AI時代、お金との付き合い方とグレーゾーンへの向き合い方
ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと編集者の長谷川リョーさんが、スタートアップやキャリア戦略について語るぼくらの戦略論。今回は、リスナーからのお便りをもとに、AI時代におけるお金との付き合い方と、スタートアップが直面するグレーゾーンへの向き合い方を深掘りしました。その内容をまとめます。
AI時代のキャリア戦略とお金の価値
40代のリスナーからこんな質問が届きました。「フォーブスジャパンアメリカの経済誌Forbesの日本版。ビジネス、投資、テクノロジー、起業家などのトピックを扱う。の記事で、お金という価値の尺度そのものが変化するという予測を読みました。もし本当にお金の価値が揺らぐ時代が来ると、私たちは何を目標にキャリアを築いていけばいいのでしょうか?」
高宮さんはこの質問を、「スタートアップしたいんですけど、どうしたらいいですか?」という相談に似ていると指摘します。安定した収入がある状態で、新しいことに挑戦したいが、リスクが怖い——そんな人は多いはずです。
高宮さんの提案はシンプルです。いきなりオールインせず、副業として始めてみる。今の本業で生活基盤を保ちながら、夜や週末の「サークル活動」としてAIを使った実験を楽しむ。そして、それが本業になれると確信できるまでは、無理に退路を断たない。
副業っぽくやり始めて、副業を本業にしてもいけるという自分の安心感が得られるまでは、本業を抱えとけばいいと思うんですよ。
たとえば、自分が「名店の予約が取りたい」と思うなら、予約を自動化するエージェントを作ってみる。それを友人にも使ってもらい、ニーズを確かめる。お金を取れるかどうかを試す。そうやって小さく始めることで、AIで稼ぐ感覚を掴んでいけばいいのです。
副業からの移行戦略:リスク許容度を見極める
高宮さんは、起業もAI駆動のキャリアも、ポートフォリオ戦略で考えるべきだと言います。本業で安定収入を確保しつつ、実験的にAIエージェントを回して小銭を稼ぐ。その小銭がチリツモで大銭になると確信できたら、軸足をシフトしていく。
ただし、ここで大事なのは「自分のリスク許容度を知る」こと。結婚していて子供がいて、住宅ローンを抱えているなら、貯金ゼロでオールインは危険です。一方、不安を感じないなら、思い切って飛び込むのもありかもしれません。
己のリスク許容度をしっかり客観視して、その範囲内で戦えっていう話だと思うんですよね。
高宮さん自身、「めちゃめちゃ不安」だからこそ、先回りして手を打つタイプだと明かします。人が二手先しか読まないなら、三手先を読む。不安だからこそ戦略を考える——その姿勢が、逆に強みになるのかもしれません。
世代別のチャンスと時間資本
長谷川さんは、山口周ビジネス書作家、組織開発のコンサルタント。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『ニュータイプの時代』などの著作で知られる。さんの『人生の経営戦略人的資本(スキル・経験)、社会資本(人脈)、金融資本(お金)を転換しながらウェルビーイングを目指すフレームワークを提示した書籍。』を引きながら、世代によってチャンスのあり方が変わると指摘します。
AIの登場によって人的資本(スキルや経験)が平準化すると、社会資本(人脈)や金融資本(貯金)がない10代・20代は一見不利に見えるかもしれません。しかし、彼らには「時間資本」があります。試行回数を増やし、何が当たるかわからない状態で作りまくる——それができるのは、時間に余裕がある若い世代の強みです。
| 世代 | 持っている資本 | おすすめの戦略 |
|---|---|---|
| 10代〜20代前半 | 時間資本(大量の試行が可能) | 作りまくる。何が当たるか試す。失敗を恐れずPDCAを回す |
| 20代後半〜40代 | 人的資本、社会資本(経験・人脈) | 本業を維持しつつ副業で実験。社会資本を活かして検証 |
もう今大学生だったらめちゃチャンスだと思いますけどね。
一方、20代後半から40代の人は、すでに築いた社会資本を活かしつつ、仕事の傍らでこっそり実験する戦略が現実的です。無理にオールインせず、自分のリスク許容度に合わせて動く——それが長期戦を生き抜くカギになります。
打算ではなくパッション駆動で
リスナーの質問には「お金以外の資産」という言葉もありました。社会資本や人脈を意図的に築くべきか——そんな疑問に、高宮さんは「狙って蓄積しに行くものじゃない」と答えます。
たとえば、福祉の仕事をしている人が、将来金融業界に転職したいからと金融の人脈を作ろうとしても、なかなかうまくいきません。打算的に人脈を作ろうとしても、相手にバリューを出せるかわからないからです。
むしろ、変態的にパッション駆動で動くことが大切です。同じパッションを持つ人たちと自然につながり、深い知見が溜まる。社会資本は、パッション駆動でやった結果としてついてくるものなのです。
パッション駆動でやらないと、そういう社会資本的なものって溜まってかないんじゃないかな。
長谷川さん自身、貯金をせずに海外旅行にお金を使い、ポーカーにのめり込んだ結果、今の人生があると振り返ります。御大長谷川さんが敬意を込めて呼ぶ、現在の会社(福祉事業)の経営者。ポーカーを通じて出会い、そのご縁でキャリアが大きく変わった。との出会い、福祉の社長になったこと、ペット管理士の資格を取ることになったこと——すべてはセレンディピティの積み重ねでした。
貯金と投資のバランス
長谷川さんは「貯金よりも海外旅行に使った方がよかった」と自身の経験を語りますが、高宮さんは「バランスじゃないですか」と冷静に返します。
貯金しまくって投資がゼロになると、何も起きません。一方、貯金がなくて不安で不安でしょうがないなら、貯金した方がいい。大事なのは、自分のリスク許容度を客観視し、その範囲内で戦うことです。
たとえば、結婚して子供がいて住宅ローンを抱えている状態で、貯金ゼロは危険です。一方、独身で余裕があるなら、思い切って経験に投資するのもありでしょう。精神論で追い詰められてオールインする必要はなく、己のリスク許容度を見極めることが大切なのです。
不安すぎて体壊すぐらいだったら絶対やんない方がいいし。己の許容度を知るっていう。
グレーゾーンとインテグリティ
もう一つのお便りは、「スタートアップでも大企業でも不正に関するニュースが多い。グレーゾーンに対してどう向き合えばいいのか?」という質問でした。
高宮さんは、不正には明確に法で線が引かれているものと、法的にはグレーでもインテグリティ誠実さ、高潔性を意味する英語。ビジネスでは、法令遵守だけでなく、倫理的な判断基準を持つことを指す。的に判断すべき領域があると指摘します。
たとえば、コンプガチャソーシャルゲームで、複数のアイテムを揃えると希少なアイテムが手に入る仕組み。射幸心を煽りすぎるとして2012年に規制された。や消費者金融個人向けの小口融資を行う業者。かつて金利制限がなく、高金利での貸付が問題視された。現在は利息制限法・貸金業法で上限金利が定められ、銀行傘下に入るなど規制強化が進んだ。の高金利は、法的にはアウトではなかったかもしれません。しかし、「本当にそれやるんですか?」と問われると、心地よくない領域でした。法をクリアした上で、自分として納得できるインテグリティの線をどこに引くか——それが問われるのです。
不正会計、詐欺、業法違反など
→ 明確にNG
コンプガチャ、高金利など
→ 自分のインテグリティで線を引く
自分がやっぱりその線を超えて、心地よくない線は超えるべきではない。
さらに、日本とアメリカでは法制度のあり方が大きく異なります。アメリカは「やってみて不具合が出たら法をキャッチアップさせる」フロンティア精神の国。一方、日本は「お上が設定したルールの中で戦う」文化です。
アメリカでは、Airbnb個人が自宅や部屋を旅行者に貸し出すプラットフォーム。既存の宿泊業法とのグレーゾーンで事業を拡大し、後に法整備が進んだ。やUber個人がドライバーとして登録し、配車サービスを提供するプラットフォーム。タクシー業法との衝突を経て、各国で法整備が進んだ。のように、グレーゾーンで先行して事業を広げ、後から法が追いつくパターンが一般的です。一方、日本では、先にルールを設定してから始めることが求められます。グレーゾーンでの許容度が、社会全体として異なるのです。
まとめ
今回は、40代リスナーからのお便りをもとに、AI時代のお金との付き合い方とグレーゾーンへの向き合い方を深掘りしました。
AI駆動の世界では、個人が小規模ビジネスを複数運営しやすくなります。大事なのは、リスク許容度を見極め、副業から始めて、無理のない範囲で実験すること。そして、打算ではなくパッション駆動で動くことで、社会資本も自然に溜まっていきます。
グレーゾーンに対しては、法をクリアした上で、自分のインテグリティで線を引く。心地よくない線は超えない——その姿勢が、長期的に信頼を築く土台になるのかもしれません。
番組では、リスナーからのお便りを募集しています。ハッシュタグ #ぼくらの戦略論 でXに投稿するか、こちらのリンクからぜひ感想や質問をお寄せください。
- AI時代は、副業から始めて本業にシフトする戦略が有効
- リスク許容度を見極め、無理のない範囲で実験する
- 若い世代は時間資本を活かし、作りまくって試行回数を増やす
- 打算ではなく、変態的なパッション駆動で社会資本を築く
- グレーゾーンでは、法をクリアした上で自分のインテグリティで線を引く
