最低賃金1176円がもたらす人件費インパクト
番組冒頭で取り上げられたのは、最低賃金が全国平均で1176円になる見通しのニュースです。多くの経営者がため息をついているのではないか、と松田さんは切り出します。
松田さんが率いるプリマベーラも、従業員の約7割がパート・アルバイトで組織を構成しているため、これは人ごとではないと話します。
この日のテーマは、賃上げの是非ではありません。上がった人件費をどう吸収し、相殺していくかを一緒に考えることに置かれています。
事実の整理として、2025年7月28日に中央最低賃金審議会が値上げ目安を答申したことが紹介されます。目安通りに進めば、全国平均は1176円になる見込みです。
5年前の全国平均は930円ほどでした。そこから約250円、時給が上がっている計算になります。
具体的な数字を出すと、そのインパクトの大きさがわかると松田さんは言います。パート30名が1日6時間、月22日働く場合、時給250円の上昇で人件費は月約33万円、年間で約400万円増える計算です。
シフトは1分も増やしてないのに、というところになってきますよね。
政府は全国平均1500円という目標を掲げており、この流れ自体は止まっていないと松田さんは見ています。
動かせない変数と、社長が変えられる変数
松田さんはまず、自身のスタンスとして、最低賃金の是非は専門家ではないので論じないと断ります。そのうえで、経営には動かせる変数と動かせない変数があると整理します。
動かせないのは、最低賃金や為替、天気といった国や環境が決めるものです。どんなに頑張っても変えるのは難しく、悩んでも決められないことだと話します。
一方で社長が決めて変えられるのは、1時間の中身の設計と、時間当たりの粗利です。ここを考えて変えていくしかない、というのがこの回の軸になります。
最低賃金、為替、天気など。国や環境が決めるもので、悩んでも変えにくい
1時間の中身の設計、時間当たりの粗利。社長が決めて変えられる
時間当たり粗利という公式
仕組み化経営で覚えておきたい公式として、松田さんは「時間当たり粗利=粗利÷総労働時間」を挙げます。この1時間当たりの設計を社長がどうするかで、会社の利益が変わってくると言います。
例として、月の粗利が900万円、総労働時間が3000時間なら、時間当たり粗利は3000円になります。時給1176円を支払い、時間当たり3000円の粗利を生んでいる、という比率が経営の会話になるという説明です。
つまり、人件費が上がったという嘆きは、時間当たりの粗利をどう上げるかという問いに変わります。時給が上がっても時間当たり粗利が上がれば、そこで相殺できるという考え方です。
上がるのは時給だけではない、無駄の値段も上がる
もう一つの切り口として松田さんが挙げるのが、時給が上がると「無駄の値段」も上がるという点です。見落としがちだが、手を入れるとすぐに元が取れるところだと言います。
たとえば時給1000円時代に5人で1時間会議をすると5000円です。しかし時給が1176円になれば、同じ会議でも費用は増えます。
朝礼も同じです。15分の朝礼に20人が参加すれば、1日当たり5時間分の人件費がかかっています。
昔からやっているから続けているというもので、本当にこれ続ける必要があるんだろうか。
支払っている時給に対してリターンが低ければ、その取り組みはやめた方がいい、と松田さんは言います。無駄も掛け算で広がっていくところが恐ろしい、という指摘です。
1時間を3つに分け、4択で仕分ける
時間当たり粗利を高めるには、1時間に取り組んでもらう仕事の中身を設計する必要があります。その前提として松田さんは、時間を3つに分けて考えます。
主業務
粗利を直接生み出す仕事。営業なら実際に営業やクロージングをしている時間
付随業務
会議、日報、営業報告など、粗利を生まない付随的な業務
移動時間
最も利益を生み出しづらい時間。極力なくす対象
付随業務は減らし、移動時間は極力なくすのが方針です。営業なら、1日で回る客先を近場にまとめる工夫が必要になります。
たとえば東京から大阪へ営業に行き、1社だけ回るなら往復の交通費と時間でほぼ終わってしまいます。だからこそ、大阪に行くなら周辺の客先もまとめて回ろう、という基本的な考え方です。
これらの業務を1日1時間という単位で再編集していきます。その際の基準は、続けるかやめるかの2択ではなく、4択での仕分けです。
たとえば毎日の朝礼を週1回に改善するだけで、付随業務の時間を減らし、主業務の時間を増やせます。時給が上がった分、主業務の時間を増やせれば、時間当たり粗利は上げていけるという理屈です。
この継続・改善・統合・廃止の意思決定は、経営層しかしづらい部分です。だからこそ、時給が変わる年1回のタイミングで見直すのがよい、と松田さんは勧めます。
十七期連続増収増益を支える設計の考え方
松田さんは、プリマベーラの従業員が約400名、うち約280名がパート・アルバイトであることを明かします。最新の決算では17期連続の増収増益を達成しました。
その背景にあるのが、従業員の頑張りが成果につながる仕掛けを作ってきたことだと言います。現場が頑張れば成果が出る、と設計してあげる部分です。
人が動けない3つの理由と、無駄をなくすAI活用
仕組みを整えても「時給を上げても従業員の動きが変わらない」という声もあると松田さんは言います。しかし、経営であれば疑うべきは人ではなく仕組みだ、と話します。
人が動けない理由は、スキル不足・モチベーション不足・ベクトル(価値観)不足の3つに分解できると言います。
主業務の時間を増やしても成約できない場合。スキル教育で改善する
頑張る意味を感じられない場合。努力と目標のつながりを設計し、承認や表彰の仕組みを整える
価値観が合わない場合。なぜその仕事があるのか、その意義を伝える
時給が上がった分、主業務の割合を増やすと同時に、このスキル・モチベーション・ベクトルを高めていく必要があります。毎年・毎月・毎週・毎日の設計の中に、それらを高める仕掛けをうまく仕込めるかがポイントだと言います。
もう一つの打ち手が、無駄をなくすための生成AIの活用です。松田さん自身も、驚くほどAIで業務の自動化と省力化ができていると話します。
ただしAIにはセキュリティのリスクもあり、そこを押さえないと本末転倒になりかねないと注意を促しています。
リスナーへの提案として、まず自分や現場の主業務・付随業務・移動時間の割合を可視化し、継続・改善・統合・廃止を話し合うことが挙げられます。個人・チーム・組織・事業といった単位で括ってもよいとのことです。
時給は今後も上がっていきます。だからこそ残りの月日をどう設計し、時間当たり粗利を高めるかを検討し、そこから手を入れていくのがよい、というのが結論です。
まとめ
この回では、最低賃金の上昇を止められない前提で、社長が変えられる「1時間の設計」に焦点を当てました。時間を主業務・付随業務・移動時間に分け、4択で仕分けながら時間当たり粗利を高めることが、人件費増を吸収する鍵として語られました。
- 最低賃金や為替は動かせない変数、1時間の設計と時間当たり粗利は社長が変えられる変数
- 時間当たり粗利=粗利÷総労働時間。人件費増は「粗利をどう上げるか」の問いに変わる
- 時給が上がると無駄の値段も上がる。会議や朝礼の費用は掛け算で膨らむ
- 時間を主業務・付随業務・移動時間に分け、継続・改善・統合・廃止の4択で仕分ける
- 人が動けない理由はスキル・モチベーション・ベクトル不足。疑うべきは人でなく仕組み
