組織の目線を合わせるにはどうしたらいい?ビジョン浸透の戦略論
ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと、編集者で経営者でもある長谷川リョーさんが、組織の目線をどう揃えるかを語り合います。ぼくらの戦略論ep.64では、成功体験の積ませ方からビジョン浸透、そして宗教アナロジーまで、経営者やマネージャーに刺さるテーマが展開されました。その内容をまとめます。
成功体験のない人に、登頂の景色をどう見せるか
長谷川さんは大阪で福祉事業に飛び込んでから、出会う人の質が変わったと語ります。ライター時代は堀江貴文実業家。ホリエモンの愛称で知られ、書籍や動画など多方面で発信を続けている。さんや落合陽一メディアアーティスト・研究者。筑波大学准教授で、テクノロジーと社会を横断する発信で知られる。さんといった、いわばトップ1%の景色を見ている人たちと話す機会が多かった。その視座が「当たり前」だったわけです。
しかし採用面接などを通じて、世の中にはその景色を見たことのない人がたくさんいることに気づきます。長谷川さんが立てたのは、学歴ではなく「何かに打ち込んで圧倒的な成功体験を持っているか」が、視座や努力の仕方の差をつくっているのではないかという仮説です。
登頂したことない、山を登ったことない人に、どうその山から見える景色を見てもらうか。
高宮さんはこれを受け、自分が体験したことのないものを人に教えるのは難しいと同意します。経営者目線も、リーダーシップも、結局は体験してみないとピンと来ない。だからこそ、相対的に高い視座を持つ側がどうエンパワーして見せてあげるかが鍵だといいます。
クイックウィンを意図的に演出する
高宮さんは、就活でサークルの部長経験が意外と重宝される話を例に挙げます。1,000人組織のリーダー経験を持つ人は社長以外いないわけで、小さな単位で成長機会をつくり、そこで成功体験を演出することが大事だと語ります。
社長体験がないなら子会社を任せる、子会社の前にまずは部門長を任せる。ちょっとずつ新しい体験を積み重ねることが、人事制度における育成計画の本質だと高宮さんは整理します。
ロールモデルがメンタルブロックを壊す
高宮さんが続けて出すのが、メンタルブロックの話です。陸上で100mを誰かが10秒切ると、その後一気に10秒台で走る人が増える。日本のスタートアップ業界でも、メルカリフリマアプリを運営する企業。2018年にマザーズ上場し、日本のスタートアップで初の時価総額1,000億円超えを達成した代表例とされる。が時価総額1,000億円を初めて超えて以降、8年で77社が同水準を達成したといいます。
長谷川さんは、メルカリの新聞広告に登場した野茂英雄日本人メジャーリーガーの先駆者。1995年にロサンゼルス・ドジャースで活躍し、それ以降日本人選手のMLB挑戦が一気に増えた。の例も連想します。「できるかも感」を醸成すること自体が、経営者の役割になり得るというわけです。
一方で長谷川さんは、自分自身の失敗談も振り返ります。長谷川さんが20代後半に立ち上げたモメンタムホースの初期メンバー・小原さんは、本を読んだことがないのに、課題図書を熱湯風呂の中で読むほどの気合の入った人でした。長谷川さんはそのスタンダードを基準にしてしまい、後から入ってきた人にも同じ努力量を求めた結果、パンクする人が続出したといいます。
マイクロマネージと自律、どちらの組織を作るか
高宮さんは、結果の出し方の方法論は人それぞれであり、どこまでマイクロマネージで成功パターンを押し付けるかが、マネジメントの一番難しいところだと言います。Howの押し付け方が変われば、求めるカルチャーも採るべき人も変わってくる。
ポテンシャル採用で入口の給与は安め。気合と努力でついてくる人を歓迎し、成長に応じて給与の伸びを大きくしていく
最初から高い給与で迎える代わりに、教育コストは最小限。結果が出なければup or outで信賞必罰
どちらが正解ということではなく、自社のビジョンや美学に沿った組織を選び、それに合う人を採用すること。そして、その美学を決めるのが経営者の仕事だと高宮さんは語ります。
ビジョンと現場のミスマッチをどう解消するか
長谷川さんは、現在身を置く福祉業界のリアルを持ち出します。現場には「いい支援をしたい」というモチベーションで働く人がいて、事業所が増えてスケールすることに必ずしも関心があるわけではない。経営層と現場で同じマインドを持つのは現実的ではないのではないか、という問いです。
高宮さんの答えは明快でした。それは経営者が見ているものを伝えきれていないか、ミスマッチに目をつぶっているだけではないか、と。利益最大化したいなら、利益最大化したい人を雇って一丸となるのが一番いい。価値観が違う人をだましだまし働かせるのは、どこかで破綻する、と語ります。
長谷川さんは鳥貴族の例を出します。バイトの若いスタッフがいい笑顔で接客し、上流では会社が拡大して上場している。あれは何をモチベーションに動いているのか、と高宮さんは問い返します。自己高揚感か、自己成長か、ギャラか。その答えと企業の目的がアラインしていないと、嘘をついている感が透けて見えてしまう、と。
宗教アナロジーで考えるビジョン浸透
ここから話は宗教アナロジーへと展開します。ビジョン・ミッションの浸透とは「聖典と教会とミサ」の話だ、と高宮さんは言います。価値観レベルでずれた人を矯正するのはしんどい。だからこそ、根っこのビジョンでずれてはいけない。ハードスキルは後天的に身につけられるから、会社がサポートすればよい。
長谷川さんの会社では、御大(グループ総帥)が「利用者ファーストじゃなくて支援員ファーストだから」と語っているといいます。支援員を疲弊させる利用者なら受け入れないという考え方で、お客様第一ではなく、働く人を最優先にする昭和の家族主義的な価値観に近いと高宮さんは指摘します。
そのとき長谷川さんに求められるのは、ペテロとして御大の言葉を書き下ろし、メンバーに伝える役割です。誤解されないように、「支援員が神様」「利用者は言うこと聞け」ではなく、「支援員がハッピーになることでお客さんがハッピーになる」と翻訳して伝える必要があります。
割と抽象的で分かりにくい神の言葉とか、バイブルに書かれてることを、具体的に日常の運用細則に落とし込むのがパウロなんですよ。
さらに高宮さんは、ビジョン浸透における「ミサ」の階層構造にも触れます。基本は管理者に任せつつも、伝言ゲームによる誤謬は避けられない。だから多層的に同じメッセージを発し続ける必要がある、と。
長谷川さんも、毎週月曜の朝会で自分が話し、隔月で御大に来てもらうなど、すでに実践しているといいます。各事業所の管理者とは密にワンオンワンや飲み会で関係を作り、価値観のすり合わせを重ねている、と。
一神教か、多神教か
最後に高宮さんが投げかけたのは、もう一段メタな問いでした。スーパープロフェッショナルな傭兵部隊型の組織では、一神教的にビジョンで統一すること自体が、傭兵を離れさせてしまうかもしれない、と。
ビジョンで強く一体感を作る。価値観のミスマッチは避け、同じ方向を向く人を採る
多様な価値観を許容することそのものをメタな一つの宗教として掲げる、プロフェッショナル傭兵集団
多神教的に多くの神を許すこと自体も、実はもう一段上のメタなレベルで一つの宗教である。そう考えると、組織のあり方には正解が一つではない、というのが高宮さんの結びでした。
まとめ
組織の目線を合わせるテーマは、つきつめると「ビジョン浸透」と「成功体験の設計」という二つの軸に行き着きます。経営者やマネージャーは、自社の美学を決め、それに合う人を採り、抽象的な言葉を日常の運用に翻訳し続ける必要があります。同時に、メンバーには小さな成功体験を意図的に積ませ、メンタルブロックを壊すロールモデルを用意することも欠かせません。
長谷川さんと高宮さんは、リスナーからのお便りも歓迎しています。同じような悩みを抱えるマネージャーや経営者、あるいは傭兵部隊型組織を運営している方など、それぞれの実践を共有してほしいと呼びかけて回を終えました。
- 成功体験のない人には、小さな単位でストレッチ機会を与え、見えないセーフティーネットでクイックウィンを意図的に演出する
- 「あいつができるなら自分も」というロールモデルを社内に作ることで、メンタルブロックは崩せる
- マイクロマネージか自律か、どちらの組織を作るかは経営者の美学が決める
- 価値観レベルのミスマッチを抱えたままだと、いずれ破綻する。船に乗せる人を選ぶか、人に合わせてビジョンを作り直す
- ビジョン浸透は「聖典・教会・ミサ」のアナロジー。多層的に同じメッセージを語り続ける泥臭さが本質
- 抽象的な創業者の言葉を、現場の運用細則に翻訳する「ペテロ/パウロ」役が経営幹部の重要な仕事
