タンザニアの農村で見た「貧しいのに幸せ」というギャップ
前半でキャリアの話を終え、話題は大場さんがどうアフリカにたどり着いたのかへ移ります。きっかけは、東アフリカの農村向けサービスを手がける日本のスタートアップへの転職でした。
現地のタンザニアで農村を見ると、水も電気も通信もなく、教育の機会も仕事もない。それでも人々はハッピーに暮らしていたと大場さんは振り返ります。
朝、日が昇ったら目が覚めて、軽くご飯を食べて畑に行って、日中は暑いから昼寝して、日が傾いたらもう一回畑へ。日が暮れたら広場に集まって、お茶を飲んだりボードゲームをしたり踊ったり。そういう幸せそうな生活をしてるんですよね。
ただひたすら貧しいっていう、このギャップをどうにか変えられないのかなって感じたんです。
当時の会社は電力問題を解決する会社でしたが、大場さんは電気や水だけでは「マイナスがゼロになるだけで、プラスにするには至らない」と感じたといいます。
たとえば電気で子供が夜勉強できても、そのリターンが返ってくるのは大学を出ていい仕事に就く10年ほど先。今払ったお金が来週リターンになるものは何かと考え、行き着いたのが通信とデジタルでした。
一度も行ったことのないベナンで起業した理由
大場さんは、自身が高校生前後でインターネットに出会い、世界が一気に広がった体験をアフリカで起こせたら大きなインパクトとビジネスチャンスがあると考えます。そうしてDots forを創業しました。
起業の場所は、自然に考えればタンザニアです。しかし大場さんはゼロベースでアフリカ54カ国を見渡し、行ったこともないベナンを選んで2021年10月に起業しました。
その根拠は、農村が発展しない構造への仮説です。貧しいから採算が取れず、インフラ投資がされない。投資がされないから情報や機会にアクセスできず、収入も上がらない。つまり貧しいままになる、という負のループです。
貧しい
採算が取れない
インフラ投資がされない
情報・機会にアクセスできない
収入が上がらない
さらに貧しいまま
この負のループはアフリカの地方に共通して起きているはずだ。だから場所にこだわる必要はない、というのが大場さんの発想でした。
一方で、栄えている都市部もあります。大場さんは、独裁者が自分の周辺の生活環境に予算をつけたケースや、植民地時代の拠点が整備されたケースがあると説明します。負のループができる前に拠点となった場所が、そのまま発展していったという見方です。
村単位のイントラネットとUSBで運ぶコンテンツ
ここで、Dots forが具体的に何をしているのかが説明されます。大がかりなインフラではなく、村単位で20万円ほど、1時間ほどで設置できる分散型通信のインフラが軸です。
仕組みはインターネット接続ではなくイントラネットです。村の中に置いたサーバーのコンテンツやサービスに、スマートフォンからアクセスできる状態を作ります。
家のテレビの横にある録画ハードディスクを思い浮かべるといい、ということですね。インターネットを見に行かずに、隣のサーバーのコンテンツをスマホで見ているような。
では、その村のサーバーにコンテンツをどう届けるのか。これもインターネット経由ではありません。コンテンツを入れたUSBメモリを物理的に村まで運び、古いUSBと取り替えて街へ持ち帰ります。
古いUSBには、村で何が買われたか、誰がどんな動画を見たかといったデータが入っています。街でそれをインターネットに上げ、大場さんたちは村の様子を1日2日遅れで把握します。壮大なバッチ通信が毎日ぐるぐると回っている状態です。
運用は、街から30分〜1時間ほどの村を社員が週1〜2回訪ねて回ります。1人が20村ほどを担当し、村に住む人をコミッションベースのエージェントとして採用。機材や顧客の管理はそのエージェントが担います。
お金を持たない人から直接お金をもらうBtoCの理由
提供するサービスは幅広く、独自アルゴリズムによる与信データをもとにした分割後払いでのスマホ販売、動画のエンタメや教育・職業訓練の視聴、電話の充電、印刷、日本から渡す仕事のマッチングなどです。現在およそ600カ所で展開しています。
大場さんが特殊だと語るのは、そのマネタイズです。アフリカの地方では、寄付者や補助金、国際機関などの資金が主な出どころで、BtoGやBtoドナーが一般的だといいます。
そのなかでDots forは、お金を持たない人から直接お金を受け取るBtoCを選びました。大場さんはこれを「変なことをやっている」と表現します。
理由は2つあります。1つは、政府や国際機関を絡めるとスピードが落ち、予算が終われば運用は村任せになるためです。アフリカの独立から60年ほど、そのやり方はうまくいっていないと大場さんは見ています。
お金を払ってでも自分たちが使いたいというサービスを提供して、いなくなられたら困るという状況を作らなきゃいけない。かつ払い続けてもらうために、提供側もサービスレベルを保ち続けなければいけない。この両方のインセンティブがないと、うまくいかないんです。
寄付や補助金が原資。額は大きいが予算が終わると運用は村任せになりやすい
利用者から直接受け取る。提供側も利用者もインセンティブを持ち続けられる
もう1つは、対象市場の考え方です。この地域は所得の偏りが大きく、平均を語る意味がほとんどないと大場さんは言います。約8割は月1000円も稼げず、残り2割ほどが月1万〜3万円を稼ぐ層です。
Dots forはその上位2割を対象にします。この層は一家に1人いるかいないかで、子供が10人ほどいる家庭も珍しくありません。その1人がサービスを使えれば、家庭内の情報格差や機会格差はある程度解消できるという考えです。
なぜ日本やアメリカではなく、フランス語圏アフリカなのか
購買力の乏しい市場でなぜ起業するのか。日本やアメリカのほうが払える人は多いのではないか。坂本さんのその問いに、大場さんははっきりと答えます。
日本とかアメリカでやって何が面白いの、と思いますけどね。みんなが見てて、みんながやりやすい場所でやっても面白くないし、勝ち目も薄い。勝つ気があるなら独り勝ちできる場所でやるべきでしょって思っちゃうんです。
さらに大場さんは、あえてフランス語圏のベナンやセネガルを選んだ理由を語ります。英語圏は世界中の誰もが入りやすい分、世界戦になる。フランス語圏なら競う相手はぐっと絞られる、という発想です。
あなたが行きやすいってことは、世界中の全員が行きやすいってことと同義なの分かってます、って思うんですよ。みんなが来ない場所でやるから価値があるんです。
競合の見方も具体的です。ケニアやエジプト、ナイジェリアではローカル出身のファウンダーがユニコーンを次々に生んでいて、知名度のない外国人が入っても勝ちにくい。一方、著名なスタートアップの創業者がフランス人という国なら、日本人という外国人でも同じ条件で戦える、というわけです。
ユーロにペグされた共通通貨と、増え続ける農村人口
ベナンやセネガルを選んだ理由は、言語や競合だけではありません。両国は共通通貨を使っています。
この共通通貨は西アフリカ8カ国、中央アフリカ6カ国の計14カ国で使われ、人・物・金の出入りもある程度自由です。しかもその通貨はユーロに固定されています。
大場さんは、この14カ国はほぼEUとユーロのような存在で、その事実に気づいている人はほとんどいないと指摘します。同じ通貨、同じフランス語、自由な出入りで、約6億人の市場です。
加えて、人口が増えるのは農村だといいます。都市部は一家に4人ほどの子供ですが、地方では10人ほど。人口増の中心が農村であることを踏まえ、共通通貨圏の農村部でインフラからサービス、デバイスまで押さえれば独り勝ちできる、という設計です。
大場さんは、この構図を「歴史の繰り返し」と捉えます。各国で通信を押さえた事業者が勝ってきたのと同じことを農村で行い、その通信の上にサービスを乗せるゲートウェイになる、という発想です。
アフリカ起業は本当に難しいのか
フランス語圏は大場さんにとっても入りにくいのではないか、という問いに、大場さんは言語は英語でできたことをフランス語で繰り返すだけだと答えます。
一方で、外国人として現地の言葉が完全にはわからない難しさは残ります。そこで頼れるローカルのチームを育て、最終的に現地の人に任せる状態を作ることが大事だと語ります。これはタイでの経験ともつながっています。
日本人が同じようにアフリカで起業できるのか。大場さんは「外さなければできる」とし、むしろ日本での起業より簡単だと言い切ります。
日本だと、ちっちゃなニッチが課題かどうかも分からないところから入っていく。でもアフリカだと、めちゃくちゃでっかい課題がドーンとあるんですよ。課題を見つけるどころか、もうありますから。
同じ課題はタンザニアにもベナンにもセネガルにもあり、あるソリューションが1カ国でワークすれば横展開できる。だからニッチではないと大場さんは考えます。
大場さんは、ベナンとセネガルでまだ約1割しかカバーできていない状態でこれだけの売上があると語り、全土、共通通貨14カ国、さらに54カ国へと広げた場合の規模を「空論ですけど」と前置きしつつ示します。横展開を前提に1カ国目を始めるのが、アフリカで活動する会社の基本だといいます。
大場さんは、失敗しても学びになると考える一方で、現地の厳しさも率直に語ります。旅の途中で「まだ指も目も足もあるし、まだできる」と思うことがあるといいます。
別に失敗しても死なないんで。たまに死にますけど、たまに死ぬので気をつけてほしいんですけど、あんまり死なないなと思うんで大丈夫です。
その重みを示すエピソードとして、大場さんは社員同士の会話を挙げます。子供が2人だと聞いたベナン人が「2人ともだと死んじゃう可能性があるから、あと2人はいないとまずくない」と普通に話していたといいます。子供が2人亡くなるのが当たり前という感覚は、日本の外に出てみて初めてわかると大場さんは語ります。
最後に大場さんは、日本を出た結果「やっぱり日本がいい」と思ったとしても、その事実自体が大事だとして、外に出ることを勧めました。
まとめ
後編は、貧しいのに幸せそうな農村との出会いから、負のループを断つための通信・デジタル事業、そして誰も来ないフランス語圏で勝つという戦略まで、アフリカ起業の具体像がたっぷり語られた回でした。
- 電気や水は「マイナスをゼロ」にするが、通信とデジタルは今払ったお金が早くリターンになると考え、大場さんはDots forを創業した。
- 村単位のイントラネットにコンテンツを置き、USBを物理的に運ぶ「1日2日遅れのバッチ通信」で農村にデジタルサービスを届けている。
- 寄付や補助金に頼るBtoGではなく、上位2割の層から直接お金を受け取るBtoCにすることで、事業の継続性を確保しようとしている。
- みんなが来ないフランス語圏の農村を選ぶのは、競合が少なく、ユーロ連動の共通通貨で約6億人の市場につながるという勝ち筋があるから。
- アフリカは巨大な課題が明確に見え、横展開もしやすいため、外さなければ日本での起業より簡単だと大場さんは語った。
