前回までの振り返りと戦略の本質
シリーズ第3回は、これまでの振り返りから始まります。第1回では「戦略とは戦いを略すこと」、つまり戦わずに勝てる状態を作ることだと整理されました。
第2回は、ネットワーク効果を語る前提として、守りの観点だけでなく攻めの観点も重要だという話でした。お客様に選ばれ、それがポジティブなループとして回り続けることが本質だと話されています。
ビジネスが勝ち続けるということは、お客様から選ばれ続けるということなので、結局これって顧客提供価値があるんですかっていう話と、ライバルではなくうちをなぜ選んでくださるんですかということに対する、持続的競争優位性の担保っていう、この2つがめちゃめちゃ大事なんですけど。
尾原さんはこれを関西弁で「なんでお客さんがうち選んでくれるの?」という理由作りと、ライバルが「やりたくてもやれない」状況を作る堀作りビジネスにおける参入障壁のこと。英語で「モート(Moat)」と呼ばれ、競合が真似しにくい構造を指すだと言い換えています。
ネットワーク効果は、この「選ばれ続ける理由」と「ライバルがやりにくくなる仕掛け」の両方を備えているため、強力だとされています。
ネットワーク効果には二つの流派がある
いよいよ本題のネットワーク効果に入ります。尾原さんは、最強の武術にたとえて「ネットワーク効果には大きく2つの流派がある」と切り出します。
ネットワーク効果には最強の武術として、まあ北斗神拳と南斗聖拳があるんですけど、けんすうはどっちが好き?
それね、多分その例え50歳以上じゃないと分かんないと思うんですよ。今だったら何て例えるの?呪術廻戦で例えてもらっていいですか?
たとえ話の世代差で笑いが起きつつ、尾原さんは2つの流派を整理します。相手を内部から崩す「柔拳」的なものと、外からの打撃で破壊する「剛拳」的なものがあるというイメージです。
LINEやFacebookに代表される、利用者同士が同じ立場でつながり合うタイプ。北斗神拳的に内部から強くなる
ヤフオクやメルカリに代表される、売り手と買い手のような異なる立場をつなぐタイプ。双方向で増幅していく
今回扱うのは、このうち「相互ネットワーク効果(ツーサイドネットワークエフェクト)」の方です。
相互ネットワーク効果の仕組み
ヤフオクやメルカリのようなマーケットプレイスでは、売り手と買い手という異なる立場をプラットフォームがつなぎます。けんすうさんは、両者が同じ場に集まることで成立している点を直感的に指摘します。
尾原さんはここで、ネットワーク効果の本質を「相手とつながるラインができ、そのラインの強さが累積的に強くなり続けるから、ほっといても強くなる」ことだと整理します。
買い手は、選択肢が豊富で欲しいものが揃う場で買いたいと考えます。だから売り手が多い場所に集まりやすい。
やっぱ楽天に行くと大体物があるだろうと思うし、始まったばっかりのECサービスだったら店が少なくて、欲しいもの5個探したけど全部なかったってなると使わなくなるみたいな。
一方の売り手も、売上を伸ばしたいので買い手が多い場所に出店したくなります。こうして売り手と買い手が互いを呼び込み合うループが生まれます。
売り手が増える
品揃えが豊かになり、買い手にとって魅力的な場になる
買い手が増える
購入機会が増え、売り手にとっても魅力的な場になる
さらに売り手が増える
売上を求める売り手が次々と参入する
さらに買い手が増える
選択肢の豊富さに惹かれた買い手が集まり続ける
物理を超えたAmazonとロングテール
けんすうさんは「イオンモールのような物理店舗にも同じことが言えるのでは」と問います。尾原さんは、まさにそこがAmazonが勝てた理由の根源だと応じます。
物理の売り場には空間的な限界があり、買い手が「ここなら売っている」と思える範囲にも限界が生まれます。一方オンラインなら倉庫に在庫を集約でき、全国のニッチな需要も拾えます。
けんすうってやっぱ異世界転生ものでもすごいマニアックなものいっぱい読んでるじゃないですか。そういう超マニアックな本って、例えば渋谷にある大型書店だとしても、そのけんすうのマニアックさを受け止めてくれるだけの在庫があるかなっていうと、ちょっと不安になったりしません?
1店舗では年に1冊売れるかどうか分からない本も、全国から集まれば1日に1冊売れる商品になりえます。本は賞味期限もなく長く需要が続くため、オンラインとの相性が抜群でした。
そして重要なのは、ニッチも揃う場所はメジャー商品の購入先にもなるということです。スーパーで買えるティッシュまでAmazonで買ってしまうように、買い手はその利便性に取り込まれていきます。
売り手にとっての「魔力」と緊張関係
ここで尾原さんは、相互ネットワーク効果が売り手にとっては手放しに歓迎できるものではないと指摘します。
え、そうなんですか?売り手も嬉しいじゃないですか。
だって売り手としては、売れるっていうのもあるけど、あそこの売り場がめちゃめちゃ売るようになると、やっぱりじゃあちょっと販促費よこしてくんない?とか、あそこの棚で一番いい棚を取るために上の棚を取らないと、まあなかなか売れないようになるよねとか。
けんすうさんは家電量販店で「テレビの明るさを一番明るくしてもらえる権利」が重要視される話を例に挙げ、強い売り場が売り手に対して持つ影響力を補強します。
売り手としては、売り場が一強になると言いなりになりかねないため、本来は売り場同士が競ってくれた方が好都合です。そのため、強くなりすぎる前のプラットフォームには乗りたがらない売り手も多いといいます。
しかし買い手が集中してしまうと、そこで売らなければ売上目標が達成できなくなります。売り手はしぶしぶ乗っかり、一度乗ると売上が上がるため「ありがたい」と感じるようになっていく。これが相互ネットワーク効果の「魔力」だと尾原さんは言います。
最初はやっぱり緊張関係が結構高いけど、一回取り込まれてしまうと売上がもう無視できないほどになって、だんだんプラットフォーム側が強くなってくるみたいなことが起きてる。
売り手と買い手をつなぐという一見シンプルな構造の裏で、買い手の充足感と売り手の葛藤が絡み合いながら、プラットフォームは内側からじわじわと強くなっていきます。これが相互ネットワーク効果の正体だと締めくくられました。
まとめ
今回はネットワーク効果に二つの流派があることを示したうえで、ヤフオクやメルカリのような「相互ネットワーク効果」を中心に解説する回でした。買い手と売り手が互いを呼び込み合うループ、物理を超えるロングテールの強さ、そして売り手が抱える葛藤までが丁寧に整理されています。
- ネットワーク効果には「ネットワーク外部性」と「相互ネットワーク効果」という2つの流派がある
- 相互ネットワーク効果は、売り手と買い手のような異なる立場をつなぐタイプで、双方向に増幅していく
- オンラインはロングテールを取り込めるため、相互ネットワーク効果と相性が極めて良い
- 強い売り場は売り手にとって緊張関係の対象だが、買い手の集中に押されて結局取り込まれていく
- 内側から染み込み、一度染み込めば離せなくなる構造こそが、相互ネットワーク効果の魔力である
