AIがうまくいく企業と、いかない企業の違い
番組冒頭で松田さんは、AIを「うまく使えている企業」と「なかなかうまくいかない企業」に分かれていると指摘します。
そのうえで、うまくいっている会社がどんな取り組み方をしているのかを、ワークマンの事例をもとに解説していくと切り出します。
AIで成果を出した会社の話を聞くと、多くの社長がまず「どのツールを使っているのか」を質問しがちだと言います。
ところが同じツールを自社で試しても思ったほどうまくいかず、「AIってまだまだ使えないよね」と終わってしまう。松田さんは、これがよくあるパターンだと話します。
自社で真似て試してみたけれど、思ったほどうまくいかなくて、AIってまだまだ使えないよね、まだまだ人の方が上だよね、みたいな感じで終わる。これは結構あるあるじゃないかなと思います。
有名企業と同じAIを今日から使える以上、差はツールではなく、AIをどう構造に組み込んでいるかにあると松田さんは考えています。
ワークマンが静かに導入していた画像生成AI
松田さんによると、この事例は8月前半にメディアで記事になったもので、ワークマンが画像生成AIを導入していたことが取材で明らかになったといいます。
大々的に「AIを使っています」と宣言していたわけではなく、静かに使われていて、かつ数字の効果が出ていた点が特徴だと話します。
具体的には、ECサイトや公式アプリに載せる商品の利用シーン画像の制作に使われていました。たとえば防水シューズを雨の中で履いているようなイメージ画像です。
使われていたのはGoogleの画像生成ナノバナナGoogleの画像生成AIモデルの通称。書き起こしで言及されたツール名。テキストから画像を生成したり、画像を編集したりできる。でした。
背景には、全国1000店舗以上を500人未満の正社員で支えているという事情があります。商品数が増え、撮影が追いつかなくなっていたのです。
一部のアプリ通知では、従来の撮り方と比べて、AIを使った画像の方が開封率が1.5倍高かったという話もあったといいます。
ただし、撮影全体をAIで置き換えているわけではない。松田さんは、この点が今回のポイントになると強調します。
従来の撮り方と比べて、AIを使った画像の方が開封率が1.5倍も高かったみたいな話があったみたいです。ただ、撮影全体をAIで置き換えているわけじゃない、ここが結構ポイントです。
このニュースだけ見ると「ワークマンもついにAIを使い始めた」と受け取りがちです。しかし松田さんは、主役はAIそのものではなく、巧妙に構造化された「実験の仕組み」だと解釈します。
なお、これはあくまで松田さんの解釈であり、ワークマンが実際にどう運用していたかはわからない、という前提で語られています。
実験を回す仕組みを支える4つの設計
ここからが本題です。松田さんは、ワークマンの実験設計を「代打」「関所」「数字」「順番」の4つに整理します。
これはAIに限らず、経営全体にも通じる考え方だと話します。
1つ目は「代打」です。AIの出番は、撮影が間に合わないときや、天気が崩れて撮影が難しいときに限られています。
人による撮影は今も続けていて、これまで諦めていた場面をAIで代替している。松田さんは、これが地味に見えて優秀だと評価します。
理由は、失敗してもダメージが小さいからです。もともと諦めていた画像なので、うまくいけばプラス、うまくいかなくてもデメリットが少ないのです。
うまくいかなくて迷走する企業は、来月から商品画像は全部生成AIだ、みたいに、テストも実験もしないで新人をいきなり4番バッターに置く。そりゃ打てないでしょう、と。
ワークマンは、いきなり4番を任せるのではなく、本当に打てるのかをまず実験している。松田さんは、これが大きな特徴だと言います。
人のチェックを通す「関所」と、数字での検証
2つ目の設計は「関所」です。すべての画像は、人によるチェックを通してから世に出す工程になっています。
ワークマンにはもともと、商品画像が実物とずれていないかを確認する工程が、人の撮影時代から存在していました。だからAIが生成しても、実務上はそれほど変わらないのです。
松田さんは、記事ではさらっと書かれているこの点がかなり大事だと指摘します。AIの出力を野放しにすれば、大きな企業ほど問題が起きやすいからです。
AIの画像をちゃんと確認してから出してね、とお願いしても、なかなか実行されない。だから、この関所を通らないと画像は外に出ないという仕組みが巧妙だなと思います。
3つ目は「数字」です。数字で振り返らない限り、その実験が良かったか悪かったかはわからないと松田さんは言います。
感覚的にAIを導入する人は「最近反応いいよね」といった肌感で判断しがちですが、ワークマンは開封率1.5倍という数字で見ています。
開封率1.5倍という数字が出るということは、そもそも比較対象と比べているということです。松田さんは、マルバツをつけられるように実験することが最も重要だと話します。
デジタルから紙へ、リスクの低い「順番」
4つ目の設計は「順番」です。ウェブやアプリで成果が出たことを、後から修正の利かない紙の冊子のような媒体へ、これから活用を検討しているといいます。
松田さんは、この順番が面白いと言います。デジタル上ならすぐに戻したり変えたりできますが、印刷してしまうと変更に費用がかかり、反響が落ちればそのままリスクになるからです。
そこで、まずオンラインで実験し、うまくいった部分を仕組み化して数字で検証する。そのうえで紙の冊子へ横展開していく。リスクが小さく、すぐ戻れるところから始めているのがポイントです。
松田さんは、今日の話を一言でまとめます。
実験してよかったら仕組みで残し、うまくいかなければやめる。この実験を回せるかどうかが、これからの時代に効いてくると話します。
値下げでも利益5割増、ワークマンの「構造で考える力」
松田さんは、ワークマンがここまでできる理由を「もともと構造で物事を考える企業だからではないか」と見ています。
その例として、2026年8月中旬に出たという別のニュースを挙げます。作業服を4400円から3400円へ1000円値下げしたにもかかわらず、利益が5割増えたという内容です。
仕組みは「加工貿易」です。中国で生地やファスナーなどの材料を調達し、東南アジアの縫製工場に無償で支給。工場には縫製の作業代だけを支払うことで、中間業者を介さずコストを丸ごと下げているといいます。
無理な我慢での値下げではなく、構造を変えてコストそのものを消している。松田さんは、この利益の出し方をプロだと評価します。
「1.2倍人材」と「5倍人材」の分かれ目
松田さんは、AIの話をここで「1.2倍人材」と「5倍人材」という考え方につなげます。
作業を早くする人。効率化は進むが、伸びしろは限定的
AIで前提の構造を変え、作業や機会損失そのものを消す人。市場価値が上がっていくと考えられる
作業を早くするだけの人は1.2倍止まりで、AIで前提の構造を変えて機会損失ごと消す人が5倍人材だと言います。5倍人材はごく少なく、これから市場価値が上がると考えています。
ワークマンがやっているのも、まさに5倍人材の発想です。撮影が間に合わず諦めていた機会損失を、AIでなくしているからです。
同じAIを使っても、早くするだけの思考で取り組むか、構造や前提を変える思考で取り組むかで、得られる成果は大きく異なると松田さんは話します。
失敗を悪にしない実験文化と、AI活用の注意点
松田さんは、自社でも実験で痛い目を見てきたと打ち明けます。
たとえば農業に真似て取り組んだもののうまくいかず、すぐ撤退したこと。権限譲渡で部長の稟議金額を増やしたら、なぜか金魚鉢を買って金魚を飼っていたこと、などを例に挙げます。
実験は大体うまくいかないことが多い。だからこそ、失敗を悪にしてしまうと誰も実験しなくなると松田さんは言います。
そのうえで、ツールの使い方を真似るだけでなく、全体の構造や型を見て本質を真似ることで、成果はより最大化されると話します。
最後に、AI活用の注意点として、時間が浮いても顧客接点まで効率化してはいけないと松田さんは強調します。
バックヤード、お客様から見えない部分は徹底的に効率化する。その浮いた分を、お客様に対しては非効率化していく、というのが基本的な考え方です。
効率化して浮いた時間をさらに効率化に充てるのは本末転倒であり、お客様に対して効率化するのも違う、という考え方です。ただし業種や企業のステージによって異なるとも補足しています。
番組の締めくくりに、松田さんは聴き手への問いを投げかけます。今諦めている業務を、何か一つAIに任せられないか、という視点です。
その諦めていた業務が業績や利益にインパクトのあるものなら、AIに任せることでプラスの売上・利益につながっていくと話します。
まとめ
ワークマンの画像生成AI導入は、ツールの目新しさではなく、「実験が回る仕組み」を巧妙に構造化していた点が本質だと松田さんは解説します。代打・関所・数字・順番という4つの設計と、構造で考える発想が、成果につながっていると読み解かれています。
- AIの差はツールではなく、どう構造に組み込むかにある
- 代打・関所・数字・順番という4つの設計が実験を回す仕組みを支える
- リスクの小さいデジタルから始め、修正の利かない紙へ順に横展開する
- 作業を早くする1.2倍人材より、構造を変えて機会損失を消す5倍人材が伸びる
- バックヤードは効率化し、その分を顧客接点の非効率化に充てるのが基本方針
