株価が急騰したとき、なぜ「怖い」と感じたのか
前回はmixiの業績回復を詳しく語った朝倉祐介さん。けんすうさんはその続きとして、朝倉さんがmixiの代表を退任したきっかけと、そのときの思いを尋ねます。
朝倉さんによると、mixiの業績は2013年中に一気に回復しました。ただ、その直前の2013年度第1四半期は、mixiが上場して以来初めての赤字決算だったといいます。
mixiは3月末締めの会社なので、第1四半期は4月1日から6月30日までです。朝倉さんが株主総会で代表に選ばれたのは6月25日で、正式に代表を務めたのは5日間だけでしたが、その責任を取って役員報酬を返上しました。朝倉さんは「それだけは未だに根に持ってる」と笑います。
mixiの業績は第3四半期から急速に改善し、株価も大きく上がりました。代表就任時に180億円だった時価総額は、2013年の年末には1000億円を超え、2014年中には5000億円を超える水準に達したそうです。
けんすうさんは、SNSとしてのmixiのピークでも2800億〜3000億円程度だったので、それを超えたことになると補足します。
ところが朝倉さん自身は、時価総額の急上昇をとても怖く感じていました。組織が急に強くなったわけでも、何かが劇的に変わったわけでもないのに、評価だけが期待値先行で上がっていったからです。
朝倉さんはこの経験から、スタートアップのバリュエーション ── 企業価値の評価額のこと。資金調達の際に、株式1株あたりの価格や調達額を決める基準になりますを高いほどよいと考える風潮に疑問を持っています。高い評価は、それだけ重い義務と責任を負うことでもあるという考えです。
やがて社内の雰囲気も変わりました。「ユーザーが集まりすぎてサーバーが落ちる」と言いながら、社員がうれしそうに働くようになったのです。朝倉さんはステージが変わったと感じ、mixiのターンアラウンド ── 業績が悪化した企業を立て直す事業再生のこと。コスト削減や事業の選択と集中など、痛みを伴う判断が求められることが多い仕事ですは思ったより早く終わったと判断して退任しました。約10年前のことです。
事業再生の依頼に共感しない理由と、ファンドを立ち上げるまで
退任後に次の目標があったのかを聞かれた朝倉さんは、「何もなかった」と答えます。事業再生の依頼や相談を受けることはあっても、まったく共感できなかったといいます。
朝倉さんの見方では、役に立っておらず、人手不足の時代に人を抱え込んでいるような会社は、価値を出していないのだから潰れてもかまわない、ということになります。
mixiのときに再建に取り組んだのは、たまたま所属していた会社が目の前で大変なことになっていたからでした。朝倉さんはその心境を、夜道で倒れている人を見つけて救急車を呼ぶようなものだと例えます。縁のない会社が困っていると言われても、興味は湧かないそうです。
その後、朝倉さんは2年間スタンフォードに行き、シリコンバレーのように次々とスタートアップが生まれる環境をどうすれば作れるかを考えました。
帰国後に問題意識を持ったのは、スモールIPO ── 小さな企業規模・時価総額のまま株式を上場すること。上場後に成長が鈍り、株価が低迷する例が多いと指摘されていますや上場ゴールでした。最初から大きな規模で上場できれば、上場後も成長を続けて社会に大きな影響を与えるスタートアップを生み出せるのではないか、という仮説です。
この仮説をもとに、朝倉さんはレイターステージに投資するファンドを立ち上げます。ただ、最後に大きな資金を入れるだけでは大きな会社は作れないと感じるようになり、現在はシードアーリー ── 創業直後から事業が軌道に乗り始めるまでの、スタートアップの初期段階のことのスタートアップに投資するVC、アニマルスピリッツを運営しています。
mixi退任
ターンアラウンドを終え、次の目標はない状態に
スタンフォード
スタートアップが生まれる環境づくりを2年間考える
レイターステージ投資
大きな規模での上場を後押しするファンドを設立
シードアーリー投資
初期から支えるVCとしてアニマルスピリッツを運営
起業家、事業家、狭義の経営者は何が違うのか?
けんすうさんは、ターンアラウンドができる人として声がかかることも多かったはずの朝倉さんに、自分を何者だと考えているのかを尋ねます。
朝倉さんは、ターンアラウンドは得意なほうだと思うものの、もうやりたくないと答えます。マッキンゼー時代の先輩には「血も涙もない」ほどターンアラウンドが上手な人がいたものの、朝倉さん自身は案外血も涙もあり、楽しくはなかったそうです。
血も涙もない仕事をしないといけないから(その)仕事をしてるので、彼らが好きで好きでやってるかどうかって。
朝倉さんは「もう経営はやらないのか」とよく聞かれるそうです。しかし朝倉さんの中では、経営と投資は0か1かの別物ではなく、グラデーションだといいます。その前提として、経営者を3つに分類して整理しています。
| フェーズ | 呼び方 | 役割 |
|---|---|---|
| 0→1 | 起業家 | サービスやプロダクトを生み出す |
| 1→10 | 事業家 | マネタイズし、儲かる構造を作ってスケールさせる |
| 10→100 | 狭義の経営者 | 10に育った事業を10個回す(事業の複数化) |
事業家の役割について、朝倉さんはユニットエコノミクス ── 顧客1人あたりの収益と獲得・維持コストの関係を見る考え方。事業が拡大するほど利益が出る構造かを判断する指標になりますを合わせて儲かる構造を作る段階だと説明します。10→100のフェーズは、1つの事業を100に伸ばすことではなく、10の事業を複数回すことだという点も強調します。
日本では、経営者というと本田宗一郎のような創業経営者をイメージしがちです。スティーブ・ジョブズはiPhoneを自分で作ったのに、ティム・クックはプロダクトを作っていない、と言う人もいます。
朝倉さんは、両者は役割が違うと考えています。ジョブズは0→1も10→100もできた人で、クックは今求められている100のステージを回しているのだから、それでよいという見方です。
経営者と投資家は対立する関係なのか?
朝倉さんによると、投資家と0→1の起業家はかなり違います。一方で、10→100の狭義の経営者と投資家の違いは、0か1かではなくグラデーションに近いといいます。経営者も規模が大きくなるほど、どこに資源を配分するかという投資家的な発想が求められるからです。
投資家には事業の手触り感がなく、思い通りに進まなくてイライラしないかと聞かれることもあります。しかし朝倉さんは、経営者をやっていても指示どおりに組織が動かないことは散々経験するので、明確な違いではないと答えます。
朝倉さんは、バフェットの「投資家だから良い経営者であり得るし、経営者だから良い投資家であり得る」という趣旨の言葉に強く共感しています。
mixiの経営中、朝倉さんも投資家から簡単に言ってくれると思うようなことを散々言われました。現場には、できない事情が100個ぐらいあったといいます。それでも朝倉さんは、長い時間軸で見れば経営者と投資家の目線は本来一致するものであり、そのためにお互いが歩み寄るべきだと考えています。
経営者の側は、できない理由が100あっても「だからやらない」ではなく、50でも30でも潰して、中途半端に見えても1歩でも前に進む。投資家の側も、机上の空論を言うだけでなく、現場の実態に思いを馳せたうえで言うべきことを言う。朝倉さんはこれを両者のあるべき姿としています。
できない理由をなるべく潰し、中途半端に見えても前に進む
べき論で終わらせず、現場の実態に思いを馳せたうえで言う
mixi時代、朝倉さんは自分を投資家の目線を持った経営者だと思って経営していました。いまVCとしては、事業家の目線を持った投資家でありたいと考えているそうです。
経営者ではなく投資家を選んだ理由
けんすうさんは、経営と投資がグラデーションだとして、そのうえでなぜ投資家を選んだのかを尋ねます。
朝倉さんは、0→1でプロダクトを生み出すには、そのプロダクトや事業への偏執的な執着心が必要だと考えています。けんすうさんなら漫画がそれにあたる、と例を挙げます。
しかし朝倉さん自身には、そこまで偏執的に「これじゃないとできない」と思えるものがないといいます。自らを器用貧乏と表現し、それでは気持ちが続かないと感じたそうです。
愛せるものを探して自分を洗脳するよりも、幅広いスタートアップに接して役に立つほうが、トータルでは多くの人の役に立てる。朝倉さんはそう考えて、現在の仕事を選んでいます。
一方で僕(が)朝倉さんと話しててすげえいいなっていうのは、そういう、こう、こだわりのある執行者が好きですよね、朝倉さんって。
けんすうさんは、こだわりを持つ人と話し、応援するのが好きな朝倉さんのあり方を含めて、役割分担があることを素敵だと話します。
未来世代のための社会変革を、なぜ淡々と語れるのか
けんすうさんは、朝倉さんに5年後や10年後の目標があるかを尋ねます。朝倉さんは、ファンドは一度で終わりではなく継続的に立てていくものであり、出資者であるLP ── リミテッド・パートナーの略。ファンドに資金を出す出資者のことで、運用はファンドマネージャーであるGPが担いますもそれを期待しているので、なるべく長くVCを続けたいと答えます。
そのうえで朝倉さんは、目標が2つあると切り出します。アニマルスピリッツは経営理念に「未来世代のための社会変革」を掲げています。子どもや孫の世代がより良い社会を引き継げるようにしたいという思いがあり、その原動力がスタートアップだと考えているのです。
けんすうさんは、これほど熱い内容をなぜ淡々と言えるのかが、朝倉さんと話していていつも面白いと話します。
言葉だけ聞いたら、ソン(孫正義)さんが言ってることにかなり近いことを言ってんのに、なんで朝倉さんそんな冷静に言えるんすか?
朝倉さんの答えは「そういうインターフェイスですね」というものでした。けんすうさんは、メッセージのやり取りでも、朝倉さんがスタートアップの弾み車を回すために何を変えるべきかを淡々と考えている様子が面白いと話します。
原動力は怒りか、それとも憤りか?
朝倉さんは、自分の原動力のベースは「腹が立つこと」だと明かします。mixiのときも、状況が悪いのに何もできずにぼやぼやしていることに強烈なムカつきがあったそうです。
勝負して負けたなら仕方がないが、勝負もせずにグダグダ言うのは恥ずかしい。朝倉さんは子どもの頃から、「こういうものだから」と昔のやり方をそのまま押し付けられることに強い反抗心があったといい、大企業ではまったく出世できないタイプだと自己分析します。
これを受けてけんすうさんは、Xでいつも怒っている人とは違うと指摘し、怒りと憤りを区別します。
怒りってその自分視点なんですね。だけど憤りっていうのは、世の中をこうしてった方がみんないいのに、なぜそうしないのかっていう理想と現実への差分に対する爆発力なんですよ。
自分視点で生まれる感情
理想と現実の差分に対する爆発力
朝倉さんは「今後そう言おうと思います」と応じます。
企業価値1兆円と、LPへのリターンという2つの目標
朝倉さんは、途中だった2つの目標の話に戻ります。1つ目は、未来世代のための社会変革を本気でやるなら定量化が必要だという考えから、企業価値1兆円超のスタートアップを作ることを目安にしています。
1兆円超はZOZOくらいの水準です。10年間のファンドの期間内にそこまで到達するのは厳しいものの、上場後も成長を続けて1兆円を超えた会社をシードアーリー期に支えられたなら、VCとしての役割は果たせたと言えると朝倉さんは考えています。できなければベンチャーキャピタリストとしてのキャリアの失敗だ、とも話します。
2つ目は、LPに安定的・継続的にリターンを出し続けることです。VCは厳然たる金融業であり、ヘッジファンドや不動産投資のファンドマネージャーと並べて「ちゃんと儲かるのか」「リスクとリターンは合っているのか」を問われ続ける仕事だからです。
そのため朝倉さんは、投資パフォーマンスやバリュエーションの正しい水準を厳密に見ており、スタートアップとの対話でも緊張感を持って話すことがあるといいます。
一方で朝倉さんは、ファンドを1〜2本やって終わる「ツーリストマネー」の管理人ではなく、日本のベンチャー業界に根を張るつもりでいます。だから搾取的な投資スキームで儲けようとは思わず、チームでは「繰り返しゲームの中での投資パフォーマンス最大化」を常に掲げているそうです。
企業価値1兆円超のスタートアップをシードアーリー期から支える
繰り返しゲームの中でLPに安定したリターンを出し続ける
LPとして見た朝倉さんのファンドは何が違う?
けんすうさんは、朝倉さんのファンドに2つLPとして出資していると明かします。けんすうさんによると、投資の連絡や年間の報告がきちんと届き、各社の売上や投資の状況まで報告されるそうです。
マジ朝倉さんのところだけなんですよ、それ(報告)が来るの。
けんすうさんは、綺麗事に逃げず、金融業としての責任を果たしたうえで社会をこうしたいという思いがあるところがすごいと話します。尾原さんはそれを一言でまとめました。
まさに論語とそろばんだよね。
尾原さんはさらに、朝に道を聞かば夕べに死すとも可なりという論語的な覚悟と、預かったお金に丁寧にリターンを返す姿勢が両立していると評します。この言葉は、朝に真理を悟れたらその日の夕方に死んでも悔いはないという意味だと尾原さんは説明しました。
尾原さんは、朝倉さんの語り口は淡々としているが、長く話を聞くと覚悟や経営としての合理性が浮き彫りになると話します。けんすうさんも、語り口のせいで誤解されやすいのかもしれず、今回それを解きほぐせてよかったと振り返ります。
朝倉さんが「サンシャイン池崎みたいに言った方がいいんすかね」と冗談を言うと、尾原さんは、低音の響く声という資産を活かしてほしいと返しました。
朝倉さんがポッドキャストを続ける理由
最後に、朝倉さんが配信している番組の話になります。朝倉さんは同じ音声をVoicyとポッドキャストで配信しており、Zoomで一発撮りし、編集はまったくしない「野良番組」だと説明します。
きっかけはVoicyの緒方さんに声をかけられたことで、それから6〜7年ほど続いているそうです。朝倉さんは惰性だと言いつつ、起業家が聴いてくれて声をかけてもらえたり、初対面でも自分のことをある程度知ってもらったうえで話を始められたりする点を便利だと話します。
Voicy版には本編の前に「どうでもいい話」があり、リスナーはそこにコメントを付けて本編は聴いていないこともあるそうです。そうした前置きが不要な人は、ポッドキャスト版で内容を把握できます。
海外スタートアップを扱う「シリコンバレーによろしく リターンズ」を続けている理由は、海外にいる清小林さんや内藤さんとたまに話したいからだそうです。Zoomで話すならついでに収録しよう、という感覚だといいます。
多分人生がポッドキャスト製造エンジンなんだよ、多分朝倉さん。
朝倉さんは、ノルマはなく1ヶ月飛ばすこともあると断りつつ、付き合ってくれる人がいればと番組を紹介し、番外編は締めくくられました。
まとめ
朝倉祐介さんは、mixiの再建を終えたあと、経営と投資をグラデーションとして捉え、事業家の目線を持った投資家としてVCを続けています。淡々とした語り口の奥には、理想と現実の差に対する憤りという原動力があり、社会変革と金融業としての責任を両立させようとしています。
- 時価総額が180億円から5000億円超まで急騰したとき、朝倉さんは実態を伴わない評価に恐怖を感じていた
- 経営者は起業家(0→1)、事業家(1→10)、狭義の経営者(10→100)に分けられ、狭義の経営者と投資家の違いはグラデーションだという
- 経営者と投資家は、長い時間軸では目線が一致するものであり、互いに歩み寄るべきだと朝倉さんは考えている
- アニマルスピリッツは、企業価値1兆円超のスタートアップを支えることと、LPへ継続的にリターンを出すことの2つを目標にしている
- けんすうさんは、朝倉さんの原動力を自分視点の怒りではなく、理想と現実の差に向かう憤りだと捉えた


