怖い店ではなく、あったかい店
三回にわたって語られてきたのは、ソースダイナーの店主・安達真さんの「前史」でした。番組の出演者たちは、その語りを通して安達さんの見え方が変わったと話します。
百瀬さんは、多くの人が持つソースのイメージを率直に語ります。
ソースの安達さんってなんとなく怖い。世界観があって、カルチャー発信してて、たまにドキドキしながら行くお店みたいに思ってる人が多いかもしれないですよね。
けれど藤原さんは、居場所や自分自身について悩む人こそ、あの店で話していいのではないかと問いかけます。
北爪さんも、あの店は「強い店」というより「あったかい店」だと表現します。挫折や再起を経験した安達さんだからこそ生まれた場所なのだと、これまでの回を聞くとわかると話されています。
むしろここの場所は、そういう安達真のライフステージから生まれた店なんだっていうのが、これを聞いてもらうとわかるじゃない。
なぜカフェではなくダイナーだったのか
いよいよ開店の話に移ります。花屋だった場所に作ったのは、レストランでもカフェでもなく「ダイナー」という業態でした。その構想の原点には、サンフランシスコのある店の記憶がありました。
おしゃれな人ばっかり来てほしいと全く思ってなくて。いろんな人に来てほしいなって、すごく思いがあって。サンフランシスコに大好きなお店があって、トリエステっていうカフェがあって。
安達さんは学生時代に雑誌でこの店を知り、ニューヨーク在住時にも何度も足を運んだと言います。惹かれたのは、決しておしゃれではない雰囲気でした。
そこには本当にいろんな人が集まっているのね。警察官の人が制服のままいたりとか、おじさんがいたり、若い子がいたり、家族連れがいたり、犬連れてる人がいたり。とにかくその町の雑多な人が集まってきて、その雰囲気がとてもいいなと思っていて。
ただ、業態としてはカフェでもよかったと安達さんは振り返ります。決め手になったのは経営の現実でした。
帰国後に働いたD&DEPARTMENT安達さんが帰国後に働いたとされる場所。番組内ではカフェ業態であり、経営が大変そうだったと語られています。がカフェ業態で、休みが取りづらく大変そうだったこと。そこから、食事や酒が出る方がリソースが少なくて済むと学んだと話します。
コーヒー一杯で二時間とかさ。五百円ですよ、二時間。どんな稼ぎですか?って話じゃないですか。
藤原さんは、日本のカフェが「ゆっくりする場所」として作られたイメージなのに対し、アメリカでは長居せず短時間で帰る文化だったと整理します。
客単価が低いのに長時間滞在するモデルになりがちで、経営が大変そうだと感じた
食事や酒が出るぶんリソースが少なく済み、身を削らずに続けられると考えた
クラフトビールと「人の真似をしない」美学
ソースダイナーが最初に目立ったのはクラフトビールでした。しかし安達さんによれば、それは開店から一年ほど経った頃だったと言います。
当初はバドワイザーやベルギーのシメイ、メキシコのテカテなどを置いていました。クラフトビールというカルチャー自体を、ニューヨーク帰りの安達さんも当時はよく知らなかったと明かします。
転機は、サノバスミスの浩太さんたちがポートランドから持ち帰った情報でした。
浩太くんたちが帰ってきた時に、いや、安達くん、面白いカルチャーがあると。ハードサイダーっていうのもその時初めて知ったし、クラフトビールがとにかく面白いよ。なんだそりゃみたいな感じですよ。
安達さんはクラフトビールのラベルのかっこよさに強く惹かれたと言います。店全体の絵の中に、そのデザインがハマったときに魅力が上がる。藤原さんはそれを「俯瞰で店を見ている」と読み解きます。
一方で、長野県のワインは取り入れませんでした。理由は「かっこいいラベルがない」「お土産感がある」からだと語ります。ナチュラルワインにも進まなかったのは、アメリカという視点でクラフトビールの方が強かったからだと言います。
なぜ流行のナチュールや焼酎に今も手を出さないのか。その答えに、安達さんの一貫した姿勢が表れています。
売れるからやるっていうことじゃなくて、俺がかっこいいと思うからやるかどうかっていう視点で言えば、その売れそうだから真似してやるのはかっこよくないからやらないっていうだけかな。
ハンバーガーや水餃子も同じ発想でした。他がやっていないからやる。焼き餃子ではなく水餃子を選んだのも、松本でやっている人がいなかったからだと話します。
職人ではなく編集者、そしてカルチャーへのコミット
藤原さんは、ダイナーという業態でありながらHIPHOPのイベントやターンテーブルを置くなど、本来のダイナーではやらないことをやっている点に注目します。安達さんは、それをニューヨークで見てきたカフェとダイナーの中間をミックスしたのだと説明します。
カフェとダイナーのやっぱ間ぐらいなものをずっと見てきた感じがあって、俺の中でね。だからそこが混じってはいるんだよね。だけど、それをダイナーと定義づけたっていうだけかな。
藤原さんは、その姿勢を「編集」「プロデューサー」と表現します。安達さん自身も「完全なオリジナルなんてない」としたうえで、キュレーションで自分の世界観を作る感覚を認めます。
これとこれが一緒になってるところはないよなみたいなのはあるかもしれないね。その自分の感性というか感覚とか、見てきたものからある経験からいいと思うものっていうのは俺しかわからないと思ってて。
ここで出演者たちが気づくのは、経営でもモテでもない「カルチャーへのコミットメント」でした。売れない時期が続いても、ハードサイダーやクラフトビールを安達さんは続けています。
本当に冷蔵庫の肥やしの時期があった。だけど、やっぱカルチャーとして根付かせるには続けるしかないんだよ。俺が続けなかったら根付かないと思ったの。
その根っこには、クラフトビールを教えてくれたサノバスミスの人たちへのリスペクトがあると安達さんは言います。教わった文脈を、今度は自分が返している。藤原さんはそれを「壮大なシェイクハンズ」と呼びます。
誰かに手を差し伸べられて、その手を握って上に連れて行ってもらって。今度は自分がある程度のステージになった時に、登ろうとしている人たちに手を差し伸べて、まだ登ってこれないんだったら、その手を離さない。
百瀬さんは、出店や移住の相談が安達さんのもとに集まる現状を挙げます。あそこに行けば話に乗ってくれる兄貴がいる。そんな存在になっているのだと話されています。
二階に作る「THE SOURCE SUPPLY」とNY
番組では、店の二階にオープンする新業態「THE SOURCE SUPPLY」についても語られました。安達さんが意図的に「匂わせ」を続けてきた、あの企画です。
扱うのは、これまでも一部売っていたアメリカンダイナーの皿、アパレル、中古の皿、そして輸入品などです。飲食以外の物販を本格的にやるのは初めてだと言います。
安達さんが紹介する皿には、独特の魅力があります。
かっこいいでしょ。あと本当に割れないの。一回落としても割れなかったことあって。やっぱりアメリカの業務用で丈夫にできてるんですよ。
年に一度アメリカを訪れる安達さんは、ホームセンターのような店で見た「でかすぎて何に使うかわからないもの」に心が上がると言います。輸入代理店とつながったことで、それを日本でも扱えるようになりました。
なぜこの物販をやるのか。その理由は、彼の生き方の核心につながっていました。
俺がいいと思うから、いいと思う人に届けたい。東京行かなきゃ買えないとかじゃなくて、ここで買えるよっていう。
安達さんには今もニューヨークで暮らしたいという思いがあります。けれど、フルでの移住は難しい。だからこそ、たどり着いた答えがありました。
だったら、俺がニューヨークにいていいなと思っている世界を自分の近くに作っちゃえば、なんか心地いいかなみたいなふうに思ってるのかもしれないね。
藤原さんは、他人の店を監修するよりも自分でやった方が純度が高いと指摘します。安達さんの美学や描きたいイメージは、本人にしか完全には再現できないからです。
気軽に行ける非日常でありたい
番組の終盤、出演者たちがそれぞれ感想を語ります。北爪さんは、安達さんが広げる世界を身近で覗ける楽しみを口にします。
百瀬さんは、不動産・建設業を営む自分たちが目指す方向を、安達さんが先に体現していたと話します。
自分たちで欲しいものを作ろうよみたいな話をよく社員とするんですけど、それを体現されてた。ますますいい街になっていくんじゃないかなと思った。
そして安達さんが、最後にこの店の根っこにある思いを語りました。
この日常と非日常を行き来できる場所でありたいなと思ってるんですよ。旅行行くってワクワクするでしょ。それって非日常に触れられるから。The Source Dinerが、その非日常に気軽に行ける日常でありたいというか。
松本にないもの、長野にないもの、近くにないもの。だけど自分がいいと思うもの。それを届け続けることが、安達さんの言う「新しいこと」なのだと締めくくられました。
なお新業態のオープンは、二月中を目指して準備中だと話されています。安達さんのZINE『男子も座ってしましょう。マナーです。』は、Shioribiと自身の店で取り扱われているとのことです。
まとめ
料理人ではなく編集者を自認する安達真さんの生き方が、四回のシリーズを通してくっきりと見えた完結編でした。売れるかどうかより「自分がかっこいいと思うか」を貫き、松本にない世界を自分の手で作り続ける姿が語られています。
- ソースダイナーは、店主の挫折と再起というライフステージから生まれた「あったかい店」として語られています。
- 安達さんは自らを職人ではなく編集者・キュレーターと位置づけ、他人の真似ではなく自分の感性で世界観を作っています。
- クラフトビールやハードサイダーを売れない時期も続けたのは、教わったカルチャーを根付かせるという恩送りの姿勢からでした。
- 新業態「THE SOURCE SUPPLY」は、行けないニューヨークの世界を自分の近くに作るという発想から生まれています。
- 目指すのは「気軽に行ける非日常」であり、松本にないものを届け続けることが安達さんの新しい挑戦です。
