経営はどこまで現場の一次情報を取りに行くべきか
冒頭、長谷川さんはポーカーの大会でマニラから帰国したばかりだと明かしつつ、今回の相談テーマを切り出します。持って行ったお金は全部なくなったそうです。
相談の中心は、経営と現場の距離です。日々の経営活動で現場の肌感覚や一次情報から離れると、意思決定に影響が出るのではないかという問いです。
長谷川さんは自身の福祉事業とポーカー事業を例に挙げます。福祉なら利用者と支援員のやりとり、ポーカーなら店員と客のやりとりといった現場の感覚が、自分が現場に出ていないとズレていくのではないかと感じているといいます。
経営っていうのはどこまで現場のその一次情報を取りに行くべきなのか、というところの相談をしたいですね。
高宮さんはこれを「宗教論争」だと表現します。どちらにもポジとネガがあり、単純な正解はないという立場です。
現場主義のポジとネガ
高宮さんは、鈴木修会長が工場に常に行くような現場主義を例に、そのメリットとデメリットを整理します。
一次情報から離れすぎるネガとして、象牙の塔のてっぺんにいる人が浮世離れした意思決定をしてしまう危険を挙げます。
一方で、現場に頻繁に顔を出すことにもネガがあると指摘します。経営者が来るだけで秘書室や経営企画室が振り回されたり、視察でたまたま聞いたN1の声を世の中の代表のように決めつけてしまう危険です。
現場に出るポジは、サニタイズされた数字を眺めるより、ターゲット顧客の生の声を深く洞察してプロダクトを合わせ込めることです。
逆に現場から引くポジは、経営者がいちいち現場に出なくても意思決定でき、スピードが上がり、偏った情報やバイアスを排除できることだといいます。
結論は「自分の経営スタイルを自覚すること」
高宮さんは、宗教論争の結論としては「どっちでもあり」になってしまうと認めつつ、そこで終わらせません。大事なのはリーダーシップの話と同じく、自分のスタイルを自覚することだといいます。
自分が現場主義なのか、現場に任せて一歩引いて客観的に意思決定するタイプなのか。まずそこを自覚した上で、そのスタイルのプロコンを認識しながら使いこなすことが要点だと語ります。
長谷川さんは自身の組織構造を紹介します。トップである「温帯」と呼ぶ社長は現場にタッチせず、長谷川さんが経営と現場の中間で両方を接続する役割を担っているといいます。
毎朝社長と話し、現場の課題を吸い上げて共有し、もらったアドバイスを実践に移す。長谷川さんはそのつなぎ役になっていると説明します。
温帯の経営スタイルからすると、長谷川さんっていう計器と操縦桿を握ることで、自分が直接なんか外に出て風向きとか速度とかを計測しなくても、長谷川さんを通じて全グループをコントロールするみたいな、そういう経営スタイルなんだと思うんですよね。
高宮さんは、社長が直接現場に出ると「トップが来た」という空気になり、本来吸い上げられる情報が上がらなくなる可能性を指摘します。
一次情報から距離があるからこそ出せる価値
多岐にわたる事業のキーサクセスファクターをすべて自分で把握し実行するのは無理だと高宮さんは言います。だからこそ社長は、全グループ横断やポートフォリオ経営の抽象的な判断に集中しているという見立てです。
長谷川さんは、自分の立場だからこそ出せるフィードバックがあると話します。現場の店長や副店長は毎日そこにいるため、自分たちを客観視しづらくなるためです。
「お客さんとフレンドリーに接するのはいいんだけど、友達になっちゃってないか」とか、「線引きできてなくない?」みたいなことを言えるのって、多分僕とかしかいないわけで。
ただし高宮さんは、現場を見ていなければ「友達になっている」ことすら把握できないと補足します。社長・長谷川さん・現場の店長がそれぞれ違うレイヤーを担い、全体として必要な機能が埋まっている状態だと整理します。
福祉事業でも同様で、日々の業務で手一杯の現場に代わり、法制度の変化に先んじて事業所の方向性を考えるのが長谷川さんの役割になっているといいます。現場のトップはサービス管理者で、その上は存在しない「宙に浮いた存在」としてどうバリューを出すかを模索していると語ります。
事業軸と機能軸のマトリックスで組織を考える
話は組織デザインへ移ります。長谷川さんは、大きなスタートアップに執行役員が多くいるのを例に、機能で切るのか事業で切るのか、どう組織図を描けばよいかを尋ねます。
高宮さんは、マトリックス組織の考え方で整理します。縦軸が事業単位、横軸が経理・財務・人事といった機能で、そのマス目を誰がどう束ねるかという話だと説明します。
組織設計には大きく2つの視点があると高宮さんは言います。1つは事業の実行を最も効率的にする事業軸、もう1つは機能のケイパビリティを蓄積・活用する機能軸で、両者はしばしばコンフリクトします。
開発機能を例に説明します。開発が各事業部の下にあれば事業部最適でスピードが上がる一方、開発を横串で束ねればノウハウ共有や人材育成、リソースの融通ができるようになります。
事業部の言うことだけ聞けばよく、開発スピードが最適化される
ノウハウ共有や人材育成、事業横断のリソース融通ができる
どちらにも一長一短があり、リソースコンフリクトや目標の優先順位が生じるため、両軸を睨んだ全体最適が必要になると高宮さんは語ります。
そして組織は戦略を実行するためのHowであり、戦略に合わせて最適な形を取るべきだと強調します。ポーカー事業で市場を取り切るのが最優先なら縦軸を強化し、開発力を長期的に上げたいなら横軸を強化するというわけです。
短期と長期の両立をどう機能分担するか
長谷川さんは、目の前で稼ぐ事業にリソースを振りたくなるが、中長期で見ると別の事業にも張っておく必要がある、そのジレンマをどう扱うか悩みを打ち明けます。
高宮さんは、これも経営機能の中の機能分担だと答えます。CEOは短期のPL作成と中長期の成長を両方最適化し優先順位をつける役割、COOは今ある事業を回してPLを作る役割だと区別します。
短期と長期の両方をバランスし、全体最適で優先順位をつける
今ある事業を回し、短期のPLを作ることに集中する
さらに高宮さんは、機能論と人の顔を区別すべきだと繰り返します。COOは一人かもしれないが、CEO機能は取締役全体で担うべき機能かもしれないという発想です。
各役員は自部門を代表する部分最適と、経営陣の一員としての全社・長期目線という2つの責任を持ちます。その埋め方は、CEOに長期を全振りする形もあれば、CEOとCOOのディスカッションでバランスを決める形もあると説明します。
技術面でも同様で、短期の実装に振り切るCTOと、長期の技術ロードマップを描く役割を分けるパターンもあれば、CTOが両方見るパターンもあると例示します。メーカーでR&Dのヘッドと開発のヘッドが分かれる例も挙げられました。
重要なのは、カバーすべき機能の全体像を把握し、理想論と今いる人材を突き合わせて、誰がどこを管轄すれば全部埋まるかをデザインすることだといいます。
長谷川さんは「人から機能になりがちだ」と応じます。高宮さんも、できる人がいるからその人に任せるという発想になりがちだが、本来は機能を全部埋めないと事業がうまくいかないという逆引きであるべきだと述べます。
事業が違いすぎるとき、ビジョンとインセンティブをどう設計するか
最後に長谷川さんは、福祉とポーカーのように全く違う事業間で全社最適の判断をすると、各事業の人から「why?」という反発が出るのではないかと問います。あまりに事業が違うなら別会社化した方がよいのかとも尋ねます。
高宮さんは、人は自分の領土を最適化しがちだと認めた上で、ポーカー事業部長でも全社取締役として全社目線で貢献するよう機能を設計することが前提だと答えます。
その上で、放っておくと部分最適に向かうインセンティブをどう設計するかが鍵だといいます。報酬の大半を全社業績連動にすれば、事業部長でも全社を優先する構造になるという例です。
高宮さんは、ビジョンで夢を語る性善説と、インセンティブ設計での性悪説をセットにすべきだと強調します。長谷川さんが「どうせビジョンに行き着く」と予想したことに対し、天邪鬼的にはビジョンだけと言うのが悔しいからセットにしているとも冗談交じりに語りました。
長谷川さんは、企業の戦略論ではビジョン・経営戦略・事業戦略・機能戦略、その中の組織戦略という構造で整理されていると補足します。高宮さんは、以前扱ったVSPROのフレームワークとも重なると付け加えました。
まとめ
現場主義の是非という宗教論争は、どちらが正解かではなく、自分の経営スタイルを自覚して使いこなす話へと落とし込まれました。そこから組織は、事業軸と機能軸のマトリックスで、戦略に合わせて機能を先に設計し人を当てはめるものだと整理されています。
- 経営が現場にどこまで出るかは正解がなく、自分のスタイルを自覚しプロコンを踏まえて使いこなすことが要点
- 一次情報から距離があるからこそ、現場を客観視したフィードバックを出せる場合がある
- 組織は事業軸と機能軸のマトリックスで捉え、必要な機能をすべて埋めることが大事
- 組織は戦略を実行するHowであり、万能の正解ではなくWhatに合わせたカスタムメイドで設計する
- 機能を先に設計してから人を当てはめ、ビジョン(性善説)とインセンティブ(性悪説)をセットにする
