「モテ」とは、また会いたいと思わせる力
第6回の冒頭、二人はあらためて番組が扱う「モテ」の定義を確認します。ここで言うモテとは恋愛テクニックではなく、人から信頼され、応援され、関係性を育てる力のことです。
おしょうにとってその指標はシンプルで、「また一緒に飲みたい」と相手に思わせられているかどうか。飲みが本人にとってのコミュニケーションの中心であり、「飲まないとお願いできないから」という言葉に、その姿勢がよく表れています。
その相手が「和尚と飲みたいな」ってなったらモテてる状態。俺は。
清水も、モテを「信頼を築き関係性を深めていくもの」と捉えていましたが、対話を通じて「結局また会いたいと思うかどうか」に着地したと語ります。オンラインミーティングだけの相手より、リアルで会った回数が多い相手のほうが関係が深まるのは明らかだ、という点で二人は一致します。この「リアルで会うこと」への確信が、後半のGachi Adachi Clubの話へ自然につながっていきます。
なぜ紹介制なのか?入り口を狭くする設計
Gachi Adachi Clubは、北千住にある紹介制の酒場です。清水が「なぜ紹介制なのか」を尋ねると、おしょうはコミュニティ設計の核心を語り始めます。
ポイントは「入り口を狭くして出口を広くする」という考え方です。おしょうはもう一つの活動であるゼンガクジ フリー コーヒーおしょうが運営する無料のコーヒー提供コミュニティ。無料であることが実は心理的な「入り口の狭さ」になっているという。を例に挙げ、意外な逆説を示します。無料は一見誰でも来やすそうですが、実は「お金を払うほうが心理的ハードルは低い」というのです。
入り口を狭くする
紹介制・無料など。ネガティブな人や目的外の人が入りにくくなる
出口を広くする
中に入ればポジティブな人が多く、関係が自然に広がっていく
ただ人数を集めたいだけなら有料にしたほうがよい、という指摘は多くの人の直感に反します。しかしこうして入り口を絞ることで、コミュニティの中はネガティブな人が少なく、ポジティブな空気が保たれます。おしょうは「実は後付けだけど、狙ってやったと言っちゃう」と笑いますが、結果としていいコミュニティが築けているのは事実です。
紹介制にはもっと現実的な理由もあります。妻の「むっちゃん」が毎週金曜に店に立つため、その日に変な人が来るのは避けたい。夜の北千住には治安面の不安もある。こうした具体的な配慮も、紹介制という設計の背景にあります。
立つ人で色が変わる「フラットな酒場」
Gachi Adachi Clubは「バー」と表記されがちですが、実態はゴールデン街のお店をモデルにしたカウンタースナックです。曜日ごとに立つスタッフが入れ替わり、照明も雰囲気もカラーもがらりと変わるのが特徴です。おしょうが立つ日はほぼ真っ暗、CFAの学生の日は明るめ、といった具合です。
ゲストママとしてカウンターに入った清水は、その体験に衝撃を受けたと語ります。客席側から見るのと、カウンターの中から客同士のつながりを見るのとでは「景色がまるで違った」というのです。自分の発した一言が波紋のように他の客へ伝わっていく感覚が面白く、帰宅後にスナックについて調べ尽くしたほどでした。
私が言ったことがなんか作用して、みんながこう動いていく感じとかが、波紋みたいな、じわーみたいな感じがあって。
この店の設計思想を象徴するのが「フラットに作ってくれ」という内装への唯一のオーダーでした。客席側とカウンター(スタッフ)側の垣根がなく、ドリンクストッカーはあえて客席側に置いてあります。客に「それ取って」と頼めるようにするためです。手荒れがひどいおしょうに代わって、客がグラスを洗って帰ることもあるといいます。
清水はここで、前回話題になった「お願いのされ方」と結びつけます。小さな空間で「ちょっとそれ取って」と役割を与えられることは、「ここにいてもいい」と思える安心につながる。気まずさを感じている人にとって、そのお願いはむしろ居心地の良さを生む良いお願いなのではないか、というのです。おしょうも「役割があるといていいんだと思うことはめちゃくちゃある」と応じ、フラットにすることが結果的にそこへ行き着いていたと気づきます。
自分がいなくても回るコミュニティが理想
Gachi Adachi Clubは、来る人がモテるように設計されているとおしょうは言います。紹介制で誰かとつながって来るため、店の中で新しい会話が生まれ、ポジティブなつながりが育つからです。実際、店で出会った人同士が新しいプロジェクトを始めたり、仕事を頼み合ったりする例が数多く生まれています。
特にうれしいのは、おしょうや妻が関わっていないところでつながりが育つことだといいます。ゼンガクジ フリー コーヒーでも、別々に来ていた客同士が仲良くなって旅行に行ったり、結婚したりした例があるそうです。
おしょうによれば、お寺や会社は「トップがいないと回らない」ことが起きがちですが、自分の活動は自分がいなくても回るようになるのが理想だといいます。毎日おしょう自身が店に立たないのも、この考え方に通じています。もちろん、葬儀や翌朝の法要が続くと体力的に立ち続けるのは難しい、という現実的な事情もあります。
売上についても、大きく伸ばすより「継続できる売上」を確保し、コミュニティとして価値ある場を守ることを優先しています。紹介制ゆえに客が少なく暇な時間もありますが、そこは「トレードオフ」と割り切っている姿勢が印象的です。
今後の展望とクラフトジン構想
Gachi Adachi Clubの一番の価値は、店の空間そのものだけでなく、会員証をきっかけにつながる公式LINEグループにあるとおしょうは考えています。収録時点でおよそ700人が会員になっており、その人たちと一緒に何かをやりたいという思いがあります。
ただし、おしょうは自分でイベント運営が得意ではないと自覚しています。足立区で100人会議地域の挑戦者や活動家が集まる交流イベントの一形態。おしょうは高橋さんが運営する足立区の会に参加し、その運営力に感心したと語る。を運営する高橋さんのように月一のイベントを回すタイプではなく、自分は「日常」のほうが得意だといいます。そこで今考えているのが「物作り」、具体的にはみんなで作るクラフトジンの構想です。
「みんなで作る」ことにこだわる理由はシンプルで「楽しいから」。ただし、PRパーソンの「だいちゃん」からは、当初の構想について「ストーリーが弱い」と指摘を受けたそうです。すでに売れているクラフトジンは、プロダクトを作る前からストーリー作りができている——この気づきも今後の設計に生きていきそうです。
そしてもう一つ、おしょうが数年前から取り組んでいる大きな挑戦が「ガチ足立」の雑誌作りです。足立区の100人を載せたいという構想で、写真は6割ほど撮影済みですが、誌面は「100数十ページのうち2ページ」しかできておらず、進捗は約2%。人一人ひとりに連絡してスケジュールを調整する作業量が膨大で、「一人ですごくやってる感」があると本音を漏らします。
負荷が大きく作業量も膨大。分業だが調整はおしょうに集中。完成時の解放感(ドーパミン)を目指す挑戦
みんなで作り、分かち合う。幸福感(セロトニン)を得られる日常的な営み
清水は、おしょうが本当に好きなのは「作ること」以上に「分かち合うこと」ではないかと指摘します。おしょう自身も、得られる快楽物質の違いで説明します。負荷から解放されたときに出るのがドーパミン、みんなで分かち合うときの幸福感がセロトニン——雑誌の負荷が大きいからこそ、その反動として「みんなで作るクラフトジン」に惹かれているのかもしれない、と。
名前にこだわる理由と「ガチ足立」の概念
最後に、「ガチ足立」という言葉の意味が語られます。もともとは地域の応援者を指す言葉として定義していましたが、「応援」には応援される挑戦者が必要です。そこで、足立区というローカルで挑戦・応援している人を総称して「ガチ足立」と呼ぶようになりました。その集まりがGachi Adachi Clubというネーミングです。
地域の「応援者」のことをガチ足立と定義していた
足立区・地域で「挑戦する人」と「応援する人」を総称してガチ足立と呼ぶ
興味深いのは、名付けの副次的な効果です。「ガチ足立」という雑誌の概念は長年やっていても誰にも浸透しませんでした。物ができていないので当然です。ところがGachi Adachi Clubという店を作ったことで、みんなが店の名を口にするようになり、「ガチ足立」という存在が自然に認識されるようになったのです。
名前がないと座標がないっていうか。だから名前つけないでイベントやってる人、もったいないよっていつも言う。
おしょうは名前へのこだわりが強く、クラフトジンにも「ガチ足立 東京」、ノンアルコール版なら「ガチ足立 東京 0.0」という名前案をすでに用意しています。妻のむっちゃんは名前に反対することも多いそうですが、その判断が正しいこともあり、指摘を受けて考え直したうえで最終的に決めているといいます。
締めくくりに二人が共有したのは「動きながら考える」という姿勢です。すべてを計算してから動くのではなく、動いた後に「実はこう考えていた」と後付けで語る——それでいい、それが著名な人たちの実態でもある、とおしょうは言い切ります。
まとめ
Gachi Adachi Clubは「入り口を狭くして出口を広くする」という設計思想のもと、紹介制という形をとることで安心して人がつながれる場を実現していました。フラットな内装や役割を持てる関わり方は、来る人が自然と「モテる」——つまり信頼され応援される関係を育む仕組みになっています。
おしょうが理想とするのは、自分がいなくても回るコミュニティ。そこには「また会いたい」と思わせるモテの本質と、地域の挑戦者と応援者を束ねる「ガチ足立」の思想が流れています。雑誌やクラフトジンといった新たな挑戦も、動きながら考えるスタイルで少しずつ形になっていきそうです。
- 「モテ」とは、また会いたい・また飲みたいと思わせる関係性の力である
- コミュニティは「入り口を狭くして出口を広くする」と中の空気がよくなる。無料や紹介制も入り口を狭くする手段になる
- Gachi Adachi Clubはフラットな設計で、客も役割を持てる。役割は「ここにいてもいい」という安心につながる
- 自分がいなくても回るコミュニティが理想。売上より継続と価値を優先している
- 雑誌やクラフトジンなど、みんなで作り分かち合う挑戦を「動きながら考える」姿勢で進めている
- 店の名前を口にしてもらうことで「ガチ足立」という概念が自然に浸透していった
