なぜAI時代に「衝動」が価値を持つのか
しゅうへいさんが今回持ってきたのは、谷川さんの著書『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』です。前回のシュルレアリスムの話に続き、キーワードは「衝動」です。
しゅうへいさんは、AI時代には合理的であることよりも、無意識やついやってしまうことといった非合理なものがむしろ価値を持つと考えています。この本は、やる気やモチベーション、「本当にやりたいこと」ではなく、衝動こそが人を駆動するエネルギーになると提案しているといいます。
一言で言うとですね、モチベーションではなくて、幽霊を探せ。
「レールを外れる」というテーマについて、しゅうへいさんは自身の経歴を重ねます。大学を出て上場企業の子会社に就職し、安心した矢先にマルチ商法を始めて借金を作り、朝起きられなくなって6ヶ月の無断欠勤をしたそうです。
どうですか?(人生の)レールを僕、外しまくってませんか?
しゅうへいさんは、会社を辞めることは大きくレールを外れる感覚だったものの、辞めてみると意外とそうでもなかったと振り返ります。せっかく歩んできたレールを外れたくない人にも、レールを外れる面白さが伝わる本だと紹介しています。
衝動はやる気でもモチベーションでもない?
1つ目のポイントは、衝動が「何ではないか」です。本では、やる気やモチベーションでは語りきれない余りの部分が衝動であり、それは幽霊に取り憑かれるようなものだと書かれているといいます。
しゅうへいさんが例に挙げたのが、地動説を扱った漫画・アニメの『チ。―地球の運動について―』 ── 魚豊による漫画作品。天動説が常識とされた時代に、異端とされながら地動説を追い求める人々を描き、アニメ化もされていますです。本の中でもこの作品の世界観が引かれているそうです。
作中の少年ラファウは合理的に生き、神学研究のエリートコースに進む予定でした。しかし、たまたま地動説に出会い、命を取られる危険があるのに「直感が地動説を信じている」と口にしてしまいます。しゅうへいさんは、ラファウを動かしたのはやる気やモチベーションではないと話します。
ここでしゅうへいさんは、ダニエル・ピンク ── アメリカの作家。著書『モチベーション3.0』で、報酬に頼らない内発的な動機づけの重要性を論じましたの『モチベーション3.0』に出てくる3種類のモチベーションを紹介します。
| 段階 | 中身 | 番組での例 |
|---|---|---|
| モチベーション1.0 | 生理的動機 | お腹が減った、アイスが食べたい |
| モチベーション2.0 | アメとムチ、報酬 | 稼げる、フォロワーが増える |
| モチベーション3.0 | 内発的動機 | 幸あれこさんの毎日の語学学習 |
しゅうへいさんによれば、内発的動機には「よし、これをやっていこう」と自覚できる感覚があります。モチベーションはまだコントロールできそうなものですが、衝動は完全にコントロールの外にあるものだといいます。
その例として、しゅうへいさんは生成AIのSunoで取り憑かれたように曲を作り続けるイケダハヤトさんを挙げます。イケダハヤトさんは、報酬のためではなく純粋に面白いからだとしつつ、独特のたとえで説明しました。
このキムチ一回開けたらもう食べないと酸っぱくなっちゃうから、もうやるかみたいな感じで、ひたすらやらざるを得ないからやってるみたいな。
自分でキムチの蓋開けちゃったからもうやるしかねえからやるっていうのでやってます。
衝動のヒントになる「偏愛」の見つけ方
2つ目のポイントは、衝動をもう少しわかりやすい言葉にした「偏愛」です。しゅうへいさんは偏愛を、他人には理解されないかもしれないけれど、なぜかたまらなく好きなマニアックなこだわりだと説明します。
幸あれこさんは、ひきわり納豆を右回りと左回りで平等に混ぜるこだわりを披露したあと、本への偏愛を語りました。同時に30冊ほどを並行して読んでいることも、しゅうへいさんから明かされます。
(前の職場では)理解されなかったけど、とにかく(本を)読んでる時間が好きって。匂いも好きだし、新しい本買っても震えるぐらい好き。
しゅうへいさんが本の中で印象に残ったのは、「本当にやりたいこと」という言葉を避けたほうがいいという指摘です。本当にやりたいことは変わるものであり、決断したように見えて実は向き合っていない可能性がある、と書かれているそうです。
一方で偏愛は、自分では見つけにくいものでもあります。本が挙げる偏愛を見つけるヒントを、しゅうへいさんは次のように紹介しました。
忙しい日々や、資本主義の中で自分の価値を高めようとする力学の中では、スキルアップも安易な市場への迎合になりがちだと本は指摘しているといいます。
不快なことの例として、しゅうへいさんは島から出てきて初めて山手線に乗った日の話をします。3分後の電車を待っても毎回満員で、4、5回見送ってようやく乗れたそうです。幸あれこさんはムカデが苦手だとしつつ、「ナウシカの気持ちで同じ命と思いたい」と話すうちに言語化が進んだようでした。
イケダハヤトさんは、公開していないものも含めて5000曲ほど作り、そこから選んでいるといいます。しゅうへいさんは、それを誇るでもなく没頭している姿が偏愛のわかりやすい例だと話します。
取り憑かれるための「魅了される力」
3つ目のポイントは、衝動に取り憑かれるために魅了される力を鍛えることです。しゅうへいさんは、自分に一番足りていないと感じた部分だと話します。
SNS時代の人は、マーケティングやブランディングで他人を魅了する側に回りがちです。しかし大事なのは、自分がふらっとそちらに行ってしまう力を許すことであり、自分自身が世界を感じやすいメディアになることだといいます。
しゅうへいさんはメディアの例としてイタコ ── 東北地方で死者の霊を自らに降ろし、その言葉を伝えるとされる巫女。霊と人との中間に立つ存在ですを挙げ、中間に立ってメッセージを受け取る存在になぞらえました。
しゅうへいさんは、幸あれこさんやイケダハヤトさんに比べて、自分は映画や小説で感動する機会が明らかに少ないと感じたそうです。その背景には、フォロワーを増やさなければという固定観念と、誰からも影響を受けないぞという壁があったのかもしれないと振り返ります。
お前から俺は影響を受けてねえんだぞと。俺はそれ知ってたからなみたいな。よくわからない小さい戦いがあるんですよ。
魅了される力を鍛える方法として、しゅうへいさんは本から次の3つを紹介しました。すぐ役立つわけではない文学を読むこと、気になる人の個展があれば意味もなく名古屋まで行くような小さな実験を繰り返すこと、そして人生に「タメ」を作ることです。
「タメ」とは、コツコツ続ける中でMPのように溜まり、何かが来たときに反応できる自分になるための蓄えだといいます。来たチャンスを次々刈り取るのではなく、数年かけて育てていくことが大事だとされています。
しゅうへいさん自身の衝動はどこにある?
3つのポイントを聞いたイケダハヤトさんは、しゅうへいさん自身は衝動を見つけたのかと尋ねます。しゅうへいさんは冗談でマクドナルドのポテトLを挙げつつ、衝動買いのような悪い意味の衝動もあると認めます。
今僕の中でやっぱ一番あるのは、ブログ始めた時かな。なんかもう楽しくて、結構書いてて、それで読んでくれて楽しいで、もっと書きたいってなった。
幸あれこさんは、12日目になるショート動画の連続投稿について、衝動とは違うのではと問いかけます。しゅうへいさんは、衝動に出会うための「タメ」としてコツコツやっている面があると答えました。
イケダハヤトさんは、魅了される側に回り、いろいろなものを面白がる感度を高めることは大事だと共感します。自分は面白ければどんどん行く側なので、壁を作る人がいることが新鮮だったようです。
(しゅうへいさんは)影響受けてませんってさっき言ってたけど、誰よりも影響を受けやすいなっていうのは思ってるんですけどね。
最後にしゅうへいさんは、AI時代には正解がすぐに出てくるからこそ、理解されなくても「自分でもわからないけど取り憑かれてやっている」というものが面白いと締めくくりました。
まとめ
『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』は、やる気やモチベーションでは説明しきれない衝動を、偏愛と魅了される力から捉え直す一冊として紹介されました。正解がすぐ手に入るAI時代だからこそ、取り憑かれたように没頭できるものの価値が語られています。
- 衝動は、モチベーション1.0〜3.0でも語りきれない、コントロールの外にある「幽霊」のようなもの
- 衝動のヒントは偏愛で、心地よい時間と空間、嫌いなことへの自己インタビューから見つけていく
- 取り憑かれるには、他人を魅了するより、自分が魅了される力を鍛えることが大事
- 文学、小さな実験、人生の「タメ」が、衝動に反応できる自分を育てる





