魚離れの時代に「魚しか売らない店」が絶好調
日本人の魚介類の年間消費量は、2001年には40.2キログラムだったものが、現在は21.4キログラムと半減しています。「魚離れ」が叫ばれる中、魚しか売らない専門店・角上魚類は創業以来ほぼ増収を続け、コロナ明け後も売上を約30%伸ばしています。
注目すべきは、出店エリアの多くが海なし県であることです。群馬県をはじめとする内陸部で、なぜ鮮魚専門店が成功しているのでしょうか。松田さんは「魚離れではなく、魚を買う場所がなくなってきているのでは」と指摘します。
デスティネーションストア戦略とは何か
角上魚類の成功を支えるのは、マーケティング用語で言うデスティネーションストア戦略「目的地となる店」という意味。顧客が特定の商品を買うために、わざわざその店を目指して来店する状態を作る戦略。総合的な品揃えではなく、専門性で勝負する。です。松田さんの会社では、これを「共属性一番化戦略」と呼んでいます。
一言で言うと、これならあのお店と名指しで選ばれるお店になること。狭い土俵で圧倒的一番を取ることが、これからの時代重要になってくる。
総合スーパーは「広く浅く」品揃えしますが、特定の商品を探すとなかなか手に入りません。一方、専門店は「狭く深く」品揃えすることで、「これが欲しいならここ」という信頼を獲得できます。
広く浅く
何でも揃うが、特定の商品は見つけにくい。ロスを避けるため品数を絞る傾向。
狭く深く
特定分野に絞り、「ここに行けば必ず手に入る」信頼を獲得。専門性が来店理由になる。
スーパーが捨てた部分を強みに変える
多くのスーパーが鮮魚売り場を縮小している背景には、品質管理の手間とロスの多さがあります。実際、魚の品数を減らしたと答えたスーパーは16.4%と、他の分類に比べて大きく減少しています。
マグロやサーモンなどの定番商品は置いても、アジやイワシなどの多様な魚種は扱いにくい。鮮度が落ちやすく、売れ残ればロスになるからです。角上魚類は、スーパーが「やりたくてもできない」この部分を、仕組みで解決しました。
角上魚類は新潟と豊洲市場東京都江東区にある日本最大の卸売市場。2018年に築地市場から移転。水産物、青果、花きを扱い、特に水産物の取扱量は世界最大級。プロの仲卸業者が目利きした鮮魚が集まる。から独自の仕入れ体制を構築し、毎朝13人のバイヤーが目利きをしています。新鮮なものをお客様に提供するというこだわりが、裏側の仕組みとして機能しているのです。
ロスをゼロにする「段階的加工」の仕組み
角上魚類がロスを極限まで減らしている仕組みが、段階的な加工プロセスです。売れ残りそうな魚を状態に応じて加工し、最終的にロスをゼロに近づけます。
この仕組みにより、常に新鮮な魚だけをお客様に提供できます。ただ「魚の専門店」を名乗るだけでなく、裏側のオペレーションを徹底的に仕組み化し、現場が忠実に実行できる体制があるからこそ、「魚といえば角上魚類」というブランドが成立しているのです。
共属性一番化が効く時代背景
松田さんは、SNSのフィルターバブルSNSやネット検索のアルゴリズムが、ユーザーの過去の行動履歴から好みを推測し、それに合った情報ばかりを表示する現象。自分の趣味嗜好に合わない情報が遮断され、視野が狭くなるリスクがある。が共属性一番化を後押ししていると指摘します。SNSやYouTube、Amazonのレコメンドなどは、ユーザーの趣味嗜好に合わせた情報しか表示しません。その結果、人々の興味関心はどんどん細分化されていきます。
細分化された趣味嗜好を満たす商品は、総合的な場所では手に入りにくい。だからこそ、「これが欲しいならここ」という専門店の価値が高まっているのです。
広く浅くというよりも、狭く尖る戦略っていうのも一つ効果的になってきてるんじゃないかと思っております。
松田さん自身も、AI活用に関心があるため、SNSに流れてくるのは肯定派の情報ばかりだと言います。意図的に否定派の意見も取りに行かないと、バランスを欠いた判断をしてしまうリスクがあります。フィルターバブルは、意思決定にも影響を及ぼす現象として、今後ますます注目されるでしょう。
まとめ
角上魚類の成功は、共属性一番化戦略と残存者利益、そして裏側の徹底した仕組み化の組み合わせによるものです。スーパーが縮小した鮮魚売り場の穴を埋め、「魚といえば角上魚類」というポジションを確立しました。
松田さんは「残れば必ず勝つ」と語ります。魚離れという表面的な現象にとらわれず、顧客の潜在ニーズと競合の動きを見極め、専門性で勝負する。この戦略は業種を問わず応用できるはずです。
自社においてどんな共属性一番化ができるのか、どんな仕組みを裏側に構築すべきか。角上魚類の事例から、これからの時代の専門店戦略のヒントが見えてきます。
- 角上魚類は魚離れの時代に「魚しか売らない専門店」で創業以来ほぼ増収を達成
- デスティネーションストア戦略(共属性一番化)で「魚といえば角上魚類」のポジションを確立
- 段階的加工の仕組みでロスをゼロに近づけ、常に新鮮な魚を提供
- スーパーが縮小した鮮魚売り場の穴を埋め、残存者利益を得ている
- SNSのフィルターバブルが趣味嗜好を細分化し、専門店の価値を高めている
- 共属性一番化には裏側の仕組みと現場の実行力が不可欠
