禅覚寺フリーコーヒーとは何か
まず、この回のテーマである「禅覚寺フリーコーヒー」がどんな活動なのかを整理します。おしょうによれば、禅覚寺というお寺の駐車場外で、無料でスペシャルティコーヒーを提供している活動です。開催は週1回、土日のどちらか、11時から16時まで。コーヒーを淹れているのは、おしょうの妻である「むっちゃん」です。
特筆すべきは、8年続くこの活動が当初から使っている豆です。原宿にある焙煎所付きのコーヒースタンド「THE ROASTERY BY NOZY COFFEE原宿にある焙煎所付きのコーヒースタンド。禅覚寺フリーコーヒーは活動開始当初からここの豆を卸してもらっている。」から卸してもらっています。実はおしょう自身はコーヒーが飲めないそうですが、まだ交際中だった頃にむっちゃんとのデートで飲んだこの店のコーヒーが「初めて美味しいと思ったコーヒー」だったため、お寺で活動をするならこの豆がいい、とずっと話していたといいます。
僕コーヒー飲めないんですけど。そこで飲んだコーヒーが、初めて美味しいと思ったコーヒーだから。
なお、後半で語られますが、この禅覚寺フリーコーヒーと、この番組「オショウクエストラジオ」だけが宗教法人・禅覚寺の活動で、トネリライナーノーツやガチアダチクラブなどは、おしょうが運営する一般社団法人(トゥエルフスプレイヤー)の活動として区分されているとのことです。
焙煎のプロがわざわざ来る理由
この回の企画は、清水いずみ発信で生まれたものです。きっかけは、THE ROASTERY BY NOZY COFFEEの品質管理責任者である菊池さんが、遠方に住んでいるにもかかわらず、フリーコーヒーに何度も足を運んでいたことでした。
焙煎師さんがわざわざね、いろんな大きな卸先があるだろうと思いますけど。無料で提供してるっていう独特の活動に足を運んで来てると。何事だと思ったわけですよ。
量を多く取っているわけでもないフリーコーヒーに、なぜプロが来るのか。その疑問から「菊池さんの話が聞きたい」となり、菊池さんはガチアダチクラブでの対談を快く引き受けてくれたそうです。対談はむっちゃんと菊池さんが中心、おしょうが司会という形で行われました。
清水いずみが特に嬉しかったのは、むっちゃんの「今のフリーコーヒーに対する思い」を聞けたことだといいます。8年の活動の中で語られる機会はあっても、今この瞬間のむっちゃんの声にはまた違うものがある、という視点です。
8年で変わったコミュニティの3つの時代
8年続いた活動は、そのまま同じ姿だったわけではありません。おしょうは、客層の移り変わりを大きく3つの時代に分けて振り返ります。
第1期には、驚くほど多くの縁がここから始まったとおしょうは語ります。同じ町内なのに接点がなかった絨毯屋の大分家さんとは、通りがかりに声をかけられて知り合い、今では一緒に釣りに行く仲。カフェ「トリコ」の長さん、トネリライナーノーツの初代編集長やサイト制作者、寿司の山本暁子さん、ガチアダチクラブの内装を手がけた「もんじゅ」さんも、みなフリーコーヒーで出会った人たちだといいます。
フリーコーヒーすごくないですか?
フリーコーヒーってそういうものだったんです、まず当初。地域でなんかやってる人がみんな来るのよ。
第2期でバリスタを増やした結果、活動の価値が薄まったという指摘は示唆に富みます。おしょうは、むっちゃんが立って話すこと自体に価値があったのだと分析します。慣れていない大学生が立つと、来場者との会話が生まれにくく、客足が遠のいたのです。そこで再び2人体制に戻したのが、現在の第3期です。
今の一番の価値は「子供たちのつながり」
現在の禅覚寺フリーコーヒーの一番の価値について、おしょうは「子供たちのつながりを作っていること」だと語ります。ママ友が集まると子供を連れてくるため、おしょうの子供とママ友の子供たちが一緒に遊ぶ光景が生まれているのです。
その光景が今のうちのフリーコーヒーの一番の価値だなと思ってて。面白い人たちはガチアダチクラブに来るんだけど、フリーコーヒーの方はそういう子供たちのつながりを作ってるの。
清水いずみも、その光景を微笑ましく見ているといいます。境内の木陰で小さな子供3人がひそひそ話し、おしょうの下の子が「整列をしなさい」と言うと、残りの2人が「整列って何?」と返す——そんな一場面を紹介しました。駐車場ではママたちが話し、その横で子供がシール帳を交換する。そこへバイクや自転車で通りがかった人がふらりとコーヒーをもらいに来る。そうした光景そのものが今の魅力だといいます。
また、お墓参りに来た人や町会の人など、お寺という文脈で訪れてコーヒーを飲んでいく人もいます。清水いずみは「お寺が外に出て広がっていくことが体現されている」と表現しました。おしょう自身も「禅覚寺フリーコーヒーがなかったら、他の全ての活動は生まれていなかった」と、この活動がすべての起点であることを認めています。
現在は出張やマルシェへの出店も意識しており、暑い7〜8月は屋内でフリーコーヒーを開くなど、むっちゃんのつながりの中で精力的に活動しているそうです。
「人にカスタマイズしてコミュニティをつくる」という発想
この回で最も普遍的な学びと言えるのが、活動を設計するときの「誰にカスタマイズするか」という発想です。おしょうは、禅覚寺フリーコーヒーを「むっちゃんが一番輝くように」設計したと明かします。
もしカフェとして開いていたら、集客も会計も大変になります。一方フリーコーヒーは、無料であるがゆえに気楽で、極端に言えば誰も来なくても、おしょうとむっちゃんが2人で喋っていればいい活動です。むっちゃんという人をよく知っているからこそ、その人に合わせた形が導き出せた、というわけです。
清水いずみは、これが前回(第9回)で語られた「余計なことをしない」という話ともつながると指摘します。やらなくていいことをやらせず、やりたいことをたくさんやらせてあげる——同じ発想が、学生や仲間と接する場面にも一貫して流れているのです。
この人のをやりたいとかあったら、その人に合わせてコミュニティを作るといい。
お金の話も率直に語られました。おしょうは一般社団法人に100万円を超える持ち出しや、雑誌制作に百数十万円を貸すなど、自ら身銭を切って地域に投資しています。清水いずみはこれを「時間と体力とお金をかけて地域に循環させる挑戦者であり続けている」と評しますが、おしょう本人の実感は少し違うようです。
コンプレックスがない僧侶の原動力とモテ
「挑戦し続ける僧侶」と描かれることについて、おしょうは実態は「ただ目の前に楽しそうなことがあるだけ」だと打ち明けます。人と何かを一緒にやるのが楽しく、それにお金がかかるからクラウドファンディングが得意になった——そんな成り行きの連続だといいます。
その背景にあるのが「コンプレックスがない」という自己認識です。最後のコンプレックスが「モテないこと」だったおしょうは、その自分を認めて1年間合コンとナンパに向き合った経験から、「コンプレックスは自分で解決できるものだ」というマインドに変わったといいます。
昔嫌だったことや怒りをエネルギーに変えて動く。20代はガンガン動けたが、限界を感じることもある。
目の前の「楽しそう」と友達を掛け合わせて動く。社会課題解決のビジョンから始まったわけではなく、活動に意味は後から作られていく。
おしょうは、幼少期の嫌な体験を変えるためにNPOを立ち上げたといった綺麗なストーリーは自分にはなく、「ただただ目の前にある楽しそうなことと、仲良くなった友達を掛け合わせているだけ」だと語ります。清水いずみは、自分はコンプレックスをエネルギーに変えてきたタイプだけに、この考え方が180度違って新鮮で、刺激を受けていると振り返りました。
そしてこの話は、番組のテーマである「モテ」に着地します。楽しんで活動を続けていくと、一緒にやる人からも、寄付先からも、周りからもモテる。禅覚寺フリーコーヒーは、そもそも「むっちゃんにモテるため」に作った活動だからこそ最強だ、とおしょうは笑いを交えて語りました。清水いずみは、コンプレックスをエネルギーにするやり方には限界があると感じていただけに、湧き出る「楽しそう」や「友達」というワードの強さに気づかされたと締めくくります。
むっちゃんにモテるために作ってるから、もう最強なの。
まとめ
8年続く禅覚寺フリーコーヒーは、無料で極上のコーヒーを提供するという一見不思議な活動でありながら、地域の面白い人が集う場から、子供たちのつながりを育む場へと姿を変えながら続いてきました。その根底にあるのは「むっちゃんが一番輝くように」という、人にカスタマイズした設計思想です。
コンプレックスからではなく「楽しそう」と「友達」を掛け合わせて動くおしょうの姿は、原動力の別の形を示しています。そして無料コーヒーの向こうに生まれる縁と光景は、番組が語る“モテ”——人から信頼され、応援され、関係性を育てる力——そのものだと言えるでしょう。最後には、地域の人がリアルで交流できる場「ガチアダチクラブ」で一緒に立ってくれる人の募集も呼びかけられました。
- 禅覚寺フリーコーヒーは、お寺の駐車場外で無料でスペシャルティコーヒーを提供する、8年続く活動。おしょうの妻むっちゃんが淹れている。
- 客層は「地域の面白い人が集う第1期」→「バリスタを増やして価値が薄れた第2期」→「ママ友と子供のつながりが生まれる第3期」へと移り変わってきた。
- 今の一番の価値は、子供同士が遊ぶ光景。お墓参りや町会の人も訪れ、お寺が地域に広がる起点になっている。
- 活動設計の鍵は「誰にカスタマイズするか」。むっちゃんが輝くよう、集客や会計の負担を外した気楽な形にした。
- おしょうの原動力はコンプレックスではなく「楽しそう」と「友達」の掛け合わせ。それが番組テーマの“モテ”につながっている。
