グロースハックはもう当たり前?1日5〜6回という試行の桁
今回のエピソードは、前回のニュースフィードの話を受けて、Facebookがなぜ成長に合った機能をきちんと作れたのかを掘り下げる回です。けんすうさんは冒頭で、その理由はザッカーバーグという天才がいたからではなく、経営としての仕組み作りがあったからだと切り出します。
具体的に取り上げられるのは、グロースハックチームと1%ロールアウトルールの2つです。尾原さんは、この話を機能を作る「実行」の話ではなく、機能が作れる組織づくりという「経営」の話だと整理しています。
まずグロースハック ── データと実験を使い、製品やサービスの成長を素早く繰り返し改善していく手法。2010年前後のシリコンバレーで広まった言葉ですという言葉について、二人はすでに死語に近く、当たり前になった考え方ではないかと話します。グロースハックの基本は、成長のレバーが見えにくいからこそ質より量を担保し、回転数の中で筋のいいものを見極めて広げることだと説明されています。
たくさん試して数字を見て一番いいのを残して成長しましょうってことって当たり前じゃないですかって多分聞いてる人は思っちゃうもんですよ。
ただ、けんすうさんが問いかけるのは、そのテストを「どのぐらいの数」回しているかという点です。挙げられた数字は、Amazonで2000回、Netflixで1000回というもので、1日に5〜6個の実験をしている計算になると話されています。
Twitterの例も紹介されます。2011年ごろまでは2週間に1回のテストを回していたTwitterが、Facebookのグロースハックが話題になったことで週に10回へ切り替え、ユーザーの成長率が4倍になったといいます。
この数字を受けて、けんすうさんは、この桁感のトライアルを組織の中に埋め込めているかが問われていると投げかけます。尾原さんも、自分たちが試すときは1日2〜3個を1か月続けることもあり、手法としてはすでに定着していると応じています。
10日で7人の友達。Facebookのマジックナンバーとは
試行の回転数が定着した先で大事になるのは、回転数の中から本質を見極める方法と、その回転数を生む組織づくりだと、けんすうさんは話を進めます。そこで出てくるのが、Facebookのグロースハックチームとセットで語られる「マジックナンバー」です。
尾原さんは詳細な数は忘れたとしつつ、一定期間に友達が何人になれば利用が続くか、という話だったと答えます。けんすうさんが示した正解は、新規ユーザーが10日以内に7人以上の友達とつながると、長期的に使い続ける比率が6人と7人の間で格段に跳ね上がる、というものでした。
けんすうさんは、こうした指標を「マジックナンバー」や「ノースポールスター ── 北極星指標とも呼ばれ、事業が常に目指すべき最重要の指標を指す言葉です」と呼び、それにこだわり続けるためのデータチームの作り方が大事だと説明します。
Facebookも最初から答えを知っていたわけではありません。2008年ごろにできたグロースハックチームは、30人ほどをフォローすると違う、写真を1枚でもアップロードすると違う、メッセージが2000を超えると違う、といった候補を色々と試していたと話されています。
その中で「7 Friends in 10 Days」が選ばれた理由は、境目を超えるかどうかで差が激しいことに加え、前回話したAARRR ── 獲得・活性化・継続・紹介・収益の頭文字を取った、ユーザー行動を段階で捉える成長のフレームワークですのすべての段階に効いてくるからだといいます。友達とつながることは継続につながるだけでなく、友達を紹介して連れてくる動きにも結びつきます。
KPIはなぜ間違えやすいのか?クリティカルサクセスファクターとの関係
マジックナンバーの話から、けんすうさんはKPIの捉え方へ話を広げます。けんすうさんによれば、KPIはクリティカルサクセスファクター ── 重要成功要因。目標を達成するうえで決定的に効く要因のことで、CSFと略されますとセットでなければKPIではないといいます。
KPIってクリティカルサクセスファクターとセットにならないとKPIじゃないんですよ、本当に。
けんすうさんの説明では、世間はKPIを売上のための営業件数のような、ゴールに向かう連続的な行動指標として捉えがちです。しかし本来は、非連続なゲームに持っていくための断絶点を乗り越える要因がクリティカルサクセスファクターであり、それを達成できる指標がKPIになるという整理です。
営業件数のように、ゴールに向かって積み上げる行動の量を追う
達成するかどうかでゲームが変わる要因(CSF)とセットで数字を追う
尾原さんは他社の例として、検索で0件ヒットだとユーザーが戻ってこない、検索結果に5件以上商品があると使ってくれる、といったケースを挙げます。この場合のKPIは商品数ですが、なぜその数字が大事かといえば「検索したときに5件以上を出すため」だと決まっていなければ意味がない、という話です。
けんすうさんも、売り場に賑わい感がないとユーザーも売り手も離れていくと補足します。尾原さんはさらに、東京都内に100店舗を作るというKPIを八王子だけで達成しても事業的には意味がない、というありがちなミスを例に挙げています。
回転数だけでは足りない理由。副社長レベルのゲートキーパー
けんすうさんは、クリティカルサクセスファクターの分水嶺にこだわらずに実行だけをしていると、日常の延長線上にある行動を最大化するだけになってしまうと指摘します。
ネットで大事なのは、ネットワークエフェクトやフライホイール ── Aが成り立つとBが、Bが成り立つとCが成り立ち、それがまたAを盛り上げるという、成長の循環構造を表す言葉ですのような循環をどう作るかだといいます。ネガティブループをポジティブループに変えられる地点を見極め、そこに経営が副社長レベルでコミットすることが重要だと話されています。
けんすうさんによれば、初期はザッカーバーグさんが2007年ごろまで全部のコードを見ていたとされ、2010年ごろには副社長レベルがゲートキーパーを務めていたといいます。グロースハックチームは回転数の話だと誤解されがちですが、外してはいけないところを重点的に見る仕組みがセットだった、という指摘です。
尾原さんは、マジックナンバーのような数字は回数を重ねないとわからず、ロジックでは導けない点もポイントだと話します。自身が手がけた「私を構成する5つの漫画」という企画を例に挙げます。
(「私を構成する5つの漫画」は)3冊でも7冊でもだめだったんですよ。絶対5冊じゃないとだめで、なぜかというと5冊だと5番目と6番目で悩むのでシェア率が上がる。
けんすうさんは、バイラル効果を生むものは、1人が1人より多くを呼べれば累乗で増える一方、0.9人にしか届かなければ0.81、さらにその先へと尻すぼみになると説明します。だからこそ、その境目を経営としてこだわり続けることが大事だという話です。
トップダウンなのにボトムアップ。1%ロールアウトという仕組み
尾原さんは、回転数を上げて重要な数字を見つけKPIを上げることには納得しても、実際にやるのはとても大変ではないかと問いかけます。ここでけんすうさんが持ち出すのが、1%ロールアウトルールです。
戦略的な指標にこだわるというと、トップダウンの匂いがします。けんすうさんは、大量のトライアルはメンバー1人1人のアイデアを大事にするボトムアップでなければ生まれず、このバランスがとても大事だと話します。
Facebookが取った方法は、誰でもユーザーの1%には実験してよいという権利をエンジニアに与えることでした。当時のFacebookはユーザーが1億人ほどいたため、1%でも100万人規模になります。
1%の切り出し方も自由で、ハーバード大学の中から始める、20代の女性から始める、友達が5人以下の人から始める、といった形でかまわなかったといいます。結果が良ければ1%を5%に、やがて100%に広げ、その拡張の段階でトップダウンの議論が入ります。
1%で実験
エンジニアが許可なく、自分で選んだユーザー層の1%で試す
5%に拡張
結果が良ければ対象を広げる
経営と議論
リスクや戦略の達成度を、データを元にトップダウンで検討する
100%へ
全ユーザーに展開する
1%以下なので現場の、ボトムアップの自由なアイデアがすごく試しやすくなるってことですよね。
尾原さんは、昔Facebookで働いていたエンジニアから、上長の許可を取らずに、まず自分だけに機能を開放し、次に友達10人ほどに開放していたと聞いた経験も語っています。
エンジニアは何で評価されるのか?アイデアボックスとインパクト主義
けんすうさんは、この文化が、1人1人の創意工夫を大事にするFacebookのハッカーウェイ ── Facebookが掲げてきた行動原理。素早く作り、試し、改善し続けることを重んじる考え方ですから生まれたと説明します。2009年ごろには、アイデアを出す人と実装する人の分割も進んでいたといいます。
社内には「アイデアボックス」があり、誰でもアイデアを投げ込めます。エンジニアは、その中からどれを実装するかを自分で決めてよく、評価は実装の結果、Facebookの戦略指標が何%上がったかというインパクトで決まります。
2週間かけても実装できなかった場合は、同僚と相談して、アイデアを分割すれば作れるのか、手放したほうがいいのかを決めるといいます。アイデアを出した人も、インパクトが生まれれば別途評価される仕組みです。
けんすうさんは、日本では与えられたものを開発することがエンジニアの評価になりがちだと対比します。FacebookやGoogleなどでは、自分が作れる最もインパクトの大きい課題を自ら拾い、作りきることがエンジニアの才能とされている、という話です。
与えられたものを開発すること
最大のインパクトがある課題を自ら拾い、作りきること
尾原さんが聞いた当時の話では、社内の統一ToDoリストに、他人が「これはお前がやったほうがいい」とタスクを付けたり、「自分ではなくあの人だ」と他の人に回したりすることもよく行われていたそうです。
尾原さんはこれを、インパクト順に選ぶ競争の部分と、現場同士が互いの能力を知ってタスクを渡し合う協力の部分が、バランスよく両立している仕組みだと整理します。けんすうさんも、自分でやる責任を持つからこそのフリーダムがFacebookの面白さだと応じています。
多分ザッカーバーグさんの頭の中にあったのは、いわゆる大きくなればなるほど官僚的になったりとか、組織が重くなったりとか、ユーザー目線じゃなくなるみたいなことの失敗例を色々意識した上で、
現場のエンジニアの力を最大化するっていうのを最初から意識してたんだろうなというのはちょっとありますね。
けんすうさんは、実行者には「何をやるか」が大事な一方、経営者には「どういうプロセスを設計するか」が大事だとまとめています。
失敗も織り込む。Facebook初期文化を表す5つの言葉
1%ロールアウトの裏には、大量の失敗もありました。けんすうさんが例に挙げるのは、ユーザー同士がバーチャルギフトを送り合う機能です。
ギフト機能は、今でいうSNSの投げ銭のようなもので、収益化と活性化につながると期待されていました。1%テストではうまくいったため2〜3か月かけて大型開発して展開したものの、ユーザーの利用率が下がり、さらに2〜3か月後にばっさりやめたといいます。
けんすうさんの主張は、戦略的に重要なところは外さず、確率論的に成功を呼び込む組織経営を設計する、というものです。そのうえで、Facebookの初期文化を表す5つの言葉が紹介されます。
けんすうさんは、この5つ目の考え方はNetflixにも似ていると話し、こうした初期文化を経営のプロセスにどう埋め込むかが大事だと締めくくっています。
セールスリードかプロダクトリードか。Netflix・リクルートとの違い
尾原さんは、今聞いた仕組みを実際に作るのは相当大変だと感想を述べます。けんすうさんはここで、セールスリードマネジメントとプロダクトリードマネジメントという議論を持ち出します。
けんすうさんによれば、日本ではセールスの力で売上を伸ばす経営が強く、経営者もセールス寄りの経歴の人が強みを持ちがちです。一方アメリカのビッグテックでは、プロダクト自体がユーザーを巻き込み、巻き込むほどプロダクトの魅力が上がるネットワークエフェクトを持っており、そのための組織づくりが経営の中心になるといいます。
尾原さんは、もともと強い成長角度があり、ユーザーが凄まじく伸びている状況でなければ、1%ロールアウトやアイデアボックスを入れてもほぼインパクトは出ないのではないか、と現実的な見方を示します。
けんすうさんは、セールスリードの代表としてリクルートを挙げます。価値と価格を決め、営業がどれだけ売れるかを見積もり、それに合わせてマーケティングが集客する、という組み立て方です。どちらが良いかではなく、市場とプロダクトにどちらが合い、自分たちがどちらで勝ち切れるかの問題だと話しています。
| 企業 | 経営の軸 | 組織の最終形 |
|---|---|---|
| Netflix | コンテンツが花 | コンテンツプロデューサーが生き生き働ける組織 |
| リクルート | セールスリードマネジメント | 営業を軸に価値・価格・集客を組み立てる組織 |
| プロダクトがネットワークエフェクトを内包 | プロダクトの魅力を引き上げ続けるための組織 |
けんすうさんは、たまたまではあるものの、三者三様の組織を見る機会になったと振り返ります。次回はタイムラインを戻し、プロダクトの経営手法が確立していく途中にあったIPOの前後で、Facebookがどんな舵を切ったのかを話す予定だと予告されています。
まとめ
Facebookの急成長は、天才の閃きではなく、勝負を分ける数字を見極めるトップダウンと、現場が自由に試せるボトムアップを両立させた経営の設計によって支えられていた、というのがこの回の結論です。
- 試行は1日5〜6回という桁で回し、組織に埋め込むことが前提になっている
- 「10日以内に7人の友達」のように、超えるかどうかでゲームが変わるマジックナンバーを見極める
- KPIはクリティカルサクセスファクターとセットで初めて意味を持つ
- 1%ロールアウトとインパクト評価で、現場の自由と結果への責任を両立させる
- セールスリードかプロダクトリードかで、適した組織の形は変わる







