチャルの存在の魂のまんま来ていいイベントなんですね。
いずれはアバターの姿でリアルの場に来られるようにする、というのがVket Realのコンセプトです。技術者が集まり、ヒューマノイドロボットやロボット格闘技なども登場するテックイベントになっています。リアルで会うと関係が深まり、またバーチャルに戻ってコミュニケーションを取る流れが鉄板になり、他の企業も同様のイベントを打つようになったといいます。
AIでコンテンツがあふれる時代、人は何を頼りに選ぶのか
舟越さんは、Meta Connectで会ったMetaの上層部から、Vket Realのような場がさらに進化するという見立てを聞いたと話します。AIで何年もかかった制作が当日に終わるようになれば、コンテンツが世界中にあふれ、どれがいいのか見つけられなくなります。
そのとき、AIが見つけてくれる、街を歩いて偶然出会う、インフルエンサーが紹介する、といったきっかけだけでは足りないといいます。IPやインフルエンサーしか頼りがない社会はありえない、というのが舟越さんの立場です。
あとリアルとバーチャル混在した場所こそが、その一番その自分のあの近い触れるべき情報源だという時代が来ると思いますよっていうのを、あのメタのまあ割と上層部の方々は口を揃えて言ってましたね。
舟越さんは、それがMetaの描く未来かもしれないとしつつ、HIKKYはその価値をすでに実感していると話します。次の世代はAIもRobloxのようなゲーム的コミュニケーションもネイティブで、リアルとバーチャルが混在したコミュニケーションが当たり前になる世代だといいます。
坂本さんも、12歳の娘さんが学校の友達と、帰宅後にRoblox ── ユーザーが自作したゲームを遊んだり公開したりできるオンラインプラットフォーム。子どもや若年層を中心に世界中で利用されていますの中で遊んでいると明かします。空き地で遊んだ世代とは違い、リアルとバーチャルを行き来しながら同じ人間関係を築く最初の世代だと実感を語ります。
マスマーケティングが届かない「村社会」のコミュニティ
坂本さんは、こうした世界でのビジネスインパクトは、グッズのコマース、広告、漫画やアニメなどのコンテンツ売上が中心なのかと問いかけます。舟越さんは、それらは一般的な範囲だとしたうえで、別の見立てを語ります。
舟越さんの見立ては、人が目指すものがより細分化される時代になるというものです。世界的な大ヒットよりも、自分に合ったジャンルの小さなコミュニティを探し、そこに所属する傾向が強まるといいます。
まあ悪い言い方すると村社会っぽくなってます。
大きなプラットフォームの中にいても、隣のコミュニティのことは知らない。嫌っているわけではなくリスペクトはしているものの、興味がないのだといいます。Robloxでも、子どもたちは自分のコミュニティがいる場所に常にいて、仲間が始めたら自分もやる、という動き方をしているそうです。
舟越さんは、飲料業界の専門家から聞いた沖縄のオリオンビールの例を紹介します。何千億円を投資しても、沖縄でオリオンビールから他社のビールに切り替わることはない、という話です。
数千億円を投資しても、地元のビールを飲むのが当たり前という市場はひっくり返せない
分散したコミュニティの1つから支持が生まれ、横のコミュニティに広がれば、市場がひっくり返る可能性が唯一ある
舟越さんは、こうした細分化したコミュニティの姿が、AI時代のモデルケースに近いと見ています。VRのユーザーは、来年4月に出るデバイスのさらに進んだ版をすでに身につけてコミュニケーションしているようなもので、彼らの今は近い未来に重なるといいます。
バラバラのコミュニティに一貫して届けるための答えは、コンテンツとクリエイティブにあると舟越さんは話します。子どもが生まれる、人が死ぬ、恐怖や喜びといった人の感動は人間である限り変わらないため、そこに根ざしたクリエイティブは届きやすく、大きく動かしやすいといいます。
坂本さんも、グローバルにコンテンツを届けるマーケティングに取り組むなかで、国や言語ごとのRedditの空気感を外すと刺さらないと実感していると話します。その世界の住人にならないとわからないニュアンスがある、という共感です。
Ray-Ban Metaの「耳の外」の音が衝撃だった
舟越さんは、これから変わるのは目と耳から入る情報の取り方だとし、興味がある人にはRay-Ban Meta Display、または画面のないタイプでカメラやマイク、スピーカーがついた最新のRay-Ban Metaを勧めます。
理由は、あまり注目されていない「音」の技術です。メガネ型で耳には何もついていないのに、音楽を聴き続けても周りには聞こえず、必要なら周囲の音も拾えるといいます。
だからなんで俺は耳の外に、あのイヤホンつけてるわけでもないのに、あいつの母国語が聞こえず、日本語のあいつの声が聞こえんのかって不思議になるぐらいの技術。
相手の英語は打ち消され、通訳された日本語だけが聞こえる、という体験です。坂本さんは「耳に差し込まないノイズキャンセリングのようなもの」と理解を示します。舟越さんによると、新しいモデルはマイクが増え、複数人の声を同時に聞き分けられる、聖徳太子のようなことができるそうです。
まだアプリは充実していないものの、使えば「これがこうなったらこうなる」と想像がつくと舟越さんは言います。外国対応に慣れていて「まだいいかな」と思いがちな坂本さんのような人こそ、試しておいたほうがいいと勧めます。
子どもの写真と通訳で解消された「究極の二択」
最後に舟越さんは、同じく子どもを持つ親として、写真の話を持ち出します。子どもの写真を撮りたいけれど、スマホの画面を見ていると、可愛い生の姿を見逃してしまうという悩みです。
しかし肉眼で見てたら、まあちょっとブレたり顔写ってなかったりしたら、この大事な思い出が残らないんじゃんっていう、その究極の二択を迫られてたんですよ。
坂本さんも、学芸会の合唱で肉眼でも見ようとすると画角からぶれていく、と「あるある」で応じます。舟越さんは、グラスがあれば両方できるようになり、それだけでも買っておいたほうがいいほどだと話します。
同じことは通訳にも当てはまるといいます。従来は画面や通訳者のほうを見てしまいましたが、グラスなら相手の顔を見て話せるので、通訳が多少変でも表情から意味がつかめるそうです。
あの4Kとか8Kになって昔のテレビ戻れないのと一緒で。
舟越さんは、人間は感覚的な生き物なので、情報の粒度が高いほうに必ず引っ張られると考えています。スマホからのシフトが起こると確信したのは、昨年のMetaの発表でグラスをかけた瞬間だったそうです。VRヘッドセットは今回で節目を迎え、グラスはもう1世代先が勝負ですが、マイクやカメラのセンシングはすでに決定的だといいます。
舟越さんはこの変化を、スマホ登場時と同じかそれ以上のインパクトだと表現します。坂本さんも、AIの進化によってデバイスでできることが倍どころではなく増えていると応じます。
フィジカルAIの先に、人間の仕事は残るのか
話はさらにフィジカルAI、つまりロボティクスへと進みます。ロボット格闘技を始めた舟越さんは、ヘッドセットやメガネが仮に来なくても、ロボティクスは止めようがないと話します。
舟越さんによると、カンフーのような動きはすでにできても、指先の繊細な動きが最も難しいといいます。ロボットの指先やハンドの領域は、世界で最も大きな市場になるとまで言われているそうです。
舟越さんが描くロボット普及の流れは、次のようなものです。
坂本さんは、AIがホワイトカラーの仕事を置き換え、フィジカルAIがブルーカラーの仕事も置き換えれば、ほぼ全員の仕事が置き換わるのではと投げかけます。舟越さんは「もう働かなくていいよ」と言われる日が来るかもしれないと冗談めかしつつ、子どもたちの世代は心配だと本音を漏らします。
舟越さんはここでイーロン・マスクに触れ、多様性が失われたら人類は終わりだという考えを紹介します。元NTT社員でもある舟越さんは、スターリンク ── スペースXが運営する衛星インターネットサービス。多数の低軌道衛星を使い、世界各地で高速通信を提供していますが出た瞬間に、産業を根本からひっくり返すことしか考えていない人だと感じたといいます。過去の偉人のなかでもトップクラスの動きで、見習うしかないと話します。
新規事業は「事業計画書」ではなく「脚本」から
坂本さんは、舟越さんにもイーロン・マスクと近いものを感じたと話します。2〜3年後の市場ではなく、10年後の人類の生活がビジョンとしてあるのではないか、という見立てです。
これに対する舟越さんの答えは、「漫画の脚本だと思う」というものでした。漫画の原作を手がける必要があり、脚本家から脚本を学んだ経験があるそうです。
舟越さんの考えでは、人が欲するものは人が感動するものであり、人の課題は人が悲しい、大変だと思うものです。脚本の観点と事業の出発点は同じだといいます。
坂本さんは、新しいものをつくるときのプロセスの一歩として面白いと受け止め、脚本のようなものを作る発想を取り入れてみると話します。舟越さんは「楽しいですよ」と応じ、いつか描いた未来が実現したら一緒にお酒を飲もう、と約束して後編は締めくくられました。
まとめ
HIKKYの舟越靖さんは、VRを「ゲーム」ではなく「もう一つの現実」として捉え、バーチャルマーケットやVket Realで、リアルとバーチャルが掛け合わさるコミュニケーションを実際に生み出してきました。その実感をもとに、スマートグラスやフィジカルAIが広がる未来と、細分化したコミュニティに届けるための考え方を語っています。
- VRの本質は、決まりのない空間で別の自分としてコミュニケーションできることにある
- メタバースブームでは「箱バース」の乱立や定義の拡散が起き、本質が見えにくくなった
- Vket Realは、バーチャルの魂のままリアルに集まる場として5万人超を集めている
- コミュニティが村社会のように細分化する時代には、マスより普遍的な感動に根ざしたクリエイティブが届く
- 舟越さんは新規事業を、事業計画書ではなく人の困りごとと感動を描く脚本から考える




