買い物カゴを持たせるための工夫とは?
「うんちくエウレーカクイズ」は、クイズとして楽しめて、うんちくとしても面白い話を仕入れられるゆる言語学ラジオのコーナーです。出題者は放送作家の越山さんで、回答者は出題者に「はい・いいえ」で答えられる質問を重ねて正解に近づきます。
色編の1問目は、ジャンルを伏せたまま出題されました。リスナーから届いた問題は、小売店の入り口にある買い物カゴについてのものです。
小売店の入り口にある買い物カゴ。カゴを持っている方が客単価は高くなりやすいので、ある小売チェーンでは客にカゴを持たせやすくする工夫をした。一体どんな?
最初の回答は「カゴの底にクーポンを入れておく」というものでしたが、不正解です。堀元さんは、近所のドン・キホーテでカートを持っていくとレジでポイントが付く施策を見たと話しますが、これも正解ではありませんでした。
水野さんは、客単価を上げる施策かどうかはわからないとしたうえで、書店で感心した仕掛けを紹介します。
八重洲ブックセンターかな?(そこでは)店の1階に無料のコインロッカーがあるんですよ。
そのおかげで東京駅の近くでスーツケースとか持ってたり、でっかい荷物持ってる人でも一旦預けてゆっくり本見れるんですね。
この話から堀元さんは「手が空いていないとカゴを持ちようがない」と考え、店に入った瞬間に遺伝子操作で3本目の腕が生えてくる、という冗談の回答を出します。当然、不正解でした。
水野さんはさらに、近所のイオンの買い物カートがゴーカートのような形になっていて、子どもが乗りたがるので親が落ち着いて買い物できる、という例も挙げています。
赤と青の2色で「持たない」選択肢を消す
推理の転機は、カゴの色が関係あるかという質問でした。答えは「はい」で、ここで今回のジャンルが「色」だと明かされます。水野さんは、言語と色の関係のシリーズを作るために色を調べていると話し、堀元さんから「早く形にして」とせかされます。
質問を重ねると、カゴは2色で、暖色と寒色の組み合わせ、具体的には赤と青だとわかります。ただし1つのカゴに2色あるのではなく、赤いカゴと青いカゴが別々に置かれていて、どちらを取るかにそれぞれ意味がある、という仕組みでした。
赤のカゴか青のカゴを好きな方をお取りくださいって言うと、カゴを取らない選択肢がなくなるから、事前に選択肢を与えることで、カゴを取るのが基本的な行動という風にさせた。エウレカ。
この回答が正解でした。堀元さんは「来週末、イタリアンとフレンチどっちがいい?」と聞いて、行かないという選択肢を出さないモテテクと同じだと重ねます。
出題の補足によれば、この手法は行動科学では選択肢の削減 ── 選べる選択肢をあえて絞り込むことで、相手の意思決定を特定の方向に誘導する考え方。選択の負担を減らす効果もあるとされます、修辞学では誤ったジレンマの誤謬と呼ばれるそうです。堀元さんは「誤った二分法」のことだと反応し、「赤いきつねと緑のたぬき、どっち派?」と聞くと、どちらでもない選択肢が消える、という例を挙げています。
一人で静かに見て回りたい
店員に声をかけてほしい
番組の解説は「カゴを赤と青の2色に塗り分けた。入店時に赤いカゴは一人で静かに見て回りたい、青いカゴは店員に声をかけてほしいを意味するカゴにした」。この選択肢を示すことで、どちらのカゴも取らないという選択肢に気づかせないようにした、という内容です。
同じ形式の店は漫画『市場クロガネは稼ぎたい ── 商売やビジネスの駆け引きを題材にした漫画。番組の参考文献として概要欄でも紹介されています』にも登場するそうで、堀元さんは、漫画がイオンの実話をもとにしているのだろうと受け止めています。
堀元さんは、自身が関わる店で似た施策を試して失敗した経験も話しました。
おしゃべり歓迎バッジっていうバッジをレジ横に置いておいて、喋りたい人はこれつけといてくださいねっていうバッジを貸し出ししたんです。
基本おしゃべりしたい人しか来ないので、みんなそれをつけまして。つけたまま外すの忘れて家帰っちゃうっていう事件が多発しまして、あっという間に廃止になりました。
今は作業したい人だけが「作業したい札」を置く方式に変えたそうです。堀元さんは「二分法にする必要なかったです、最初から」とまとめています。
化石しか残らない恐竜の色は、どうやってわかる?
2問目は、恐竜の本当の色についての問題です。
恐竜は実際の色が判明していないため、恐竜図鑑はすべてデタラメな配色をしている。しかし、近年になって恐竜の色の手がかりが見つかった。それは何でしょう。
水野さんは、この話を記事で読み、恐竜図鑑を作っている知り合いからも聞いたはずなのに忘れてしまったと明かします。堀元さんは、ティラノサウルスの再現図が昔のつるっとした肌から羽毛のある姿に変わってきた話を挙げ、体表は化石に残らないのではないかと首をかしげます。
質問で見えてきたのは、手がかりが出土した化石であること、新しい手法ではなく新しい資料が見つかったこと、そして恐竜以外の生き物、それも鳥類が関係していることでした。冷凍保存された皮膚が見つかった、という推理は外れます。
行き詰まった推理が動いたのは、堀元さんが日焼けのメラニン色素 ── 人や動物の皮膚・毛・羽などに含まれる色素。量や種類によって黒や茶色などの色合いが決まり、紫外線から体を守る働きもありますについて尋ねたときでした。答えは「あります」で、羽毛のメラニン色素が関係しているところまで近づきます。
ただ、なぜ鳥と恐竜が同じ色だと推論できるのかがわかりません。恐竜が鳥を食べて色素を取り込んだ、ダイイングメッセージが残っていた、恐竜のファッション業界が流行色を決めた、などの回答が続き、最後はギブアップとなりました。
答えはメラノソームの化石
番組の解答は「恐竜と鳥類、両方から同じメラノソームという色素を含む細胞内の小器官の化石が発見された」というものです。
メラノソーム ── メラニン色素を作り、ためておく細胞内の小さな器官。形や大きさの違いが色の違いと結びつくことが、現生の鳥の研究から知られていますは細胞の中にある小さな器官で、そのサイズの化石が残っていたことになります。堀元さんは「細胞って化石になるんだ」と驚きます。
化石の発見
恐竜と鳥類の両方から、メラノソームの化石が見つかる
鳥の手がかり
鳥の羽毛のメラニン色素から、鳥の色がわかる
恐竜への推定
同じメラノソームを持つことから、恐竜の色の手がかりになる
水野さんは、そんな複雑な話を聞いていたなら覚えられないと苦笑します。堀元さんからは「水野さんの記憶が全部化石ぐらいの解像度になってますもんね」とつっこまれ、スタジオに「水野と堀元の言うことは信じるな」と貼り紙をしようという話で2問目が締めくくられました。
白い蛾が急に黒くなったのはなぜ?
3問目の出題者名はフーリエ変換さんです。堀元さんは、フーリエ変換が任意の関数を三角関数の和で表す数学の手法で、JPEG画像にも使われる基礎技術だと紹介しました。
蛾の仲間であるオオシモフリエダシャクは通常名前の通り霜が降ったような白い体色をしているが、ある時期から急に黒い体色の個体が大多数を占めるようになった。これはなぜだろう。
スタジオの外では、生き物に詳しいよしのぶよしのぶさんが答えを知っているそうです。前日の寿司の席でヒルを飼っていると見せられた、というエピソードも挟まります。
堀元さんは最初、クジャクの羽のように性選択で形質が進むランナウェイ仮説 ── 異性に好まれる特徴が世代を追うごとに強調され、止まらなくなるように発達していくという進化の仮説。クジャクの長い羽がよく例に出されますを挙げますが、外れます。黒い色は突然変異によるもので、昔は白いほうが、今は黒いほうが生き残りやすかったという推論は正しいと確認されました。
堀元さんは、似た例として農機具が生物を変えた話を紹介しました。
上の方でさなぎを作ってた虫って(コンバインで)全員刈り取られて死ぬんですよ。
その結果、下にいるやつだけ生き残るから、コンバインによって新しい下にしかさなぎを作らない種が生まれたっていう逸話があります。
水野さんは、環境の変化で違う性質を持つ個体がたまたま生き残るいい例だと受け止めます。道路の舗装、電球、人工物はいずれも関係なく、黒い「自然物」が関係あるとわかります。
花粉症が1964年から増えたというクイズ内クイズ
杉の植林の話から、スギ花粉症の話題になります。越山さんは、花粉症が増えた理由はそれだけではないという噂があり、東京オリンピックの1964年から急激に増え始めたらしいと話し、そのままクイズを出しました。
堀元さんは、東京オリンピックで衛生環境が上がりすぎてみんなが過敏になったのではないかと答え、越山さんは大枠で合っていると応じます。越山さんの説明によれば、それまで農作業で肥料にしていた人糞が、海外の客に食べさせるわけにはいかないと廃止され、その結果として日本人の体内にサナダムシが入らなくなったといいます。
東京オリンピック
海外から客が来ることになる
人糞肥料の廃止
人糞で育てた野菜を出せないとして使用をやめる
サナダムシの消失
日本人の体内にサナダムシが入らなくなる
花粉への攻撃
サナダムシに対抗していた体の働きが花粉に向かう
サナダムシを攻撃するのに今まで忙しかったんだ、体って。でもそれがいらなくなったから暇になっちゃって花粉攻撃し始めた。
この話の直後、水野さんの言い間違いを含むきわどい冗談で、スタジオは大騒ぎになりました。
黒の時代とシャネルの逸話は正解になる?
蛾の問題に戻ると、黒い自然物は木であり、木の種類の特定は不要で、植樹も関係なく、人間が環境を変えたことがわかります。時期は重要で、19世紀の工業化が関係し、石炭も関係あるという答えが返ってきました。
焼畑で黒こげの地面が増えた、という推理は外れます。よしのぶさんからは、もともと白ばかりだった蛾が黒一色になり、今はまた白が増えている、という流れを考えるようヒントが出ました。
波のある流行と聞いて、水野さんはヨウジヤマモトやコム・デ・ギャルソンが黒い服を広めた「黒の時代」を挙げます。堀元さんは、さらに前の黒の潮流としてココ・シャネルの逸話を披露しました。
それまでは黒い服、特に婦人服は喪服しかないっていう前提だったものを、(シャネルが)黒ドレスを着始めて、ファッション業界の偉い人に「おいおい、今日は誰の葬式なんだい?」って揶揄する嫌な一言を言われた。
それに対してシャネルが切り返した一言がめちゃくちゃかっこよくて。「あなたの葬式です」。
どちらのファッション説も当然不正解です。水野さんからは、せっかくヒントをもらったのに好きな話をしているだけだとつっこまれます。
煙が植物を枯らし、黒い蛾が生き残った
石炭が関係あるという手がかりに戻り、水野さんは汽車の煙が黒く出て、黒い蛾のほうが生存しやすくなったと答えます。越山さんの判定は「煙までは合っています」で、間が抜けているというものでした。
煙の色素が植物に沈着したという回答も外れます。沈着も影響はあったものの、もっと大きな影響があると言われ、煙の影響である植物が死滅したかという質問に「はい」が返ってきました。
白っぽい植物が煙の影響で死滅、枯死して、その結果生き残ってるたまたま他の植物が黒色に近かった。エウレカ。
この回答が正解でした。解説は、舞台が19世紀後半のイギリス、産業革命の時代だというものです。
番組の解説は「それまでのオオシモフリエダシャクは樹木の幹に生える白っぽい苔をカモフラージュに用いていたが、産業革命により排煙が出て空気が汚染されると、地衣類がことごとく死滅し、黒っぽい木の幹がむき出しになった。そのため、白っぽい個体は鳥などの餌食となってしまい、逆に突然変異種であった黒い個体がカモフラージュできるようになったため、黒い個体が大多数を占めるようになった」というものです。
木の幹に白っぽい苔が生え、白い個体が目立たず生き残る
排煙で苔が死滅し、黒い幹がむき出しになり、黒い個体が生き残る
この現象は工業暗化 ── 工業化による環境の変化で、生物の体色が黒っぽい型へ偏っていく現象。オオシモフリエダシャクは代表例として知られていますと呼ばれるそうです。堀元さんは、その後の環境への反省から、今はまた白い蛾が増えていると付け加えました。
水野さんが「環境が変わったら色変えたろって、したたかやね」と感心すると、堀元さんは「本人の意思じゃないですけどね」と返します。さらに水野さんが、わざと間違った進化論のビジネス話を始めます。
やっぱり進化論に学ぶビジネス術って変化を続ける者のみが生き残ると思うんですよ。
堀元さんによれば、進化は個体が努力して変わる話ではなく、偶然生き残った個体の生存の話です。水野さんが続けた「キリンは頑張って首を伸ばした」というボケにも、堀元さんは即座に「間違ってる」と返しています。
工業暗化のストーリーは綺麗すぎる?
この問題には、工業暗化についての補足も入りました。補足によれば、苔が死んだことで本当に鳥の捕食圧が高まったのかについては、今でも議論が続いているといいます。
一方で、工業化によって環境が変わり、黒い個体が増えたという大枠のストーリーは、おそらくそうだろうと考えられているそうです。黒くなることで本当に鳥からの捕食を免れたのか、その実験をどう設計したのかといった点に議論が残っている、という説明でした。
水野さんは、詳しくなりすぎると歯切れが悪くなり、ゆる言語学ラジオでも詳しくなるほど台本が書けなくなるとこぼします。堀元さんは、自分は生き物にもファッションにも詳しくないから、苔を見ながらシャネルが「あなたの葬式です」と言った逸話は間違いないと断言できる、と冗談で締めました。
シャネルの話に「4時間足せる」新スタッフ
エンディングで堀元さんは、色という狭いテーマだけでもこれだけうんちくがあると振り返ります。水野さんは、色のリサーチでたくさんの「色もん」を仕入れたと話しています。
堀元さんによれば、来月から株式会社ペダンティックに入るフルタイムスタッフは、前職がハイブランドのアパレルの人で、Tシャツ1着8万円のような店で働いていたそうです。その人はファッションもゆる言語学ラジオも大好きだといいます。
軽い気持ちでね、僕シャネルのこの逸話好きなんですよって、さっきのうんちく喋ったんですよ。そしたら「それについて足せること4時間ありますけど大丈夫ですか?」って言われて。
水野さんは、番組の視聴者層とファッションへの関心が重なっていないのではないかと予想しつつ、ファッション編もあっていいはずだと話します。番組では引き続き、うんちくエウレーカクイズの問題を投稿フォームで募集しています。
まとめ
今回の色編では、買い物カゴ、恐竜の化石、産業革命期の蛾という身近な題材から、行動の誘導、化石研究、進化の仕組みまで話が広がりました。どの問題も、色そのものより、色が生まれる理由に答えがありました。
- イオンのカゴは、赤と青の2択にすることで「カゴを取らない」という選択肢に気づかせない仕組みだった
- 恐竜の色の手がかりは、恐竜と鳥類の両方から見つかったメラノソームという細胞内小器官の化石だった
- オオシモフリエダシャクが黒くなったのは、産業革命の排煙で白い苔が死滅し、黒い個体のほうが目立たなくなったためとされる
- 工業暗化は大枠では支持されているものの、捕食圧の検証などには今も議論が残っている
- 花粉症とサナダムシの説は面白い一方、寄生虫がアレルギーを悪化させる可能性もあり、一概には言えないとされている





